新たな出会いに乾杯
某カラオケ店のファミリールーム。人生初の合コンです。
「じゃ、とりあえずみんな自己紹介しよっかー。まあ、大体のメンバーは顔合わせたことくらいあるだろうけどねー」
妙な雰囲気を物ともせず、元凶が進行を始める。
「本日はお集まりいただきありがとうございまーす。絶賛彼女募集中、雨の日も風の日も俺を思い出してね。幹事の森直也でーす。男性陣レッツゴー」
「片倉智景です。趣味は小説の執筆や散歩などです。よろしくお願いします」
「桐生虹輝です。こういうの慣れてないんで緊張してます。お手柔らかにお願いします」
「何故か男性枠で呼ばれましたー、月神奏空でーす」
「陸川晴斗」
自己紹介をする男性陣のテンションはデクレッシェンド。乗り気でない者がいるのも仕方のないこと。明らかに人選ミスだがお調子者の直也は一切気にした様子がない。
「続いて、花咲く笑顔の女性陣」
花咲く笑顔を浮かべている女性が数少ない上に男性混ざってるがそれでもいいのか。まあ、男性陣に奏空が入っているのもおかしな話なんだが。
「明城亜咲香です。一応ボカロPで歌い手もやってます」
「……刹赫司。なんで連れてこられたのかわかってない」
「女性枠でいいのか悩んでいる亜魈羅恋です。まあ、体は女だしいいのか……」
「生徒会長してました。弓道部出身、日暮夕夏です。ホントにカオスですね、この空間」
「え、あ、木住弥生です。奏空と席交換してほしいです」
混ざっていた男性と思わしき人物は女性(仮)でした。そんでマジの男性には気付かなかった。弥生、お前男だったのか。
「このメンバーを集めた理由は特にないでーす。強いて言うなら俺の好み」
キラッ、と語尾に星でも付きそうなノリで直也が言う。
「よくこのメンバーを集められたな」
「まあ、それは俺の人望? 的な?」
「……うっざ」
ぼそりと呟く司。今日一番の驚きは一匹狼として知られていたこいつが平然とここにいることだ。何か弱みでも握ってるのか。握れるほどの弱みがあるとも思えないが。
「で、このメンバーを集めて何がしたいんだよ」
「俺は!! 彼女が!! 欲しい!!」
「うるせえんだよ」
マイクを使ってまで言うことか。学生時代から謎の交友関係のあった直也だが、本気でこのメンバーは謎が過ぎる。男性陣は一緒にバカやってたメンバーがほとんどなのでともかくとして、女性陣はどこで仲良くなってたんだ。
「仲良くなんてなってない」
さっきからツンツンしてる司に至ってはなんでこの場に留まっていられるのかもわからない。実は一人が寂しかったとかいうオチでもあるんだろうか。
「王様ゲーム!!」
「いきなりだねー。カラオケ来たのに歌わないの? てか、私のカルピスに何混ぜたの、直也くん。気持ち悪い色なんだけど」
「ファ〇タと麦茶」
「爆発しろよ」
奏空がグラスの中身をぶちまけそうな勢いでキレている。まあ、学生時代散々やらかした奏空のことだから仕方ない。
「えー、王様になった人はこのボックスの中から命令を一枚引いてもらいます。で、指名された人はその命令に従わなきゃいけないと」
「命令が思いつかない王様にも優しい仕様ですね」
智景がふむふむと頷いている。なんだかんだで受け入れてしまうところは嫌いじゃないが大丈夫なのか、お前。
「王様おーれだ!!」
「引く前からその言葉はおかしいだろ。あ……」
「晴斗が王様引いたぁ!!」
なんだかんだでちゃんと全員くじを引いている。そして最初の王様は直也にツッコミを入れた晴斗だ。
「……まあ、考えることもやることもなくて楽だと思えばいいか。3番が9番に……胸きゅんセリフ」
ちゃんと合コン仕様になっているらしい命令を死んだような目で読み上げる晴斗。これはたぶん、自分にも回ってくるのかと諦めている様子だな。
「3番は私だ」
「9番は僕、です」
手を上げたのは亜咲香と弥生だ。
「君と同い年である運命に嘆きしかない」
「何もきゅんとしないけどいいの、これ」
