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にげる、にげる。お魚さんたち。
大きな口をあけたブリが、すぐそばまでおいかけてきています。
そして、力のかぎりにげる、お魚さんたち。
「いそげ、いそげ。早く、にげないと、食べられちゃうぞ!」
「にげろ、にげろ!」
「まて、まて。ごはん、にげるな!」
はらぺこブリは、どんどんおいかけてきます。
いっしょうけんめいに、にげるお魚さんたちのまえに、こんどはぎんいろの体をした魚があらわれます。
「あっ!、アジだ!」
と、気付くシラスさん。
「えっ!、アジって何?」
と、お魚さんがきいて、
「アジもぼくたちを食べるおっかないやつだ」
と、シラスさんがおしえてくれます。
うしろからブリ、まえにはアジ。
おっかないやつにかこまれて、
にげばがなくなるお魚さんたち。
「どうすればいいの?」
お魚さんはしんぱいそうにききます。
「う~ん」
シラスさんは、いっしょうけんめいかんがえながら、およぎます。
「たぶん、だいじょうぶ!。きっと、アジもにげるはずだ!」
ブリとアジにはさまれたなかまたちですが、シラスさんにはめいあんがあるようです。
などと、いってる内にアジがお魚さんたちに気付きます。
「おっ、シラスだな!」
そして、
「いただきま~す!」
と、いいながら、少し長いむなびれを広げ、とがったせびれを立て、こちらにむきますが、
「あれ?!、うしろに何かいるる?・・」
アジもむかってくるブリに気付き、それを見たシラスさんがこえを出します。
「ブリだよ!。はやく、にげないとたべられちゃうよ!」
と、言うこえをきいたアジは、目を見ひらいておどろきます。
「あ~!、ブリがむかってくるのか?!」
近づいてくるブリを知ったアジはむきを代えて、およぎだします。
「ブリには、かなわない。ぼくも、にげるよ!」
と、言って、お魚さんたちと、同じほうこうににげだすアジ。
シラスさんのさくせんがきいたようです。
すすむほうこうに、おっかないやつがいなくなりました。
それでも、ブリはおいかけてきます。
「みんな!、上ににげるんだ!」
シラスさんが、みんなにおしえます。
「うん!、わかった!」
と、お魚さんがへんじをして、
「おう!、わかった!」
なぜか、アジもへんじをします。
でも、そんなことをかまっていられないお魚さん。
たいようの光でかがやく、すいめんへとむかいます。
「もう少しで、すいめんだ!。すいめんに出たらジャンプするんだ!」
力のかぎりおよぐお魚さんたち。
ぶじに、にげきれるか、とてもしんばいです。
そして、すいめんにむかうあいだにも、色々なせいぶつとすれちがいます。
「きみたちも、はやくにげろ!」
と、お魚さんがこえをかけたのは、川で見たミジンコさんとにたカイアシさん。
あまり、およぎがじょうずではないのか、水の中でピョンピョンはねています。
「ぼくたちは、だいじょうぶ・・・。あっ!、シラスだあ!」
と、すれちがいながら、カイアシさんがこたえます。
「だいじょうぶって、なんで?」
みんながにげているのに、だいじょうぶというカイアシさん。
そしてシラスさんにおどろくすがたをふしぎにおもいます。
しかし、あっというまにとおりすぎて、こんどはオフィオプルテウス【くもひとでのこども】とすれちがいます。
「あっ!、シラスたちだ!」
オフィオプルテウスさんも、ブリにはおどろかずに、シラスさんにおどろいているようです。
「カイアシやオフィオプルテウス
たちは、うんと小さいからブリはたべないんだ」
と、シラスさんがおしえてくれます。
「そんなことより、もうすぐすいめんだ!」
キラキラ光るすいめんが、どんどん近づいてきます。
「みんな、たべられるな!。すいめんに出たら、めいいっぱいジャンプだ!」
「わかった!」
そして、ついに水からとびでてジャンプ!。
「とうっ!」
「ジャンプ!」
空をめがけて、ジャンプするお魚さんたち。
それにあわせて、ブリもジャンプ!。
【ザバーン!】
すいめんが、大きくゆれてなみがおこります。
「あっ!、空にアジサシがいるぞ!」
シラスさんが、空をとんでいるとりに気付きます。
「アジサシもぼくらをねらっているんだ!。みんな、気を付けて!」
アジサシは空から魚をねらう海どりです。
そのアジサシが、すいめんのへんかに気付きました。
「うん?、何か水しぶきの音がしたぞ?」
アジサシなどの海どりは、魚がはねるすがたを見つけて、近づいてきます。
