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撤収を急げっ!!

戦いを終え。無事、僕は土精霊騎士ガークに勝つことが出来た。

そんな僕に師匠・魔神フー・フー・ロー様からお褒めの言葉を授かる。

「よくやった、ジュリアンよ。

 俺の神域内とはいえ、人間のお前が五合ごごうのうちに精霊騎士との決闘に勝利したこと、見事である。

 ただし・・・・。」

師匠は、残ったもう一人の精霊騎士ミュー・ミュー・レイが囚われた恐怖から上げる悲鳴が鬱陶うっとうしいと言ってその唇に猿轡さるぐつわを噛ませると、ミュー・ミュー・レイの美しい体を担ぎ上げてから僕に忠告する。

「こいつらは、俺を倒すために派遣されるにしては弱すぎる下級の精霊騎士。しかも、明らかに俺の存在を聞かされていなかった様子。

 恐らくは、()()()()に使われた捨てごまだろう。

 こいつらにお前が勝利したという事は、俺がお前の味方にでもついていなければ不可能な所業だ。災いの神ドゥルゲットに俺がまだお前の味方であることが伝わっただろう。つまりだ・・・。

 ここからは敵が本腰を入れてくると思えよ・・・。」

 ※威力偵察いりょくていさつとは、小規模部隊で敵を攻撃してみて、その反撃の強さで敵の情報を探る偵察法。兵器の進歩に伴い第2次世界大戦後は、あまり使われない戦法。


師匠の読みは間違いないだろう。だからこそ、僕を過剰かじょうめてはくれない。

最低限の誉め言葉のみでとどめる。

ただし、土精霊騎士ガークの遺品となる大剣と、ガークの体内にある精霊球せいれいきゅうと呼ばれる宝石を僕に譲り渡してくれた。

師匠が手刀しゅとうをガークの遺体に突き立てて、内臓深くにあった精霊球を取り出す光景にはゾッとしたが、その精霊球は、野球のボール程度の大きさで、真っ赤な宝石のように美しい。もしこれを僕が体内に取り込めば、精霊騎士並みの能力を手にできる代物しろものらしい。

どうやって体内に取り込むのかわからないし、適性が無かったら即死するヤバヤバ宝物たからものであるという多少の問題点はあるものの、とにかく凄いご褒美をいただいた・・・・。


でも・・・とりあえず、こいつの出番は当分ないだろう・・・・。

僕は精霊球を懐にしまうと、師匠に指示を仰ぐ。

「師匠。これから、どういたしましょうか?」

「どうするもこうするもない。次なる追手はすぐに来るだろう。我我われわれは、その前にオリヴィア達と合流し、町にいた痕跡を消して逃げねばならん。

 この程度の連中なら俺一人なら問題にもならんが、お前たちを守りながらとなると、心もとない。

 お前たちが成長するまでは、とりあえずは、逃げの一手だ。」

師匠は、そう言うとわき腹を骨折したまま意識を失っているミレーヌに治療を施す必要があると言って、ミレーヌと水精霊騎士ミュー・ミュー・レイを担ぎ上げたまま、オリヴィア達の待つ町へ移動するという。

「ローガン。お前はジュリアンを町まで運んだのち、町の前で敵を警戒せよ。看破の目を持つお前が適任だ。」

「ははっ!!」

作戦が決まるとあとは話が早い。

師匠は神域を作るために地面に書いた神文を回収すると言って、大地に掌をぴたりとつけると、魔力で地面に書かれた神文がまるで師匠の手に吸い込まれていくように集まって消えていく。不思議な奇跡だった。

神文の回収が終わると師匠と僕を担ぎ上げたローガンは一早いちはやくオリヴィア達が待つ町に戻る。


「ミレーヌっ!!!!」

宿に着くと傷ついて失神するミレーヌを見て血相を変えながら、オリヴィアはミレーヌの体に治療を施す。見る見るうちに血色がよくなっていくミレーヌの姿に流石のヌー・ラー・ヌーも舌を巻いた。

「これほどとは・・・・・。」

師匠もそれに同意しつつも「クリスティーナは、もっと凄かった。」と今は亡きオリヴィアの半身であるクリスを褒めた。「オリヴィアはクリスに劣るとはいえ、回復魔法だけは、もはや神の領域に片足突っ込んでいる・・・・。」ともいい、二人の回復魔法を手放しで絶賛する。

その回復魔法の甲斐かいあってミレーヌは程なく意識を取り戻した。

「わ・・・・わたし。いつの間に意識を・・・・?」

「君は敵兵の蹴りを受けてアバラを折られてしまったんだ。何、気にしなくていいよ。オリヴィアが治してくれたからね。」

僕が丁寧に状況を説明してあげると、全員の無事にホッとしたミレーヌは再び意識を失ってしまった。極度の緊張感から解放されて意識が飛んでしまったのだろう・・・・。無理もない。

そして、状況説明を求める者は、ミレーヌ以外にもいた。

火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーだ。

「で・・・・? このメス犬はどういうことなんですの?