亜咲香は年下男子がお好みである。なんでここにいるんだ、パート2。
「はいはい、サクサクいきますよっと。王様はお前だー!!」
「お前って元は御前と書く神仏や貴人に対しての言葉なんだよね。そうすると間違ってはいないかな」
「……私だ」
夕夏が豆知識を披露した隣で苦い顔をしているのは司。ちゃんと参加しているだけで偉い。くじを引いた彼女は頭を抱えた。
「……2が6にキス」
ああ、男同士とか女同士だとキツいもんな、その命令は。
「あ、6番俺俺!! 誰がしてくれんの?」
直也がめちゃくちゃワクワクしながら手を挙げている。うわ、お前かよ、と白い目で見られているが気付いていないのだろうか。
「どうせなら可愛い子がよかった」
スクッ、と立ち上がったのは女性陣イケメン枠の恋。可愛い子って誰のことを指してるんだろうな。ちらりと弥生を見ると一切の表情の抜け落ちた無の顔でじっと見つめられた。怖いです。
「どこにとは指定がなかったよね」
恋は早く済ませようと直也の手を取って指先に口付けた。
「おぁ、え、あ……」
直也は真っ赤になってソファに座り込み、グラスを掴んで一気に飲み干した。奏空がグラス入れ替えてたのに気付いてなさそうだ。
「マッズ!!」
「だろうね」
奏空は涼しい顔をして直也から奪い取ったコーラを飲んでいる。
「王様……誰だ……」
意外と純情ボーイの直也にはだいぶダメージが大きかったのか、まだ完全には立ち直れないでいる。
「俺だ」
これは喜ぶべきなのか。命令くじを引いてめちゃくちゃ悩む。これはネタとして終わらせるべきか、それとも。
「命令は、マジ告白、だそうだが……」
「このメンバーの中にマジ告白できそうな人なんているの?」
夕夏が小首を傾げてそんなことを言った。いない、わけではない。が、まあそんなことはどうでもいい。
「5番、1番に。セリフ指定『愛してる』」
涼しい顔をしていた奏空が硬直した。ズルだと言われても仕方ないが、やらせるならこの二人しかないだろう。
「悪い顔ですね」
察したらしい智景に揶揄されて、俺はそっと目を背けた。女性陣を置いてけぼりにしてしまって申し訳ないが、実は俺達はこういうのに慣れているのだ。
「誰と誰?」
誰も名乗り出ないせいか、司が少し不機嫌そうに確認する。一刻も早く帰りたいのであろう彼女にもこの尊い二人のやり取りを是非とも見届けてほしい。一匹狼を気取っていたお前は知らないだろうが、この二人はもはや公認カップルなんだよ。リア充は合コン来んな帰れ。
「……奏空」
「タイム。囁き禁止」
「愛してる」
あ、奏空が真っ赤になっている。わかる、晴斗ってめちゃくちゃいい声だもんな。
「……知ってる? あの二人付き合ってないんだよ」
「晴斗はやれと言われたらやれやれと言いながらやっちゃう人だからね」
「そうじゃなきゃあのグループにいないでしょ」
「コーヒー、飲みたいな。濃いやつ」
「あ、歌いまーす」
各々好き勝手に言いながら、自然とペアが出来ていく。この中からリア充が生まれるのはそう遠くない話かもしれないが、そんなことはさておき。グラスを床に叩きつけそうなほど癖の強い照れ方をしていた奏空が弥生に抱きついた。
「いじめちゃダメですよ、晴斗さん」
「俺が悪いのか?」
晴斗にとっては王様の命令に従っただけ。こいつは本当に。
「好きな奴からマジ告白って名目で言われたらなぁ」
ああ、甘い甘い。
「番号、見てたんですか」
「目がいいもんで」
これはバカ騒ぎグループの恒例行事。巻き込まれて保護者扱いされてるだけじゃ、つまらないからな。
「こうして時々、仕返しもしてやるのさ」
「わっるい顔。でも、嫌いじゃないかも」
ロマンスは突然?
「……今、誰が……」
不意に聞こえた声をようやく飲み込んで、俺は解散まで胸の高鳴りと戦うことになるのだった。
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