僕は自分が嫌いだよっ!!
「よろしいっ!! 答えは明日の朝まで待つっ!!」
僕達の師匠・魔神フー・フー・ロー様は、この戦争への対応に煮え切らない僕の返答に怒ることもなく、翌朝まで返事を待ってくれると仰った。
こうして、僕は翌朝まで、考える時間を得たのだった。
僕達は、それなりに高級な宿屋を借りて泊る。こういうところは料金が高くつくが、秘密は守れる。
全身をフード付きの貫頭衣で隠した師匠やヌー・ラー・ヌーやシズールについても、店主はなにも尋ねない。秘密を守る教育を受けているんだ。
しかも僕らは大所帯だから、ワンフロア貸し切りだ。たかが行商人にしては行き過ぎているけど、長居はしないので不審に思われる前に出て行ってやり過ごせると思う。
僕達は、宿屋の主人に食事を頼んで部屋に持ってこさせると、そのあとは「お構いなく。」と伝えて自分たちだけの時間にする。
師匠は、食事が終わると「朝まで俺の部屋に近づくなよ。」と言うとヌー・ラー・ヌーをお姫様抱っこして自分の部屋に消えていった。
ただ、5分もしないうちにヌー・ラー・ヌーのあの美しい声が、甘ったるい歓喜の音色を奏でながら響いてきたので、僕らは急いで、そのフロアでできるだけ師匠の部屋から遠い場所へ移って作戦会議を始める・・・。
部屋にたどり着いてすぐには、僕達は赤面して気まずい空気が流れる。
て、いうか。あんなに凛とした淑女のヌー・ラー・ヌーがあんな甘ったれた鳴き声をあげるなんて・・・・・。青少年の僕の股間に悪すぎるだろっ!!
なんたって僕は、ヌー・ラー・ヌーのバカげたサイズのブラジャーを見てしまっているから、具体的なバストサイズを想像できてしまうので、余計に妄想してしまう。
女の子たちも、モジモジと身をゆすって恥ずかしそうにしてるし・・・・。
あ・・・。遠くで宿屋の主人が「お客様っ!!。お客様っ!! 他のフロアのお客様のご迷惑になりますので・・・・。」と苦情を言う声が聞こえてきた。
すみません。それ我らの神の仕業です・・・・。
「すっごい血相変えて飛んできたんだろうなぁ・・・・・。」
僕が何気にボソリと呟いたのが、女子にも受けたようで、皆、思わずクスッと笑う。
まぁ、これで落ち込んでいた僕らもなんとか気分も変えられる。
「では、諸君。ルーザ・デ・コスタリオとラインドロオ公国・ラー・ラー・デ・コスタ連合軍の戦争について、僕らはどうかかわるべきか、話し合おう。
諸君らの忌憚のない意見に期待する。」
僕がそう言うと、ミレーヌがまず手を上げる。
「はい、ミレーヌ君。意見をどうぞ。」
「私はジュリアン様に従います。」
・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・いや、そうじゃなくてね・・・・・。
それだと会議の意味がないんだ、僕は皆の気持ちも尊重しつつ、行動を決めたいんだよ。僕の意見だけでいいなら、会議は必要ない。
だが・・・。
「「「私もジュリアン様に従います。」」」
と、シズールもローガンもアーリーも同調する。
いや、君達ね。・・・・それじゃ意味がないんだって・・・・。
てか、アーリー。君はココに混ざっていいの?
