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貧乳はステータスだ

 それぞれ学校や仕事やらあるので全員が揃う機会というのはそう多くないのだが、月一以上のペースで飲みに行くメンバーはいる。

 なんだかんだで連絡を取り合っていて、グループチャットも作ってある。それを考えれば合コンの結果はまあ、悪くなかったかもしれない。


「おはようございます」


 ふと聞こえてきた声に顔を上げると、そこには智景が立っていた。バカ騒ぎグループ……いや、敢えて青春グループと呼ぼう。とにかく、そんな俺たちの中ではかなり大人しい部類に入る。


「そっちは恒例の朝活か?」

「はい。今日は顔に見えるものを探してます」


 街中でそんなもの見つかるのだろうかと首を傾げると、彼は写真を見せてくれた。


「お茶目で人を笑わせることに情熱を注いでいるような、そんな顔に見えませんか?」

「……見えなくも、ない、のか……?」


 正直に言って俺にはわからない。その想像力の豊かさがこいつの趣味に活きているのだろう。ああ、小説といえば。


「奏空が小説書き始めたの、お前がきっかけだったりするのか?」

「どうでしょう。元々彼女は好奇心旺盛で色々なことにチャレンジする人ですから」

「……校庭に魔法陣書いたり、教頭のヅラを奪わんと罠を作ったりしてたことを言ってるのか?」

「愉快な人ですよね」


 クスクスと肩を震わせて笑った智景の少し野暮ったい眼鏡がズレ落ちる。眼鏡の印象が強いため顔立ちがわかりにくいが、智景は実年齢よりだいぶ若く見られるタイプだ。幼いと言ってもいい。


「こないだの合コンどうだった」


 かなりはっちゃけていた直也や照れすぎてヤケになっていた奏空とは違い、どこか淡々としていた智景だったが楽しめたのだろうか。


「とても楽しかったですよ。日暮さんが来るとは思ってなかったんですけど」

「あー……生徒会長サマとはなかなか接点なかったもんな」


 どちらかといえば問題児集団。素行不良と呼ぶには可愛らしいイタズラを繰り返してきた俺達にとって、品行方正なイメージの強かった生徒会長の日暮夕夏とは手の届くような存在ではなかった。


「相変わらずの天使ボイスだったよなぁ」

「そうですね。あの声だからこそ多くのファンがいたのでしょうし。まあ、当然のように素敵な方なんですけど」


 眼鏡の位置を正した智景はふっと優しく笑った。


「……惚れてんの?」

「さあ、どうでしょう」

「そればっかじゃねえか。ズルい男だな」

「君ほどじゃありませんよ」


 しれっと言った彼の横顔を見つめ、俺はこっそり液晶に滑らせていた指を止めた。


「……俺、リア充促進委員会の会長でさ」

「僕は副会長でしたね」

「奏空曰く参謀な」


 学生時代のごっこ遊びを思い出すと、ふと口元が綻ぶ。


「あわよくば、を狙わないほど草食ではないです。でも、教室のど真ん中で脈ナシとわかっている相手に告白するような人ほど肉食でもない」

「お前らってほんと、痛いとこ突いてくるよな」


 イタズラな笑みを浮かべる友人に苦笑しながらスマホから手を離した。未送信のメッセージは後で消しておこう。


「君はどうなんですか?」


 そう問いかけられて、すぐに答えは出せなかった。あの時、確かに誰かが俺に話しかけてきたはずだ。だけど確認した時には既に側には誰もいなかった。


「虹輝くんのことだから……そうですね。恋さんか亜咲香さんか……」

「それ、胸の話か?」


 いや、確かに常々「貧乳はステータス」なんてことを口にはしていたけれど。今思うと小っ恥ずかしいことを平気で言っていたな、俺。


「それとも、まだ奏空さんが好きですか?」


 あんなことをしておいて、と。どこか責められたような気になったのは、まだ想いが吹っ切れていない証拠なんだろうか。


「そんなんじゃねえよ」


 思わず舌を打って、更なる顔に見えるものを探すために歩みを進める。


「わ、ちょ、危な……っ」


 聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと隣の智景がつんのめった。咄嗟に手を出したらなんとか間に合って支えることが出来た。しかし眼鏡までは守れなかった。


