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あめうらら  作者: あんかけらーめん
めろでぃ、あるいは崩れ行く日常
4/8

おーばーしーず

 ドリーマーとは。


 この世界では、二十二世紀に入ってからというもの、情報産業の発達が、少し前では考えもしなかった場所へ到達しました。世界のあらゆることがすべてデータ上で把握できるようになり、情報が新たな情報を作り出すようにもなりもなりました。世界に存在するデータは累乗的に増えていきました。


 そしてついに、それらの事象はある一線を越えました。データ上のものを現実に新たに存在させる技術が発明されたのです。それは、莫大な電力を使用するものでしたが、人類の歴史を大きく変えうる発明でした。つまり無から何かを生み出す技術なのです。人間は、神の領域に足を踏み入れたと思われました。


 しかし、人間は神にはなれませんでした。


 その技術は、非常に複雑なプログラムを使ったものだったのですが、あるとき、原因不明の非常に大きな誤作動を起こしたのです。


 そうして生まれたのが、ドリーマーです。正式な名前は情報有機体といいます。いまだ謎の多い奴らですが、最も有力な説では、管理されていない莫大な量の情報を実体化させることによって生まれた、情報と実体の間に存在する怪物という、非常に難しい説明がされます。


 簡単に言ってしまえば、突如としてあらわれる、非常に大きな、すべてを飲み込む怪物です。形も色も、決まった色はありません。というより、すべての形や色をしているとでも言いましょうか。見たことのない人には、到底伝えられっこない姿をしています。ドリーマーの行動理念はまったくの不明です。


 奴らを倒すために、情報戦争が始まりました。対ドリーマー用の専用兵器が開発され、人々をカプセルと呼ばれる巨大な空間に収容したりもして。たくさんの労力と犠牲を経て、六年かかって、やっとすべてのドリーマーを駆逐しました。


 そして二度とドリーマーを生み出さないために、私たちは情報産業を捨てました。どこにプログラムのバックアップがあるかもわからなかったのです。


 情報産業とともに進化してきた近代文明は、大きく衰退せざるを得ませんでした。おおよそ百年ほど前の水準の生活を余儀なくされているといわれています。


 それでも、ドリーマーが現れるよりはよっぽどマシでした。



 怪物は、ビルやアスファルトを次々に飲み込んでいます。奴らに飲み込まれたものは、跡形もなく消えてしまいます。人々は、絶望的な響きの悲鳴を上げまくっています。まさか、奴らにまた出会わなければいけないなんて。


 私も、とにかく逃げなければ、と思いました。怪物は、だんだんとこちらへ近づいてきているようです。奴からこのカフェまで、百メートルとないでしょう。やられるのも、時間の問題なのかもしれません。


 でも、逃げようにも、人が多すぎます。みんなが慌てているために、そこかしこで転んでいる人がいて、とんでもない人ごみになっています。前に進めないから、逃げることすらできずに、ただ怪物に飲み込まれていく人もいるようです。


 それに、カフェの人たちはどうしましょうか。できるだけ人とのかかわりを避けていた私の、唯一の世界との接点が、このカフェでした。不愛想な私にも、店長は優しく接してくれました。パートの子も、私よりも仕事ができるのに、いつまでも私を先輩として慕ってくれていました。


 彼らをおいて私だけ逃げたら、とてつもなく後悔する気がしました。かといって、今すぐに逃げない場合、怪物にこのカフェもろとも飲み込まれる可能性が高いです。彼女らに事情を説明している時間はきっとないでしょう。


 今すぐに動かなければいけないけど、動くに動けませんでした。


 私はそうして、動けずに、数秒が経ちました。その数秒は、何時間にも感じられました。


 音が聞こえてきました。プロペラの音でした。


 空を見ると、ヘリコプターが何台も集まってきていました。特殊なヘリコプターでした。底に大砲のようなものがついていました。自衛隊のもののようでした。


 やがて、それらは空の中で陣形のような配列となって――


 怪物に向けて、ビーム砲を発射しました。


 いくつものヘリコプターからの攻撃を受けた怪物は、あっという間に消滅しました。先ほどまであらゆるものを飲み込んでいた奴とは思えないほどの、あまりにあっけない消え方でした。さっきまでそこにいたということが、それこそ夢のように思えるほどでした。


 人々は唖然としていました。やがて、ヘリコプターのスピーカーから放送がありました。


―――現在、この場で情報有機体による被害が確認されました。居合わせた人は、落ち着いて、建物の倒壊などから身を守ってください。繰り返します―――


 やがて、自衛隊の人たちによって、事態は収束しました。私は軽く取り調べを受けたけど、すぐに解放されました。町が壊れてしまったために、しばらくカフェは臨時休業となりました。


 そういえばだけど、自衛隊の人たちの中に、あの白衣の男の人を見かけました。関係者なのでしょうか。


 家路を行きました。日はすっかり傾いていました。昨日の雨の湿り気は、もうありませんでした。人が怪物に飲み込まれるのを見たわりに、私は平常心でした。図太いのでしょうか。それとも。


 アパートのドアを開けました。なかでは、カエルちゃんが寝っ転がっていました。


 昨日から、私の前に、存在するはずのないものばかりが現れてきます。夢だとしても、荒唐無稽といえるようなことばかりが起こります。


 いつから、私の世界はこんなにおかしくなってしまったのでしょうか。

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