戦争は続いていたっ!!
僕達がはしゃぎまわっていた一瞬の出来事だった。
師匠である魔神フー・フー・ロー様の転移魔法が発動して、僕達はラインドロオ公国の領内にある山脈の頂上に瞬時に移動する。何の予兆もなしに一瞬で景色が変わるので、前もって教えてもらってないと何が起こったのかわからないだろう。
それでも、僕達は一瞬で変わった景色に声を上げる、
山脈の頂上からは,公国が一望できる。その場に立って360度ぐるりとまわって下に見える美しい自然に目を見張る。
小さな山々の間を流れる蛇行する川と、平地に林の多い地形が生み出す景色。この国はまだまだ都会化していない部分が多いようだ。
それにしても緑美しい国だ・・・・。
「うわあああっ!!
す、すごいっ!!」
「景色が凄いきれーいっ!!」
超常の奇跡にはしゃぐ僕らを師匠は叱りもせずに、暫くは自由にさせてくれた。
そして僕達が落ち着きだした頃合いを見て、今後について話し出した。
「さて、目的地を見た感想は、聞くまでもないな。
とても美しい国だろう? お前たちの国よりも土が肥えているので野菜も美味いぞ。
だが、残念なことに我々は慰安旅行でここに来たわけではない。敵の情報を仕入れるためと、力を蓄えるためだ。
力とはお前たち自身の能力の話でもあり、共に戦ってくれる味方を探すという意味でもある。なんせ我らの敵は傭兵王国ドラゴニオン。我我だけで戦うことなど出来ぬ話だ。
その上、災いの神ドゥルゲットは転生者を殺せば、厄災は発生せず世界は救われると吹聴している。仲間を見つけ出すのだけでも大変な話だと覚悟しておけ。」
僕達は比較的、故国の影響下の低いラインドロオ公国を選んだわけだが、だからといって転生者の情報が全く伝わっていないかどうかまでは確証はない。
だから・・・・
「ここはまず、旅の行商人を装って様子を伺おうと思う。
ジュリアン、お前にはこれを渡しておこう。」
と、師匠はボクに革袋を手渡す。中を見ると、宝石がぎっしり詰まっていた。
「・・・これは?」
僕が不思議そうに尋ねると師匠は歌うように軽やかな口調で説明してくれた。
「いいか、ジュリアン。これからお前はこの宝石の一部を使って街へ出て、菓子の材料を買ってこい。
お前が戻ってくるまでに俺とローガンで荷車を作る。そして女どもは菓子を作り、我々でそれを売りに行くのだ。これからはそうやって旅をして、情報を得るとしよう。」
なるほど、そういうことか。
僕は合点がいったが、残念ながら、僕一人ではお菓子作りの材料はわからない。
そこでホムンクルスのメイド、アーリーが付き添うことになった。
「アーリーの片目が見える景色は俺が把握している、
危険があったらすぐに助けてやるから、行ってこい。」
師匠に促されてアーリーと山を下りようとしたら、アーリーは僕の右腕に抱き着いてきた。
それをみてオリヴィアまでが嫉妬して僕の左腕に抱きついてきた。
あのね、オリヴィア。浮気じゃないよ? 遊びに行くわけでもないんだからね?
と、思ってその眼を見つめるものの、その眼には固い決意を感じさせる力がこもっている。
あ、だめだ。これは僕が何を言ってもいう事を聞かないぞ。絶対に、僕と一緒に山を下りるつもりだ・・・・。
遊びじゃないんだけどなぁ・・・・。困り果てて師匠の顔を見ると、師匠は面倒くさそうに掌で犬を追い払うかのようにシッシッと振っている。
好きにしろってことね・・・。
こうして僕達3人は山を下りる。頂上から小さな町が見えたので、まずは一番近い街に出かけ、宝石を一つ売って、小麦と油と乾燥させた果実を買い求めた。
ついでにその時、雑貨屋の主人にそれとなしに戦争について尋ねてみた。情報収集開始だ。
「ところで、ご主人。
ルーザ・デ・コスタリオとの戦争はどうですか? 商業都市のくせにねばっているって聞いたけど?」
僕の質問に雑貨屋の主人は顔をしかめる。
「なんだ、そんなことも知らないのか。よほど田舎から出てきたのだな。
あの国は傭兵王国ドラゴニオンから2000の傭兵の支援を受けていて、粘るどころか全く歯が立たんそうだよ。なんでも国境付近の谷間の地に陣を引いて、動きゃしない。
こちらの軍が手を出そうにも、夜には何処からともなく奇襲部隊がやってきて攻撃を加えて帰っていく。それでこっちの軍勢にはノイローゼにかかるものが多くて、何度撤退したかわからない。」
どうやら、僕も作戦立案に加わったこの戦争は、僕の思惑通りに進んでいるらしい。ただ、思惑と大きく違ったのは、店主の言う「何度撤退したかわからない。」という状況だ。
冬に入れば終わると思っていたこの戦争は、撤退を繰り返しながらも未だ続いているのだ。
撤退を続けても戦争を続けられる理由の一つは、ラインドロオ公国の後ろ盾である軍事大国ラー・ラー・デ・コスタの支援が強いことは想像に難くない。
それでもこれだけ戦争が続くのは敵味方双方にとってかなりの苦痛だろうに・・・・。
僕はラインドロオ公国の民と自国から派兵されている傭兵部隊を気の毒に思わざるを得なかった。
「そうだったのですね、ご主人。
しかし、これだけ長い間の派兵ですとルーザ・デ・コスタリオに来ているドラゴニオン王国の兵士たちも損耗が激しかろうに。一体、いつまで頑張るつもりなのか・・・・。」
僕がそう言うと雑貨屋の主人も首を縦に振って同意する。
「本当になぁ。
それでもあそこを死守してるんだから、相当な報酬をもらっているんだろうさ。
にしても、寂しかないのかねぇ。傭兵さんたちは。
まぁ、敵の心配しても仕方ないけどな。それよりもわが身の心配だ。これ以上戦争が続けば、この国も疲弊してその内、餓死者が出るかもな・・・。」
と、困り果てたように言うのだった。
事態はどうもかなり深刻らしい。
僕は話を聞き終えると、お会計を済ませて店を出る。
「あ、そうだ、ご主人。
ドラゴニオン王国についてどう思いますか? 傭兵を世界中に派兵する酷い国じゃありませんか?」
と、ドラゴニオン王国の評判を尋ねてみた。
他の国の一般人からの評価を聞いてみたかったからだ。
「トンデモねぇクズどもだよ。金のために世界に混乱を招いている。
あいつらが戦争に手助けしなけりゃ、世界中の国々もおいそれと戦争は出来なかったろうに・・・・。」
帰り道、うつむく僕にオリヴィアが色々と励ましてくれる。
分っていたこととはいえ、やはり他国からの評判は低い。特に汚いものを見るような目で我が国の事を思い出していた雑貨屋の主人の姿が忘れられなかった。
だが、同時に僕は大事な事にも気が付いていた。
それは、災いの神ドゥルゲットに関する情報が一般人にはまだ知れ渡っていないことだった。




