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まだ、足りないっ!!

僕はその時、唐突に気が付いてしまった。この目の使い方にっ!

気が付いた以上は試さずにはいられない。僕は師匠・魔神フー・フー・ロー様の寝室に飛び込みお願いをする。

「師匠っ!! 思いついたことがありますっ!

 ぜひ、模擬戦をっ!!」

「模擬戦・・・・・? 今からか?」

師匠は呆れたようにそう言うのだった。


よく見たら、師匠の両隣には眠りこけた全裸の女性が二人もいて、僕は、慌てて部屋を出てドアを閉める。ドキドキしながら部屋の外で深呼吸していると、服を着た師匠が出て来て、僕の頭をゴツンと一発くれる。

「全く、行為の最中でなかったからよかったものの・・・。気をつけろ。」

「いった~~~ぁ・・・・・・。」

僕は頭の痛みでさっき見た裸体を忘れそうになったけど、師匠の愛妾たちは誰もが高位の存在。まさにこの世の者とは思われぬ美しさだったので、忘れようがなかった。

僕が痛みに耐えかねて頭をさすっていると、「では、お前の相手をする女を用意するから、先に外で待て。」と言い残して師匠は歩き去っていった。

一応、稽古を見てくれるようだ。

僕は嬉しくなって一気に城の外へ駆けだすと、準備運動をしながら師匠を待つ。

得意の槍を突き、打ち、払う。その動作を何度となく繰り返していると体がぬくもってきて、肌が汗ばんでくる。そして、僕の額から一筋の汗が流れ落ちてくるころ、師匠がミュー・ミュー・レイを連れて外に出てきた。ミュー・ミュー・レイの手には模擬刀もぎとうが既に握られていて、僕との戦いの準備は出来ているようだった。

師匠は言う。


「ミュー・ミュー・レイが相手だ。ジュリアン。ミュー・ミュー・レイには、お前に勝てれば特別に今晩は追加で夜伽をさせてやると言ってある。それも別室で一人でだ。

 だからミュー・ミュー・レイは、本気だ。

 ジュリアンよ、根性を見せよ。」

師匠の説明が終わるとミュー・ミュー・レイは美しい髪をかきあげながら言う。

「そういうことですわ。ジュリアン。

 貴方あなたには恨みはありませんけれど、フー・フー・ローだんな様のお情けを私一人にいただける滅多にないチャンス。申し訳ありませんが、本気で参りますわっ!!」

そう言って模擬刀を構えるミュー・ミュー・レイからは、殺気がみなぎっている。どうやら相当本気のようだ。ミュー・ミュー・レイが置かれている微妙な立場を思えば、当然と言えば、当然か。

「相手にとって不足はありません。ミュー・ミュー・レイ様。お覚悟をっ!!」

僕がミュー・ミュー・レイの言葉に答えると師匠は右手を上げて「では、始めっ!!」の掛け声とともに手を振り下ろす。

それとほぼ同時にミュー・ミュー・レイがいた場所で破裂音と共に雪が舞い上がる。人間以上の高位の存在らしいダッシュの勢いだ。そして、僕の目は、正確にその動きを未来視している。

初撃を交わす。

その次からの動作が課題だった。僕は複数起こりうる未来を映し出す未来視に混乱して動きが止まってしまっていつもやられていた。だが・・・・。

今の僕はそれを制することが出来るっ!! ミュー・ミュー・レイの追撃をさばき、反撃のカウンター技を放つことが出来る。しかし、敵もさるもの・・・。ミュー・ミュー・レイは巧みな刀捌きで僕の攻撃を捌き、技を返す。

そうやってお互いの技のやり取りを交わすこと数十ごう、ついに僕の槍がミュー・ミュー・レイの首元に届くっ!! (※ごうとは、文字通り互いの攻撃が撃ち重なり合う事。打ち重なる技の数は前の数字によって決まる。古武術の用語)


だが、僕の槍はミュー・ミュー・レイの首に当たる前に師匠の手によって阻まれる。いつの間にか見ていた師匠がその場から飛び、僕の槍をガシッと掴んで止めたのだった。

「・・・・ふむ。悪くないな・・・・。」

師匠はそう言うと、僕の頭を撫でて「よくやった。この勝負、これまでだ。」と、宣言する。

「やったー--っ!!」

僕が有頂天になってはしゃぎまわっている背後でミュー・ミュー・レイが抗議していた。

「勝負は未だついていませんっ!!」

「これが模擬刀でなければ、私の勝ちでしたっ!!」

「私は負けていませんっ!!」

「お願いですっ!! 旦那様っ!! 私に名誉挽回の機会をっ!!」

しかし、師匠は取り合わなかった。ただ、「よい。お前に正しい武器を与えていないのだから、お前は負けたわけではないのだ。ただ、私はジュリアンの成長が見れただけでよいのだ。」と言って慰め、その後に「頑張ってくれたお前にもご褒美を上げるとしよう・・・。」と言って、ミュー・ミュー・レイをお姫様抱っこして城の中へ連れ去る。

それでもミュー・ミュー・レイはしばらくの間は、

「いやですっ!! 私も精霊騎士ですっ!! 戦う者として、負けたくありませんっ!!