 あなた?」

ヌー・ラー・ヌーは、師匠に神鉄しんてつの鎖によってあられもない姿に緊縛きんばくされた水精霊騎士ミュー・ミュー・レイの存在が気に入らないと見える。魔神フー・フー・ロー様を睨みつけて両腕組んだ右手の人差し指を苛立たしそうにトントンと音を立てて叩く。その姿はまるで浮気をとがめる妻のようだ。

流石に師匠は苦笑くしょうする。

「勘違いするな。この女は敵だ。

 情報をはいてもらうために生かして捕らえた。」

そう言われてヌー・ラー・ヌーは、ホッとした表情になってから、師匠に抱き着いて熱いキスをする。

しばらく子供の僕達の目に毒なほど濃厚なキスが繰り広げられて、ローガンが溜まらず苦情を言う。

「神よっ!! 子供たちの前でございまする。」

その言葉にハッとなったヌー・ラー・ヌーが顔を真っ赤にしながら、師匠の体から離れる。

「許せ。こいつはお前も知っているように火の国の王の呪いを受けて長い間、老婆に変えられて、男日照りだったのだ。俺と言う最高の男を前にしては、欲求不満の泉からあふれ出す愛情を理性では止められぬのだ。」

師匠は憎たらしいほど爽やかな笑みを見せてローガンをなだめる。ローガンも大人の男性らしく、それ以上は何も言わなかった。ただ、師匠は、めっちゃヌー・ラー・ヌーにポカポカ背中を殴られてるけどね。

「しかし・・・だ。我我われわれには遊んでいる時間はない。

 総員、直ちにここを出る準備に取り掛かれ!」

その命令だけ出すと、師匠はヌー・ラー・ヌーに水精霊騎士のミュー・ミュー・レイを預けて、自分はこの町にいた痕跡を消すためにこの町の人間の記憶から自分たちを消すといって、何やら魔法儀式を始めるのだった。

ミュー・ミュー・レイを託されたヌー・ラー・ヌーは、嬉しそうな笑顔を浮かべて緊縛されて身動きが出来ないミュー・ミュー・レイの体をまさぐってから、その耳に甘噛みする。

そして「後で私がたっぷり尋問してあげるわ。可愛いお嬢ちゃん。」とささやく。ヌー・ラー・ヌーの言葉と行動にミュー・ミュー・レイの顔が恐怖にそまっていくのがわかる。

僕は何か見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて他のことに手を進める。

「ミレーヌ。シズール。オリヴィア。

 この拠点は放棄する。着替えはもちろん歯ブラシも含めて撤収準備だ、制限時間はない。早く終われば早い方が良い。しかし、一切の痕跡を残さぬように丁寧にやるんだ。いいね?」

僕の命令に頭を何度もコクコク縦に振るオリヴィア達3人が可愛い。ずっと見ていたいけど、そうはいかない。僕達は早々に撤収準備を完了させると、馬車に乗り込み宿を出ていく。

ただ、宿代の支払いの時、宿屋の主人に「昨晩は随分とお楽しみだったようでっ!!」と、強めの嫌味を言われるのがつらかったかな・・・・・。

僕達が町の外へ出た時、ローガンが高台から飛び降りてきて、僕達に合流する。

「私の見た限りでは、今のところ追手はおりませぬ。」

ローガンの報告を受けた師匠は、ローガンの肩をポンッと叩いてねぎらう。

「そうか、安心せよ。お前の看破の目で見破れぬなら心配はない。

 もうじき、町の住人の記憶から俺たちのことは消える。

 今はとりあえず馬車で長距離移動してから、ミュー・ミュー・レイから情報を引き出そう・・・。」


僕達は馬車に乗って戦場から離れていくのだった。

折角、ドラゴニオン王国の影響が少ない地で情報収集ができると思ったのに、僕の浅はかな行動が原因で、ドラゴニオン王国の多くの情報が得られるであろう戦場から遠ざかっていくのだった・・・・。









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