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魔神が来るよっ!!

「もうじき、町の住人の記憶から俺たちのことは消える。

 今はとりあえず馬車で長距離移動してから、ミュー・ミュー・レイから情報を引き出そう・・・。」

僕達は馬車に乗って戦場から離れていくのだった。


折角せっかく、ドラゴニオン王国の影響が少ない地で情報収集ができると思ったのに、僕の浅はかな行動が原因で、ドラゴニオン王国の多くの情報が得られるであろう戦場から遠ざかっていくのだった・・・・。


それから4日。僕達は馬車で4日ほど移動した山中で拠点を築くことにする。山と言っても人の土地かもしれないし、木こりが仕事をしに上がってくるかもしれない。だから、大掛かりな宿泊施設は作れないので、拠点場所は馬車になる。そして馬車に雑魚寝だ。移動中も馬車であったのだから、ある程度の慣れはあるものの年頃の女の子とこれほど近い距離で寝泊まりするというのは、気が引けるものがある。

また、女の子たちがいれば水浴びもしたいだろうし、僕も体の垢を落としたい。

移動中は、師匠が作った氷を溶かした水を温めて()()()に乗せて、男女交代で馬車の中で布で拭き洗うという事にしていたが、やがて、ヌー・ラー・ヌーが「殿方にはわかりませんでしょうが、女には女の事情があります!! いつまでも布で吹き洗いなんて嫌です!!」と、文句を言い出した。それは女子連中からの賛同を得て、一大勢力となって師匠に抗議するようになり、師匠は仕方なく、山中に拠点を決めると、山の木を切り出して小屋ごやを作り、内部に十分な量の湯を張れる風呂桶を作ってくれた。

それで僕達は、この仮拠点で風呂に入ることが出来た。


「さて、みなも周知のように我々は、旅行気分バカンスを満喫する余裕などない。

 追われる立場だ。

 風呂に入ってさっぱりしたところをすまぬが、今後の我々の行動について話し合っておきたいと思う。」

師匠は、食事中にそういって作戦会議が始まることを宣言する。

途端に全員の顔が引き締まる。

それは、今から作戦会議が始まるから。・・・・というだけではなく、誰もが自分たちがいま置かれている状況を正確に理解して危機感を感じていたからだ。

自分たちの状況・・・・。それは僕が激闘の末に土精霊騎士ガークを倒した時、同時に師匠が捕縛した水精霊騎士ミュー・ミュー・レイによってもたらされた情報だった。

ミュー・ミュー・レイは、移動中の4日間のうちに師匠から尋問を任されたヌー・ラー・ヌーの手によって自供させられた。

その手段は口に出すのもはばかられるほど官能的なものだったらしく、僕達、少年少女は席を外した場所で行われていた。ただ、遠く離れていても聞こえてくるミュー・ミュー・レイの悲鳴から・・・・いや、あれはあえごえか・・・・・その壮絶な責め苦が想像できた。

ミュー・ミュー・レイは女性の身でありながら女性も大好きなヌー・ラー・ヌーに中々解放してもらえず、18度目の「お姉様、ごめんなさい。」の後にようやくその責め苦から解放された。しかし、その首には「服従の呪いを込めた鉄首輪」がはめられてしまった。

これはミュー・ミュー・レイがヌー・ラー・ヌーに絶対服従を誓ったのちに血の契約をもってなされるもので、契約を反故ほごにすれば、たちまち首が吹き飛ぶという恐ろしい呪いがかかっている。

しかも、精神的には相当な束縛を強制されるらしく、ミュー・ミュー・レイはヌー・ラー・ヌーのことを「お姉様」とよびしたい、常に寄り添っている。ちなみに・・・・。ヌー・ラー・ヌーが風呂を要求した時、抗議する軍勢にミュー・ミュー・レイも加わっていたことを付け加えておく。それは、ミュー・ミュー・レイがヌー・ラー・ヌーの奴隷と認識されたとともに、僕達の仲間として迎え入れられていることを証明しているものだった・・・・・。


