思いついちゃったよっ!!
「お前が今後戦っていく相手は、精霊のような高位の存在となる。
だから、模擬戦闘を行い、生き残る強さを身につけてもらわねば困るのだ。」
師匠がそう説明した厳しい訓練が始まった。
師匠は模擬戦まず第一戦目の相手に愛妾の一人、風の精霊騎士リュー・リュー・ルーンを指名した。
そして、僕は成す術もなく、あっという間に倒されてしまった。
魔力を帯びた僕の目をもってしても、彼女の動きを予測できなかったのだ。いや、正確に言うと最初の一撃までは予測できた。しかし、その追撃になると様々な未来の可能性が同時に僕の目に映り、僕は戸惑ってしまって身動きできずに固まり、その隙にやられてしまうのだ。
固まると言っても実際の停滞時間は0.0001秒くらい何じゃないだろうかと思えるほど、一瞬の出来事だ。だが、精霊騎士と言う異界の高位存在はその間の時間すら隙になってしまうようだ。僕は、何度も彼女の模擬刀で打ちのめされて、何度もオリヴィアに回復してもらいながら立ち上がるも、その内にとうとう師匠から「今日はここまでっ!!」と打ち止めされてしまう。
「お前の治癒を施しているだけでオリヴィアのレベルがグングン上がりそうだな。」
師匠は愉快そうに笑うけど、実際その通りだった。オリヴィアだけじゃない。ミレーヌもシズールも僕に治癒を施してくれたから、回復魔法の技量は上がっているだろう。リュー・リュー・ルーンが持っていた模擬刀は、入り大トカゲの脂身を絞って作られた油を利用して作られた地球のプラスティックに似た物質で作られていたのだが、そんな軽いもので殴られても体の芯まで響いてしまう。これが真剣だったのならば、音もたてずに僕の胴体は切り落とされていただろう。そう思うとゾッとする・・・。
「ガーン・ガーン・ラーとの戦いは単純だった。ガーン・ガーン・ラーはお前相手に魔力も使わずに自身の身体能力だけで戦った上に、お前の安い挑発に乗せられて短気な攻撃を仕掛けてしまった。
しかも、初激で髪の毛先を地に触れさせるという失態を犯した。お前の作戦は流石と言わざるを得ない、そのおかげでお前は生き残れた。
ただし、敵には最早、お前の挑発戦法は伝わっていることと思う。もはや敵の中にお前の挑発に乗るものはいまい。つまり、お前はこれから真っ当な勝負で敵と戦わねばならん。故に私は、私の女たちにお前の挑発に乗らぬように命じてあるのだ。」
師匠は、疲れ切ってしまって地面に座り込んだ僕の頭をグリグリ撫でながら「あと数日で結果を出せ。頑張れよ。」と励ましてから、オリヴィア達にも稽古をつける。オリヴィア達も精霊騎士と模擬戦を行うが、こちらはオリヴィア、ミレーヌ、シズールの3人一組に対して精霊騎士一人と言う模擬戦闘だった。3人娘はあくまでも戦闘補助要員なので、僕のサポートをできる能力を鍛えさせるのが目的だった。僕は、3人の成長を見守りながら、師匠が撫でてくれた頭の感触の余韻に浸っていた。
3人娘がボロボロになったところで、今日の実戦稽古は終了して、僕らは次に背骨に刻まれた神文の魔法を使いこなす訓練に移る。
「4人とも実戦稽古ですっかり心身ともに疲れ切っているだろう。筋力の低下は集中力の低下につながり、集中力の低下は精神力の疲労を意味する。
その疲れ切った状態でどこまで魔力を引き出せるか訓練するんだ。」
師匠に与えられた課題の元、僕らは、魔法を駆使してさらなる成長を目指す。ただ、魔力効率がよすぎて自身の生命力さえ削ってしまうオリヴィアに関して言えば、そうなる前に留めながらの魔力操作を学ばないといけない。僕達よりもより高度な魔力操作が要求されるので、より厳しい訓練となる。
それでも数日の稽古で僕らの能力は飛躍的に上昇したと師匠に認められて、背骨の神文も一つ上のレベルの魔法が使えるように強化された。
「お前たちが新たに得た神文はこれまでよりも一つ上のランクの氷魔法を詠唱もなく発動させられるものだ。どれだけの魔法が使えるのかは、説明する必要はない。前回同様、お前たちの背骨が知っている。だから、訓練を通してお前たちの体に聞け。
