13
「もう少しで、卵を産む場所だ」
アユさんたちは、なかまを心配しながら進みます。
「みんな、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
みんなではげましながら、川を下るアユさん。
「でも、ちょっとこわい」
大人になって卵を産むのは、初めての事ですから、本当はこわいな気持ちもあるのでしょう。
「こわくはないさ」
「みんな、いっしょにいる。そして、みんなで未来につなぐんだ」
「うん!」
そして、卵を産む所に着きました。
「よ~し、じゃあ。みんな、いくよ」
「うん!」
お母さんアユのとなりに、お父さんアユがよりそって、川底の石に卵を引っ付けていきます。
一面に黄色く小さな卵が産み付けられて、キラキラ光る川底。
「わぁ!、きれいな卵がたくさん」
と、言うのは、通りかかったフナさん。
こうして、無事に卵を産む事が出来たアユさんたち。
でも、なぜか、すがたは見えません。
卵を産んだ後のアユさんはどこへ行ったのでしょう。
すると、少し川を下った所に、何かが浮かんでいます。
「はぁはぁ、ちょっとつかれたよ」
水面に浮いているのは、卵を産んだ後のアユさん。
何だか、とても苦しそうです。
「みんな、大丈夫か?」
「ちょっと、苦しいよ」
そんな様子を見ていたオイカワの子供が声をかけます。
「アユさん、大丈夫か?」
「ありがとう。でも、ぼくたちは死んでしまうみたいだ」
そう、アユは卵を産んだ後に、死んでしまうのです。
「みんな、がんばったね・・」
「うん、がんばった・・」
「いままで、色々な友だちとあった。ぼくらは死んでしまって会えなくなるけど、卵から子供が産まれたら、友だちと会えるよね・・」
このアユさんたちと、同じように産まれた子供たちは、川を下って海に行くのです。
そうすれば、お別れしてきた友だちとも、きっと会えるはず。
「みんな、ありがとう」
「うん」
こうして、なかまとのお別れをして、一匹づつ水の中にしずんでいきました。
そして、最後の一匹が、
「じゃあ、ぼくもお別れだ・・」
と、しずかに、息を止めていきます。
でも、何か音が聞こえます。
【パシャパシャ】
何でしょう?。
パシャパシャという水の音が聞こえてきます。
「だれか、来ました・・」
もう、泳ぐ元気も無いアユさんも気づきました。
そばに見えるのは、人間のお母さんと小さな子供。
「お水の中はあぶないから気を付けるのよ」
と、お母さんは言います。
「うん、でも、アユさんが苦しそうだし、最後にお話をしたいからがんばる」
と、子供は言います。
「・・・、だれですか?」
アユさんは、最後の力をふりしぼって聞きます。
その足元を泳いでいたコトヒキの子供が言います。
「きっと友だちだよ。アユさんにお別れの言葉を言いに来た友だちだよ」
「そう、ぼくもお友だちだよ」
と、言う、人間の子供は最後のお友だちです。
そして、ずっとアユさんを見てきて、お別れのあいさつに来たのです。
そう、最後のお友だちは、この話を呼んでくれたあなた。
あなたは、アユさんをやさしく手に乗せて、話しかけます。
「アユさん、がんばりましたね。ずっと、おうえんしていましたよ。卵から産まれて、お父さんとお母さんになるまで、いっしょうけんめいにがんばりましたね」
お話の中に出て来た、アユさん、ドジョウさん、カタクチイワシさん、アブラハヤさん。そして、たくさんの生き物たちは、みんなのお友だちです。
あなたと、ずっとお友だち・・・。
「ゆっくり、ゆっくりお休みなさい。小さな、小さなお友だち」
と、最後に言葉をかける子供。
そして、アユさんは、返事をします。
「ありがとう・・」
そして、ゆっくりと川の底へと沈んでいきました。
後に、残された卵は水の中で、今もキラキラ光っています。
そして、
「ぼくはだれ?、お父さんとお母さんのおかげで、ここにいるよ」
と、卵は思います。
「でも、お父さんとお母さんって、何だっけ?」
卵はなぜ、川の中にいるのか分かりません。
「ぼくって、何だっけ?」
そう、産まれたばかりで、自分の事も良く分からないのです。
でも、一つだけ知っている事があります・・。
「でも、お父さんとお母さんはやさしくて・・、ぼくはお父さんとお母さんが大好きなのは知ってる・・」
そして、卵から出る時をまっているのです。
こうして、お魚さんたちの物語は終わりです。
そうして、ゆっくりと水の中にしずんだアユさん。
おや、そのアユさんを小さなカニがつついています。
そのカニはモズクガニの子供。
「これは、ぼくたちのごはんだよ・・」
そう、アユさんが小さなプランクトンを食べていたように、今度は小さな生き物のごはんになっていくのです。
そのカニさんも、命が終わった後に他の生き物たちのためになっていくのでしょう。
こうして、色々な生き物同士がつながっていくのです・・・。
これで、本当にアユさんたちの冒険はおわり。
小さな生き物たち、ありがとう・・・。