人形じゃないよっ!!
「お前も他人ごとではないからな。
オリヴィアにミレーヌにシズールにアーリーに・・・・・加えて魔神ガーン・ガーン・ラーだ。
間違いない。お前には俺と同じ女難の相がある。」
いや・・・・怖いこと言わないでくださいよ、師匠。
「にしても・・・・・。魔神ガーン・ガーン・ラー様が女だったとは思いませんでした。」
僕は掌に残るプニ乳の感触を反芻しながら師匠・魔神フー・フー・ロー様にガーン・ガーン・ラー様の性別について尋ねる。確かに薄い体をした美しい神だったけど、言葉遣いからてっきり、男神だったと思ってた。
でも、師匠は首を振って答える。
「見た目に騙されてはいかん。
美しいものがその魂まで美しいとは限らぬように、見た目が美しいからと言って女神とは限らぬ。
同時に、体感を信じてはいけない。
確かに可愛らしい乳房だったが、女神とは限らんぞ? アーリーのように両方を自由に変えられるかもしれんからな。」
え・・・。それって、つまり両性具有ってことですか?・・・・・。
「あいつがどちらかなんかどうでもいい。
しかし、あの反応を見る限り、男らしいわりに乙女のようだな。間違いなく処女の反応だ。」
確かに・・・。アーリーやヌー・ラー・ヌーだったら、あそこで怒ったりはしないだろう。きっと逆に挑発してくる。
あの反応は、クリスティーナやオリヴィアと全く同じだった。あれは処女なんだろうなぁ・・・・。
「気をつけろ?
美しい華には棘があるもの。あれは根に持つタイプだぞ。
まぁ、アイツが次にお前の前に現れると思ったら、その直感を信じて迷わず逃げろ。実際に出会わなくても構わん。アイツが来ると感じたら逃げろ。もし、仮にあいつとお前が次に出会ったら、万に一つもお前に生き残る可能性はないと思え。」
師匠は僕にそう忠告すると、親指を自分自身に向けて「あれは、俺が殺す。お前は心配するな。」と、言ってくれた。
それから僕らは師匠の氷の城に入ってしばしの休息を取る。
各自の部屋を与えられたが、どうにも一人は落ち着かない。魔神ガーン・ガーン・ラー様の殺気の毒気にやられて失神してしまったシズールの様子も気になる。
僕は、師匠にシズールの部屋を聞きたかったけど、師匠は多くの美女に囲まれてそれどころではない。
声をかけようにも、お邪魔して彼女たちの恨みを買うことの方が怖い。そう思って尻込みしていたら、アーリーが僕に近づいてきてくれて、シズールの部屋を案内してくれるという。
「こちらです。ジュリアン様・・・・。」
アーリーはそう言って、僕の手を引いてくれるのだった・・・・。
前にも僕をアーリーは、師匠の隠れ家の中を案内してくれた。でも、あの時は、別に手を引いてくれたわけではなかったので、僕は少し、違和感を覚えつつも、感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、アーリー。助かるよ。」
「いえ・・・。」
その時、僕はアーリーの耳が真っ赤になっていることに気が付いた。アーリーはホムンクルスだから、感情の変化には限界があるが、きっと、この眠たげな眼の奥底には、この真っ赤な耳と同じくらい僕を思って熱くなっているのだろう。
・・・・・・・僕もそこまで鈍感じゃない。師匠が女難の相の中に、きっちりアーリーの名前もあったことを考えても、きっと、僕の予感は外れていないだろう。僕の掌の中の小さなホムンクルスの手は、僕を思って握ってくれているのだろう。
それがどのような感情かは、僕が考えている以上に複雑だったけどね・・・・。その複雑さは、城の中を歩きながら話してくれたアーリーから教えてもらった。
シズールの部屋に行く途中に不意にアーリーが言ったんだ。
「ジュリアン様。・・・・今さらですが、ありがとうございます。」
「・・・・ありがとう? なにが?」
アーリーの唐突の感謝の言葉に僕は理解が追い付かずに尋ねた。アーリーは、僕を見つめながら微笑んで説明してくれた。
「ジュリアン様。私はフー・フー・ロー様から、子供たちを救うことを許可されましたけれども、私はホムンクルス。そのような力はないのです。
しかし、リューさんの娘さんを救うとジュリアン様が仰ったときに、私はそれが果たせると思ったのです。だから、付いていきました。何の力もないのに・・・・。
なのにジュリアン様は、私を追い払うこともなく、また、所詮ホムンクルスのたわごとだと、一蹴することもなく、私の話を聞いてくださいました。耳を傾け、参考にしてくださいました。
そして、見事、リューさんの娘、リンを救い出したのです。
あの時の貴方は、物語に出てくる王子様のように素敵でした・・・・・。」
