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冒険者だよっ!!

オリヴィアは声を上げて泣くのだった。

僕はオリヴィアの師匠じゃない。僕には彼女を指導する事は出来ない。彼女の願いを叶えてあげられるような力は無いんだ。

でも、僕はオリヴィアの恋人だ。

だから、僕に出来ることは彼女が泣き止むまで優しく抱きしめて上げることと、泣き止んだら、優しいキスをしてあげることだけ。


それは他の誰にもできないことだった・・・・・・・。


オリヴィアの震える肩を抱き寄せて、優しいキスをしてあげる。オリヴィアは折角せっかく、泣き止んだ目から再び涙を流しながら、何度も僕を求めてキスをせがんだ。

このキスに何か意味があるんけじゃない。お互いに明確に言葉にして伝えられるものはなにもない。

いや、むしろ僕たちは、言葉では伝えられないものを伝えるためにキスを重ねるのだった。

そうして、ようやく彼女が落ち着いたとき、僕らは宿に戻ることにした。

「そうだ、オリヴィア。

 稽古の時間には限りがあるね。これ以上長い時間やって遅くなったら、お風呂に入れなくなっちゃうよ!」

なんて冗談を言うとオリヴィアは、少し拗ねたように「もうっ!!」と、笑うのだった。

「ジュリアン様、オリヴィアばっかりズルい。

 私もキスする。

 というか、子種もらう。」

いや、だからね、シズール・・・・・。

すっかり僕とオリヴィアだけの時間を作ってしまって、シズールがふくれっ面になってヤキモチを焼いた。そして、我慢できないとばかりに僕の腕に飛びついてくるのだった。

「私も頑張った。

 稽古、頑張った。

 私にもご褒美!!」

それを見ていたミレーヌもこのビッグウェーブに乗ろうと普段は控えめなのに、ここぞとばかりに迫ってくる。

「ジュリアン様!!

 そうですよ! オリヴィアだけじゃなくて私達も頑張って稽古していますから、ご褒美くださいっ!!」

二人とも超ロリータ体形のオリヴィアと違って、体つきは極上。福耳ならぬ福乳の持ち主で、抱きつかれた僕の腕は、とても柔らかい二人のオッパイに包み込まれてしまうのだった。

「・・・・・変態っ!!」

途端に僕を軽蔑するような目でオリヴィアが睨みつけながら、僕の体から離れて歩く。

ちょっと、待ってよ!!、と僕が声をかけようとしたとき、帰りが遅い僕達を心配したヌー・ラー・ヌーが迎えに来てくれた。


「心配してきてみれば、青春してるじゃない?

 さぁ、お風呂に入って、ご飯にしなさい。」

僕達は、ヌー・ラー・ヌーの言葉に従って、お風呂に入ってから、食事をとる。

その食事の最中に師匠・魔神フー・フー・ロー様が提案する。

「このまま・・・・ただ、稽古をして情報収集だけじゃつまらんだろう?

 お前達、ちょっと役所に行って仕事を貰ってこい。」

仕事と言うのは、もちろん冒険者としての仕事。冒険者とは、基本、トレジャーハンターなのだけれども、それだけでは食べていけないので、動物やモンスターを狩って肉屋に売ったり、場合によっては、護衛や盗賊退治などの仕事も受ける。まぁ、薄給はっきゅうだけれども、それでも根無し草の冒険者には貴重な収入源となる。仕事は大体、役所、商工会議所などから委託されて行われる。国からの依頼の場合もあるけどね。基本的には、民衆からの依頼だ。

「腕試しが出来て、その上、民草を救えるのなら、願ってもない事です。」

僕は師匠の提案を大歓迎する。

ただ・・・オリヴィアは否定的だった。

「退屈も何も、私の目的はクリスのかたきを打ち、転生者としての責務も全うすることです。

 日々修練しなくてはいけません。今、また遠回りするようなことはしたくありません。」

ハッキリと師匠の言葉に歯向かうオリヴィアに師匠はため息をつく。

「お前な。俺が慈悲深い神と思って気を許しすぎだ。

 あんまり調子に乗っていると、タダでは済まさんぞ。」

師匠は神だ。それにたてついて警告で済んでいるのは、かなりの温情だ。普通は即刻死刑だ。

僕らは師匠の慈悲に感謝する者の、オリヴィアは引き下がらなかった。

「私に復讐を果たせと言って平手打ちしたのは師匠ではありませんか!

