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成長したよっ!!

「目だっ!!!」

僕はその事に気が付いて、思わずその場で大声を上げてしまった。

その様子を師匠は愉快そうに見るのだった・・・・。


「それが正しいかどうかは別として、良いところに気が付いたな。」

師匠・魔神フー・フー・ロー様は、そういうと槍を取り出して構える。

「さぁ、再び俺の槍を試してみるか!?」

僕はうなずくと目に魔力を集中させて動体視力を上げる。

魔力が僕の目を駆け巡り、この世の全てが今までの物とは違う景色に見える気がした。

これまで僕は自分の体全身にバフをかけていた。しかし、今は一点集中のバフである。これでもどこまで何が出来るようになるか僕にもわからないが、それでも今、このバフを受けた目に見える世界は、僕に何か可能性を与えてくれる気がした。


槍を構える師匠を前に僕の気が集中し切った時、師匠の槍が閃き僕の首を狙らう。

その動きが事細かに見えた。

そして、次の瞬間。僕の首は跳ねられた・・・・・。

・・・・・そんな未来が見えた・・・・・。

しかし、恐怖から目覚めて、よく見れば、師匠の槍は1ミリも動いてはいなかったのだ。

僕は、自分が見た景色と現実との乖離かいりに戸惑い、そして先程見た未来に恐怖した。

そして師匠はそんな僕の全てを察したように「何が見えた?」と、尋ねてニヤリと笑う。

僕は、「・・・死が。」と短く答える。

それを聞いた師匠は槍を地につけると、その場に胡坐あぐらをかいて座り込み僕にも座れとばかりに地面を指さした。それに全員が即座に従って、師匠の前に並んで座る。

「お前が見たもの。それはきざしだ。お前の戦士としての始まりである。

 お前は人間の戦士としては、すでに十分優秀であるが、私達、高位の存在から見るとスタートラインにすら立てていなかった新兵だった。これまでは。

 今、お前が目にしたもの。その世界。その境地。その力の使いかた。

 それは全て連日の稽古によりもたらされたもの。魔力操作のレベルが上がったことにより、お前の目は、現実以上の存在を見ることが出来たのだ。もし、今さきほどお前の目が見たものが私の槍の動きまでであったとしたのなら、それはまだ、お前が人の身の限界線にしかいないことを示す。

 だが、お前が見たものは未来。

 お前の目は既に人外の域に達しようとしている。それも神域にて土精霊騎士ガークの動きを見切った経験があっての成長。すべてはつながっているのだ。

 よく頑張ったな、ジュリアン。」

師匠は、そう言って僕の頭をワシワシと撫でる。

これが・・・・・信じられないほど気持ちいい。それは勿論もちろん、肌感覚の話ではなくて精神的満足感の話。師匠は父上と同じくらい厳しい稽古をつけてくださる。それだけにめられた時は、達成感よりも師匠に褒められたことに対する満足感が先に来る。師匠は時々、父上とイメージが重なる時がある。その理由は何だろうか?

僕を守ってくれることに対する絶対的安心感だろうか?

父上と同じく、僕にとっては仰ぎ見るだけの強さに憧れているからそう感じるのだろうか?

理由はわからない。でも、ただ。僕は師匠を自分の父親のようにしたっているのだった。

師匠はほんの僅か僕と旅をしただけなのに、もうこんなに近しい存在になってしまった。

これが神の魅力なのか・・・・・。

まぁ・・・・それはともかくとして、僕は師匠に成長を認められて次の町からは別の宿を取る自由を許されたのだった。


翌朝、僕らは目的の町近くの林の中でローガンと再会した。

疾風のローガン。風と月の国の淑女ハー・ハー・シーに看破の右目を授かった英雄で200年前、魔神ゴランと戦った勇者アルファのパーティの一人だった彼は、見事、師匠からの命令を遂行し、1月以上の単独行動を乗り切ったのだ。