さて、話はそれてしまったが、そう言った事情からミュー・ミュー・レイは、素直に僕達に情報を明け渡してくれた。ただ、それはあまり聞きたくない内容だった。

「私とガークをつかわした災いの神ドゥルゲット様は、フー・フー・ローだんな様への追手として、私たち以外にも魔神ガーン・ガーン・ラー様を召喚して契約を交わしているのを私は見ました。しかも、その配下には闇と暴風の国の騎士ターク・タークをあてがわれています。

 私達が敗北したことはすぐに災いの神ドゥルゲット様に知れるでしょう。そうなれば、まず間違いなく、旦那様たちを狙って魔神ガーン・ガーン・ラー様が追手としてやってくるはずです・・・。」

あの時、ミュー・ミュー・レイは、ヌー・ラー・ヌーの攻め苦に耐えきれずに、涙を流しながら、そう告白したそうだ。

闇と暴風の国の騎士ターク・タークは、ローガンを救出すべくヌー・ラー・ヌーの屋敷へ行ったときに指揮を任されていたゴーレム使いだ。結果的に僕の奇策きさくで時間を稼ぐことに成功して、僕達は師匠の転移魔法で逃げ出すことが出来たけど、あれは相当な強敵だった。

しかも精霊騎士だけでも大変だというのに、今度はガーン・ガーン・ラーという魔神付きだった。

「ガーン・ガーン・ラー様? 聞き覚えのない神ですね。」

ミュー・ミュー・レイからもたらされた情報を聞いた僕は事情も知らずに呑気のんきに師匠に尋ねるのだけれども、師匠はこれまで見たことが無いほど険しい顔をなされていた。魔神ガーン・ガーン・ラー様は、それほどの強敵であるらしい。

師匠がおっしゃるに

「魔神ガーン・ガーン・ラーは、間違いなく俺よりも高位の魔神だ。月と雨の国の王がまだ魔神だったころに女神マルティスを襲って孕ませた子だ。ゆえに生まれながらに魔神としてのくらいを授かっている疫病神よ。闘神でないのがせめてもの救いだが、それでも今、まともに戦えば、我々は全滅する恐れがある。」

師匠の真剣な言葉に僕達は戦慄せんりつしたのだった。


その告白から2日。ついにこれからの行動について師匠が話を切り出したのだ。

皆、バカンスを楽しむかのように過ごした移動期間だったが、本心ではずっとおびえていた。師匠よりも高位の神に狙われている恐怖を感じていた。感じていたからこそ、怖くて出来るだけ考えないようにしてきたのだ。

しかし、それも長くは続かない。誰もこの恐怖の時間に耐えきれなくなっていた。救いの道があるのなら教えてほしい。笑顔を絶やさなかったけれど、心の奥底ではずっと、そう思っていた。

そして、その救いの道を今から話されるっ!! 僕達はいやおうでも真剣になってしまう。


師匠はそんな僕達を見ながら、話しだした。

「皆、危機感を抱いているようだな。それは、結構。それでこそ、今、今後の作戦を話せるというもの。」

師匠は、前置きを言うとテーブルに地図を広げて言うだった。

「今後は、しばらく逃げの一手だ。俺一人ならともかくも、魔神ガーン・ガーン・ラーとの戦闘中に、この大所帯を守り切ることは不可能だからな。悪いが俺はそこまで強い神ではない。ガーン・ガーン・ラー相手によそ見などとてもできぬのだ。

 ならば、やはり、お前たちの実力が付くまでは逃げの一手だ。

 まずはさらに痕跡を消す。

 この移動馬車も途中までは移動用に使うが、その後に我々から遠く離れた場所に廃棄はいきする。その廃棄役は、ローガンお前に頼む。

 それから、残ったメンバーの我々は、しばらく徒歩とほで歩いたのち、新たな馬車を作る。材料はそのあたりの木を遣うが、馬はローガンが持って行ってしまうので、かわりに馬車を引く動物が必要だ。ジュリアン。その動物を探すのはお前の仕事だ。俺が馬車を組み立てるまでにオリヴィア達を引き連れて見つけ出して捕まえて来い。いいな?」

師匠は僕達の目をぐるっと一瞥いちべつして、僕達が十分に作戦を理解していることを確認したのち、ポンっと手を叩いて、「では、作戦を開始する。」と、告げるのだった。


どうやら、僕達の逃避行はまだまだ続くらしい・・・・・・。

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