先っぽだけでいいからっ!!
風精霊のシーン・シーンは、リューさんの一族に代々仕える契約精霊なのだけれど、とても小さい分、諜報活動に向いているそうだ。ただし、一族秘伝のため人前では召喚しないことになっているとのこと。僕とオリヴィアは、その約束を守りながら、契約したシーン・シーンと付き合っていかねばならない。
「よろしくね。ジュリアン、オリヴィア。
初めに言っておくけど、私は、貴方達よりもリューの一族を優先するし、貴方達が他の誰かと私を契約させたいと思っても、リューの一族の了承無しでは契約する気はないから、誰にでも彼にでも私の存在を教えないでね?」
シーン・シーンは、とてもツンデレ娘っぽい話し方をする子だ。
「なるほどね。つまり、僕とオリヴィアはあくまでリュ―さんの契約の一部ってことね。
了解したよ。
ではよろしくね。シーン・シーン!!」
僕とオリヴィアは頭を下げて挨拶すると、シーン・シーンは要件が他にないのならと言って、そそくさと異界に帰っていった。
「リューさん。とても貴重な精霊をありがとうございます。」
「いえいえ。こちらこそ。とても助かりましたので。」
リューさんは、嬉しそうに笑った。
それから、リューさんの言葉通り10日の道のりを僕らは歩いた。途中、すれ違う旅人たちのリューさんを見る冷たい視線が、リューさんの一族の受けている差別の重さを感じさせる。
「遠い昔、私達の祖先は戦争に破れました。敵の手を逃れ、山中深くに逃れた私達を敵は隷属することで生き永らえることを許可しました。生き残るかわりに私たちは、数百年経っても辺鄙な所から抜けることができず、町に定住することも許されない。そういう立場になってしまいました。
私達の先祖の王国を滅ぼした王家も今は残っていないというのに、世界は私達に対して両手を広げて抱きしめてはくれなかったのです。それどころか次の王朝も、その次の王朝も私達を差別の対象としました。何故なら、新たな王朝らにとって、私達の存在は民草の不満をぶつけるいい素材だったからです。
・・・・・・そうやって途方もない年月、私達は虐げられてきたのです。」
リューさんの一族の受けている差別の根の深さに僕らは言葉を失うのだった。
そして、その話を聞いているうちに、僕達が本来やるべき仕事を本当に久しぶりに自覚する。
本当にやるべき仕事。転生者の使命は大切だけれども、それ以上に前世から引き継いだ僕達の業を僕らは解消しなくてはいけないのだ。
リューさんの村への道のりは、10日かかった。
リューさんの村は山奥のそれはそれは辺鄙な場所にあった。水の確保が難しいであろう、草木まばらの禿山の上だった。
「水はどうしているんですか?
どうして、水の多い谷に村を構えないのですか?」
僕の問いかけにリューさんは、「雨量が増えた時、この禿山から土砂が溢れて谷に降り注ぐ。だから、ここがいいんだ。」と、答えた。
不便さよりも安全を取ってのことだ。
逆に言えば、そんな辺鄙なところだから、リューさんの一族は生き永らえることを許されたのだろう。
ここで生き残ることは出来る。沢に降りて水を運べば、耕した土を田に変えることが出来る。一応、生きていくことは出来るが、それでも痩せた禿山の土の田の事。満たされ、裕福になることはないだろう・・・。一族は復興されることもなく、生きていくのが精一杯の暮らしだけを送るのだ。この先も・・・・。
そう思うと不憫でならなかった。・・・ただし、ここには奇跡の転生者であるオリヴィアがいる。そう、僕の国で農家の収穫量を倍に増やした奇跡の子が。
オリヴィアは、村に着いてすぐに、村の皆への紹介をそっちのけでリューサンの村の畑を案内してくださいと言う。リューさんは旅人のオリヴィアが何故そんなことを気にするのか理解できずに怪訝な顔をしながらも、村の畑へオリヴィアを案内する。オリヴィアはリューさんの村の畑の土を見ると、すぐに肥料に改善する余地を見つけて、農業にふさわしい土づくりを指示をする。
また、僕は僕で一ついいことをする。
この山が禿山な原因は、この山は固い岩山だという事だ。そこで僕は、この山をやせた土地にしている山肌の堅さを逆に利用してやることを思いついて行動する。地面に広がる硬い岩肌に向けて魔力を込めた拳でガンガンに打ち砕いて小さな池を作るのだ。この密度の高い堅い岩肌ならば、水が抜け出すことはないだろう。
そうやって3時間近く黙々と作業をすると、10畳間程度の広さで深さ50センチほどの深さの池のベースができあがった。
小ぶりではあるが、そこそこ見事は池ではないか!!
