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勿論、卒業したよっ!!

隠遁いんとん生活と修業期間を終えて僕らは再び移動する。

旅の都合でいささか大所帯になってしまったので氷の城でいったん、ヌー・ラー・ヌーとアーリーとは別れを告げる。ヌー・ラー・ヌーは娘と一緒に過ごしたいと願い出て、アーリーは戦力不足ゆえにおいていくことになった。つまり、これからの旅のメンバーは、師匠、ミュー・ミュー・レイ、僕、オリヴィア、ミレーヌ、シズール、ローガンと言うわけだ。

それでも大所帯に感じるが、ミュー・ミュー・レイとローガンは僕達と共に行動するのではなく、情報収集のために別行動をとる。だから、実質、僕達のパーティは5名と言うわけだ。

いささか、戦力に課題が残るが、致し方ない。

大所帯になれば、それだけ痕跡こんせきを残すことになる。僕達は敵に察知さっちされてはいけないんだ。

そう言った理由で、僕達はヌー・ラー・ヌーとアーリーと一時、お別れする。新たな国への出発前夜に僕はアーリーに特別なお別れを済ませた。熱く、甘い夜だった。色々と思うことはあるけれど、彼女が願う子供たちの救済きゅうさいは今後も続けていくよと、僕に抱き着いて肩をふるわせるアーリーに何度も誓った。

彼女としてはかなり無念な事だったろう。いつか、彼女を連れて歩けるくらい僕が強くなったら・・・。いや、そうじゃない。僕は強くならないといけないんだ。この心優しいホムンクルスが望むことをしてあげられるように・・・・。


僕は決意も新たに新たな移動先であるエネーレス王国の首都、城塞じょうさい都市ドルチェ・ラ・エネーレスに転移する。実の事を言うと、この土地の事は僕は何も知らない。ただ、師匠は神ゆえに大体のことは御存知なので、師匠に色々な手配をお任せすることになった。

まず師匠は、ドルチェ・ラ・エネーレスの城門で行われる検問を神の力を使った暗示あんじで役人たちを意のままに操り、僕達がこの国で自由に行動できるように手形の発行までさせた。手形に書かれた文字を見せてもらったけど、僕は流石に遠く離れたこの国の文字を読むことは出来なかった。師匠が言うに僕達は再び「行商人」という身分で行動することになったという。

「いいか、ジュリアン。ここはお前たちにとっては異界に近い。

 ドラゴニオン王国の行動範囲を超えるからだ。ここの言語は特殊でお前たちはすぐに文字を読むことも話すことも出来ないだろう。しかしだ。お前たちは魔力を使って肉体を活性化させる能力を手にしている。

 頭をフルに活用して、この国の者たちが話すことを聞いて、見て理解しろ。」

師匠は、とんでもない注文を言いつけてきた。要するに脳を魔力で活性化かっせいかさせることで言語をすぐに理解できるようになるというのだ。会話なんて限られた量しかかわさないのに、それですべての言語を覚えるなんて、どうしてできるのだろうか? 僕は思わず女の子たちと顔を見あって困ったように肩をすくめる。

でも師匠は、「なに。マスターすれば簡単なことだ。お前たちほどの魔力操作ならば、すぐに可能になるであろう。まずはやって覚えることだ。」と、何事もない事のように軽く話すのだった。

正直、この国を転移先に決めたのは僕だけれども、文化について無知識なのはわかり切っていた。それでもここが一番安全だし、師匠は本物の神だから、いざとなればすべて師匠にお任せするつもりだった。ところが、僕達は受験勉強よりもハードな詰め込み教育をしなくてはならなくなってしまったのだった。

でも、初めのうちは僕達は町での生活のあれこれを師匠に頼りきりにならざるを得なかった。

しかし、師匠・魔神フー・フー・ロー様は氷精霊の下級貴族シャー・シャー・ローと氷と泥の国の王の子供であり、この世の者とは思えないほど美しい容姿をしている。白い肌、銀の長髪。まばゆい紫の瞳はただでさえ目立つ。フードを深くかぶり、仮面で顔を覆ってその美貌びぼうを隠すものの、町の者たちと会話しているわずかの間にも、その美しい瞳は女性をとりこにする。また、師匠の甘く低い声には、女性はおろか男性さえも魅了されているように見える。

師匠は宿を取って、馬車と馬を購入するまでにかかった数時間のうちに多くの人間を虜にしてしまっていた。

「わかるか? ジュリアン。

 お前は早急にこの国の言語を覚えねばならん。そうしなければ、俺が表立って行動したことにより、俺と言う足跡は何処までもついて行ってしまうからな。」

宿泊先の宿屋の部屋に入ってから、師匠はそう言って催促した。まぁ、事情が事情なだけに従うしかない。僕らは改めてこの国の言語を覚える必要性を感じていた。

それから師匠は、部屋の窓を開けてミュー・ミュー・レイとローガンを呼び寄せる。二人は疾風しっぷうのように速く、宿屋の3階にある僕達の部屋に飛び込んできた。二人の動きは人間には見切れない。だから、こういう真似ができるのだった。

師匠は、ローガンとミュー・ミュー・レイに通行手形と宝石袋をそれぞれ渡して指示を出す。

「いいか? 

