アホな友達
捜査本部とは。
十壱河駅のホームでぼくらを出迎えてくれた3人は、とても真面目に人探しをする雰囲気ではなかった。ドーナツ状に膨らんだカラフルで巨大なビニールを抱えた野郎までいる。それ何に使う気だよ。
「あたしこれ食べたいんだよネー!」
イメージ通りの快活そうな服装のサリカが、何やらチラシを片手に終ににじり寄っている。ショートパンツから延びる脚から目を逸らすと、そこにはYシャツの上から真っ赤なジャケットを羽織ったグラサンの中学生男子がいた。よく見ると十郎太だった。彼はぼくの格好を見るなり。
「ときに、紅世よ。お前やる気あるのか」
何のやる気だよ、と突っ込む気も失せた。ぼくは割かしと地味に上下とも黒やグレーの服をまとっていたので、むしろ浮いているのだった。違う意味で、やる気がないのは、あるいは僕の方だったかもしれないのだ。何しろ、他の3人はともかく。
「意外と、派手な格好するんだね」
つい本人に言ってしまった。たいして仲良くもないはずの相手に、嬉しくないであろう言葉を投げてしまった。
「意外と? 私のなにを知ってるんですか」
やや離れた場所に腕を組んで立っているこみちは、いわゆる不良というか、ギャルそのものだった。変なラメの入ったかなりスキニーでぴちぴちのロングデニムに、上はド派手な赤色のチューブトップ。丈がかなり短くて、おへその上側の腹部とか、肩から鎖骨から、とにかく上半身はかなり露出している。
「とりあえず、遊びに行くつもりなのは分かる」
「なっ……バカにしないでください。あなた方とは違います」
ぼくは彼女の背中のリュックに目をやる。一見すると登山でもするかのようで、一体何が入ってるんだろう、となるのだが。観察してみると、随分軽やかに揺れている。今はまだ何も入っていない様子だった。あてずっぽうに適当な想像を膨らませる。
「どうせ、推しキャラかなんかのグッズでも大量購入して帰るつもりなんだろ」
「は?」
白い目で見られる。やっぱり怖いよこの人。
「推しキャラとか、おじいちゃんみたいな言葉遣いするんですね」
確かに、それは親父の影響だった。
「私が持って帰りたいのは、そういう俗っぽい愛着の対象じゃありません。あなた方とは違うんです」
フッ、と、勝ち誇ったように笑い、こみちはその言葉を言い放った。
「信仰心が」
あー。やれやれ。ぼくにとって信仰なんて言葉は、使おうと思ったことすらない、たぶん周囲の人間すらずっとそうだった。ため息が出た。この子はどれほど、ぼくらと違う世界に生きているんだろう。
「こみちちゃん、帰りに、時間あったらでいいから、ね、ここ行ってみない?」
終がガイドブックを片手に、こみちに近づく。肩が触れる距離だった。ぼくは内心ちくしょうと悔しがりつつ、どこどこ、と声に出し調子を合わせて、同じように終に近づく。肩が触れたその瞬間、ぼくはびくっと身を引き、終は一瞬だけぼくを見て、笑った。
「……うん。いいよ!」
こみちはこみちで、なんだか頬を赤らめているように見えた。終が翻って、今度は彼女の方から肩が触れそうなほどぼくに近づいてきた。ぼくは意識すまいと努め、ガイドブックの上、彼女の指先に目をやった。
「植物園?」
正直、ぼくには全く興味の対象外だった。でも、終と一緒に行けるならどこでもいいや!
「いくいく! 楽しそう!」
終は意外そうに目を丸くして、それからまた手に口をやり、クスリと笑う。
視界に、意外なものが飛び込んでくる。こみちは、見たこともないような穏やかな顔で、終の横顔を眺めていた。その光景が、ぼくに先日の出来事を想起させた。
はじめてこの部活に部室があてがわれた日、こみちが訪ねてきて、早口でぼくに向かって何事かまくし立てて。そして、終が現れた。
終は悲しそうにこみちを見つめ、長い沈黙の後、こういったんだ。
『ごめんね、こみちちゃん。あなたの信じてるものを、否定しないよ、もう絶対。約束するから』
それを聴いたこみちは感情を高ぶらせ、ついに泣き出してしまった。
それからというもの。ぼくらはもう、彼女の情報をもとに、彼女とともに神子を探すという、なし崩し的に進んでいくこの流れを、どうにもこうにも、ストップできなくなってしまった。
そうして、今日にいたるのだ。
「御堂輪歌」
あの日、様子のおかしさに戻ってきたサリカと十郎太、そしてその場にいたぼくと終に向けて、こみちは唐突に、その名を明かした。
「それが神子様の、本当のお名前です」