アーリーは、ホムンクルスだから、その体に涙を流す機能はない。それでも、その震える声から、彼女がどれほど感動しているのかは、誰でも容易に察することが出来ただろう・・・・。
そして、続けてアーリーは告白する。
「ジュリアン様。
ホムンクルスの戯言とお聞きください。
ジュリアン様・・・。私の王子様。貴方様をお慕い申し上げています。
私はホムンクルスゆえに女性としての幸せは求めません。
ですが・・・。ですが、どうか・・・・お願いします。おそばでお仕えするお許しをください・・・・。お願いします・・・。」
足を止めて、ジッと僕を見つめてそう告白するアーリー。僕はその告白をホムンクルスの告白だなんて思うことなんかできないよ。だって、僕は知っている。
彼女がどれほど美しい魂を持った女性であるか。それは、リンを救出するときに知った。思い知った。
ホムンクルス故に行動に制限があり、人間のいう事に逆らえないロボットのような彼女だが、人間と同じように貴い魂があるんだ。だから、僕は彼女の全てを受け入れることにした。
むげに断るなんて出来ないよ。
「アーリー。美しいホムンクルスよ。
君の言葉を受け取ろう。君はホムンクルスだから、普通の女性と同じ幸せは求めないだろう。そういったものを幸せに感じられるように作られることはないんだろうからね。
だから、君の望むままを。・・・・ホムンクルスにとっての第一の幸せである形として、僕に仕えてくれ。」
僕はアーリーを抱きしめながら言った。
アーリーはしばらく身を震わせながら感動していたけど、最後には僕のほっぺにキスをしてから悪戯っぽく笑って囁いた。
「それでは・・・・今晩から、しっかりお仕えいたしますね。ジュリアン様っ!!」
って!!
・・・・そそそそそ、それって!! 僕、大人の階段上っちゃうの~~~っ!!?
セクサロイドとして作られたホムンクルスのアーリーの魅惑的な申し出に僕はドキドキしちゃったのだけれど、そこは思春期の男の子だから許してっ!!
女の子の誘惑に耐性が無いだけなんだっ!! 決して、オリヴィアとクリスへの愛情を裏切るような真似はしないからねっ!!
でも僕は、心の中で抵抗しながらも、アーリーに「大丈夫です。私はホムンクルス。私と契りを交わしても、浮気には成りませんよ・・・。だって、人形じゃないですか?」と誘惑されてちょっと揺らいでしまうのだった。
さて・・・。そんなこんなを経てから、僕はアーリーにシズールの部屋を案内してもらった。
部屋は僕の部屋からそんなに離れていなかったけれど、アーリーは僕と話をするために随分と遠回りをしたので、シズールの部屋に僕が付いたとき、既にシズールはオリヴィアの治療を受けて元気になっていたのだった。
しかも、部屋にはオリヴィア以外にミレーヌもいたので、ちょっとした修羅場になった。
「ああああ~~~~~~~~っ!! て、・・・・ててててて、手を繋いでるぅ~~~~っ!!!」
目ざとく、女子全員が僕とアーリーが手を繋いでいるのを見つけて絶叫する。
「お、おおお、お前っ!! 俺の事好きって言ったくせにっ!!
よりにもよってこんなオッパイの大きい女にうつつ抜かしやがって~~~っ!!
も、もうっ!! キスしてやんないんだからなっ!! バカ~~っ!!」
オリヴィアは僕を責めながらも僕とアーリーの間に割って入って、グイグイとアーリーを押しどけて、僕に抱き着き、猛牽制する。これが女の勘か・・・。僕とアーリーは手を繋いでいただけなのに、結構な危機的状況とオリヴィアは判断したらしい。
うんうん。言葉遣いは前世の頃のように口汚くなっていても、その魂はすっかり女の子だね。オリヴィア、可愛いよ。
なんて考えている余裕は実はなかったりする。
だて、アーリーはオリヴィアに対して、決して譲らなかったからだ。
「大丈夫です。オリヴィア。私は完全なホムンクルスです。私とジュリアン様がエッチしても浮気には成りませんよ。むしろ、男性としてのテクニックが上がりますからね。安心して、私にお任せください。」
そう言って、逆にオリヴィアを押しどけようとする。
「あんっ!! ちょ、ちょっと、おまっ・・・・。
何押しどけようとしてる・・・・ん・・・・意外と、力強いっ!!!」
オリヴィアをアーリーが押し合いしていると、ミレーヌとシズールも割り込んでくる。
「わ、わわわ、私は二番目でいいんですからっ!! 側にいても問題ないはずですっ!!」
「私、オッパイ大きい安産型。お前たちと違って一杯子供産む。ジュリアン様、幸せ。お前ら遠慮しろっ」
部屋の中で女子が僕を取り合って、言い争っている。
ここは地獄か・・・・。
ああ。そうか、これが僕の神。魔神フー・フー・ロー様が預言した女難の相か・・・・・。




