一騎打ちするよっ!!
僕達のいる林の外ですさまじい破裂音がなったと同時に魔神ガーン・ガーン・ラー様は僕達の目の前に現れたのだった・・・・。
「よぉっ! お尋ね者の魔神フー・フー・ローっ!
会いたかったぜぇ~・・・・・。
さぁっ!! 殺しあおうっ!!」
魔神ガーン・ガーン・ラー様は、そう言って不敵に笑うのだった。
魔神ガーン・ガーン・ラー様。月と雨の国の王がまだ魔神だったころに女神マルティス様を襲って孕ませた子だ。故に生まれながらに魔神としての位を授かっている。
女神マルティス様は、その名前から察するようにまだ人間に近く神としての位はかなり低いが太古には世界を滅亡から救った勇者の配下として活躍したと聞く。見目麗しい女神でその美しい容姿は、間違いなく魔神ガーン・ガーン・ラー様にも受け継がれている。
金色のように黄色の長髪はポニーテイルにアップされた上に編み込まれている。にもかかわらず腰元まで伸びていた。その毛先の先まで艶めいている。海のように青く透き通った瞳は心を和らげる効果でもあるのか、見る者を惹きつけ癒す。細く整った鼻筋に、ルビーのように紅い小さな唇。
細くしなやかな体つきは、色気に満ちていて、僕は思わず生唾を飲み込んだ。
そんな僕の視線に気が付いた魔神ガーン・ガーン・ラー様は、僕を軽蔑するかのような目で見てから言う。
「貴様がドラゴニオン王国第一王子のジュリアンか。噂通り美しい少年だな。
だが、一切の慈悲なく私はお前をこの場で殺す。」
その言葉にその場にいた全員が強張り、戦闘体勢を整える。
だが、魔神ガーン・ガーン・ラー様は、そんな僕達のことなど意に介さないようだった。
「よい。お前たちの無礼。今なら許そう。
私の目当てはフー・フー・ローとジュリアンのみだ。
フー・フー・ローには異界の王から懸賞がかけられ、殺せば素晴らしい宝物が約束されているし、ジュリアンは災いの神ドゥルゲットとの契約で殺さねばならん。
だが、他の者たちまで、私は殺さぬ。
もう一度言う。今ならお前たちの無礼を許す。ジュリアンとフー・フー・ローを殺すのを邪魔しない限り、私はお前たちを見逃そう。
ただし、もし、それに逆らうというなら、容赦なく殺すぞ。」
魔神ガーン・ガーン・ラー様は、美しい顔にとても柔和な笑みを浮かべて僕達を見つめて言うのだった。その声はとても透き通った高音で聞く者たちの心を魅了したが、それとは裏腹にすさまじい殺気を帯びていた。美しい容姿から発せられる殺気は、異様な色気を帯びていてその姿は人間はおろか、精霊貴族のヌー・ラー・ヌーさえも震え上がらせた。
その美しさと殺気に僕は気圧されながらも、一歩前に進み出て魔神ガーン・ガーン・ラー様に問う。
「神よ! 今のお言葉に二言はないかっ!!」
魔神ガーン・ガーン・ラー様は黙って頷いた。
「再び問う。神よっ!! 僕の命を狙うならば、どうしてオリヴィアは見逃していただけるのですかっ!!」
「私は女は殺さぬ。」
僕の質問に魔神ガーン・ガーン・ラー様は迷いなく答えた。
そこで僕は、一瞬の間も置かずに宣言する。
「それでは神よっ!!