ただし、断っておくが、神文は魔法発動の手間を省くものであって、お前たちの魔力を消費することに変わりない。大きな魔法は身を亡ぼすと心得よ。」
師匠は僕達に神文のレベルアップを施した後、オリヴィアに向かっていう。
「ジュリアンを見習え。こいつは小さな魔法を巧みに駆使して精霊騎士を殺しせしめた。魔法は道具だ。道具を如何に使いこなすかが優れた職人の腕の見せ所と同じように、高位魔法に頼らずに使いこなすことを目的とした稽古を心掛けよ。」
皆、神妙な顔で師匠の説明を聞いた。
魔法の使いこなし方はおほめ頂いた僕だったけれど、目の使いかたが今一つ成長できぬまま稽古日数だけが増えていく。毎日毎日、師匠の愛妾たちにボコボコにやられる僕。それも自分を好いてくれている女の子たちの前で。これは結構なダメージだよ。自分が好きな女の子の前でボコボコにされるほどの屈辱があるだろうか? 本当に耐えがたいものだ。
それに僕達には時間的余裕はないのだから、いつまでもこのままではいかない。僕は早急にこの目を使いこなす必要があったのだった。
こうなれば、アドバイスが欲しいところだが、師匠は相変わらず多くを語ってはくれない。しからば、目のことは、ローガンに尋ねるのがいいかもしれない。
疾風のローガン。風と月の国の淑女ハー・ハー・シーに看破の右目を授かった英雄。
その右眼はその者の魂の在り方を見破る。
幻術や邪眼を打ち破る退魔の目と呼ばれていて、勇者アルファを数多くの魔法使いの罠から守ってきたと伝え聞く。
彼ほどの目の持ち主ならば、何かアドバイスを貰えないだろうかと尋ねてみるものの、「はて。私はそのような現象が起こったことがありませぬ。」などと惚けたことを言い、終いめには、「目以外のところに問題あるのやもしれませぬな。」などとのたまうのだった・・・・。
ああっ!! なんで僕の周りには凡人にもわかりやすく教えることが出来る先生がいないのだろうかっ!! 大体あれですよ、天才肌の人って何でも直感的にできちゃうから、凡人が出来ない理由がそもそもわからない人が多い。彼らは凡人から「これが出来ません。どうしたらいいですか?」と言われても「なんでこれぐらいの事ができないんだ?」くらいにしか思っていない。だから献身的な指導が出来ないんだ。悪気があるのではなくて、本当に凡人を理解できないんだ。
ああっ!! どっかにたたき上げの凡人戦士はいないものかっ!? そして、僕に目の秘密を教えておくれっ!!
僕が苦々しい思いをしながら、外を歩いていると雪の中で氷獣が氷の蛇と格闘をしていた。まぁ、きっと獲物を見つけた氷獣が遊んでいるだけなんだろうけど・・・・。まぁ、氷獣も氷の蛇もサイズが凄いから迫力がある。しかも、俊敏だ。ただ、氷獣は氷の蛇の嚙みつきを距離を取って巧みにかわすのが不思議だった。どうしてあんなクネクネと動く蛇の動きを予測できるんだろうか?
僕は疑問に思って氷獣の動きをよくよく観察したけれど、その内に氷獣がパンチ一撃で氷の蛇を叩き殺して、門の方へ引き摺っていった・・・きっと、飼い主である扉の二人に見せて褒めてもらうつもりなんだろう・・・・・。
それにしても・・・・。僕は氷獣が戦っていた場所の足跡の多さに驚かされる。氷獣はこんなにも激しく動き回っていたのかと。昔、動物番組で猫が蛇を取っているときは、なんか猫パンチの速さに蛇が付いて来れてなかったって印象だったけれど、氷獣はパンチよりも動きの速さで戦っている感じだったなぁ・・・・・。
いや・・・。待てよ?
僕はその時、唐突に気が付いてしまった。この目の使い方にっ!
気が付いた以上は試さずにはいられない。僕は師匠・魔神フー・フー・ロー様の寝室に飛び込みお願いをする。
「師匠っ!! 思いついたことがありますっ!
ぜひ、模擬戦をっ!!」
「模擬戦・・・・・? 今からか?」
師匠は呆れたようにそう言うのだった。