 お願いですっ! もう一番、勝負をっ!!」

と言って師匠にお姫様抱っこされながらバタバタ暴れていたけれども、そのうち駄々をこねるミュー・ミュー・レイは師匠の唇に口をふさがれて急に静かになってしまった。僕は去り行く師匠のその背中に、マリア・ガーンを連れ去っていく父上の姿を思い出す。

「やっぱり、師匠は僕の父上に似てるなぁ・・・」

僕はどこか懐かしいものを見たように感慨深く呟くのだった。


師匠を見送った後、僕は戦った自分の足元を見た。そこには、氷獣が氷の蛇と戦った時のように何十もの足跡が残されていた。

僕は氷獣が戦う姿を見て悟ったんだ。彼は蛇の動きに合わせて動いていたわけじゃないことに。

彼は蛇の動きを予測して先に動いていたんだ。その場にじっとしていると、それこそ何十通りの未来が存在してしまう。でも、未来視をして常に先に動くことでその先に起こりうる未来の数を絞ることが出来る。未来の選択肢の数が絞られたら、選択も容易になるので混乱による硬直も起きない。

それを可能にするのは理性ではなく、野生の勘だ。かつて偉大な武術家は言った。「考えるな。感じるんだ。」と。僕が置かれた状況もそれに近い。考える前に感じて、同時に感じたことを察して動く。一瞬の硬直も許されない動きが要求されていた。

そして、僕のその動きに合わせて敵も動くから、また未来も変化して数が絞られていく。だから、未来視の選択が容易になって行くわけだ。そうやって敵の攻撃を予測行動する精度を上げながら敵の攻撃の手札を絞らせて追い込んでいくんだ。

未来視して先手先手を取って敵の攻撃を誘導して追い詰めていく戦法は、理論上はボクシングのカウンター技の理論に似ているが、そちらが経験と脳内予測だけであるのに対して、未来視は確実に起こりうることを狙っているので精度が高い。しかも、僕は幼いころからドラゴニオン流の戦闘術を叩き込まれていて戦闘経験は豊富。そういう経験によって練り上げられた脳内予測があるから、感じると同時に察することが出来るんだ。僕のこれまでの生き方が僕の戦闘力を底上げしてくれていることを感じる。


ただし、それでも師匠のように圧倒的に能力に勝るものが相手だった場合、全く通用しない。僕の槍の一突きは、あっさりと掴み止められてしまったんだからね。

だから、師匠は僕と魔神ガーン・ガーン・ラー様が次に戦ったら、万に一つも勝ち目が無いと言ったのだろう。

それを考えると頭が痛い。魔力操作が上達した僕は、先ほどの戦いでは魔力を目にだけ集中させたわけではなく、ミュー・ミュー・レイの速度に対応できるように足腰にも相当の魔力を振り分けていたのだ。それでも、今は、疲労で膝がガクガクだ。ミュー・ミュー・レイは再戦を望んだけど、2Rラウンド目は、僕は動けなかっただろうなぁ・・・・。

「ああ・・・。もっともっと、強くならないと・・・・。」

僕は雪の大地に大の字になって倒れ込んで、燃えるように熱くなった筋肉を冷やすのだった・・・。


翌日からの稽古は更に苛烈を極めた。

どうも師匠の愛妾たちにミュー・ミュー・レイの敗北の噂がたってしまったらしい。僕と戦った時のミュー・ミュー・レイには、いささかの油断があった。僕がそんなに急成長するとは夢にも思ってなかっただろうからね。しかし、その失態を聞いた他の愛妾たちには、もう、その油断はない。ミュー・ミュー・レイと同じてつは踏まぬと精霊騎士として全力で僕に向かってきた。

魔力を込めて身体能力を強化した精霊騎士が本気となれば、いくら未来視を十分に発揮できるようになった僕と言えど、そうそう勝てるものではない。それでも10番に3度は勝てるようにはなった。師匠は、「実戦では一番の負けも即死に変わる。成績にこだわるな。すべて勝たなくては意味がないっ!!」と、厳しく檄を飛ばされるものの・・・相手は歴戦の勇士たち。結局、旅立つその日まで、僕の模擬戦の成績はこれ以上、上がることが無かった。

「ジュリアン。お前の成長は見事だが、お前にはそれ以上が求められている。

 ただ、このままいつまでもここにいるわけにはいかぬ。予定通り出発するぞ!!」

師匠は、僕が完全に成長する前に旅立つことを宣言するのだった。

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