表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/192

主客転倒だったよっ!!

「もし、私達がこのまま成り行きを見守って終われば、この国はこのまま変わりはしないでしょう。

 でも、私達が龍を退治してしまえば、国にとってはそれで問題が無く、やはり何も変わりはしないでしょう・・・・。私たちはどうすればいいのですか?・・・・。」

ミレーヌの瞳には大粒の涙がこぼれ落ちそうなほどたたえられていた。彼女は空を見上げていたのではない。上を見なければ涙が流れ落ちるからだ。暗殺者の一族と言う賤民せんみん出身のミレーヌには冒険者の彼らの苦悩くのうが痛いほどわかるのだろう。

僕とオリヴィアは、自分たちの浅慮せんりょを呪うのだった・・・・。


今思えば神である師匠が飲み屋であのように振舞ったのは僕に対して現状を僕に知らしめるためであり、同時に僕に冒険者の現状を打破だはする行動を起こすように仕向けたのだろう・・・・。僕達の夢をかなえるために・・・・。

僕は思う。考える。

かつて、クリスやオリヴィアと誓い合ったあの約束を。そしてミレーヌやシズールに誓ったあの約束を。思い出していたんだ。

虐められる子や虐げられる者たちを救うために行動するという夢をかなえる。そのために、この度の龍退治は役に立てられるのではないだろうか? と。


しかし、実際問題、どうするべきか・・・? 

これはミレーヌの指摘したどおりで、僕達が独自に龍を倒してしまっても、この国の兵隊たちと冒険者が一緒に龍を倒してしまっても「龍の討伐」という目的は達成されてしまうので、国としてはどちらに転んでも問題はなく、龍が討伐されても冒険者の立場向上にはつながらないだろう。

僕達は、飲み屋を出てからしばらく黙って歩く。各々が色々な考えを巡らせているが、そこに答えを見つけられないんだ。そのまま一言も話さずに僕達は宿屋まで戻った。

そして、宿に戻るとシズールにこと顛末てんまつを話した。

僕達の一部始終、黙って聞いていたが、最後の最後に首をかしげて問うた。


「え? それでどんな龍だった?

 特徴は?」


シズールの言葉に僕らはハッとした。そうなのだ僕達は冒険者たちの報酬ほうしゅうが少ないことをはじめとする冒険者たちの現状を憐れみ、改善を考えるあまり、僕達は当初の目的である龍の情報収集を忘れてしまっていたのだった。主客転倒(しゅかくてんとう)とはまさにこの事。(※主客転倒とは物事の順序や重要性の大小、立場などが逆転すること)

僕もオリヴィアもミレーヌもシズールに指摘されるまで、龍のことをすっかり忘れていたことに顔を真っ赤にさせて弁解べんかいする。

「いや・・・・。」

「その・・・・。」

「それはね。・・・え~っと・・・・これからだよっ!! シズール!!」

僕達の言い訳を聞きながらシズールは、「お留守番、暇。私も何かしたいっ!!」と、愚痴ぐちをこぼす。

それは確かにそうなのだ。シズールは鬼族とエルフのハーフで、祖父のローガンが手を尽くして鬼族の毒を解呪かいじゅしたが、外見は、鬼族そのものの少女だ。(※第24話「伝説の英雄が仲間になってくれたよっ!!」参照)

シズールは、その魂はエルフそのものだが、外見はマンイーターと恐れられる鬼族そのものなので、彼女を外に連れ出すことは出来ない。バレたら町中、大混乱になっちゃうからね。シズール自身も幼いころからその容姿でいじめられてきた経緯もあって、自分から外に出たがることを恐れる。そのシズールが自分も何かしたいと言い出したのは、この数か月、僕達と外の世界を出歩いた経験から,世界に対する慣れから来るものであるが、それでも外に出せるのかという疑問がある。ただ、シズールが ”何かしたい” と言い出したのは良い転機なので、僕もそれを応援したいと思い、シズールに確認する。

「シズール・・・・僕達と一緒に外で行動したいのかい?」

でも、シズールは首を左右に振って「お外怖い。部屋の中で出来ることないか?」という。どうやら、お外は未だまだ暫くお預けのようだ。

しかし、確かに、シズール一人この部屋に閉じ込めておくのは不憫ふびんだ。

「仕方ない。これから僕はもう一度外へ出て、単独で情報を集めてくる。君たちはシズールと行商用のお菓子の開発をしておいてくれ。」

僕は決断し、ミレーヌとオリヴィアに指示を出すと宿屋を出ていく。

部屋を出る前に「いいかい? 折角だから、3人で師匠にもらったお菓子以上の物を考えてみて!!」と、宿題を出す。”3人寄れば文殊の知恵” という。若干、アレなところも多い天然娘たちだが、何か凄いことをやってくれるかもしれない。

