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知ってたんですかっ!!

「それは良い事に気が付いた。

 お前たちは、神から使命を授かりし転生者ではあるものの、お前たちは操り人形ではない。

 神がお前たちに自我を与えて、考える頭と夢をかなえる能力を与えたのがその証拠だ。

 この世界の使命を果たすと同時に、前世からの因縁(いんねん)(もと)づく夢をかなえるがいい。

 前世からの因縁・・・・。それもまた、転生者の使命なのだから・・・・。」


師匠は僕達に神から与えられた使命だけでなく自分の夢をかなえることも転生者の使命だという。

確かにそうでなければ、僕達に自由意思を与える理由はないか。

つまり、僕達には

・神が望む使命

・僕達が考える叶えたい夢がそのままが使命

の二つがあるというわけだ。

そして、きっと後者の使命は、神が僕達を転生させる際に僕達を転生させたら、こういうことを考えるであろうと予測してのことだと思う。それは、この夢は僕が王子になったからこそ実現可能だと感じたわけで、僕が前世のママだと実現できると思いつきもしないことからも明らかだ。僕は転生者になったからこそ、この夢を持ったのだ。転生には意味がある。

「師匠。僕は思うのですが・・・、僕達を転生させた神は、僕達がこうなると予測して僕達を転生させたんだと思います。

 師匠がかつて見た僕の未来にその夢はありましたか?」

僕の問いかけは、かなり愚問だった。何故なら神は、僕達に預言以外で未来を語ることをしないからだ・・・・。

でも、師匠は少し悩むような姿勢を見せてから「それは見なかった。」と、答えてくれた。

これは、驚きだった。

てっきり、” 人間は自分で打開して道を開かねばならん ”とか、言うと思ってたのに・・・・。

「まぁ、話せるのはココが限界だが、この程度は話しても良いだろう。

 とにかく、お前達には自由意思がある。そして、お前達のその夢を俺は素晴らしいと思う。

 神として応援しているので、しっかりやりなさい。」

師匠はそういって優しく僕達の背中を押してくれるのだった。


さて、僕達がリューさんの故郷を行き来している間に20日が流れ、気がつけば馬車が出来上がっていた。僕達は大所帯だから2頭引きの大きな馬車になるが、実際には荷台の屋台が大きくなるだけだから、まぁ、製作期間1ヶ月と言うの適切な期間だろう。期間が短すぎても手抜き工事になりそうだし、手間をかけられ過ぎても王族の馬車でもあるまいし、ゴテゴテとした装飾をつけらるのは目に見えているし・・・・。

それで、とうとうこの町ともお別れになった。

僕達は更なる情報を求めて、別の町を目指すのだった。

目的地は未定だ。

それをこの町で最終日の今日、僕らは決める。

「どうでしょうか? このあたりで城塞じょうさい都市を目指しませんか?

 多くの情報が得られるかもしれませんよ?」

僕の提案に師匠は渋る。

「この小さな町や例の前線基地ならばともかく、城塞都市は入るのに検問がいる。

 それが面倒だ。」

「・・・あっ!」

そう。王族育ちの僕は検問など受けたことが無いから、全くのノーマークだった。

僕らはこの国の手形を持ってはいないのだ。

「まぁ、手形くらいは俺が兵士を洗脳して作らせることくらい簡単だが、問題は、我々の存在を完全に定義づけしてしまうことだ。今のようなあやふやな設定だから、我々の痕跡は残りにくい。しかし、あまりに完全に我々の存在を定義づけしてしまうのはな・・・・。」

師匠はそう言うのだけど、火精霊の貴族であるヌー・ラー・ヌーはご不満だった。

「私、こんな寂れた町よりも明るい街がいいですわ。

 人の活気があって、楽しいところがいいです。」

そう言ってヌー・ラー・ヌーは師匠にシナを作って体を摺り寄せておねだりする。

師匠は、そんなヌー・ラー・ヌーを面倒くさそうに押しのけると、地図を広げて「どこがいい?」と、他の者の意見も聞く。

と、言われても、この時代の女の子は世界の情報はあまりない。だから、師匠に質問されても女の子たちに行きたい都市などそうそうなく、地図を見て首をかしげるばかり。

では、仕方ない。ここは僕が・・・・


そう思って僕が地図をのぞき込んだ時、シズールが「お祖父じぃちゃんがまだ帰ってきてない。」と言って泣き出した。

あっ! そうだ!!

