可哀想だよっ!!
僕達は、新たに着いた小さな町で衝撃的な事実を知った。
それは、僕達の祖国ドラゴニアン王国の傭兵が死守するルーザ・デ・コスタリオ国内の砦が敵国ラインドロオ公国の大軍勢の前に陥落して全滅したという話だった。たった数日のうちに陥落してしまったというのだ。これまで長期にわたる持久戦に耐えてきた砦がこうもアッサリと陥落することは通常では考えられない。
元々、この砦の場所を決めたり、長期戦に耐えられるように作戦を考えたのは、僕と父上だ。(※第一部12話「初めてのキスっ!!」参照)
完璧な作戦だった。にもかかわらず、たった数日で陥落してしまった理由は、砦内部に裏切り者かスパイが出たとしか考えられない。
内部の裏切り者がラインドロオ公国と交渉の末、自分の安全の保証と多額の報酬をもらう約束をして、内部から扉を開けた。若しくは砦に入ったスパイがそれを行った。その光景を想像するのは難しく無い。
きっと敵国は長い時間をかけて、裏切り者と交渉してこの状況を作り出した。スパイが犯人だった場合は、スパイを別ルートから商業国家内部に侵入させたのだろう。スパイは恐らく、商業国家ルーザ・デ・コスタリオから砦に入った。敵と戦争しているとき、敵の方向へ対しては警戒心も沸くものだが、仲間内から侵入されたら防ぎようがない。この戦争に関係が無い外国人を装ってルーザ・デ・コスタリオに侵入して、そこで信頼を得た10数名が砦の扉を解放する。そんなことが起きるはずが無いと考えていたら、それに対処する作戦も訓練もしていなかっただろうから、成す術もなく現場は大混乱して収拾もつかず、あっさりと砦は陥落しただろう。
長期戦の末、ラインドロオ公国の親元の国家軍事大国ラー・ラー・デ・コスタが3万の大軍勢を投入したのは無策な力押しではなかったのだ。すべてこのため準備を整えてからの満を持しての投入だったのだろう。
どう転んでもこの戦争は最初から彼らの勝ちが決まっていたのだろう。
救えなかった・・・・。
その無念さが僕を襲う。皆を危険に晒し、災の神ドゥルゲットの追跡まで受ける事になり、これまで以上に危険で不自由な旅にしてしまったというのに、僕は誰も救えなかったのだ。
傭兵部隊は全滅。その後は商業国家は蹂躙され、多くの人が奴隷にされたと聞いた。おそらく今頃、あの最前線の街には多くの奴隷が売られていることだろう。
僕達はそれを考えただけでも胸が痛み、慌てて宿に戻って、皆で泣いた。
「ユリアのお父さん。救えなかった。」
「多くの人が、奴隷にされちゃったよ。可愛そうだよ。」
「あの砦の人たち皆、殺されたの?」
僕達は泣いて泣いて泣いて、その日は、泣き明かした。
師匠もヌー・ラー・ヌーたちも僕らを気遣って、その日は、家事の一切をやってくれた。師匠魔神フー・フー・ロー様は父神である「氷と泥の国の王」の善性を引き継いでいるのでたいへん慈悲深い神と知ってはいたが、この期に及んで師匠の優しさが身に沁みるのだった。
だけど、師匠は厳しさも忘れない神だった。翌朝には、僕達をいつまでも甘やかさなかった。
「あの砦が全滅することははじめからわかっていたことだ。おまえ達には覚悟が足りぬ。
よくよく考えてみよ。この先、誰が死ぬのかもわからぬ可能性があることをな。我々を追ってくる魔神は、それほどの神。
お前達に今必要なものは、涙ではなく、戦いに備える準備と覚悟である、」
師匠は食欲が無いという僕らを集めて、そう説教すると無理矢理にでも朝食を取らせる。その内容は、小麦を焼いた団子と肉のスープ。ヌー・ラー・ヌーの手製だった。
そのトロトロのスジ肉の濃厚な旨味。僕はこんな肉を食べたことが無かった。
「これはね。昨日締めた走り大トカゲの肉よ。
大トカゲは弱いから私達に食べられてしまった。人の世は力が無くてはいけないのよ?