僕に宿題を出されたシズールは嬉しそうに「はいっ!!」と返事をした。メチャクチャ可愛い。


さて、一人宿を出た僕は、もう一度、龍の情報を集めに役場に赴いた。役場の人はあからさまに嫌そうな顔をしたけれど、僕は気にせずに「龍の細かい情報を教えてください。」と丁寧に尋ねた。子供に低姿勢かつ丁寧に尋ねられて、断れる大人はそうそういない。特に堅い職場に働いている理性ある大人ならば、なおのことだ。

だから役場の人は丁寧の教えてくれた。

「目撃者の情報では、体の大きさは、この部屋くらいらしい。

 背には翼があり、空を飛ぶ。未だ直接攻撃された人はいないが、山の獣を倒すときに火を吐いたというから、かなり危険な相手だ。それに、嘘か真か、人語を話したというぞ。」

僕は役場の人に頭を下げて丁寧にお礼を言うと、顔面蒼白がんめんそうはくになって役場を出る。

役場の人が教えてくれた龍のサイズ。役場の入り口は大広間になっているので、結構広い。10メートル四方に天井高5メートルと言ったところか。言って見れば、2階建て一軒家が襲ってくるようなものである。それだけでも強敵だと想像するのにかたくない。だというのに、空を飛び、しかも火を吐く。

そして、一番厄介なのが、人語を話したという点だ。前述してきた通り、野生の龍は基本的には野生動物だ。龍族は動物にしては知性が高いが本能が優先する。その龍族が人語を話したという事は・・・・。それはつまり、霊位れいいがあがって種族がアップグレードされた龍という事になる。今聞いた範囲の情報では種族を認定することは困難だが、確実にえることは一つ。この龍は間違いなく人間よりも高位の存在だ。

僕は、慌てて城壁そばまで走って行き、衛兵に賄賂わいろを贈って特別に城壁に上ると、件の龍が住み着いたという街道を見る。すると、街道から1キロほど離れた場所に立つ岩山の頂上にその龍がいることが確認できた。

「こ、これは何と立派な龍だっ!!」

遠視の魔法で見るその龍は青い鱗に包まれた何とも美しい龍だった。僕が思わず声を上げると、手引きしてくれた衛兵が答えてくれた。

「だろ? 正直、俺は不安だよ。

 あの報酬じゃ冒険者は食いついてこない。だから軍を出して討伐に当たることになるだろうが・・・・。万の軍勢を率いて一気に叩かないと、とんでもない長期戦の消耗戦になるぞ。」

衛兵は正確に龍の危険度を見抜いていた。そう、あれほどの龍ならば、きちんとした陣形と戦略をって望まないと進撃と後退戦を続ける長期戦になるだろう。そして、長期戦になれば人間の被害も出る。この国の王は、そこを頭に入れて戦略を練ってくれるだろうか・・・?


僕は、衛兵に礼を言って城壁から降りると、一人、トボトボと街を歩く。

「・・・・・どうしたらいいんだっ!」

強大な敵を前に思わず、声がこぼれてしまう。頭を悩ましながら往来を歩いていると、僕とは別の情報を集めていた師匠に出くわした。

「よぉ。情報は集まったか?」

「師匠っ!! どうしてここにっ!?」

僕は師匠に駆け寄り、現状を報告した。ハッキリ言って困っていた。助けてほしいと思った。

だが、師匠は「最初に言った通り、力はかさんぞ。特にお前はこの程度の敵を倒せぬようでは、この先ドゥルゲットに殺されるのは目に見えているからな。自力で乗り越えろ!!」と突っ返される。

しかし、代わりに師匠は別の情報を与えてくれた。立ち話もなんだと、近くにあった飲食店に入り、酒とつまみを注文すると、本当の意味での当初の目的であったドラゴニオン王国の現状を話してくれた。そう、僕は龍退治のためにここに来たのではない。安全に情報を仕入れるためにここに来たのだ。

「以前に情報を売る手合いがいる話をお前自身がしたな? (※90話参照。)

 俺はそう言った輩と接触せっしょくして、ドラゴニオン王国の情報を手にした。その話をしよう。

 どうやら今、ドラゴニオン王国は隣国ホドイスとの戦争を開始したらしい。」

その言葉に、僕は慌てる。

「戦争っ!? この冬場に我が国がですかっ!?」

信じられない展開が起きていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