「アジサシがくるぞ!。こんどは、ふかくもぐるんだ!」
「むむ?、シラスとアジか?!。さては、もぐってにげるつもりだな!」
すいめんに出てきたシラスさんやアジに気付いたアジサシ。
海にむかって、きゅうこうかしてきます。
「もっと!、ふかくもぐるんだ!。つかまっちゃうぞ!」
お魚さんたちは、アジサシからも、にげるためにふかくもぐっていきます。
そうしているあいだにも、口ばしをつき出しながら、すいめんにとびこむアジサシ。
こんどは、空からねらわれるお魚さんたちですが、いっしょにいたアジがいち早くふかいところへもぐっていきます。
「お先にしつれい!。ぼくらのほうが早くもぐることができるから、たべられるのはきみたちのほうさ!」
と、いって、あっというまに、ふかいところへ消えていきました。
「あっ!、ずるいぞ。ぼくらが、ブリがくるのをおしえてあげたのに!」
お魚さんたちをのこして、海ふかくへとむかったアジにもんくをいいます。
しかし、シラスさんはいいます。
「いや、だいじょうぶだ。たぶん、おいかけられるのはアジのほうだ!」
ブリやアジサシは、小さいお魚さんよりも、大きなアジをたべたいことを知っているのです。
そのことばのとおりに、ブリはもうスピードでもぐっていき、アジサシもお魚さんのよこをとおりすぎて、アジをおっていきました。
「ふう。たぶん、もうだいじょうぶだ」
そして、何とかブリやアジサシから、ぶじににげることができました。
それでも、アジをおいきれなかったブリはお魚さんたちをさがしています。
「ごはん、どこにいった?」
「にげられちゃった?」
少しはなれたところで、キョロキョロしながらお魚さんたちをさがすブリ。
そんなブリたちも、あきらめたのか、どこかに消えていきました。
「もうあんしんだ。みんな、だいじょうぶか?」
「うん、みんな、にげることができたよ」
「よかった!」
お魚さんとシラスさんは、おたがいにぶじをかくにんしています。
「お水のしょっぱいところは、おっかないのがいるなぁ」
何とか、ブリからにげることができたお魚さんたち。
海はひろくて、たのしいところですが、きけんなこともたくさんあることを知りました。
そして、もとのすみかにもどります。
そのとちゅうに、
「にげろ!にげろ!」
と、いって足をいっしょうけんめいうごかしている小さないきものを見つけます。
それは、ゾエアようせいというカニのこども。
「きみたち、もう、だいじょうぶだよ。ブリはいなくなったから」
と、お魚さんがこえをかけますが、ゾエアようせいさんたちは、にげるための足をうごかしすぎて、めのまえでクルクルまわるだけ。
「どうしたの?、きみたち?」
ブリがいなくなっても、あわてるようすをふしぎにおもうお魚さん。
そんなようすを大きな石に引っ付いて見ていた、フジツボさんとイワガキさんがいいます。
「うふふ。それは、ぼくらのごはんだよ」
と、いいながら、フジツボさんはフサフサの手をのばしています。
「えっ、きみたちのごはん?」
「そうだよ、ぼくらは小さいいきものをたべて生きているんだ」
と、イワガキさんは、いきおい良く水をすって、ゾエアようせいさんたちをつかまえようとしています。
「そして、ぼくらのごはんでもあるんだ」
と、シラスさんもいいます。
「ぼくらの?」
「そう、フジツボさんやイワガキさんと同じように、小さいいきものたちが、ぼくらのごはんなんだ」
たべられないようにブリからにげたお魚さん。
そんなシラスさんたちからにげようとするゾエアようせい。
そんな、いきものがいることを知って、ゾエアようせいさんたちを見つめるお魚さん。
「おなかがすいた?」
と、シラスさんがききます。
「えっ・・?」
いっしょうけんめいブリからにげてきたのですから、きっとおなかはすいているはずです。
でも、なぜか、へんじが出ません。
「うん。でも、今はもう少しブリからはなれよう。まだ、ぼくたちもたべられちゃうかも知れない」
と、シラスさんもゾエアようせいさんを気にせずに、もとのすみかへとむかいます。
いきものは、おたがいにたべて、たべられて生きていきます。
「それは、ぼくらも同じなんだね・・」
と、お魚さんもおもいます。
いきものは、みんながつながって生きる。
それは、ブリよりもアジサシよりも小さなお魚さんたちでも同じです。
それが生きていくためのきまりなのでしょう。
そして、おっかないこともありますが、もうしばらく海でくらしていくお魚さんたち。
なかまといっしよに