僕達はローガンと別れ離れになっているんだった。

・・・・・すっかり忘れてたっ!!

「ローガンのことは心配するな、

 あの男は早々、死んだり、捕まったりはせぬ。」

師匠はそう言ってシズールをなぐさめるのだけれども、幼いころからローガンに育てられたシズールには限界が来ているようで、一度泣きだしたら、その涙はとても止められないようだった。

「大丈夫、大丈夫だからね?」

僕達はシズールを抱き寄せて優しく慰める。

その姿に師匠は観念したように深いため息をついて

「わかった。

 では、次の目的地は、ローガンのいる場所にしよう。」

と、言うのだった。

・・・・・え?

・・ええええっ!?

「し、師匠!! もしかして、ローガンの居場所をご存じだったのですか?」

「当たり前だ。なんの糸もなしにあのような優秀な部下を孤立させるものか。

 黙っていたのは、教えてしまうとシズールが我慢できずに飛び出してしまうと思ったからだ。

 しかし・・・。それも限界のようだ。父親を思うシズールの望みをかなえてやらねばならんな。」

師匠はそう言ってシズールの頭を撫でてやる。

「神様っ!! 大好きっ!!」

そう言って、師匠に抱き着くシズール。その様子を僕達は微笑ましく見ていた。


さて、そうなれば今日は最後の晩餐ばんさんという事になる。僕らはまず、もろもろの支払いを済ませるとともに、宿の主人に今晩は豪勢な食事にしてくれと頼んだ。

これから長い旅行になる。しばらくは保存食を食つなぐことになるから、贅沢ぜいたくをしておこうと考えたわけだ。

その夜は皆で楽しく食事して・・・・その後は再び旅行に出るという事でヌー・ラー・ヌーが随分、師匠に甘え倒したみたいで、僕らはとても宿におれないほど、師匠の部屋からヌー・ラー・ヌーたちの甘い声が響き渡ってしまう状況になった。

「ヌー・ラー・ヌーもアーリーもミュー・ミュー・レイもおかしい。

 毎日毎日、あんなに苦しそうにダメダメ、イヤンイヤン言うなら、神様におねだりしなかったらいい。

 違う?」

シズールは、遠く離れた部屋にいても聞こえてくるヌー・ラー・ヌーの声に首をかしげてそう言った。

ああ。ダメだ・・・・。

これはシズールの教育に良くない。というか、この娘。純粋だなぁ・・・・。性知識が全く無いわけではないのに、男と女のやり取りについては無知すぎる・・・・。

このままではいけない。このままここにいたら、ヌー・ラー・ヌーやミュー・ミュー・レイによって、シズールの性癖が歪まされかねない。真っ白なシーツにインクをこぼしたら、もう元には戻れないだから・・・・・。

仕方がなく、僕らはシズールを連れて宿を出ると、みんなで出来上がったばかりの馬車の屋台で過ごすことにした。

そこで、せっかくの機会だから僕とオリヴィア。ミレーヌ。シズールのメンバーで話し合いをした。

勿論、夢の話だ。

「僕は、王子として転生した。その権力があれば、「いじめられた子が逃げ出せる場所を作る」という夢もかなえられると信じていた。でも・・・僕は災いの神ドゥルゲットの陰謀で、クリスを失ったことにより色々と余裕がなくなって、その夢に力を注ぐことが出来なかった。

 でも、それじゃダメなんだ。

 例え、権力を失っても、やるべき使命が他にあったとしても・・・・・・・・。

 ・・・・・クリスを失ったとしても。僕はこれをやり遂げないといけない。

 だって、これはクリスと叶えようって、約束したことだから・・・・・。」

僕は自分の決意を伝える。これはやり遂げないといけないことだと・・・・。

僕の話を聞いていたオリヴィアは、クリスの事を思い出してか、それとも僕とクリスと一緒に誓い合った時の気持ちを思い出したのか、涙に震える体で何度も頷いていた。

そして、むしろ差別される側の存在だったミレーヌとシズールは、僕の夢に協力を惜しまないと言ってくれた。


その夜・・・・。僕らは遅くまで語り合った。

この夢がかなう時、どんな世界になっているだろうかと・・・・・。



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