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19.ポーリーンの、計画

「で、結局どうするんです?」

「ん?」

「カフェを開くことは決定として、どうやってオクレール公を幸せにするんです? あ」

 気付いたようにテオドールは言った。

「たくさん稼いでたくさん納税するんですか」

「さすが侯爵家の跡継ぎは発想が違うわね」


 褒めてはいない。


「まぁ、納税は普通にするとして……納税が必要なほどに儲けが出れば嬉しいけれど、それは置いておくとしても」

 ふぅ、と息をつく。

「あの人が幸せになるためには、新しい奥様が必要よ」

「ポーリーンでも耐えられない人に、耐えられる女性がいますか」

「世の中には物好きもいるのよ」

「そう簡単に物好きが見つかりますか」

「お金が大好きな人なら?」

 あぁ、とテオは頷いた。

「それならきっといますね」

「でもそれではクロードは幸せにはならないと思うけど」

「どっちなんですか」


 ポーリーンが思う計画とはこうだ。


 まず、カフェを開く。もしクロードがポーリーンをまだ連れ戻す、もしくは未練があったりした場合、きっとカフェに顔を出すだろう。

 その時にカフェに妙齢の女性が複数人いたら、きっと「領主が立ち寄る店」として話題になる。

 そうすると、興味本位の人や見初められたい人、領主である公爵と知り合いたい人なんかが店に客としてやってくる。

 その中から、公爵が誰かしらを見初めてくれたりしたら万々歳。


「どうかしら」

「公爵を客寄せの広告塔にしようとしていることは理解しました」

「ほんと、結構言うわね……でもそういうことね。ウィンウィンであるとは思わない? わたくしの店は繁盛し、公爵は新しい女性をいくらでも選ぶことが出来る」


 考え込むテオドール。寄せられた眉を見つめながら、飲み物を一口。


「ポーリーンのお考えはよくわかりましたが」

「ダメそうかしら」

「いや……殺伐とした店にはなりませんか」


 玉の輿狙いの女性が目を血走らせて公爵を取り合ったりしたら刃傷沙汰になるのでは、と。

 そこまでいかなくても、牽制しあってぎすぎすした雰囲気になるのでは、と。


「でも、毎日来るわけではないものね、一応領主だからクロードも少しは仕事をするだろうし」

「そう、ですね……アーニャを閉じ込めていた家にも、毎日通っていたわけではないようなので」

 ちくりと胸が痛む。思い出すと、いろいろなことで頭が痛い事件だった。

 テオドールは義妹のことを、義妹だからと言ってかばうことも誹ることもしない。ただ、事実を事実として把握している、という態度を崩さない。


 クロードに対しては、私怨で嫌いだというだけあって、評価が辛いがそこが面白い。



 初デートは、思いのほかにしっかりとデートの様相を呈し、オーナーであり調査員であるテオドールの本心の核心に近いところまで聞いてしまって、戸惑いの中にも嬉しさを感じ、またそれに戸惑うの繰り返しだった。

 「その時」はいつ来るのか。ということはとても気になるし、その時が来たらどうなってしまうのかと思うと胸のざわつきが収まらない。


 テオドールは、もっと何か伝えることはないのかと問うポーリーンの視線を軽くいなし、

「一週間後に開店です」

と、至極一方的に日程を決めてきた。


「なるべく早く開きたいとは言ったけれど、ちょっと早くはない?」

「ポーリーンの仕事の速さとジョアンの気迫があれば大丈夫」

 テオドールは手帳を閉じて、にっこり笑った。

「それに、締め切りがタイトな方がやる気になるでしょう? 一週間で出来るものを10日に延ばしても、3日間遊ぶだけだ」

「厳しいわ……」

「遊びたいですけどね、私は。でも、遊ぶならやることをやってからです」


 やることをやってから、「その時」になるのだろうか。

 何を言われるのか、なんとなくあの雰囲気で分かってしまったような気がするけれど、それに対してどう答えていいのかはまだ決めかねている。だから。その答えを探すための時間が「一週間」なのだと思う。


「間に合うかしら」

 心の準備が。

「間に合わせましょう。リュカも張り切っているし、何とかなります」

 開店支度についてはその通り。頑張ってできない作業ではない。



 

 朝早くにリュカとテオドールがやってきて、夜だいぶ遅くなってから二人は一緒に帰っていく。

 ジョアンの作成したメニューも固まったし、ユーゴもクロエもみんなの作業の邪魔をすることなく、癒しとしての役割を存分に発揮してくれた。

 店の中での準備をしているときに、リフが一度やってきた。

 店内の様子をぐるりと見渡して、開店の日を訊いていった。まさか嫌がらせをすることはないだろう。経済的でないことはしない男だ。しても意味のないことはしない。だからポーリーンを連れ戻そうと躍起になったりもしない。どうせ戻ってこないことを、リフはしっかりと理解はしているからだ。



 チラシを作ってばらまいて、ポスターを貼って、近所にご挨拶をして。

 開店用の花を準備して、軽食や飲み物の手配も完璧。掲示板、伝言メモ、胸につけるリボンも用意。一通りの準備が終わると、もう開店目前になっていた。



「明日、開店ですね」

 ジョアンがそわそわと落ち着かないように店内を歩き回っている。

 ユーゴは身に着けた小さなエプロンを引っ張ったり見つめたり。マスコットとしての役割のユーゴは、お客様が来たらおしぼりを渡す役。


「クロードは来るかしら」

「来ますでしょ」

「……そういえば、テオは遅いわね」

 いつもなら朝一で駆けつけてくるのに。


 しばらく待った。

 夜になり、店から家へと帰り、明日のためにと早めの就寝をした。




 翌日の朝、開店の時を迎えても、テオドールはやってこなかった。



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