冗談じゃないぞっ!!
僕とスティールが決闘したその日の晩。傷だらけのスティールの顔を見て僕達の決闘のことを知った教授たちは慌てて僕達が宿泊している王家所有の別荘に抗議しに駆け込んできた。
「ジュ・・・ジュジュジュ・・・・ジュリアン殿下っ!! 乱暴はおやめくださいっ!!」
顔を真っ赤にして怒るのは、引率教員の一人アルバート教授。
しかし、これには誤解がある。
「乱暴? お言葉を返すようですが教授。あれは乱暴ではありません。男同士、正々堂々の決闘でした。」
僕は胸を張って反論する。
だって、その通りなんだもん。西洋でも東洋でも武士や騎士の世界には、男のプライドをかけた正々堂々とした勝負方法「決闘」がある。それはこの世界にも当然のようにある。男の誇りの決着の付け方は何処の世界でも同じというわけだね。
そして、僕は立会人を付けて正々堂々の戦いをして勝利した。それも明らかに体格差のある相手にだ。ボクシングだったら4階級以上離れてるんじゃないのかな? 詳しくないけど、1階級2キロくらい離れてるんでしょ? あれ。
僕とスティールは恐らく10キロ近くは離れていたはずだ。地球の格闘技だったら、フェアじゃないと格闘技ファンから大バッシングを受けるような不利極まりない試合に僕は勝利したのだ。一体、どこの誰に文句をつける権利があるというのだ?
僕は、自信満々でアルバート教授を見つめ返していると、アルバート教授は「はぁーっ」と、深いため息をついて、「本当に気がお強い。その御気性は、間違いなく殿下のお父上、ミカエラ王のもの。ミカエラ王もお若い時は、よく決闘をしておられました・・・・・。血ですなぁ・・・・。」と、しみじみ語るのだった。
「・・・・・アルバート教授は、父上の若いころをご存じでしたか?」
僕は父上の若いころを知っている教授の存在を知って少し興味がわいた。
・・・て、いうか父上も学生の頃、よく決闘してたのか・・・・。
「私は、ミカエラ様と同い年ということもあって、小姓としてお仕えしておりました。ミカエラ王には本当に可愛がっていただきました。王は公平な方で、誰にも優しく接してくださったのですが、どうも厄介ごとがお好きな性分で、なにかあると「決闘で決着を付けよう!」と仰っておられました。負けたお姿は終ぞ見ませんでした。本当にお強い方でしたなぁ。そういったところもよく似ておられますね。」
僕はアルバート教授の話を聞いて少し誇らしくなった。
そう、恐らく前世の僕と今生の僕の魂が大きく異なる理由は、王家という絶大な権力を持つ家に生まれたことに由来しない。質実剛健を絵にかいたような父上の子に生まれ、幼いころから徹底的に鍛え上げられたことに由来する。
僕が生まれた傭兵王国「ドラゴニオン」は、大陸の最も西の端に位置する農業にあまり適さない土地にある。そのため、この地方の豪族は、古くから他の地方の戦争に「出稼ぎ」に行くことを生業にしていた。各地の戦争に助勢を嘆願されれば、多額の報酬を条件に戦争に加勢する。それがやがて僕の王家によってこの地方が統一されて一つの国家として成立した。ドラゴニオンは、農業に適さず、かつ、海運にしてもなんのメリットもない立地条件にあったので、どこの国もこの国を欲しがらなかった。欲しがったのは、その軍事力のみだった。報酬を出すなら、敵味方で争っている両勢力に同時に軍事力を提供する姿勢から「金のためなら何でもする戦闘狂の蛮族」などと罵られることもあるが、戦場においては自国の兵力を傷つけることなく戦争を行うことが出来るのでどこの国もドラゴニオンを重宝した。
そんな武闘派国家だったので、国王は屈強でなくてはならなかった。だから、僕も徹底的に鍛え上げられた。
そして何よりも報酬次第で何でもすると揶揄される国家だけに国王には理性と品格が求められた。
それは野蛮と罵られることに対する反逆でもあり、理性的であるからこそ、報酬を払う国家に対して裏切りを行わない「信頼」を得ることが出来るからだ。
