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あめうらら  作者: あんかけらーめん
めろでぃ、あるいは崩れ行く日常
1/8

りたーん・とぅー・ふぉーえばー

あんかけらーめんといいます。お友達が小説を書いていたので、僕も書いてみました。SFちっくにしたいと思っています。自己満足的な側面も強いのですが、なんにせよ、楽しんでくれたらうれしいです。(主人公は女です)

 やまない雨なんてないという言葉は非常に理にかなっております。どんな異常気象の時だって一年も降り続けることは無いでしょう。それにたいていの雨雲は一日くらいでどこか彼方へ行ってしまって、傘なんていらなくなるでしょう。つまり「雨に憂鬱にさせられたとしても、いつかは晴れるのだから、前向きに行こうぜ」なんて意味がその言葉には内包されているのです。


 でも、傘がなくて、遮るものがなくて、雨にに濡れてしまっている人に対して、その言葉は響くのでしょうか。雨に濡れている人に、そんな「いつか」のことなんか考えられるほどの余裕があるのでしょうか。たいていの人は、どうにかして雨から抜け出そうと躍起になるのではないでしょうか。もしそんなときに、傘をさしている人から例の言葉を言われたら、それはもう、猛烈にむかつきます。きっとそいつは、我々の寒さも不快さも理解できていないことでしょうから。


 あるいは。たいていの人じゃない人もいるのです。その人にも「やまない雨なんてない」という言葉は響かないです。でも、それはただ理解ができてないだけだったりします。どういうことかというと、雨を不快に思わない人たちなのです。肌に触れるぐっしょりとした質感も、奪われる体温も、不快に思わないのです。その人たちは穏やかなのか、それとも愚かなのか。私にはまったくわかりません。


 カエルちゃんも、雨に濡れることを厭わない娘でした。いうまでもなく、カエルちゃんというのはあだ名です。その名前は雨のなかでもぴょんぴょんと跳ね回っていることに由来します。他のあだ名の候補にボウフラちゃんとかというものもあったけど、なんだかいじめてるみたいな気がしたからやめました。


 彼女と仲がいいのは私くらいでした。ただ、それは逆もしかりでした。今にいたるまで、私の友人といえるのはカエルちゃんだけです。というのも、私は青春時代をあの情報戦争の中で過ごしました。ドリーマーたちを倒すまでに、六年間かかったけど、それは私の9歳から15歳まで時期でした。私たちのカプセルに私と同年代の子供はカエルちゃんだけでした。

 

彼女に任せてヴァーチャルにトリップする時、彼女は決まって雨の天気を選びました。ヴァーチャルの雨の中で、彼女はそれこそカエルのようにぴょんぴょんはねたり、手をバタバタさせたりして、雨と戯れていたのです。私は服が濡れるのを嫌がって、厚めのレインコートに長靴という格好で、雨宿りできる場所に体育座りをして、彼女を見つめていました。今思い返すと、それはまるで気でも狂ったようにも見えるのですが、当時の私はただ楽しそうだな、というくらいにしか思いませんでした。


 そのうち子供用のヴァーチャル機器すら感染のリスクがあるとされ、私たちはトリップを禁止されてしまいました。カエルちゃんはさぞ悲しんだだろうと思われたかもしれませんが、意外と平気そうでした。ただ、そのころから時々、私に

「このカプセルから出たら、本物の雨にあたって、いっぱい濡れるんだ」

というようになりました。そのたびに、

「その時は、一緒に雨に濡れようね」

と返してあげました。そうすると、彼女は心の底から嬉しそうに、うなずくのでした。



 私はなぜ昔のことなんかを思い出しているのでしょうか。それはきっと、公園で、雨の中を走り回る女の子を見かけたからなのでしょう。よく見ていなかったけどその娘は姿もカエルちゃんに似ていた気がします。だから思い出してしまったのでしょう。

 

 そんなわけはないのだけど。だって、カエルちゃんはもういないのです。だってあの時に…


 インターホンが鳴りました。


 私は、平和な世界になってからというもの、この安いアパートで独り暮らしをしています。世界は情報戦争のことなんかなかったように、回っています。多少文明は衰退したけど、すぐ慣れました。


 私に用事のある人なんてほとんどいません。カエルちゃんを失ってからというもの、できるだけ人と関わらずに生きてきました。宅配を頼んだ覚えもありません。


 何かの勧誘でしょうか。まったく。


 ドアを開けました。


 そこには、カエルちゃんがいました。あの時の姿のままでした。なぜだか満面の笑みでした。


 今日の雨は、だんだんと強くなってきているようでした。 

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