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9.お店の、コンセプト

「そこで、わたくしは考えたの。愛し合うふたりが足りないなら、作れば良いのでは?」

「作る、とは?」

「お見合いさせるとかですか?」

「お見合いじゃ駄目なのよ。駄目というか、違うのよね。……もっと自然な流れで愛し合って欲しいのよ」


 自分が政略結婚だったからというわけではないけれど、純粋にしがらみなく出会って惹かれあって……のようなものに憧れがある。

「自然な流れで出会ったとしたって、浮気で離婚なんてありふれてますよ?」

 ジョアンが申し訳なさそうに、でもはっきりとそう言うとポーリーンは笑う。

「浮気で離婚にこだわるわね、あなた! 始まりがどんなものであっても、結果どうなるかは当人同士の問題でしょう。政略結婚であっても恋愛結婚であっても、わたくしたちみたいな結果になることはあるわ」


 そんなことは置いておいて、と少し紅茶で喉を潤した。


「男女の出会いの場になるようなカフェを作ろうと思うの」

「カフェ、ですか?」

「そう。レストランではなくて、カフェよ? 幸い、ジョアンは軽食作りのプロだし。コーヒーも紅茶も美味しく入れてくれるしね」

「それは、普通のカフェと何か違うんですか?」


 にっこりと笑ったポーリーンに、ユーゴもじっと黙って続きを待つ。


「お相手を探している人には、それと分かる目印をつけてもらうの。それから、希望者には自己アピールや来店日時を残していってもらったり。気が合いそうな方がいれば、一緒にお茶でもしてもらったりね」

「ナンパ場提供、ということですか?」

「言い方よ、……。もちろん、わたくしを全て通してもらうわよ? 店外でのアピールと揉め事はご法度にするし」


 あの人の名前が知りたいけど勇気が出ない、という状況はこのカフェ内であれば避けられる。店主を通して探れるし、相手を探している人であるかどうかは印で見分けられる。好きな人の好みのタイプを知ることも容易だし、お茶だけ楽しむことももちろん出来る。

 仲を取り持つことで信用も得られて、無事にご成婚になった時にはこのお店でささやかなパーティなんか開かせてもらったり……夢は広がる。


 どうかしら、とテオドールを見ると、考え込むように足を組んでじっと一点を見つめていた。


「……危険はないでしょうか」

「それは、……分からない、と現時点では答えるしかないわね」

 案は色々浮かんでくるのだが、しっかり形にするには少し時間がかかりそうだ。思うような運営が出来るシステムを組むには、有識者の話も聞きたいところではある。

「ま、やってみても面白そうではない? 出会いから結婚までの、幸せなふたりの傍観者になりたいのよ。最終的には、その結婚式のプロデュースをしたいわけ」


 うーん、とジョアンは難しい顔をした。

「うまくいきますかね?」

「失敗したら辞めたらいいんじゃない? 店も結婚も一緒よ」

「結構、お嬢様は自虐ネタぶっ込んできますよね。テオドールさんがオロオロしてますけど」

「あ、……大丈夫です」

 若干目を泳がせながらそう言って、テオドールは少し無理に笑顔を作った。

 気を遣わせる気は全然ないが、少しだけ申し訳なかったかもしれない。


「とりあえず、目指すところは居心地のいいカフェ。お客様同士が自然に交流しあえるような、アットホームなお店にしましょう。そして、そこで出会ったふたりが愛を育んで、わたくしに結婚式のコーディネートをさせてくれれば最高だわ」

「欲張りですね、お嬢様は」

 呆れたように笑うジョアンに、ポーリーンはウィンクした。


「商人は欲張りなものよ」

「貴族感がなくなりつつありますよね、テオドールさん」

 不意に振られて、テオドールはふっと笑んだ。

「ポーリーンらしくて、……好ましいです」

 一瞬、ほかの言葉を言おうとしたようだったが、うまく表現を変えて収められた。

 

 ポーリーンらしい。

 良い意味で言われるのは、久しぶりな気がした。くすぐったいような照れくさいような、そんな気持ちだ。



 ◇ ◇ ◇



 誰もがふらっと立ち寄りやすい店構え。

 思わずそばにいる人に声をかけたくなるような、寛げる空間。


 ポーリーン自身は、どんな場所でなら寛げるか、と考える。

 幼い頃にすごした家を思う。母がいて、父はあまり帰ってこず、一人で庭をいじって過ごした少女時代。

 13歳の時、結婚相手が公爵家の嫡男だと決まって、それからは忙しかった。貴族のマナーや所作を覚え、数々の催し物に参加し、顔を売り、会話を弾ませることに気を配り、貴族の中においても自分らしさを無くさないようにと日々気持ちをしっかりと持ち。


 自分らしさを出しすぎると、貴族の生まれでないことのせいだと嘲られた。

 貴族らしさに徹すると、クロードはつまらなそうな顔をした。


 公爵夫人を辞めた今でも、自分はどうするべきだったのか、と考える。


 ユーゴの寝顔を月明かりが照らす。

 可愛らしい少年。それからクロエ。結婚生活で手に入らなかった、可愛い子供。このまま、誰もふたりを連れ戻しに来なければいい。


「わたくし、頑張りますから」


 仕事も何もかも、頑張るから。

 今の、この穏やかな日々が失われないように、とポーリーンは月を見上げる。立ち並ぶ屋根に半分隠れた月は、白い光で夜の通りを優しく照らす。



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