かつて、ドラゴニオンから派遣された豪族の中には、雇われ先の敵国からの多額の報酬に目がくらみ、敵国へ懐柔されて裏切ったものもいたが、全てドラゴニオンが裏切り者を責任をもって粛清したし、多額の違約金を迷惑をかけた国に正直に支払ってきた。そういった誠実さがドラゴニオンの存在価値を高めていたのだ。
父上が苛烈なまでに厳しい教育をなされるのも、それがドラゴニオン王家の|王族として果たすべき責任と義務だからだ。僕はそのことを父上から叩き込まれていた。
それが今の僕の魂を作り上げているのだ。
そして、アルバート教授のセリフは、僕がノーブル・オブリゲーションを果たしていることを証明するものでもあった。僕は自分と父上が誇らしかった。
「しかしですな。」
しかし、とアルバート教授は食い下がる。
「しかしですな。殿下。殿下が加勢したユリア・ベン・シリバス家は貴族とはいえ、金で爵位を買った庶民上がりの等爵家。対してスティールのゴンウォール家は代々、王家に仕えし正統な貴族の家柄。ゴンウォール家の面目をつぶしてまでユリアに加担するのはいかがなものですかな?」
流石は、教授、頭が切れる。痛いところを突く。確かに王家の立場としては、僕はゴンウォール家の顔を立てて、口頭注意にとどめておくべきだった。決闘にてユリアを奪うような真似をしてはいけなかったかもしれない。
「しかしですね。アルバート教授。彼らは騎士として恥ずべき行為をした。自国民の婦女子、それも貴族扱いの婦女子をまるで奴隷のように扱ったのですよ? 罰せられるべきではありませんか?」
僕は、反論する。反論できる材料としては、やはり「婦女子を奴隷扱い」したところになるだろう。地球の中世のような世界背景のこの時代、悲しいことにただの庶民の娘は奴隷扱いされても、それを第三者が批判することは越権行為になりかねない。しかし、ユリアは、正当な手続きを経て爵位を買いあげた等爵家。立派な貴族の一員だ。不当な差別をされる理由はない。これを罰して何が悪いというのか? 僕は、直接は言わなかったけど、そういう意味合いを込めて教授に詰問する。
教授は返答に困っていたが、やがて
「そもそも、今回の問題の発端の一つはユリアが太りすぎていることにあると聞いています。スティールたちは彼女を痩せさせるためにやったと。それが虚言であってもですな。ユリアもユリアで痩せる努力をして見返してやろうと思わなかったのですかな? その努力を怠ったから責められるのです。これは、戦闘国家である我が国の国民が心がけなければいけないこと。今回のいじめが起きた責任は、いわば敵に弱みを見せないようにする努力を怠ったユリアの自業自得では、ありませんか?」
などとのたまった。
僕は自分の毛が逆立つほど、腹が立っていた。
バカな大人はすぐに言う。
「頑張って努力して、いじめてきた相手を見返してやろうと思わないのか?」と。
あの地球の馬鹿どもも同じだった。
一体、どこの誰に責任を負わせようとしているんだ?
窃盗癖や虚言癖があるなど、周りに実害をもたらす者ならば、改善を求められるのは仕方ない。
しかし、今回の事例は全く違う。ただ「言いがかり」を付けていじめられているだけだ。何故、なにも悪い事をしていない方が「気にいらないから」という理不尽極まりない理由でいじめられているというのに、「努力して見返す」必要があるというんだい?
そもそも、いじめられていない子たちは皆が皆、聖人君子のように日々たゆまぬ努力を積み重ねている偉大な人物か? 違うだろ? 帰宅部の奴もいれば、学校に遊びに来ているかのように授業をまじめに受けてない奴がたくさんいる。
だからいじめられている子といじめられない子の間には「努力」の差なんかない。ただ、運が悪かっただけの話だ。同じことをしていてもいじめられる奴はいじめられてしまうし、いじめられない奴は何をやっても他人から妙に人から好かれていじめられないものだ。
そんな大事なことに目を背けて「問題解決に使うには楽な落としどころ」として、いじめられている子に「努力する責任」を押し付けるなんか、許しがたい蛮行だ!!
僕は、反論する。誰が相手だろうと、断固、反論してやるぞっ!!
それが僕の正義だからだっ!!