ここに水をためることで、ある程度は農業用水になるし、ここに肺呼吸系の食用の魚か爬虫類を飼うことが出来る。その生き物たちは、こんな瘦せた土地に住む人々にとっては貴重なたんぱく源になるだろう。
リューさんは僕の作った池の穴を見て、とんでもなくビックリしていた。
「俺たちの村にある金属では、この硬い岩盤を砕くことは出来ないし、俺たちの魔法ではこんな真似は出来ない。町に降りて金属工具を買おうにも、町でものを売って外貨を得るしかないのに、俺たちには物を売る権利が無い。
だけど俺たちは諦めずに危険を冒してでも町の外で行商して、この池を作れる金属工具を買えるお金を数百年かけて溜めていたんだ。
それを・・・・・魔法でこんなにアッサリ。いや、俺たちも魔法はある程度使えるのだけれども、ここまで凄い魔力操作ができる人間を俺は初めてみた・・・・・。君はもしかして宮廷魔術師か何かなのか?」
それから、リューさんと村の人々は、僕達の手を取って大粒の涙を流しながら感謝して、「何日でも良いから泊って行ってくれ」と、頼むのだった。
僕達は帰らなければならない旨を説明すると、リューさんの村の人々は貧しいながらも精一杯の御馳走で僕達を歓迎してくれた。
村の男達は僕をお勇者だと褒めたたえて、一族にとっての勇者の証である首飾りをくれたし、村の女たちは僕達が恋人同士だと聞くと、一族にとって夫婦の証であるミサンガのようなアクセサリーをくれた。それは赤と黄色で編まれた一対の輪で、お互いの手首に付けることで夫婦の証とするのだという。
僕が渡されたアクセサリーを戸惑うオリヴィアの手首に巻いてやると、オリヴィアは顔を真っ赤にしながらも、僕の額にキスをしてくれた。
そのキスと同時に僕達を冷やかすように、祝福のヤジが飛ぶ。
僕はその時、確かに聞いたんだ、村の人たちの声にかき消されるほど、か細い声で
「・・・・・大好き・・・っ!!」
と言ってくれたオリヴィアの言葉を・・・・。
その夜。僕は必死になってオリヴィアにお願いする。
「ねっ!! ねっ!! ほら、このミサンガを見てごらんよ。
これはこの村で僕らの結婚が認められた証だよね?
これで僕達、もう夫婦なんだからいいでしょっ!?
お願い、先っぽだけでいいからっ!!」
師匠・フー・フー・ロー様の痴態は年頃の少年には刺激が強すぎる。その刺激に晒され続けた僕は、せっかく二人っきりの夜に、一気に攻勢をかける。
でも、オリヴィアは
「だ、だだだ、ダメに決まってるだろっ!
やだ・・・っ!! だめー--っ!!
クリスの仇を打つまで、駄目だもんっ!!」
と、抵抗して何もさせてくれなかった。
・・・・こんな残酷な話があるだろうか?
僕はリューさんの村を出て、師匠の下へ戻るまでの10日の間も夜になるたびに、オリヴィアを口説いたけれど、オリヴィアは、キスまでしか許してくれなかった。
生殺しとはこれの事だよっ!! 僕は本当に地獄のような10日を乗り越えて、師匠のいる宿屋までついた。
宿についた僕は、欲求不満の塊で・・・。ちょっと不貞腐れながら、道中をフー・フー・ロー様に報告する。師匠は、そんな僕の様子に首をかしげながらも、こう、問いかけるのだった。
「どうだ。転生者よ。
お前たちの使命はこれで見つかったか?」
僕とオリヴィアは、それで浮かれ気分から一気に目が覚めた。
顔を見合わせて、言葉にして確認合うまでも無い事を同意しあったのだ。
そして、僕は師匠に宣言する。
「神に与えられし使命は何かはわかりませんが、僕達には僕達が何をなさねばならないのか。
・・・・実は自分たちで決めた夢があります。
それは弱いものを救う世界。いじめられる子が逃げ出せる場所。差別されて行き場をなくした人たちを救い出される世界。
僕とオリヴィアは、この世界の神に与えられし使命以上に、大切にしないといけないものがあったことを、あの若者を通して再認識いたしました。」
僕の言葉を聞いて、師匠は、満足そうに頷いた。
「それは良い事に気が付いた。
お前たちは、神から使命を授かりし転生者ではあるものの、お前たちは操り人形ではない。
神がお前たちに自我を与えて、考える頭と夢をかなえる能力を与えたのがその証拠だ。
この世界の使命を果たすと同時に、前世からの因縁に基づく夢をかなえるがいい。
前世からの因縁・・・・。それもまた、転生者の使命なのだから・・・・。」
僕とオリヴィアは、以前、僕達に「お前たちは転生者の使命を勘違いしている。」と忠告されたけど、それはこういうことだったのだと、今頃理解したのだった。(※)76話「冒険者だよっ!!」参照




