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第四話『姿と名前はやっぱりかわいい方がいいよね』

<登場人物>


サイキ シンタ

 『根之国学園』の一年生

駒形十郎 

 どう見てもシンタには天狗にしか見えない年老いた山伏姿の大男

兎森丸すずね

 シンタと出会う巫女装束の女の子

スマリ

 シンタが救った兄妹の兄。山に入ったところを化け物に捕まった

モユ

 シンタが救った兄妹の妹


 その頃、スマリの村では負傷者が日に日に増え、満足に魔物との戦いに参加できる若者はほとんどいなくなっていた。

 今日も三人の男が命こそ落とさなかったが、再起不能なほどのけがを負っていた。

 村の周囲には堀がめぐらされ盛った土の上には木塀が張られているが、その薄さから気休め程度に過ぎないなのは誰が見ても分かった。


「長老さぁ、こいつの始末、何て言ってただ」


 土牢の見張り番の男は皿からとったばかりの芋をほおばりながら夕食を持ってきた老婆に話しかけた。


「人の姿さぁしてても牢から出したら暴れ出すかもしんねぇから、まだ入れておけと、おめぇもこいつが娘っ子の姿してるからと気ぃ抜くんじゃねぇ、こいつの耳を見てみぃ間違いのぅ魔物じゃ」


 老婆は皿から一個の芋を暗い牢の奥に放りながら答え、早々とこの場から立ち去った。男は芋を食べる気配がする牢の中を覗こうと目をこらしたが、自分が立っている所からその様子をうかがい知ることはできなかった。


「西の門にかがり火が足りない、薪をくべるのを手伝ってくれ」


 魔物は夜になると動きが活発になる。


「わかっただ、すぐに行く、おい魔物、ここから逃げようとすんじゃねぇぞ」


 牢の奥へ男が言い捨て持ち場を離れた時、月の光でつくられた影が牢の中で少しだけ揺れた。


--------------------------------------------------------------


 俺はスマリの村の遙か手前の河原でたき火を囲み野営をしている。暗い林の奥で獣のような声がさっきからずっと聞こえているが、すずねは火さえ消さなければ心配する必要は無いと言っている。


「すずね、教えてくれ、ここはどんな世界なんだ?少なくとも俺がいた世界とは違うよな」


「同じと言えば同じかもしれないけれど違うと言えば違う、どちらの世界にも私は存在するし、シンタ様、あなたも存在する」


 すずねはそう言って新しい枯れ枝を火の中にくべた。燃えていた太い薪はパチパチと音を立て、火の粉を煙に乗せて星空へ運んでいく。


「どういうこと?」


「今、古より表裏としていた世のことわりが何者かの力によって侵食されているそれ以外は……言えない」


「え、どうして?」


「運命が変わるかもしれないから」


「少しでもいいから」


「少しでもだめです、天からも禁じられています、己のさだめは己でさだめよと」


「だって、こうなったのは自分で決めた訳じゃない」


「いえ、ここに至るまで、いくらでもその分岐点はあったはずです」


 確かに学園に合格して入学を決めたこと、ハクたちとは一緒に行動せずに自分で天狗の森に入ってしまったことがその分岐点にあたる。

 すずねはとてもきれいな顔をしているのだが、どこか冷たい印象が強い、まじめで正論を盾にしそうな……そうだ、生徒会長、生徒会長タイプだ、いや、自由奔放そうなのが会長だから、常にその横に立っていてクールに物事を正確に処理していく副会長だ、すずね副会長だ。


 俺はまじめな顔をしているすずねの横で、そんな馬鹿な想像をしていた。


「シンタ様、早くお休みください、ここは私が火の番をしています」


「すずねは寝ないの?」


「十郎様のところでずっと休んでいたので、しばらくは大丈夫です、それに火はずっと見ていて飽きないのです」


 俺はすずねが刀剣であることを忘れていた。


「そうか、それならお言葉に甘えて……」


 俺はたき火のほのかなあたたかさが伝わる位置で薪を枕に横になった。

俺のその日の夢は、学生服姿の俺が同じブレザーを着たすずねに生徒会室で正座をさせられ、こんこんと校則を破ったことについて説教されるというものだった。


 次の日の朝、俺たちは朝もやに煙る道を子供の歩みの速度にあわせゆっくりと歩いている。夜が明けきらないうちから小鳥たちが道脇の林の奥から少し音痴な鳴き声を交わしている。