「お言葉を返すようですが・・・。」
「お言葉を返すようですが。教員たちの責任問題を考えた時、それは、全く無責任すぎる解決方法ではありませんか!?」
僕の言葉にその場にいた教授全員がギョッとした表情をして、慌てるのだった。
「今、ここに大水に流されて溺れる者がいたとして。その者に救いの手を差し伸べる前に、大水に巻き込まれない予備知識を与えて何になるというのか。
我々がその時にすべきことはなにか?
溺れる者に上手な泳ぎ方を教えることか?
助かった後に体を拭き取ってあげる毛布を用意して、溺れる姿を見学することか?
この国の碩学であらせられる教員の先生方が、そのような答えしか持ち合わせていないようでは、この国のいじめられる子供たちは、いじめ殺されるしかありませんね。」
僕は前世からの思いのたけを吐き出すように、一気にまくしたてる。
「我々は溺れる者を見つけたときにすべきことは、「まず救い出す」ことだっ!!
助け出した後に、毛布で体をふいてやり、温かい暖炉とスープを与えて、悲劇にあったことを共に泣いてあげることだ。
大水に巻き込まれないようにする予備知識を与えるのは、そのあとか、それ以前に済ませておかねばならないことだっ!!
いじめられたものを見つけた時、教授は何をするべきなのか?
解決策を提示してやることか?
努力する方法を教えて、一緒に努力することか?
その間もずっといじめられている子どもの苦痛をどうやって救うのか? どうやって悲しみを取り除いてやるのだ?」
「いったい、どこの誰がその責任を負うのか!!? どう責任を取ろうにも苦痛を感じて助けを求める時間は帰ってこないというのにっ!!」
「冗談っ!!・・・・・じゃないっ!!」
「冗談じゃないぞっ!! 物事が解決するまで、あなた方は、いじめられている子ども見殺しにするつもりかっ!!
いじめられている子がいたのなら、いや、その可能性を少しでも感じたのなら、我々がなすべきことは、「まず救い出すこと」ではないのかっ!!」
「怖かったね。辛かったねと、慰めてやり守ってやる。心が落ち着くまで保護してあげて、精神的な苦痛と向き合う準備が出来たときに、解決法なり、努力の仕方を教えてやればいいっ!!」
「その最低限の義務を怠った大人が、いじめられた子供に対して何を言うというのかっ!!!!」
僕は思いのたけを全部ぶつけた。
前世からの怨念か、僕の頬を熱い涙が伝う。怒りで身が震えるのを感じていた。
僕はそれがとてもはしたないことと感じていたが、そんなことはお構いなしだ。僕は言うべきことを言った。
誰に恥じることがあるものかっ!!
教授たちは僕の演説を聞いて、しばらくは呆然としていたが、やがて・・・・
パチパチパチッ・・・・・
と、誰ともなく拍手をし始めた。
見ると教授たちの多くがいつの間にか涙を流していた。
アルバート教授も涙を流して拍手してくれた・・・・・・。
その後、教授たちはユリアの部屋を訪れて、「すまなかった。」と、何度も何度も頭を下げている姿がとても印象的だった。
クリスはそんな様子を見守る僕にそっと近づき「おやりになりましたね。」と、囁いた。
少しくすぐったいけど、嬉しい。
でもね、でもねクリス・・・・。
「これは始まりに過ぎないんだ。今日、この場、この時だけの奇跡にしちゃいけないんだ。
僕の戦いは始まったばかりなんだ。」
僕がそう言うと、クリスは皆に見えないように、僕のほっぺに優しく口づけしてくれた。
「・・・・クリス・・・・・っ!!」
僕が驚いていると、「じゃぁ、目標が達成したら、ご褒美にもっとすごいことしてあげますねっ!!」
と、悪戯っ子のような笑顔を浮かべて言うのだった。
この・・・・・この小悪魔めっ!!
男の子はそんなことを言われたら、その夜は大変なんだぞっ!!
君は前世で男だった記憶があるのに、僕にそんな残酷なことを言うのかいっ!?
僕は天を仰いでクリスティーナの小悪魔っぷりに完敗したことを実感していた・・・・。
ああ・・・もうっ!! 可愛いんだからっ!!




