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ようやくたどり着いた大きな川。ここでは、なかまとはなれて、お魚さんは1人ぐらし。
そして、もっと大きくなるためのごはんを守るために、なわばりも作ります。
川でお魚さんが食べるのは、水の底にある石についたコケ。
その石をめぐって、時にはなかまともあらそいます。
「ここの石は、ぼくのだぞ!。きみはあっちに行って!」
「いやだ!。このコケはぼくが食べるんだ!」
と、体をぶつけあって、自分のなわばりから、なかまを追い出そうとしています。
「みんな、けんかしたらダメだ!」
と、言うお魚さんもいますが、
「でも、ぼくのなわばりに入ってくるから!」
「しょうがないだろ!。ぼくもごはんを食べないといけないんだから!」
などと、どうしても自分だけのなわばりをほしくてたまらないみたいです。
「きみも、どいて!」
と、言いながら、なかまが近付くたびに、体をぶつけてきます。
それは一匹づつが自分のなわばりをもって、みんなが同じようにごはんを食べるためのルール。
海から川にもどった時に、お魚さんたちの決まり事になっただけで、決して、なかまがきらいになったわけでもありません。
川では、お魚さんの一匹づつか自分のお家でくらしてゆくことになっただけなのです。
「う~ん。ぼくも早く自分のお家を作らないといけないかと」
と、思うお魚さんも、なるべく大きな石をさがして、なわばりを作りました。
そんなふうに、川でくらしている一匹のお魚さんはドジョウさんに出会います。
「ドジョウさん、こんにちは!」
「こんにちは、ずいぶん大きくなりましたね」
ドジョウさんはお魚さんの事を知っているみたいです。
「ぼくの事を知っているの?」
と、ふしぎに思ったので聞き返すと、
「ええ、たまごから出てきたころから知っていますよ」
と、ドジョウさんは言います。
「あっ、海に行きなさいって、教えてくれたドジョウさん?」
「そうですよ、元気にもどってきて安心しましたよ」
そう、出会ったのは、たまごから生まれた時に会ったドジョウさんです。
そして、たまごの時に会ったドジョウさんの他に、もう一匹のドジョウさんがいます。
そして、その近くには丸くて黄色い小さなものがあって、二匹
の大事そうに黄色くて丸いものに体をよせているみたいです。
「ドジョウさんは、何をしているの?」
と、きく、お魚さん。
「わたしたちは、たまごを守っているのよ」
「たまご?」
そう、小さく丸い黄色のものはたまご。
「わたしたちのたまごなのよ」
と、言って、近くの水草にいる小さな虫に目を向けます。
それはトンボのようちゅうで、ヤゴという生き物。
「・・・たまご、おいしそうだな・・」
と、言うヤゴさん。
二匹のドジョウさんは、たまごを食べに来る他の生き物から守っているのです。
「わたしたちはたまごの、お父さんとお母さんなんだ」
と、ドジョウのお父さんが言います。
「お父さんと、お母さん・・・」
何か、ドジョウさんの言った事が気になるのか、お父さんとお母さんという言葉を口にします。
「そうよ。わたしたちは、お父さんとお母さんですよ」
と、ドジョウのお母さんも言います。
「・・・・、良く分からないや・・」
お父さんとお母さんという言葉が良く分からないお魚さん。
たまご時から、なかまといっしょにいましたが、初めてきくお父さんとお母さんという言葉は分からないみたいです。
そんな、お魚さんを見て、ドジョウさんは言います。
「ごはんをたくさん食べて、もっと大きくなりなさい・・。そうすれば、きっと分かる時がきますよ」
きっと、大人になれば、分かるのかも知れません。
「はい、ありがとう。ドジョウのお父さんとお母さん」
やさしくおしえてくれたドジョウさんとお別れして、もっともっと大人になるために、自分のなわばりにもどります。
そして、おもいます。
「お父さん、お母さんって、なんだっけ・・・?。でも、たまごの時にちょっと知っていた・・」
そうです、今はわすれていても、たまごの時はお父さんとお母さんの事を知っていたのでしょう。
「でも、分からないや。そして、ぼくって何だろう?」
たまごから大人になるまで、色々な事がありました。
でも、自分の事も分からないお魚さん。
カタクチイワシさんと違って、自分の名前も知らないのですから。
それでも、きっといつか分かる時が来ます。
その時まで元気にそだて、お魚さん。