「お祖父ちゃんっ!!」

ローガンと再会したシズールは泣いて喜び、彼に駆け寄って抱きついた。

「おおっ!! シズール。元気だったかい?」

「ううんっ!! お祖父ちゃんがいなくて、ずっと寂しかった!!!」

年寄りは孫に弱いもの。孫娘にそう言われて、瞳から一粒の涙をこぼしてしまうのだった。

師匠はそんな二人の再会をしばらくは邪魔しないように見ていたが、やがてローガンに問う。

「ローガンよ。私はお前に、かの町で待てと指令したはずだ。

 お前のような忠義者がその命に背くのはよほどの事。何があったのか、申せ。」

ローガンは、うなずくとシズールを抱きかかえたまま、これまで何があったのか説明を始める。


「神よ。私は仰せのままに馬車を捨てるたびに出ました。痕跡こんせきも残さずに。

 しかし、二人の精霊騎士に見つかってしまいました。火精霊騎士クープ・クープと、土精霊騎士ドー・ドー・ハーダです。私は彼らをあざむき、逃走することに成功しました・・・・が。

 この町に私が立ち寄ろうと思った時、魔神ガーン・ガーン・ラー様がすぐそばに来ていることを悟りました。

 神よ。あの町には、魔神ガーン・ガーン・ラー様がいます。どうぞ、他の町へ移動しましょう。」


疾風のローガンの報告は僕達を戦慄せんりつさせる。僕は師匠に成長を褒めてもらったばかりだというのに、次の宿泊先をすでに先回りされていたのだ。それも相手は師匠よりも高位の神・魔神ガーン・ガーン・ラー様だった。とても僕達が相手にできる敵じゃない。

師匠はその報告を聞くと「恐らくこの国中くにじゅうに異界の者たちを派遣はけんしたのだろう。我我の行動は先読みされたのではなく、偶然、張り巡らされた罠の中でも飛び切り危険な敵とかち合ってしまったのだろう。」と、冷静に判断をくだした。

僕らは師匠が次にどうするべきか考えている間、言葉も発せずにただ、ジッと師匠の決断を待つのだった。その決断を待つ間に僕がふと投げた視線の先に、怯えたような表情で師匠を見つめているヌー・ラー・ヌーとミュー・ミュー・レイがいた。あの気の強いヌー・ラー・ヌーが怯えた表情を見せるとは・・・・。どうやら魔神ガーン・ガーン・ラー様は僕らの想像以上に危険な相手らしい。

二人の異変には僕だけでなくオリヴィアやミレーヌも気が付き、二人が師匠にするように僕の両腕にすがり付いて恐怖に耐えるのだった。


「やむをえん。転移で飛ぶ! 

 ジュリアン、ローガン。俺が転移魔法を準備する間、とんでもない魔力を消費するので、奴が勘づくだろう。お前たちは何としてでも俺が転移魔法を完成させるまでの間、魔神ガーン・ガーン・ラーを食い止めろ。わかったな?」

師匠はそう言うと、僕らが承諾の返事をする間も与えずに、転移魔法の儀式に入るのだった。

「ちょ・・・・。」

僕が (ちょっとまって)とお願いする前にヌー・ラー・ヌーが声を上げる。

「迷っている時間はないっ!!

 敵は強敵よ!! 戦えるものは全て召喚してそなえなさいっ!!」

その一喝に慌てて僕は、氷魔法と火魔法による精霊騎士を召喚する。だが、師匠の家庭事情が影響して、氷の精霊騎士は来てくれなかった。

「くそっ!! 違う精霊騎士に頼るかっ!?」

僕は瞬時に頭を切り替えて別属性の精霊騎士を召喚しようと判断する。

僕達のいる林の外ですさまじい破裂音がなったと同時に魔神ガーン・ガーン・ラー様は僕達の目の前に現れたのだった・・・・。


「よぉっ! お尋ね者の魔神フー・フー・ローっ!

 会いたかったぜぇ~・・・・・。

 さぁっ!! 殺しあおうっ!!」

魔神ガーン・ガーン・ラー様は、そう言って不敵に笑うのだった。

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