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やりすぎだぞっ!!

町を追い出され、すごすごと立ち去る少数民族の若者の背中を見ながらミレーヌがいう。

「彼はまたやってきますよ。

 生きるために、危険を冒してでも、家族を養うためには稼がないといけないのですから・・・・。」


ミレーヌの表情には憐れみが感じられた。同病相哀どうびょうあいあわれむ。そんな言葉が今のミレーヌにはぴったりだろう。

彼女もいわゆる賤民せんみんの出だ。暗殺者の一族に生まれ育ったが、この一族も恐らく最初から暗殺者集団であるまい。長い歴史の中でそれ以外の手段なく、その技術を生業なりわいとして生き残る道を選んだ。暗殺者は他人からみ嫌われる存在として孤立する。孤立すればするほど、社会から奇異きいな目で見られて生きていく。そして、次第しだい次第に賤民としての地位に落ちる。社会から隔離され、下賤げせんの者というレッテルを張られて侮蔑ぶべつの対象になる。

それでも暗殺者集団には返り咲く可能性があった。それは戦争で武功を上げることだ。そうすれば、やがて、地位も上がり、あわよくば領主になれるだろう。ミレーヌの一族はみんなそんな夢を見ながら、お互いをなぐさめあって生きてきたのだろう。

少数民族の彼らも同じだろう。多くの民族がまじわって一つとなって行く中、彼らはその中に交わらなかった。理由は大体、先祖が戦争に負けたとかそんなところなのだ。戦争に負け、僻地へきちに逃げ込み、そこでの自治を許されるものの彼らの社会ステータスは賤民だ。こうしてわずかな収益を求めて町に出てきても、石持いしもて追われる存在・・・・・。そんな若者に対してミレーヌが同情するのは、当然のことだった。


さて、僕達は宿に戻ると「冒険者の仕事はやるに値しない。」と、師匠に報告する。

師匠・魔神フー・フー・ロー様は、僕達の話を愉快そうにじっと聞いておられたが、「まぁ、それも良かろう。」と、お許しくださった。

僕には師匠が僕達を愉快そうに見つめる目の意味が気になったが、それを問うことはしなかった。師匠は神であるゆえに多くを教えてくれないことを僕は知っていたからだ。

しかし、そうなると僕達はやっぱり昼間は町での情報収集の時間に当てられる。

僕らは商店街を歩きながら、町の人々に話しかける。

「やぁ、景気はどうですか?」

僕がそう声をかけると、大抵の店の主人が「これから良くなるよ。戦争に勝ったからね。」と、答えるのだった。店の主人が気さくに返事を返してくれるのは、景気が良くなることだけが原因ではない。僕がこの町で色々と高価な買い物をしている上客じょうきゃくで、しかも、少数民族の若者を説得して追い出したからだ。人死ひとじにが出てもおかしくなかった状況を丸く収めた僕を町の皆は「知恵者だ。」といって評価してくれた。この町で僕達は歓迎されていたんだ。

でも、この前線から遠く離れた町では、戦地だった場所の情報はまだそれほど広まっていない。敗れた国がどうなったのか、国民がどうなったのかまでは伝わってはいないし、ドラゴニオン王国含め世界情勢については全く情報を得られなかった。

「・・・・こんな田舎町では、当然ですわ。」

アーリーは、そう呟きながら、ヌー・ラー・ヌーに提供するおやつの具材を選別する。メイド姿のアーリーにとって戦況よりも大事なことは、師匠やヌー・ラー・ヌーの世話をすることだ。またお世話をするのはアーリーだけでなく、戦いに敗れてヌー・ラー・ヌーのエッチな拷問に屈して奴隷の呪いが付与された首輪をつけられた水精霊騎士ミュー・ミュー・レイも、共にいつも甲斐甲斐かいがいしく師匠たちに仕えている。それも夜のおつとめも・・・・・。ミュー・ミュー・レイが新たにご奉仕役に加わったことにより、ただれたおつとめは過激さを増しているが、小さな町の事。滅多に僕達以外の泊り客はいないので、どうにかご迷惑にはなっていないようだ。ただ、宿の子供たちは、教育に悪いという事で親族の家に泊っているという。本当にご迷惑な話で申し訳ない。

ただ、貴人に ”ご奉仕する為セクサロイド ” に作られたアーリーにとって、それは当然のお勤めであり、何も恥ずるところはない。それどころか世界情勢だってどうでもいいわって思っているのかもしれない。眠たそうな目で、しっかりと食材を見つめる姿は何処か悩まし気な色気をまとっていて、彼女を作ったネクロマンサーは、相当優秀なのだと感心させられる。

「なんですか? ジュリアン様。目つきがいやらしいですよ?

