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取り戻すぞっ!!

僕は胸震える思いでアーリーの話を聞いた。そして、彼女の手を取って、師匠の素晴らしさとアーリーの魂の美しさを絶賛するのだった。

「ああっ! なんてすばらしい話なんだ! 師匠のお慈悲も、君の魂の美しさも本当に僕の心を雷で打つように衝撃を与えてくれた!!

 そうなのか、君が師匠に仕える理由はそういう経緯があったからなんだね。

 そして、今でも君がそういう仕事をしているのは、全ては、子供達を救うという贖罪しょくざいため

 だとしたら、君の仕事はとても神聖なものだとさえ、感じてしまうよっ!!」

僕が一気に感動をまくしたてると、アーリーは少し面倒くさそうに僕に右掌を見せて制止すると、 


「いえ。

 さっきの話の後、フー・フー・ロー様に死ぬほど抱かれました。

 あんなに身も心も粉々にされるほどの快楽の海に沈められたのは、初めてです。何回、失神させられたかわかりません。

 それ以来、私は贖罪のためどころか、ご主人様へのご奉仕のお時間は、むしろ楽しみにしています。」

・・・・僕の感動を返せ。

アーリーは、僕の不満そうな目を楽しそうに眺めてから、話を事件に戻す。

「あの飴玉があそこにあった理由は、恐らく子供を連れたラーデン氏の息子がラーデン氏の前に来たという証拠でしょう。あの飴玉で子供を騙しながら。

 私の勘では、ラーデン氏は、女子供に手を出す人ではありません。恐らくは、きっと息子さんと上手く行っていないのでしょう。

 あの家で子供を返すように説得するラーデン氏と息子さんは口論となり、その後に別れて、その時、飴玉の入った壺を部屋に置いていったんだと思います。」

「アーリーは、こういう人身売買の世界を長く見てきたホムンクルスだ。その君の勘と人を見る目を僕は信じるよ。ラーデン氏はこの事件に関係がない。

 しかし、では。息子はどこに行ったと思う?」

「私が思うにラーデン氏の息子は、ラーデン氏に叱られて家を飛び出したのではないかと。

 しかし、どうでしょうか?

 ・・・・それだけの理由なら、ラーデン氏は息子さんを捕まえて改心させる可能性もあるし、私達に娘さんを引き渡したと思うのですが・・・・」

「それは、確かにそうだ。

 だけど、ラーデン氏は、むしろ僕らを遠ざけているように僕には、見えたよ。」

「そうですね。私達を危険に巻き込まないように・・・・」

そこまで話してアーリーは何か思いついたようにハッとした表情を浮かべてから、顎に手を当てて考え込んだ。

この手の問題の素人の僕は、アーリーの経験に任せるよりほかなく、ただ、ジッとアーリーを待った。

しばらく考え込んだアーリーは、僕を真剣に見つめながら言った。

「もしかしたら、ラーデン氏の息子さんはこの町の兵士と繋がっているのかも知れません。」

どういう意味だろうか? 僕はアーリーの説明を待った。

「ラーデン氏の息子さんは、さらった子供を兵士に売り渡し、兵士はそれを遠くの街に売りに行く。そういう手段があるということです。だとすると、ラーデン氏が私達にこの問題に関わるなといった理由もわかります。」

ああ。なるほど・・・。

「敵が危険すぎる。敵は街のチンピラじゃなくて、この国の兵士だから、ラーデン氏は僕達を遠ざけようとしたっていうんだね?」

僕はアーリーの予測を的確に言い当てる。アーリーは深くうなずいた。

「恐らく、そういう事だと思います。そして、ラーデン氏の気質なら、息子さんをあのまま放ってはおかないでしょう。

 だったら、私達がとるべき道は二つ。

 一つは、ラーデン氏が問題を解決してくれるのを待つ。

 もう一つは、私達で息子さんを追い詰める。」

アーリーは賢いホムンクルスだが、それでもこういったことなら僕の方が向いているようだ。

僕は首を横に振って否定する。

「・・・・・いいや。選択肢は一つしかないよ。アーリー。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いいかい、アーリー?

 これは時間との戦いだ。急いで事件を解決しないと女の子が売り飛ばされてしまう。そうなったら、もう取り返せるとはとても思えない。どこに行くかわかったもんじゃないからね。

 僕達が早いか、ラーデン氏が早いか。どちらでもいい。でも、どちらの可能性も追い求めないと間に合わなくなっちゃうんだ。これはそういう戦いだよ。」

僕は自信をもって断言すると、アーリーは嬉しそうに何回もコクコクと首を縦に振る。

「ええ。ええっ!! ジュリアン様。その通りですっ!!

 一刻も早く、女の子を救い出してあげましょうっ!!」

そうだっ! 僕らはやらなくてはいけないんだっ!!