「ごめんなさい……って、あれ、片倉くんに桐生くん」

「日暮さん」


 聞き覚えがあるはずだ。つい先日聞いたばかりだもんな。


「はい、眼鏡。片倉くん、随分と可愛らしい顔してるんだね」

「男にそれはないぜ、会長」

「桐生くんはまだ学生気分? いい(・・)企業に勤めてるのかな」

「女じゃなかったらはっ倒してたよ」


 かなり急いでいたのか、夕夏は大慌てで駆けていった。眼鏡を受け取った状態で固まっている智景。


「なるほど。可愛らしい顔だわ」

「かかってくるなら容赦はしませんよ」

「カウンター前提なのがお前らしいよ」


 眼鏡をかけ直した智景は涼しい顔をしている。耳が赤くなってるのはまあ、ご愛嬌。


「そういえば、ソラジオって知ってますか?」

「お前も知ってたのか」

「すぐにわかりましたよ。本当に何でもやりますよね、彼女は」

「あ、これなんか顔に見えないか。晴斗に愛を囁かれて照れてた奏空そっくり」

「見えなくもないですね」


 そう言って写真に収める智景を見つめる。


「告白とかしないのか」

「そっちこそ」

「俺は別に……」

「本当に?」


 からかってやったから、その仕返しのつもりなんだろうか。随分と意地の悪い聞き方をする。無性に腹が立って髪をぐしゃぐしゃにしてやった。


「……生徒会長は、あるよな」

「見てませんよ、そんなとこ」

「何がとは言ってないんだが?」

「君が見てるところなんてそこ(・・)しかないじゃないですか」


 貧乳はステータスだ。世のぺったんはみな誇るべき。


「変態」

「男はみんなそうだろ」

「一緒にしないでくださいよ」


 毛虫を見るような目は変わらないな。なんでそんな目つきだけははっきり見えるのか。眼鏡補正はどうした。


「ロリコン」

「おい」


 言うに事欠いてそれかよ。


「俺は大人のぺったんが好きなんだよ」

「堂々と言うことじゃありません」


 呆れ返った智景がまた眼鏡を押し上げる。ネジでも緩んでいるのか、よく落ちるな。そんなんだからぶつかられたくらいで眼鏡吹っ飛ぶんだよ。


「ネジ締めてやろうか」


 そういう細かい作業は別に嫌いじゃない。家も近いしすぐにできると思ったのだが。


「まずはご自分のネジを締めてからで」

「お前はっ倒すぞ」

「竹刀持ってきますね」

「カウンターやめろ」


 たまにはこうして男同士、バカやるのも悪くない。悪くはないが。


「……彼女欲しいわ……」


 直也の気持ちはわからなくもない。というか、周りが恋人やらなんやらを作って幸せそうにしている姿を見る機会が増えるとさすがに焦りが出てくる。


「胸ばかり見てないで人柄も見ればいい人はすぐにできると思いますよ」

「何度でも言う。貧乳はステータスだ」

「はいはい、それ以外のステータスにも目を向けましょうね」


 最重要ステータスだろうが。マシュマロぱいなんていらないんだよ!!


「というか、どうしてそこまで胸に拘るんですか?」

「昔……その……」


 このことは奏空にしか話したことがない。こういうことってあまり人に話せるようなことでもなかったから。でも、まあ、智景ならいいか。言いふらしたりしないだろうし。覚悟を持って俺は告白する。


「近所の姉さんに、窒息死させられそうになって……」


 直後、こんなに響くものなのかという智景の大爆笑によって俺達は周囲の視線を集めることになった。



 巨乳、怖い。貧乳、好き。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貧乳はステータスだ。 確かに一理ありますね。 それはさておき、 距離を詰めたいけど、詰められない。 という若者の男女にありがちな関係性が 見事に描写出来てると思います。 個人的にはこういう…
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