もーにん
朝です。
目が覚めました。窓から日の光が差し込んできます。雨はやんだようです。
隣を見ると、カエルちゃんがいました。すごい寝相で、掛け布団を全部はぎ取って、自分のもののようにしてしまっています。どうも寝たりない気がするのは、そのせいでしょう。
自然と、ため息が出ました。彼女はやはりここにいました。きっと夢じゃないのでしょう。
時計を見ると、七時半でした。もうすぐバイトに行かなければいけない時間です。
布団を出て、大きく伸びをしました。カエルちゃんもおきたようです。
朝ご飯を食べます。食パンを二つ取り出して、トースターに入れます。
両方にバターをよく塗って、片方は私が食べ、もう片方はカエルちゃんの口に突っ込みました。トーストを何度か落としそうになったところを見るに、カエルちゃんはまだ眠そうでした。
着替えて、したくをして、家を出ます。家にカエルちゃんだけにしておくのもなんだか心配だけど、つれて行くわけにもいきません。テーブルの上に何枚か食パンを置いておいて、おなかがすいたら食べるように言いつけました。
バイト先は、このアパートから歩いて20分程度の所にあります。バスで行くともっと早く着くけど、もったいないからそんなことはしません。
雨上がりの道は、湿った匂いや、もわっとした空気に包まれていました。そんな雨上がりの風景を、私は嫌いではありませんでした。空気のほのかな温かさに包まれて、私はいろいろなことを考えさせられました。バイトのこと、過去のこと、そしてもちろんカエルちゃんのこと…
「あっ」
曲がり角を曲がるとき、ぼうっとしてしまっていたためか、人にぶつかってしまいました。
「すいませんでした!!」
頭を下げました。
「あっ、いや、そんなに謝ることは…」
そういわれて、顔を上げました。相手は眼鏡をかけた、ぼさぼさの髪の男の人でした。白衣を着ているところを見ると、お医者さんか、何かの研究をしている人のように見えます。
「僕の方も不注意でしたから」
優しそうな人で良かったと、心から思いました。もう一度軽くお辞儀をして、その場を立ち去ろうとす
ると、
「あっ、ちょっと」
引き止められました。なんでしょうか。
「貴方、これから駅の方へ行くのですか?」
バイト先は駅の近くにあります。うなずきました。
「なるほど…、一応ですが、気を付けてください」
いったいどういうことでしょうか。よくわからなかったけど、彼はすぐにどこかへ行ってしまいました。
追いかけようかとも思ったけど、結構時間がぎりぎりだったので、バイト先へ急ぐことを優先しました。
ドアを開けます。ちりんちりんと、ベルの音がします。
「水森さん、おはとうございます」
「店長、おはようございます」
彼女はこのカフェの店長さん。年齢は四十歳くらいと聞いたことがあるけど、二十代に見間違えられることもあるくらいの、若くてきれいな人です。だいぶ年下の私にもちゃんと敬語を使ってくれる、とてもいい人です。
このカフェは店長と、時々手伝いに来てくれる彼女の夫さんや妹さん。あと、お昼くらいからパートに来てくれる子と、それに私。それが従業員のすべてです。こじんまりしたところなので、これくらいの従業員の数でも、足りないということは全くありません。
「じゃあ、準備しましょうか」
あと一時間くらいで開店です。私たちは準備を始めました。
このカフェは、店長が料理を担当して、私が接客を担当します。お昼ごろは、そこそこ忙しくなりますが、それ以外はあまり人は来ません。だから、みんなのんびりとしています。
「水森さん、お昼休憩入っていいわよ」
一段落ついたので、あとはパートの子に任せて、お昼休憩に入らせてもらいます。
お昼休憩では、店長のまかないが食べられます。今日のまかないはパスタでした。店長のパスタは、すごくおいしいのです。とてもありきたりな言葉だけど、おいしいものはおいしいのです。
パスタをフォークでくるくるして、口に入れようとしたその時、
悲鳴が聞こえました。
店の外からでした。
フォークを口に突っ込むと、とりだして、テーブルの上に置きました。悲鳴の方へ行くことにしました。
カフェのドアを開けて、外へ出てみました。
そこには、巨大な怪物がいました。ドリーマーのようでした。周りからは、たくさんの悲鳴が聞こえました。怪物は、周囲のものを、見境なく、飲み込んでいました。