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アウトフォーカス

 突き当たった階段を降り、分岐を3つか4つ進み。早速ぼくを後悔させたのは、信じられないほど、まるで地下にでもやってきたかのような暗さだった。こんな場所をどうやって進むのかというと、御堂はライトを持っているし、おそらく十郎太はその明かりを追いかければいいわけで……

 引き返そうか迷っているぼくの前が、急に明るくなった。


「お待たせー」


 サリカの声がした。振り返ると、まぶしくて何も見えない。


「えっちょ」


 彼女はハンドライトを上に向け、ぼくの視界がもどり。サリカ一人の姿が確認できた。ぼくを案じて追いかけてきたのだろうか。まあ、そのおかげで実際、助かったのだけど。


「終は、一人きり?」


「でもないと思うヨ、こみちって子とも、スミって子とも、知り合いみたいじゃん?」


 頭を抱えそうになる。あの二人が加害者であることをサリカは知らないのだ。ましてや、二人とも協会の関係者で、正直言って全く信用ならない。ぼくは来た道を引き返そうとした。

 が。


「ごめん、サリカ。こんなに入り組んだ建物だとは、思わなくて」


「あ、あたしもネ、帰り道わかんないかも」


「へっ」


 迷った。これはひどい。


「あっはははは」


 あっけらかんとした笑い声が、廊下の奥まで反響した。


「危ない橋渡るのって、なんかちょっと楽しいよネ、ドッキドキ!」


 勘弁してくれよ、と、いつものぼくなら思うのだろうけど。サリカの危機感のなさが、いまは何だか有難かった。ぼくも笑い返す。


「サリカってさ、いつもなんか超然としてるよね、きみはなんか不思議だ」


 彼女はきょとんとした。


「そう、かな。言われたことないよ、不思議とか」


 ぼくは彼女に尋ねたいことがあった。しかし、それはあまりにも不躾で、場合によっては侮辱的な質問になってしまいそうで、うまく言えない。


「転生に、興味あるんだっけ」


 それが精いっぱいだった。精いっぱいの僕なりのオブラート。でも、聞けた。彼女の答えを待たず、すこし胸のつかえがとれたようにも思えた。ぼくは答えを待ち。


「あ、うん。でもネ、あたし、最近さ」


と、途端に。


「こっちだー!」


 ぼくの進もうとした道の先の方から、十郎太の声がする。


「おーい」


 サリカがそれに応じる。いやいや二人とも不注意すぎる。御堂に聴かれたら怪しまれるだろ! しかし、おそらく道に迷って途方に暮れそうだった奴にそんなツッコミを入れる資格はないはずだった。

 ぼくらふたりはもはや隠密行動なんて忘れ去り、足音を立てて十郎太の声のした方へ向かう。

 そこには、ぼろ切れのような幕があった。大きな暖簾のようにも見えた。押しのけて進むと、大きな部屋があった。

 部屋の真ん中に、十郎太がいる。


「二人とも……これを見てくれ!」


 十郎太が指さす方を、サリカが照らす。

 壁に、巨大な地図が張り付けてある。見覚えのない場所が描かれていた。どこか外国の―—もしくは、知らない土地のごく狭い範囲の地図なのだろうか。よく見ると、ところどころピンが止まっていて、地図の上から何事か書き込んであった。


「王国?」


 ぼくは目をこすり、ふたたび地図を凝視する。たしかに、マジックペンか何かで囲われた領域のど真ん中に、漢字でそう記されている。


「どこかに部屋の明かりがあるはずだ」


 それを聞いて、サリカがあいよー、と部屋をぐるっと照らす。パイプ椅子が並んでいる。まるでブリーフィングルームのようだった。視界の中に、違和感のあるものが映る。


「ここだな」


 十郎太はスイッチを見つけたようで、駆け寄り、手を伸ばす。瞬間、部屋に光が満ちた。そうして、ぼくは違和感の正体を直視する。


「なんだよ、これ」


 地図のある壁のすぐ下に無造作に並べられたそれは―—強いて言うのなら――武器だった。銃器やら火器のたぐいじゃない、斧や槍、剣に弓。どれもこれも、まるでおもちゃの様にゴテゴテに飾ってある。偽物にしか見えなかった。中世で実際に使用されたものが残っているなら、それはもっと単純な色というか、材質そのままの剥き出しの、実用性がすべての見た目をしているはずなのだ。

 しかし。


「戦争の作戦でも立ててたのか」


 十郎太の言葉どおり、たしかに部屋の構成的には、椅子に座った兵士たちが、地図を背後に作戦を説明する隊長か何かの言葉に耳を傾ける様子が想像できる。のだが。


「これ振り回して? 戦争するの?」


 サリカは遠慮なく槍を一本持ち上げ、ぽんっ、と軽々しく投げてみせた。やはり、どう見ても殺傷力のない玩具だった。


「きみたち」


 突然、声が聞こえ、ぼくら三人は入り口を見る。声の主は、もちろんすぐに理解できた。案の定、だ。見つかってしまった。

 御堂は、今まで見たことがないほど冷酷な目で、まずぼくを捉えた。


「ここで、何をしているんですか」

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