しかし、兵士のことになるとアーリーよりも僕の方が随分ずいぶんと事情に詳しい。どこの国でも軍の規則は同じだ。

こんな寂しい街に派遣される兵士なんか、出世街道から外れた隊長が指揮をっているに決まっている。そういうやつこそ堕落だらくしやすい。そして、人身売買なんかするなら人数も必要だ。こんな寂しい街にだって手下がいる隊長が黒幕なのは明らかだ。安い給料の下っ端たちも喜んで従うだろう。だったら、的を絞りやすいってものだ。

僕らは通行人に兵士が駐在ちゅうざいしている建物の場所を教えてもらい、速やかに移動する。

駐在所に着くと僕達は、少数民族の若者が暴行されて、その娘が連れ去られたことを、さも大ごとのように兵士たちに報告するのだった。

「本当ですよっ!? 僕達はこの町に来て数日しかたっていませんが、平和な町だと思っていたのに、子供が連れ去られても町の人は、止めもしない。

 ああ、なんて残酷な町なんでしょうか? 兵士さん、すぐに子供を取り返してやってください!!

 そうしてくれないと、あの若者は哀しみのまま死んでしまうだろうし、僕達はアナタたちが何もしてくれなかったら、そのことを中央に言いつけないといけなくなってしまいますよ!!」

何時いつの時代、何処どこの国だろうと、役人は中央への報告を何よりも恐れる。僕はその心理を利用して、さりげなくおどしをかけながら訴えを起こしてみる。

すると、受付となる建物の入り口にいた下っ端の兵士が青ざめた顔で上司へ報告へ向かった。しばらくするとさっきの兵士が責任者とともに僕の所へ戻ってきた。


「つまらないホラ話をしに来た少年と言うのは貴様かっ!

 この町ではそのような事件の目撃者の情報は、他に来ておらん。つまらないデマをバラまくと子供であろうと、タダでは済まんぞっ!!」

現れた責任者らしき男は、僕の顔を見るなりそう言って威嚇いかくしてきた。ありきたりのつまらない手段だ。

僕は鼻で笑うとその発言を非難する、

「それはおかしい。僕が皆の代表できただけです。そもそも現場も見に来もしないで、何故断言できるのです。それは、明らかに職務怠慢しょくむたいまんですよ?」

「こ、このガキっ!!」

責任者は思わず暴言を吐いた。それから僕を脅すのだろう。

そう、例えば「では、現場を見に行ってやろう。その時にお前以外の目撃者や商人がいない場合は、お前を牢獄に入れてやるぞ」と。

だから、僕は先手を打つ。

「もし、現場に被害者も僕以外の目撃者、証言者がいない場合は、僕を牢獄へ入れればよろしい。」

責任者はその言葉を聞いて、わずかに動揺する表情を見せたがすぐに冷静さを取り戻して「では、現場に行こう。今の言葉を忘れるな!」と、念を押す。

彼の自信は、町の人々を黙らせることが出来る権力者ならではのものだろう。誰も町を任された役人を敵に回したくはない。

だから、こういうのだろう。でも、僕には切り札があった。アーリーに耳打ちして切り札を告げる。

アーリーは驚いてはいたが、僕の指示に従って、駐屯所を出ていった。

「では、ご案内します。」

そう言って、責任者に告げると僕は、兵士たちを放っておいてさっさと現場へと向かう。

「おい、こら。まてっ!! 待たんか、こらっ!!」

責任者の怒鳴り声が聞こえていたが、僕は無視してやるのだった。

そのまま駐屯地の兵士一同を引き連れてサクサクと現場へと歩き進み、倒れた若者の姿を責任者に見せる。

「ご覧の通り、被害者はここにっ!」

僕が若者を指さすと、責任者は若者を見てその傷の深さに流石に顔をしかめた。そして、すぐに部下に回復魔法をかけるように指示する。

「確かに怪我人はいるが、ラーデンの息子がこの者の娘をさらったのを見たものがいるか?」

責任者がそう声を上げると、誰もが顔を伏せてしまった。役人を恐れてのことだ。ラーデン氏の息子とこの責任者が繋がっていれば、誰がラーデンの息子が誘拐犯と指摘しよう?

暫くの沈黙の後、責任者は咳払い一つしてから、

「怪我人を介抱し、通報したさま。殊勝である。

 それに免じて今回は、見逃すが、あまり目立つ真似をするなよ?」

と、勝ち誇ったように言う。しかも、僕に温情を示し、良き役人まで演じきった。見事だ。

だが・・・。

「その若者の娘ならここにいるっ!!」

そう声を上げた者がいた。

それは勿論。アーリーから連絡を受けて、慌てて息子から少女を取り戻したラーデン氏だ。

「お父さんっ!!」

少女は父親を見るとラーデン氏の手から離れて父親に駆け寄り、泣きながら抱きついた。父親も同じく声を上げて泣いた。そして、その姿を見て、街の人々も涙を流す。

「悪いな。坊主。

 娘は取り返した。親バカで悪いが、倅は見逃してやってくれ・・・・」

ラーデン氏はアーリーから事情を聞くと、ガラ空きになった駐在所に手下を引き連れて突撃して、建物の中にいた息子から少女を取り戻してくれたのだった。息子は守ってくれるはずの兵士が僕についていってしまったので、父親の出現にさぞかし驚いただろう。

周りの人に聞こえぬように小さな声で僕に耳打ちするラーデン氏に敬意を払ってこれ以上の追求はしない約束をするのだった。それにどうせ、既に息子は父親にボコボコに折檻されたことであろう。


僕の目に街の人に混ざって親子を見るアーリーの姿が見えた。

ホムンクルスの彼女は涙することはないが、震えるその肩が彼女の心をあらわしていた。

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