 ・・・ご奉仕をお望みで?」

ねっとりと舐めるような視線で僕を見つめるアーリーにドキッとしてしまうものの、そんな僕の前にはオリヴィアとミレーヌが立ちふさがってくれる。

む~っ!!、とアーリーをにらみつけると、僕の手を引いて宿に戻る。そんな僕達に「やれやれ。お子様なこと・・・・」と呆れた声を上げるアーリーだった。


そんな風に昼は楽しく、夜は命がけの訓練をする僕達だったが、ある日、事件が起きた。

ミレーヌが予言した通り、あの若者が戻ってきてしまったのだ。

町の人たちは、彼を一目見た瞬間に怒り狂って、彼の露店をボロボロにした上に、食材を地面に投げつけて、踏みつけにした。

たまりかねた若者が町の人に殴りかかり、大けがを負わせたうえに、彼自身も町の人から袋叩きに合って大けがを負ってしまった。その上、若者が連れていた幼子おさなごを誰かが誘拐していったというのだった。

僕達は、騒動があったことを聞いてから若者の露店があった場所に駈けつけたので、その時の現場は見ていないが、壊された露店と地面に散乱する食材から、大体の事情は把握する。しかし、衣服をボロボロに引き裂かれた上に全身、打撲傷たぼくきずまみれの若者が路上に放置されているのを見て、流石に黙っていられなくなって、僕達は若者を介抱する。傷を水で洗ってやり、消毒と傷を塞ぐ効果のある香油こうゆを塗ってやって介抱してやる。治癒魔法で直してあげたいところだが、目立つ真似も出来ずに、僕達は、ただ心配することしかできなかった。

「そんな奴、介抱することはねぇっ! そいつに雑貨屋のアルは殴られて鼻の骨を折ったんだっ!!」

町の人々は、そう言って僕に抗議するけれど「これを放っておいたら死ぬぞ? そうしたら殺人だ。役人が来て尋問じんもんされることになるがいいのか?」と、言い返したら、抗議する者はつばを吐いて立ち去って行ったが、それ以降は抗議に来る者はいなくなった。


僕らがこの若者を介抱してから、30分ほど時が経っただろうか? 

若者が目を覚ました。

「大丈夫ですか? 状況はわかりますか? 

 君は、露店を町に出して袋叩きに合って、意識を失った。

 どこか体に異変はないですか?」

僕がそう言って問いかけると、若者は段々と記憶を取り戻したようで、「ああ・・・ありがとう・・。」と、答えるのだった。

ただ、突然、ハッとしたように声を上げてから、痛む体で震えながら僕にすがって頼んだ。

「誰かが、俺の娘を連れ去ったんだ。

 娘はまだ8歳だ。どんな乱暴をされるか分かったものじゃない。

 売り飛ばされてしまうかもしれないっ! 助けてくれっ!!」

8歳の娘さん。そうか、あの時、泣き声を上げてた子か。

これは大変だ。売り飛ばされて奴隷にされるかもしれないし、さらったやつが変態だったら、どんな性的虐待を受けるかわからない。

僕とオリヴィアとミレーヌは声を上げて町の人に尋ねた。

「この若者の娘がさらわれた!

 皆、この若者への怒りがあるのはわかるが、小さな娘をさらうのはいくら何でもやりすぎだっ!!

 貴方あなた達にも子供がいるでしょう? それが売り飛ばされたり、変態にひどい目にあわされると考えてごらんなさい。

 どうか、教えてくださいっ!! 彼の娘は何処ですかっ!?」

自分の子供がさらわれたらどうする? と言う僕達の問いかけは、流石に町の人たちの心に刺さったようだ。

数人の町人が僕達のそばに来て、「これは内緒なんだが、この町の顔役の息子に連れ去られた。」と、耳打ちしてくれた。

顔役の息子と言う事で、誰も逆らえない。心ある人がごく内密に教えてくれたのだ。

僕は彼らに感謝して、娘を取り戻してやることにした。

「君。僕が必ず娘さんを救ってあげるから、君は体を直すことに専念するんだ。いいね?」

僕が念を押してやると、若者は「ありがとう、ありがとう」と、涙をこぼして感謝してくれた。

僕は、若者の介抱役と、ボディーガード役としてミレーヌとオリヴィアを残してこの場を去るのだった。


何故か、アーリーがついてきたけど・・・・・・。

戦闘力が無いアーリーは足手まといかもしれないけど、ま、いっかっ!!

僕だったら、小さな町の顔役の息子くらい問題ないっ!!

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