「いや・・・・。私、あっちには居場所がありませんので・・・。」
アーリーは気まずそうに師匠の部屋の方向を指差す。・・・ああ。そりゃ確かに場所ないわ。
「では、仕方ない。ここにいてくれたまえ。
それよりも・・・だ。
諸君らの気持ちを聴かせていただきたいのだが?」
僕がジト目で全員を責めるように言うと、疾風のローガン。これを笑っていなす。
「お言葉を返すようですが、ジュリアン様。
我らは忠実なるジュリアン様の家臣。現段階ではジュリアン様がなさりたいことへの助言こそあれ、対立する意見は早々ありませんぞ。
まずは、ジュリアン様の方から意見を申していただけませんとな。返事のしようもございませぬ。」
う・・・。中々、憎い手を使う。流石に長生きしているだけあって、やり方がうまい。
要するにこの疾風のローガン。助言と称する反対意見をするのも、賛成意見をするのにも、まずは僕の意見を聞いてからと言っているのだ。
はいはい。そうですか・・・。では、僕の意見を言わせていただこうか。
「私は、クリスの仇に早く近づける方を選ぶわ。
それ以外はどうでもいい・・・。」
僕が自分の意見を言おうとした時、オリヴィアが口を開いた。
その眼には未だ復讐の炎が燃え盛っていた。
僕は、その危険なほどに思いつめたオリヴィアの瞳に思わず生唾を飲み込む。
「落ち着くんだ。オリヴィア。
僕達には今は奴と戦うだけの戦力が無い。ここは慎重に選ばないといけないんだ。」
復讐に燃えるオリヴィアの瞳を真っすぐ見つめながら僕は諭す。できるものならば、復讐に取り憑かれているオリヴィアを冷静にしたい。でも、今すぐにそんなことが出来ないことを僕は知っている。だから、あえて彼女に復讐するために合理的な説明をして落ち着かせるのだった。
・・・・僕は、最低の恋人だ・・・
彼女を救う道よりも、先延ばしにする道を選んでいる・・・・。
僕のそんな落胆は、周りの皆にも伝わっているようで、シズールたちが心配そうに僕を見つめていた。きっと、皆も師匠からオリヴィアの精神状態について説明を受けているのだろう。
だから、僕の事を理解してくれている。理解しようとしてくれている・・・・。
でも、本当は・・・。本当の僕は・・・・。
僕だって今すぐ、あのクソ野郎をぶち殺してやりたいっ!!
理性忘れて戦っていいのなら、そうしたいよっ!!
でも、僕はオリヴィアのようにはなれない。皆を守らないといけないから・・・・・。
皆を守らないといけないから・・・・。それが本当にその理由だったらどれだけよかったか・・・・。
きっと、僕は。
きっと僕は、為政者として生きていく定にあった僕は、理性的に生きていくように摺り込まれてしまった。
だから、恋人が殺されたというのに・・・・。オリヴィアのように狂うことさえできないんだ・・・。
そんな自分がとても嫌いだ・・・。嫌いだよっ!! 僕はっ!!
「僕は、この戦争、ルーザ・デ・コスタリオに早急に危機を伝えて逃がすべきと考えているんだ。
もちろん、あの谷間を放棄したら、そこでルーザ・デ・コスタリオは沈む。あの国家にこれ以上戦闘なんかできやしないんだ。
そうなると、ルーザ・デ・コスタリオは蹂躙されてしまう。しかし、遅かれ早かれルーザ・デ・コスタリオは蹂躙される運命にある。そうなる前に逃げ出すべきなんだ。
元々、あの国は権力者たちが逃げ出す算段をしていたくらい脆弱な結束力しかない。
どうせ逃げ出すなら、被害が小さいうちに。そして、多くが外国へ逃げ出せるうちに逃げるべきだと思うんだ。
そして、その橋渡しを僕達がする。どうだろうか?」
僕は自己嫌悪に狂いながらも、その自己嫌悪の原因となっている理性で淡々と作戦を皆に説明する。
僕の意見を聞いてミレーヌとアーリーとシズールは賛成してくれたけど、オリヴィアと疾風のローガンは反対した。
オリヴィアは、相変わらず、
「それでは、私達の戦力が増えるような展開にならないわ。時間の無駄よ。そういうことなら、別の土地へ移動して私達の戦力になる人たちを探すべきよ。」
と、復讐第一の考えで他は意に介さないらしい。
だが、ローガンは違った。大変厳しい意見を主張するのだった。
「ジュリアン様。貴方はそれをどうやってドラゴニオン王国の傭兵に伝えるおつもりですかな?
この敵地でドラゴニオン王国の傭兵へ伝言を頼める相手をお探しになるおつもりかな?
もしかして直接お伝えに行くおつもりですか?
あの谷間にいるのは、貴方の敵ばかりですぞ?
それとも、まさか・・・・。未だにあの土地にいる者共が貴方のことを王子として扱ってくれるとか本気で考えておられるわけではありますまいな?
だとしたら、世間知らずも甚だしいっ!! 貴方は父王から敵として扱われていることを理解しておられない。そして、父王に逆らって逃亡した王子が、その国の兵士からどういう扱いを受けるのか考えてもいないのでは、ありますまいな?
甘ったれたお考えは、お捨てなさい。」
ローガンの言葉に僕は凍り付くのだった。