さぁ、涙を拭いて戦いなさい。あなた達は力をつけて大切な人を、世界を守らないといけないのだから。」
僕らに語りかけるヌー・ラー・ヌーの優しさに感謝しながら、僕達は決意を新たにするのだった。
いつまでも甘えてはいられない。僕らは強くならなくちゃいけないんだから。僕らはその日から、陽が出ている間は、情報を集めて、夜になると訓練することに決めた。もっと剣術も魔法も一流以上にならねば、僕たちの敵は師匠より高位の神なのだから。
そう決めてからの僕たちの行動に迷いはない。
まずは師匠に与えられた宝石袋を持って換金所に行き、お金を手にすると、服と馬車と馬を買いに行く。
服は硬貨での支払いが良いが、馬車と馬は、高く付くから、宝石のほうがかさばらずに済むので、支払いは宝石を使った。
ただ、この小さな町に僕ら大所帯用の屋台用の馬車はないのでオーダーメイドになる。高くつくし、一月は待って欲しいと店から頼まれた。僕らは一旦、宿に戻ると師匠におうかかがいを立てる。
「師匠。馬車の荷台は一月かかるそうです。部品を個別に買って僕たちで作れば直ぐに作れます。この街に長期滞在する予定ならともかく、短期をお考えなら、僕らで作るべきでしょう。いかがいたしましょうか?」
師匠は、一月待てと言う。
「構わぬ。一月まとう。その間に多くの情報と人脈を作るのだ。
これからは我らは冒険者として名乗ろう。そのほうが大所帯をごまかせるし、宝石での支払いにも不思議はない。」
確かに。ゆくあてのない冒険者達はかさばる金貨よりも宝石を喜ぶ。師匠の持つ宝石が収入源の僕らにとっては、冒険者は身を隠すのにはもってこいかも知れない。
「馬車は怪物との戦闘で壊れた。そういうことにしておこう。」
師匠はそう言って僕らの素性を作るのだった。
そうやって素性を作ったので、僕らは最低でも一月の間はこの町に滞在するのだった。
昼は情報収集。夜は稽古。
特にオリヴィアは稽古には力を入れた。元々、生来の魔力操作の上手さもありグングン魔法は上達していく。しかし、どういうわけか魔法に幅が無い。僕の場合は魔法を化学式のように解析して新たに魔法を作ることは出来たけど、どういうわけかオリヴィアは、いくら稽古してもそうたくさんの種類の魔法を全く使えぬのだった。
「お前ばっかりズルいぞ!」と、次々に魔法を編み出す僕を恨めしそうに見るオリヴィアをなだめるのは大変だった。
しかし、師匠は「人が操る魔法は元々魔神の力に頼るもの。そうなれば、新たな魔法を作るよりも既存の魔法を効率良く使えるように工夫しろ。才能は間違いなくオリヴィアにある」と師匠はオリヴィアを褒めるのだったが、オリヴィアにとっては魔力操作はお箸を持つようなもので器用だとか言う問題ではないらしい。「もっと強い魔法を、もっと強い魔法を」復讐に取り憑かれたオリヴィアにはそれしか頭になかったのだ。
僕は、それが悲しいし、心配だった。
師匠は稽古で手を抜かない。オリヴィアが向かってくるなら、その全てを受け止める。それは、魔法でも武術の稽古でも同じだった。
武術の稽古の時、何度も何度も師匠の槍に跳ね飛ばされても向かっていく。魔法の防具をつけているので、打撲傷だけはたいしたことはない。しかし、跳ね飛ばされていては軽い脳震盪を起こすし、全力で師匠に向かっていくから、気力的な限界は来る。
そんな限界の際まで師匠は手加減しない。そうやってボロボロになってもオリヴィアは止まらない。
例え師匠が「今日はこれまでとする!」と、宣言しても「もう一番、お願いします!!」と言って聞かない。
その執念に呆れてため息をつく師匠を横目に見ながら、僕は稽古に必死になりすぎてボロボロになった彼女の体を抱きしめて引き止める。
「もういい、オリヴィア!!
これ以上、無理をしたら強くなるどころか、体が壊れてしまう!!」
「嫌よ! 弱いままだと、ずっと逃げ回っていないといけないわ!
それだと、いつまで経ってもクリスの仇もとれないし、クリスの体も取り戻せないっ!!」
僕の制止も振り切って、オリヴィアは師匠に「もう一番」を頼むのだった。
「稽古を詰めば、努力をすれば、絶対に強くなれると思っているなら、言ってやる!
甘ったれるのもいい加減にしろっ!!」
師匠はついに突き放すように言い放つと、その場を去っていってしまう。そんな師匠の去りゆく背中を見ながら、オリヴィアは号泣する。
「ああああっー!!!」
声を上げてボロボロの体を丸めて、泣くのだった。
僕はオリヴィアの師匠じゃない。僕には彼女を指導する事は出来ない。彼女の願いを叶えてあげられるような力は無いんだ。
でも、僕はオリヴィアの恋人だ。
だから、僕に出来ることは彼女が泣き止むまで優しく抱きしめて上げることと、泣き止んだら、優しいキスをしてあげることだけ。
それは他の誰にもできないことだった・・・・・・・。




