32歳なのっ!!
僕達が若者と子供の再会を祝福してくれている間に、ラーデン氏が駐屯所の責任者と話し合いをつけてくれていた。先に町の人たちに対して良い役人顔をしてしまった責任者は、今さら悪役の顔も出来ずに、引きつり笑いを浮かべたまま、若者を救った僕を褒めたたえてから、その場を去っていった。
「この町みたいに小さな町に来るような役人は、ああいったクズが多いのさ。
今回は、誘拐だったけど、人身売買で手にした少女を売り飛ばすことだってある。
俺の倅は、そういう貧乏人が面倒見切れずに売り飛ばしたガキを買って兵士に売りつける。兵士は他の町のやんごとない方々に売り飛ばすんだそうだ。
俺がその子供を取り戻してやれば、子供は帰って来るが、親に金が入ってこねえ。この国では堂々と人身売買は出来ねぇからな。取引が成立しなければ、親は子供を別の町に売りに行くだけだ。
・・・・だから、俺が止めても・・・・。何の解決にもならねぇから、文句は言うが倅のことを見逃してきてたんだ。
なのに・・・あいつは誘拐なんかしてくるもんだから・・・。」
ラーデン氏は自分がこれまで息子を甘やかして見逃してきたことを悔やみながら、頭を下げて謝った。
そんなラーデン氏に対して、アーリーが口を開いた。
「わかりますよ。ラーデン様。
私も娼館に近い存在の所で働いていたことがありますから。
ほとんどの子供は哀れですが、娼館よりもひどい場所に売られてしまう場合があることを思えば、売り飛ばされた子供たちが娼館にいることを思えば、むしろ運がいいというあきらめもあります。
全ての子供を救うことなんか、できるわけが無いのですから・・・・・。
それでも今日は、ジュリアン様とラーデン様のおかげで無法に連れ去られた子供を救うことが出来ました。今日は素直にそのことを喜びましょう。」
その時のアーリーは誰よりも神々しい聖女のように目に映った。ラーデン氏はこらえきれない涙を隠すように背を向けると「すまねぇ・・・・。」といって、その場を立ち去っていた。
それにしても、問題はこれからだ・・・・。
この少数民族の若者を僕達はこのままにはしておけないのだ。
「君。今日は無事で済んだけれども、明日も無事で済むとは思わないことだ。
この町のゴロツキは君のことをよく思っていないだろうし、この先も狙ってくるだろう。
これに懲りたら、もう、この町に来てはいけない。旅行者の僕達が次もこの町にいて君を守ってあげられるとは限らないのだからね?」
僕の言葉の重みを感じた若者は、何度も頭を下げながら、二度とこの町に来ないことを誓ってくれた。
しかしだ・・・・・。
少女はお金になる。兵士はずっと、この町にいる・・・・・。となると、誰かが、彼が故郷に戻るまでの間、護衛をしてあげなくてはいけないだろう。
僕達は師匠・魔神フー・フー・ロー様に今後どのように始末するかのお伺いを立てるために、若者の一家を連れて一旦、宿に戻ることにした。
宿に着くと、珍しくアーリーは興奮気味に師匠に事の顛末を報告をする。その姿はまるで普通の女の人だった。明るく、上品な。
そして、そんなアーリーを優しい微笑みを湛えたまま見つめる師匠も慈悲深い神としての徳を感じさせていた。
「そうか。よかったな、アーリー。
ジュリアンもこの度の件、見事である。」
師匠は珍しく僕まで褒めてくれた。そして、僕の頭をナデナデしながら、今後の行動について語るのだった。
「ジュリアンよ。これからお前は最後まで責任を取らなくてはいけない。
すなわち、そこの若者をふるさとに無事に送ってやらねばならんという事だ。
数日間の移動になるだろう。戻ってくるまで俺たちはこの宿にいるので、お前はオリヴィアを連れて今すぐ出発せよ。」
そういうと、師匠は僕の頭から手を離した。
・・・・・・あっ・・・・・・。
僕は無意識のうちにその手を名残惜しそうに見つめてしまった。
僕が何故、そう思ってしまったのかは自分でも理解できなかったけど、それが僕と師匠が親子にも似た近しい存在としての関係が成立しているという証拠だという事に気が付いたのは、ずっと後の事だった。
とりあえず、僕はオリヴィアを伴って、若者と共に町を出ることになった。
ミレーヌ。シズール。ヌー・ラー・ヌーにミュー・ミュー・レイ。そしてアーリー・・・・。
大きなオッパイとはこれでしばらくお別れだと思うと、僕は切なく・・・。ならないよ? なってないよ?
だって、僕には可愛い可愛いロリ乳のオリヴィアがいるんだからっ!!
「・・・・なに名残惜しそうにオッパイを見つめてるんだよっ!!」
僕の視線に気が付いたオリヴィアの肘打ちがとても痛かった。
あのね、オリヴィア。君は体は小さいけど体は生身じゃないんだから、もうちょっと手加減してね。
「なんだよっ!!
そんなに大きな乳が好きなんだったら、牛とでも結婚してろっ!!
バカ野郎がっ!!」
プンスカ怒って先を進むオリヴィアについていくようにして、僕と若者の一家は町の外の道を行く。
若者の・・・・・。
「あっ!! 今更だけど、僕達。まだ名乗ってなかったねっ!!」
僕は今更なことを思いついて、声を上げる。
そんな僕を楽しそうに見ながら、若者が自己紹介してくれた。
「改めまして、ジュリアン殿。オリヴィア殿。
私の名前はリュー・ハイン。お世話になったこちらは娘のリン・ハインでございます。」
リュ―は、そう言って頭を下げた。それからほかの子供たち、トウとコウも紹介してくれた。
よくよく考えたら、随分若く見えるけど、3人も子供がいるこの人は何歳なんだろう?
「そうか。リュ―、僕達は、14歳なんだけど、君はいくつなんだい?」
リュ―は僕達の年齢を聞いてビックリしたような目をしてから
「私は今年32歳になります。」と、答えるのだった。
「えっ・・・・。」
僕とオリヴィアは、リュ―の年齢を聞いて固まってしまった。
だって、とてもそんな叔父さんに見える年齢じゃなかったから・・・。どう鯖を呼んでも、25~6歳かと・・・・。
「リュ―・・・じゃなかった、リューさんは、そんなに年上の方だったんですね・・・。」
僕がバツが悪そうに呟くとリューサンは「歳が近いと思いましたか? どうして? 私には8歳の娘がいるのに?」と、笑って応える。
そういやそうか・・・・。
リューさんは、そこから身の上話をしてくれた。
「私の故郷はここから10日の距離にある山岳にすむ民族です。ずっと昔、戦争に敗れてその地に逃げ込んだが最後、二度と王家を再興できませんでした。それどころか、王の子孫の私がこうして行商に出ないといけない身分です。」
やはり、僕が想像した通りの出自だったか。
ただ、そんな落ちぶれた一族でも王家の誇りは持ち合わせているようで、今回のお礼として一族秘伝の精霊との契約を僕に結ばせてくれた。
リューさんは、地面に神文を描くと、召喚術で精霊シーン・シーンを呼び出してくれた。
「この子は、風精霊のシーン・シーン。
とても小さな女の子ですが、小さいゆえに諜報には向いていますよ。」
掌に載ってしまうほど小さな精霊のシーン・シーンは、僕とオリヴィアと契約してくれるのだった。