 転生者としての使命を果たせともジュリアン様におっしゃいましたし!

 ・・・・とにかく私は無駄に時間を過ごしたくはないのですっ!!」

最悪の対応だった。

神である師匠に逆らうなと警告を受けた。その返す言葉が反抗そのものだったからだ。

普通なら、その場で死刑だ。僕は師匠に許しを言上ごんじょうを並べて、オリヴィアの助命を嘆願しなくてはいけない。・・・・本来ならば。

本来ならば・・・というのはオリヴィアがそう言い終わるまで師匠は、怒りもせず、ただジッとオリヴィアを見ていたからだ。その眼はオリヴィアを威嚇いかくするためのものではなく、オリヴィアを観察する目つきだった。だから、僕は安心してこのやり取りを見ることが出来た。

師匠は、オリヴィアの立場に配慮はいりょしてくださっている。殺されることはあるまい。


「オリヴィア。それにジュリアンよ。

 お前たちは転生者の使命を勘違いしている。

 それがわかるようになるまで、ひとまず仕事をしてこい。」


・・・・え? 転生者の使命を勘違い?・・・僕も・・・?

想像もしていなかった返しが師匠から返ってきて、僕は混乱したし、他の皆も混乱していた。

てっきりオリヴィアだけが叱られることになると思っていたのに、そこへ突如僕まで入ってきたからだ。これに関して言えば、僕も反論したいことがある。だって、僕は精一杯やっている。転生者の役割と立場をよく理解して、わがままは言わずに運命と向き合おうとしてきた。それなのに、僕が勘違いしているなんて・・・・・。

そんなはずはないっ!! そんなはずはないっ・・・・と言いたいところだけれども、言っていい相手ではない。僕は反論したい気持ちをグッと抑えながら、

師匠に

「明日、役所に行って仕事を貰ってきます。

 その任務と向き合って、師匠が仰った転生者の使命について何を誤解しているのか自分に問いたいと思います。」

と、答えるのだった・・・・・。


翌朝、僕達はヌー・ラー・ヌーが作ってくれたスープと団子を食べてから、この町の役所に向かう。

その道中にミレーヌが皆に尋ねた。

「ねぇ、今日、宿が提供する朝食ではなくて、ヌー・ラー・ヌー様が朝食を作って下さったけれど、あの食事には何か意味があるのかしら?

 ほら。前に私達が砦が全滅した話を聞いて落ち込んでいた時には、あの走り大トカゲのお肉を使って私達を啓蒙けいもうしてくれたじゃない? ※啓蒙とは教え導くという意味。

 今日の朝食にも意味があるのかな?」

ミレーヌは全員に向けて話して、最後にオリヴィアを見た。

オリヴィアは、「確かに・・・・」と答えてから、考え込みながら歩いていたけれども、とうとう役所に着くまではその答えを僕たち全員だせずにいた。

「ここが役所だな。」

「ええ・・・きっとそうだと思います。」

僕達は異国の事で僕達の祖国ドラゴニオン王国とは文化が違うとはいうものの、その建物の構造から、ここが役所だろうと察した。全員がそうであろうと同意したのだから間違いないはずだ。

僕達は迷いなく役所の中に入っていった。

役所の作りはとにかくシンプルだ。扉を入って、まっすぐ進むとどんつきにあるカウンターが受付だってすぐにわかる。

僕は真っすぐに進むと受付のお姉さんに尋ねた。


「やぁ、こんにちは。冒険者です。

 何かお困りなことはありませんか?」

お姉さんは、ちょっと困った顔をしながら、

「ごめんなさい。貴方達、このあいだ入ってきた人たちよね?

 そういう人たちにすぐに高報酬の依頼は出来ないのだけれども、いいかしら?」

ああ。勿論ですよ

そうやって最初の内は地下街のネズミ退治とかやって冒険者レベル上げていくやつでしょ?

いいかしらもなにも、前世で散々遊んだゲーム的な展開だ。アレを実体験できるのならむしろウェルカムですよ。

「勿論、事情は承知しております。こちらとしても何の問題もありません。」

僕は笑顔でそう答えた。


でも現実は、そんなに甘くなかった・・・・。僕らはこのリアルな世界の冒険者の世知辛せちがらさを思い知ることになるのだった・・・。 



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