「スマリの村の名前は何て言うんだい」


「『獄門村』です」


 スマリがすました顔をして俺に答えたのだが、俺はどうリアクションしていいか迷った。


「ず、ずいぶんと血なまぐさい名前だね、はは……もしかして刑場でもあるのかな」


「この辺の地名はだいたいそんな名前ばかりです、『血だまり沼』、『臓物川』、今、歩いているこの道だって『シャレコウベ街道』だし」


 すずねが会話に入ってきた。


「変だろ、もっとかわいい名前はなかったのか、普通だったらこういう世界は『メルヘン城』とか『フェアリーの里』とか、こう、もっとフワフワするようなのとかさぁ」


「油断すると危険なことになるぞという先人の戒めです、油断していると……」


「いったぁー!」


 俺は地面から飛び出ていた石につまずき勢いよく転んだ。


「そうなるということです」


 子供たちは心配そうに俺の起き上がる様子を見ていた。


「少しは理解したけど、やっぱりさぁ、もう少し、夢のある名前の方がいいんじゃないか」


「それならシンタ様が転んだ道だから『コロリン道』にしようよ」


「あら、かわいいですね、それでいきましょう、シンタ様もそれでいいですか」


「勝手にしろよ」


 モユの突然の提案にすずねとスマリがとても楽しそうに笑っていたので、俺は反論するのもばかばかしくなって黙って先を歩き続けた。


 しばらくして俺は街道の木の枝に何かがぶら下がっているのを見つけた。それは蜘蛛の糸のような細く白い糸にぐるぐる巻きにされた玉のようであった。


「すずね、あれ何だ?」


「糸球のよう、気をつけてね、あれをつくった昨日退治した仲間が近くにいるかもしれない」


 俺はあの蜘蛛とキノコが融合した化け物を思い浮かべた。


「そ、それパスね」


「怖い……」


 モユはすぐにすずねの手を握り、身体を寄り添わせた。


「モユ、大丈夫だよ、ここには、おサムライのシンタ様がいるよ、すぐにやっつけてくれる」


「そうですね、シンタ様が助けてくれますからね……ということです、あの糸球を切ればすぐに出てきますよ」


 俺のびびる内心をまるっきり無視して、子供二人の手を取るすずねは早く戦えと言わんばかりに笑顔のプレッシャーを与えてくる。


「あのジジイみたいな奴なのか」


「どうでしょう?いろいろなのがいるから……」


 俺は昨日注意されたことを思い出し、右手に軽く力を入れ刀に変化させ、枝から下がる直径一メートルほどの球体を横一文字に切断した。


 乾ききった内臓の一部や骨がばらばらと地面に落ちた。


「わぁ、何だこれ、すずね、これ何だ」


「動物か……人の……」


 確かに目の前に落ちた丸い物は頭蓋骨のように見える。


「誰、大切なごちそう盗もうとしたの?」


 樹上から小さな子供の声が聞こえた。


「!」


 俺の目の前に金太郎のような隅取腹当てをした五歳くらいの幼児が落ちてきた。


「子供?」


 それこそ昔話に出てくるような姿をしていて、五月飾りのかわいい日本人形のように見えた。


「あれこんな朝早くからご飯だぁ、昨日いっぱい食べたから今はお腹すいていないけど、今日の夜のご飯にできる」


 幼児は無邪気な顔を俺に向けている。俺はこいつが化け物だと薄々感づいていたけれどすぐに切ってしまえるほど残酷な気持ちはまだ持ち合わせていない。


「間違えて切ったことは謝るよ、お願いだからここを通らせてくれないか」


 俺は無駄だとは分かっていてもそう話しかけずにはいられなかった。だが、それは予想通り無駄な交渉であった。


「はぁん?餌は食われていりゃいいんだよ」


 幸せをたたえていたようなふくよかな幼児の顔が、目の血走った鬼の形相へと変じた。





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