僕と一騎打ちを所望するっ!!」
僕の言葉を聞いた魔神ガーン・ガーン・ラー様は、鳩が豆鉄砲を食ったような目で僕を一瞬、見てから、あきれ返ったような声で尋ねる。
「お前はバカか?」
「僕、バカじゃないよっ!!」と、一瞬、言い返してやりたくなったが、ここは敢えて沈黙をして、その美しい目を見据える。
神を見据えるその視線から魔神ガーン・ガーン・ラー様は、僕の覚悟を感じ取り、決闘を快諾する。
「何やら策があるか・・・・・。
ならば、この一騎打ち、受けてたとう!!」
その返事を受けて、僕は右手を上げて「では・・・・」と、皆に下がるように合図する。皆、僕の指示通りに僕から離れる。
その様子にガーン・ガーン・ラー様は、
「見事だ。ジュリアン王子よ。お前の部下は全員、お前のことを信じ切っているらしい。
誰一人としてお前が破れることを考えてはおらぬ素振りで、お前の命令を忠実に守っている・・・・。これほどの信頼を受けれる者は中々いない。見事なものだ。」とほめてくださった。
確かにみんな僕を信頼してくれている。しかし、相手は神だ。普通に考えれば、僕が勝てる要素はない。皆が期待してくれているのは僕の奇策だ。そして、もちろん、僕はそれを用意している。
「神よ! 貴方は神の身であるにもかかわらず、人間の僕と同等の条件で戦いになるおつもりか?」
戦う前に僕は神に向かってこう非難する。人間が神に敵うわけがない。それは火を見るよりも明らかな事だったので、魔神ガーン・ガーン・ラー様は、笑って決闘の契約を結ぶ。
「神と人が戦えば神が勝つのは自明の理。
お前のその認識は、真に殊勝である。
なれば、私はこの一騎打ちのためにお前と戦うにおいて条件を付けよう。
私は、お前との戦いは素手にて行う。
魔法は使わぬ。
武器は使わぬ。
魔力を拳に込めぬ事を誓おう。
さらに、お前との戦いにおいて私の足裏以外の場所が地に着いたら、私の負けとし、今だけはお前たちを見逃すことを誓おう!!」
神が条件を出して認めた以上、もし魔神ガーン・ガーン・ラー様がこの条件を守らなかった場合、契約違反がおこり、ガーン・ガーン・ラー様には重い罰が下る。それは神位が高ければ高いほど重い罰が下るのだ。だから、この誓いは信用していいはずだ。
「お心遣い感謝いたしますっ!!
では、魔神ガーン・ガーン・ラー様っ!!」
僕はそう言って炎の呪いがかかった槍を構えると、魔神ガーン・ガーン・ラー様は不敵に笑った。
「いざぁっ!!!!」
僕達両者の掛け声がその場に響き渡ると同時に、電光石火の速さで魔神ガーン・ガーン・ラー様が僕に向かって突進を仕掛ける。
鋭い踏み込みからの正拳突きが3発、僕の頭部、鳩尾、金的めがけて襲ってくるのが見えた。
そう・・・・見えたのだ。僕の目にも神の動きが・・・・・。
僕はとっさに右に避けると、槍の石突でガーン・ガーン・ラー様の足の甲を叩きつける。人間なら足の甲が砕け散って歩くこともままならぬが、相手は神。「ガチンっ!!」と固い音が鳴っただけで足の甲はビクともしないようだ。
次に魔神ガーン・ガーン・ラー様は、下方向に突いた下段突きの拳を引き上げながら大きく弧を描いたスウィングで僕の顔面に手の甲を用いた打撃技 ”裏打ち ”を仕掛ける。僕はそれも見切って体を一瞬で後方へ飛び去って、かわす。しかし、敵もさるもの。魔神ガーン・ガーン・ラー様は、裏打ちの勢いをそのままに正拳突きから、バックハンドブローの連続技を仕掛けてきた。
これでは流石に逃げるのが精一杯と言うところだったが、僕は人の身でありながら、神の攻撃から逃げることが出来たのだった。
「見事だっ!!」
魔神ガーン・ガーン・ラー様は、僕を称賛する。
「良い目をしている!!
そして、その眼は既に人の身の限界を超えて高位の存在へとなろうとしているっ!!
見事であるっ!! ジュリアンよっ!!」
” 良い目をしている・・・・。” それは、僕の目のカラクリを察した上での発言だろう。そう、僕は師匠・魔神フー・フー・ロー様との特訓で手にした未来視の目で、今、魔神ガーン・ガーン・ラー様と戦っている。
条件付きのハンデを背負っているとはいえ、相手は魔神様。人間の僕がここまで戦えているのは奇跡だ。魔神ガーン・ガーン・ラー様は、それを褒めてくださっているのだった。
「しかし、逃げているだけでは勝負にはならんぞっ!!
貴様も私との決闘を受けた身だ。決着がつく前にフー・フー・ローの転移魔法で逃げることは叶わぬ。戦って決着がつかぬ限り、逃げられぬ事を忘れるな?
さぁ、続けてまいるぞっ!!」
魔神ガーン・ガーン・ラー様は、そういって再び僕に攻撃を仕掛けてくるのだった。




