感動の再会だよっ!!
「魔神ガーン・ガーン・ラーよ。次に会う時は一騎打ちだ。
俺のジュリアンの命を狙うならば、必ず貴様を殺して見せよう・・・・。」
師匠は、転移した先で虚空を見つめながら、そう誓いの言葉を呟くのだった。
それから僕の方を振り返り、
「面白い投げ技だったな。あれはドラゴニオン王国の武術ではあるまい?
どこで覚えた?
前世の記憶か・・・・?」
僕はコクリと頷いた。
・・・・頷いただけで説明はしない。
だって、恥ずかしくてできないからっ!!
前世で虐めを受けていた時、本屋で読んだ古武術の本や格闘技雑誌の知識を使って、いじめっ子に復讐する妄想をして自分を慰めていた過去なんて・・・・言えないよ。
いや、でもマジで・・・・。それぐらいしか救いが無いのよ。
ある日突然、超能力に目覚めて虐めてた奴らに復讐を果たすとか、格闘技を覚えていじめっ子たちをギャフンといわせるアニメみたいな展開でも妄想をしてないと心が耐えられなかったんだ・・・・。まぁ、結局、耐えられなくなって自殺しちゃったわけだし・・・・。本当に妄想以外に僕を救ってくれるものが無かったんだ・・・・。
しかし、まさか、あの頃の記憶がこんな形で役に立つなんて、あの頃は考えもしなかったけどね・・・・。今の僕は父上に格闘バックボーンとしてドラゴニオン流体術を徹底的に刷り込まれ、戦闘経験値もかなりあるから、あの頃の記憶を再現できるんだけどね・・・・。
そうだなぁ・・・落ち着いたら前世の格闘技術と今生の武術を足し合わせた新たな格闘流派を立てるのも悪くないかもね。
師匠は、僕が魔神ガーン・ガーン・ラー様相手に見せた格闘術が前世由来のものと知って満足そうに笑った。
「それは面白いな。
叶うものなら、いつか俺もその世界に行って、その世界の戦士と手合わせしてみたいものよ。
強者との命のやり取りは闘神の性だからな。」
とんでもないっす。師匠、貴方が地球に行ったら総合格闘技のチャンピオンだろうと一方的に虐殺するだけになってしまいますよ・・・・・。と。
それにしても・・・・・。僕は周囲を見回して師匠に問いかける。
「師匠・・・・。ここはどこですか?」
僕達は、比較的小さめだが荘厳な造りの城の前に立っていた。
それはとても美しい氷でできた城だった。
四方には氷の城壁が高く張り巡らされ、容易には攻め込めない。しかも、僕達のいる場所から50メートル向こうは猛吹雪が吹いていて、敵がこの城に近づくことは。至難の業と思われる。
外堀の幅は20メートルはありそうで、堀の中には、大蛇を思わせるサイズの魚影がゆらゆら泳いでいるのが確認できる。きっと、この外堀の近くに入ってきた外敵を撃退するための番犬的な何かだろう。
城門は、巨大で高さ8メートル、幅6メートルはありそうな氷の結晶で出来た門扉がはまっている。そしてその氷の門扉には美しい2体の女騎士が剣と槍を構えている彫刻が施されていて、とても目を引いた。しかも、そのその門扉の美女の彫像は、師匠が右手を上げると、門扉から這い出て来て師匠に挨拶するのだった。
「おかえりなさいませ。お館様。」
「御戻りを歓迎いたしますわ。若君。」
身長4メートルはありそうな2人の氷の美女は、師匠・魔神フー・フー・ロー様の前で跪いて、恭しく挨拶をする。
師匠は、二人に「門番御苦労・・・・。」と言ってねぎらうと、僕に向かって説明してくれた。
「ここは我が氷の城。
難攻不落の要塞にして、探索不能の不知の城。
ほとぼりが冷めるまで、ひとまずは、ここに隠れよう。」
師匠はそう言うと、空中に神文を描いて、いつぞやの隠れ家から氷獣を召喚する。
召喚された氷獣は、姿を見せるなり、二人の美女に飛びついて甘えた。ゴロゴロと喉を鳴らすあたり・・・・。どうやら氷獣の直接の飼い主はこの二人らしい。
しかし、氷獣と二人の美女がモフモフして楽しんでいる姿を僕達が微笑ましく見ている陰で、体を震わせて感動している人がいた・・・・。
火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーだった・・・・。
「こ、・・・ここがっ!! フー・フー・ロー様の氷のお城っ!!
では、・・・・では、ここにレー・ラー・ヌーがいるのですねっ!!?」
感極まって涙をこぼし、地面に座り込んでしまうヌー・ラー・ヌー。
一体、何事が起きたのか理解できずに慌てる僕達にミュー・ミュー・レイが教えてくれた。
「レー・ラー・ヌーは、お姉様のお嬢様だ。」
・・・・・!!!