 お前たちは、城塞じょうさいの外に行き、東西に分かれて警戒しろ。そして異変があったら即座に戻って来い。

 毎日、深夜には報告をしに戻って来い。わかったな?」

師匠の言葉にローガンはうなずき、ミュー・ミュー・レイは、嬉しそうに「はい。旦那様」と答えるのだった。水精霊騎士のミュー・ミュー・レイは、元々は僕達を討伐しに追いかけてきた敵だったが、師匠に敗れたのち、ヌー・ラー・ヌーに手込めにされて奴隷の呪いのかかった首輪をつけて隷属どれい契約を結ばれて仲間になった経緯がある。それからというものヌー・ラー・ヌーの愛妾あいしょうのような存在として僕達の旅に同行していた。ただ、本人も魔神フー・フー・ロー様と火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーという自分よりも高位の存在に可愛がられる快楽に逆らえなかったのか、嫌そうな素振りは一度も見せてこなかった。むしろ、時にはヌー・ラー・ヌーに自分から甘えていたことを僕は知っている。

だが・・・。そうは言ってもミュー・ミュー・レイは水精霊騎士。戦士としての誇りは失ってはいない。ただただ、師匠に可愛がられる日々を過ごすよりも戦いに身を置いていたい願望があるのも確かだった。それ故に、今。この時、師匠から周囲を警戒する歩哨ほしょう任務を与えられたことは、とても嬉しかったようで、「はい。旦那様。」と返事をするだけでも、その喜びが態度として出ているのだった。


2人は任務を受けると、再び疾風しっぷうのように速い動きで部屋の外へ飛び出ていった。恐らく、そのまま城の外での警戒任務に就くのだろう。

「あの二人はこれでいい。 さて、お前たち。まずはこの国と城塞都市について説明しておこう。」

師匠はそう言って、開け放たれた窓から王城を指さして説明を始める。

「この国。エネーレス王国は大陸の東の果てにある。東の海はとても広く渡っており、ドラゴニオンとエネーレスの二国が直接交流していくことは不可能だ。従って、お前たちもこの国の事は言語も含めて良くは知るまい。

 まずは、この城塞都市で最も高い位置にあるあの城にはエネーレス王国の王が住む。

 この国の国土はドラゴニオン王国の1.5倍と言ったところで、人口もそれに比例して多い。まぁ、ざっと見て15万人といったところだ。大陸に縦長に伸びたこの国土の西には山脈が重なり、地続きでありながら、隣の国々との交流は徒歩では困難だ。ただし、国土中央に当たる場所には、ぽっかり穴が開いたかのように平地が広がり、そこが陸路における他国との交通の要所となっている。

 国土の北端と南端には港があり、そこでも貿易がある。この国が南北に伸びているのも、これだけ細長い国土を維持できるのも、全ては山脈のおかげだ。上下真ん中に拠点があるこの国は最初は攻めやすいが、後に急に攻めにくくなる。同時に、さほど資源に恵まれていないこともあって、長い間の独立を守れてきたというわけだ。

 この国の者たちは大半が産業に従事じゅうじしているが、先に話したように資源に恵まれていないこともあって、冒険者になるものも多い。要するにお前の祖国が傭兵ようへいの出稼ぎをしたように、この国は冒険者を出稼ぎに出している国と言うわけだ。」

師匠はそれからも長々とこの国の詳細を話してくださったけど、その内容があまりにも幅広かったので、オリヴィアはすぐに居眠りを始めたし、ミレーヌやシズールは思考を停止しているかのように思えた。

それも仕方がない。だって、僕だって魔力をフル活用して話に集中しないといけないレベルの情報量だったからだ。

師匠は何と4時間近くぶっ通しで話し続けてこの国の説明をしてくれたのだった。しかも途中からはこの国の言語をぜながら話してきたのだから、たまったものじゃない。

しかし、その甲斐あって。僕は今日一日で簡単な会話だけならできるようになってしまっていた。


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