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魔法を信じ続けているかい?

 約2時間後という約束ではあったけれど、随分早くサリカが現れた。

 アパートの入り口に立つぼくと御堂を見るなり。


「紅世クン、誰その人……って、まさかえエっ」


「御堂です、初めまして」


 見つかったんじゃん! すごいスゴイ! と跳ねるサリカに、ぼくは聞いた。


「サリカは、警察行けたの?」


 たしか、通報のために駅前の交番へ向かったはずだけど。


「ううん、ごめんネ、なんか警察すら怖くなってきちゃってサ」


 頭をこつん、と叩いて笑い、そのまま俯いた。


「情けないよネ」


 いいえ、と御堂が口を挟む。


「結果的に良かったです。サリカさんのおかげで、面倒事が増えずに済みました」


「えへへ、神子様に褒められちゃったァ」


 サリカは屈託なく笑った。胡散臭い、とかそういう感情はこれっぽっちも抱いて無さそうだ。

 ……ぼくとは違って。

 

 魔法だって?

 最初は聞き間違いかと思ったが、どうやら御堂は本気で、自分の傷は魔法で直したのだと主張したいらしい。さすが、胡散臭い団体であがめられているだけある。

 ぼくは確信した。ぼくの中には、協会に対する漠然とした不信感があった、たぶん、覚えてないぐらい昔から、今までずっと。根拠はないけど、こいつらは胡散臭い、と思っている。


 ありえない。バカバカしい。魔法だなんて、そんなものあるもんかよ。

 ぼくは御堂を睨みつけた。

 それに気が付いたのか、いないのか、彼はぼくをちらりと見て言った。


「本当はここも安全ではないんです。宮宇地さんやお友達はまだでしょうか」


「その、刺客にまた襲われるかもって、言いたいわけかな」


「はい、ボクにあの傷を負わせたのは、少なくとも3回目の襲撃です。最初の襲撃で、ボクは行方をくらますしかなくなり、世間では失踪扱いになりました。次の襲撃で、従者が3人ほどやられ、ボクは単身で行動せざるを得なくなり、さらにその次で、このザマです」 


 率直に言って、今すぐサリカの手を引いてこの場から逃げ出したい気持ちに襲われた。しかし、それはもし彼の話が真実ならば、という仮定の上に成り立っていた。どっちつかずのまま判断を保留したまま、時間だけが流れていくように感じていると。


「フッフッフ。待たせたな」


 十郎太が出現した。


「そいつが神子か。でかしたぞサリカ。ミッションコンプリートだ。さあ帰宅しよう」


 出現したかと思いきや、全速力で駅の方角へ走り去っていく。ぼくらはそれに続……かない。ぼくは彼女を――終を――待たねばならないのだ。十郎太の抱えているであろう恐怖心は十分に僕にも共感できるところだったので、置き去りにされたところで咎める気は起きない。見つけたのはぼくだぞ、ナチュラルにお前は何も達成できっこない無能だみたいな態度見せやがってコラ、などと叫ぶ気も、もちろん起きない。



   ◆ ◆ ◆ ◆



「お怪我は!? ありませんか!?」


 ぼくらを見つけるなり、遠くから大声で、こみちは神子を気遣った。走ってくるこみちの後ろに、やや遅れ気味に終が見え、ぼくはほっ、と息をついた。


「サリカ……紅世くん、神子様、見つかったんだね」


「紅世が見つけたんだヨ! いや詳しいことは知らないけどネ」


 御堂はしばらく二人を眺め、沈黙している。いやに長い。何か考えている様子だった。


「はじめまして、神子様。冬部終です」


 終の言葉を聞くと、御堂はそのまま踵を返すように、こみちの傍に寄り、何かを耳打ちしていた。


「あれ、わたし、何か感じ悪かったのかな」


「カンジ悪いのはむしろあっちだと思うけどね」


 ぼくは再び御堂を睨み、それから終の方を向いて今度はほほ笑んだ。


「おかえり、待ちくたびれたよ」


「えっ……た……ただいま」


 気恥ずかしそうに、ぼくにそう返してくれた。こみちのジト目が飛んできたような気もしたが、そっちには目をやらなかった。


「どの辺、探してたの」


「ええと……実は、あんまり捜索っぽい事はしてなくてね」


 サボってたのか。まあ、どこを探しても見つからないだろうから、結果的にはそれで正解なのだけど。


「こみちちゃんと、ずっと一緒で、お話、してたんだよ」


 へえ、そっか、と軽く受け流すも、ぼくは二人をふたりきりにした事を少し後悔した。こみちはどうやらぼくにとっては恋路のライバルらしい、という事実を受け入れざるを得ない気がしてきた。


「協会のこと、いろいろ教えてもらってたんだ、あの、ほら……魔法の事とか、あの子、魔法を信じてるみたいなんだよ」


 またか。こみちもそっち側の人だし、やっぱりそうなんだろう。終の今の物言いだと、なんだかアーティストみたいな、詩的な響きに聞こえてしまうけど。


「ぼくも信じてるよ、恋の魔法とかは」


 言った傍から後悔した。顔から火が出そうになる。顔を抑えたのは、しかし終のほうだった。


「ごめ……くく……ふふふ」


 明らかに笑われている。嗤われてすらいる気分だ。終に悪意はないものと分かってはいるけれど、うーん、死にたい。


「90点!」


 肩を強くぽんぽん、と叩かれ、頭をなでられた。死にたい気持ちは飛んで行った。

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