ラジオ放送
『――。
〇〇さんはじめまして、そしてこんばんは。
いつも楽しくこの番組を聴かせていただいております。
特に〇〇さんの生き生きとした朗読がとても好きで、暇さえあれば過去のラジオ放送を公式サイトから探して聴いています。
さて、今回この企画にに参加させていただいたのは私が幼い頃、祖父から聞いた話をこの前のラジオを聴いている時に思い出したからです。
怖い話、と言うよりもとても不思議な話でした。
祖父(今後はS太と表記します)がまだ幼い頃の話です。
S太の家は田舎ではよくあるような造りのものでしたが、一箇所が違っていました。
それに気が付いたきっかけとしては、幼い頃によく遊んでいたK助という同年代の子の家に上がらせてもらった時に違和感を覚えたからだそうです。
それは、同じ造りの家の筈なのに部屋が多い、との事でした。
そこでS太は、改めて自分の家を探索する事にしました。
一階建の家の玄関。
そこをくぐり、一旦左に進んでから奥まで真っ直ぐ続く縁側兼廊下。
途中で丁の字の分岐路があり、縁側から屋内へと進む、その間に数えた部屋の数は三つ。
玄関近くの自分の部屋。
その隣の居間。
そして廊下を挟んで父母の寝室。
その奥には一つの部屋と台所がありました。
ですが、ひとつだけ気にも留めていなかった部屋を思い出します。
父母の寝室の隣の部屋です。
父母の寝室からは入り口はなく、廊下から木製の引き戸でしか入る事が出来ないようでした。
S太は好奇心のままその部屋の戸に手をかけました。
しかし、戸が開くことはありませんでした。
何かが痞えて開かないのではなく、押しても固定されているようにピクリとも動かないのです。
そこでS太は戸の事をちょうど台所にいる母に聞く事にしました。
「寝室の隣の部屋? ああ、あの部屋ね。あの部屋はね、お父さんが子供の時からずっとあのままらしいの。私も気になるけれど、開かないからねぇ……知ろうにも何も出来ないのよ」
父は現在仕事で家におらずS太は仕方なく自分の部屋に戻る事にしました。
廊下に出ると、例の部屋が視界に入ります。
人間、一度気にし始めたものにはしばらく意識がそちらに向かってしまうため、S太はしばらくその部屋の戸をジッと見つめていました。
「――――」
S太はふと、その戸の奥から何やら音がしている事に気がつきました。
そして、背筋に汗が伝いながらS太はその戸に耳を当てて音を聞き取ろうとしました。
「――――♪」
それは何かの歌の様でした。
ですが、うまく音が拾えず、何を言っているのか分かりません。
そこで、せめてメロディーだけでも知りたいとS太は必死に耳を戸にくっつけながら、下手くそな鼻歌でその旋律を奏でました。
暫くはなんの歌か分かりませんでしたが、聴いていると不思議な気分になり、S太は知らぬ筈のその歌詞を口ずさむようになりました。
けれども、それがどういう言葉で、どういう意味なのかはちっとも覚えていません。
覚えているのは、歌ったという感覚だけで、自分が何を歌っていたのかS太は分かりませんでした。
――――――。』
無機質なノイズ混じりの音を発するラジオデッキ。
その放送は以前にも聴いた記憶がある気がする。
いや、正確にはその放送で語られる話の内容。
「……嘘」
手元には書き途中の葉書。
その内容は、昔聴かされた祖父が幼少期の体験談。
暫く固まっている間も、ラジオの放送は進んでいる。
祖父の母、私の曽祖母に声をかけられて正気に戻り慌てて離れる祖父。
部屋について詳しい事を聞いても答えてくれない父母に少し苛立ちを覚えた祖父。
放送される話が私の知っている話と一致している。
この話は、私があの家に両親と遊びに行った時に祖父が私にしてくれたものだ。
従兄弟なんていないし、本名(今のところ同じ名前は聞いたことが無い)を少し弄ったペンネームも全く同じ。
祖父の話のオチが読み上げられる。
その瞬間、私はラジオデッキの電源を落とした。
私は暫く葉書を見つめた状態のままでいた。
後日、私はブックマークしていたラジオ放送の公式サイトに飛び、昨夜の放送を確認しに行った。
――404 NOT FOUND。
そういえば祖父の体験談のオチを忘れてた。
家督を継いですぐに確認したら、ガガゴゴと変なざらついた様な音を発する機械とそれを囲むように鏡が置かれていたらしい。