そうだっ!! 確か、オリヴィアの話では、僕が災いの神ドゥルゲットの呪いを受けて眠り続けていた時に、その呪いを解くために師匠とオリヴィアと疾風のローガンとで、ヌー・ラー・ヌーの屋敷に向かったという。その時のヌー・ラー・ヌーは、自分の娘をかどわかして、氷の城に監禁した事を怒っていて、オリヴィアが出会ったばかりの時のヌー・ラー・ヌーは、酷く師匠・魔神フー・フー・ロー様のことを嫌っていたんだった。最近は、すっかり手込めにされて毎晩、甘い声を上げているから忘れていたよっ!!
そうだった・・・・師匠は、ヌー・ラー・ヌーの娘さんを手込めにした、結構悪い人だった。もとい、神だった。
師匠は泣き崩れるヌー・ラー・ヌーの手を取って優しく立ち上がらせると、右の親指をパチンとスナップで鳴らす。すると、門扉が開いて中から、とびきり美しい・・・・・・少女が現れた。
「お母さまぁ~~~っ!!」
「ああっ!! レー・ラー・ヌーっ!!」
感動の再会だった。二人はお互いの姿を確認すると、わき目もふらずに駆け出して抱きついた。
離れ離れになった母と娘の感動の再会だった。お互いに泣き声を上げて抱擁する姿に誰もが感動する・・・・・・。
感動する・・・・ハズの場面だったが、僕らはドン引きだった・・・・。
何故なら、レー・ラー・ヌーは、まだ10歳に満たない少女の姿をしていたからだっ!!
小学3~4年生と言ったところだろうか?
いやいやいやいやいやいやっ!!
そりゃ、ヌー・ラー・ヌーも怒るわっ!!
こんな小さな女の子を手込めにするとはっ!! 師匠っ!! 貴方、ロリコンですかっ!!?
「こ・・・。こんな幼い子を手込めにしたんですか?
師匠、アナタ・・・・・。」
僕が流石に冷たい目で師匠を睨みつけると、師匠は事の真相を語りだした。
「当時のヌー・ラー・ヌーは、火の国の王と対立して国を出ようとしていた。
そんなことをすれば、当事者のヌー・ラー・ヌーはおろか、娘のレー・ラー・ヌーまでタダでは済まないことがわかっていたので、私が言葉巧みに誘惑してこの城へ連れ去った・・・・・・と言うわけだ。
それから誤解するなよ。あんなナリだが、レー・ラー・ヌーは既に300年生きている。」
「・・・・・300年っ!!」
はぁ~・・・・精霊って、タイムスケールが人間と違いすぎるんだなぁ・・・。どう見ても8歳前後なのに、300歳か・・・・。
僕は精霊の寿命の長さに驚いた。そして、同時に師匠の取り計らいに感服する。
「・・・・師匠は、レー・ラー・ヌーを救うために拐しの汚名を受けてもレー・ラー・ヌーを攫ったのですね。」
「まぁな。だが、この城に入れるために私の妻にする誓いを立ててしまった。まぁ、ヌー・ラー・ヌーに似て美しい女に成長するだろう。その時が楽しみだ。」
師匠・・・・。
そして、師匠がその話をしている正にその最中に、ヌー・ラー・ヌーとレー・ラー・ヌーが師匠のお嫁さんの位置を争って口論を始める。
「フー・フー・ロー様の奥様は私だもんっ!! お母さまは、あとから来たんだから、駄目だもんっ!!」
「子供が何を言ってるのっ!! フー・フー・ロー様は、もうお母さまとただならぬ関係になっているのですっ!! 娘とは言え。邪魔は許しませんよっ!!」
・・・・地獄か、ここは。
少女と母親が同じ男を取り合って口論するなんて光景、地獄以外の何物だろうか?
しかも、その喧嘩に門扉の美女二人も加わる。
「わ、私たちは、フー・フー・ロー様の第一の女。横取りはおやめくださいっ!!」
「そうですわっ!! 私たちは、フー・フー・ロー様の良き愛人。横取りはおやめくださいっ!!」
「なんですってっ!? 門扉の分際でっ!!」
「お姉ちゃんたちは黙っててよっ!! お城の中のお姉ちゃんたちに加えて貴方たちまで、口をはさむなんてっ!! これ以上ややこしくしないでっ!!」
お城の中の・・・・お姉ちゃんたち?
僕はその言葉にゾッとする予感を受けたが、その予感は見事に的中する。
なんと、ヌー・ラー・ヌーたちの喧騒を聞きつけたのか、城の中から、淑女からボーイッシュな美少女まで・・・・・ありとあらゆる美女を集めたのかと言いたくなるほどの美人たちがわらわらと飛び出て来て、喧嘩に加わるのだった。
「いや・・・。あれだ。
全員、不遇な環境にあった者たちでな。命をすくったら、こうなってしまってな。
愛妾が多くなって・・・・いや、実際、困っておる。」
師匠は、ご自身の恋人たちが口論する地獄のような光景に顔をしかめてそう言うのだった。
同時に、僕に向かっても言う。
「お前も他人ごとではないからな。
オリヴィアにミレーヌにシズールにアーリーに・・・・・加えて魔神ガーン・ガーン・ラーだ。
間違いない。お前には俺と同じ女難の相がある。」
いや・・・・怖いこと言わないでくださいよ、師匠。




