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旧子奈之隧道  作者: 群鳥安民
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8月28日

 8月27日の13時過ぎ。小藪町交番勤務の水畑穎帆は、町内のパトロールに出ていた。普段のパトロールは、住宅街を見回ったり、国道を走るスピード違反の車輛を取り締まったりすることが主な職務であった。

 ここは長閑で平穏な町であるため、町内で何か一大事な事件が発生するということは滅多に無い。強いて言えば、山間部の崖崩れが多く、その復旧作業に係る交通整理をするくらいだ。

 しかしこの日、パトロール中の彼女の元に、イレギュラーな通報が舞い込んできた。

「上米良警察署から小藪町交番へ。県道689号線の旧道に向かった男性との音信が不通との通報あり。署員は巡回せよ」

「はい。了解です。……旧道? 旧道に入った人がいるの?」

 県道689号線の旧道は、新しいトンネルが建設されて以来、現地の人間でも赴かない場所となった。その後、トンネルの出口付近で崖崩れが発生し、旧道は通行不能、トンネルからは立ち入り禁止となっている。

「旧道ってことは、旧トンネルにも入ったのかなあ。あそこ不気味で近寄りたくないんだよねえ」

 水畑穎帆は軽い文句を零しながら、現場に急行した。


 穎帆の運転するパトカーはミニパトだから、一般のパトカーと比較すると、小さくて小回りが利く方だ。険隘な旧道に入り込んで、この車で良かったと、穎帆は思ったのだった。

 時間はまだ昼間であるが、旧道は山肌と樹々に挟まれて薄暗い。慎重に進んでいくと、穎帆はA型バリケードが動かされているのを発見した。

「さては勝手に規制解除して進入したな」

 穎帆は心底ウンザリした。そうなれば、次に取るべき行動は決まってくるからである。

「こちらパトロール中の水畑より上米良警察署へ。国道689号線の旧道、旧子奈之隧道の入口にて、何者かが規制を無視して進入した形跡あり」

「了解。周辺の巡回をお願いします」

「……それはトンネルに入れということですか」

「ええ勿論です」

「ですよね~」

 なんて答えてみせるが、そうも明るくは振る舞っていられない。ブツリと切れた無線に、穎帆は僅かな寂しさと恐怖を感じた。

「ったく。女一人でここ通れってのかよ」

 不満と不安が湧いてくるが、警察官としての職務を背負っている以上、穎帆はここを退くわけにはいかなかった。

 一台のミニパトカーが、旧道のトンネルが構える闇の中に、消えていった。


 トンネル内部は不気味でこそあれ、不審なものも人物も見当たらなかった。穎帆は、いっそ何も見つからずに引き返せることを祈っていた。彼女は自分の好きな歌を口遊みながら、車のライトだけを頼りに、暗闇の中を慎重に進んでいった。そして、出口に辿り着いた。

 トンネルを出た先の景色は開けていて、入口よりも明るかった。出口直後のカーブを曲がっていくと、そこには崖崩れを先頭に、3台の車が路傍に停止していた。

「え、一人じゃないの?」

 穎帆は慎重にミニパトを近づけていく。すると、それぞれの車から人が湧いて出てくるから、彼女は身構えた。

 恐らく彼等は行方不明者の仲間だろう。そして、何らかの理由でここに留まっている。理由は何であれ、ここは本来立ち入り禁止のはずだ。更なる崖崩れが発生する危険性も充分にあるし、ここから退避させなければならない。

 三台の最後尾にミニパトを付け、エンジンを切って停車を完了させた。シートベルトを外して周囲を見てみると、既に5、6人に包囲されている。一先ず職務質問だ。穎帆は一呼吸おいて、ミニパトのドアを開けた。

「助かった~」

「やっと帰れる!」

「警察が来たならもう安心だ」

 人々は安堵の言葉を口にするが、穎帆は状況が呑み込めない。

「皆さん、ここで何をされてるんですか?」

「何って、助けを待ってたんだよ」

「あんた、俺達を助けに来てくれたんじゃねえのかよ?」

「私はパトロールで来ましたので」

「まさか、帰る手段を用意してないってんじゃねえだろうなあ」

「帰る手段?」


 そこからの流れは先人と同じであった。穎帆は一同の理解不能な説明に促され、出口からトンネルに進入。約10分後、再びここに戻ってきたのであった。

「どういうこと……」

「それが解ればとっくに帰ってるよ」

 贏也は疲弊して答えた。

「とにかく、本署に連絡します」

 穎帆はミニパトに駆け込み、無線を手に取った。

「パトロール中の水畑から本署へ。……本署へ、どなたか応答願います」

 頴帆が手にする無線機からは、一切の応答が無かった。

「やはりダメか」

 ツルは溜息を吐いた。

 続けて、外車のドライバーがこう言った。

「私達もスマホの電波が届いていないんだ」


 応答が無いのは、本署から穎帆へも同じであった。パトロールに出た署員まで音信不通となれば、事態の重さは変わってくる。

 分かっていることは、水畑頴帆警察官が旧道のパトロールに急行し、旧子奈之隧道に立ち入ったであろうというところまで。その後に彼女がどうなったか、本署の職員には一切分かっていなかった。

 現場には2台のパトカーで4人の警察官を向かわせ、更にはトンネル出口を上空からのヘリコプターによる捜索も行われた。

 水畑穎帆警察官が何処へ消えたかは分からない。しかし、やはりこの怪しいトンネル内を捜索しないわけにはいかなかった。

 またも一台のパトカーが、旧道のトンネルが構える闇の中に、消えていった。


「穎帆、ここで何してるんだ?」

 トンネルに踏み込んだ二人の警察官が見つけたのは、ミニパトを含む4台の車輛だった。

「お父さん!」

 その警察官の片方は、水畑穎帆の父親らしい。

「連絡が無いから私らまで本署から駆り出されることになったんだぞ。何故無線に答えないんだ」

 ここからの流れは説明するまでも無く、先人たちと同じであった。


「職務質問しましたところ、最初にあのトンネルを通ったのは一昨日で、彼等3人みたいです」

「一昨日からここに居るのか!?」

「彼等は森岡大学に通う大学生で、志字贏也さん、五十部蔓延さん、野出眞姶さん」

「こんな事になると思わなくて……」

「次があちらのご家族。車戸碤嗣郎さん、車戸煐子さん、お子さんの瑛砥くん。車戸物産の社長さん一家です。そして、こちらが七五三和悦さん。国土地理院で勤務されているそうです」

「どれも本署に行方不明の届けがあった人達だ」

 水畑穎帆の父は納得した様にそう言った。

「我々も救助を待つしかない。ヘリコプターの応援も呼んである。陸路でなくても、いずれ助けは来るだろう」

 水畑父の言葉に、迷い込んだ者達はは安心する。しかし、彼の傍らに居るもう一人の中年男性警官が首を捻った。

「ヘリの音、しなくないですか?」




「ヘリの上空舞台から上米良警察署へ。旧子奈之隧道出口に人の形跡は無し。トンネルに進入したとされるパトカーは依然として出てきません」

「——とのことだ。トンネル入口で待機している職員へ、トンネル内部を確認してほしい」

「……しかし、トンネルに進入して行方不明が相次いでいるんですよねえ? 原因も分からずに我々が突入しても帰還できなくなるのがオチでは……」

「……それも、そうか。体制を立て直す。君達は直ちに本署に帰還しなさい」

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