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ここって、どこなのっ!!

僕達にフー・フー・ローは、忠告する。

ほうけていられるのは今の内だ。」

そういうと、前に向かって歩き出した。


僕はその後ろ姿に質問する。

「神よっ!!

 どうして私をお救いくださるのですかっ!?」

僕の質問に魔神フー・フー・ローは、答えなかった。

代わりに「そら、お出ましだ・・・・。」と、槍で進行方向を差す。

そこには、4つの化け物の群れが僕達を待ち構えていた。

その姿を見てオリヴィア達が悲鳴を上げる。生娘たちが悲鳴を上げる様子を見て、楽しくなったのか光属性を持つ火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーも一緒になって、目をつぶったまま大声で「きゃあああああっ!!」と悲鳴を上げて喜ぶ。

その様子にあきれ顔のフー・フー・ローに向かって、この場では、かろうじて正気しょうきたもっている僕が尋ねる。

「あっ!? あれは何ですかっ!?」

フー・フー・ローは、空中に氷の槍を産み出すと、機関銃の一斉掃射いっせいそうしゃのようにそれらを打ち出す。

たった、一瞬のことで4つ手の化物は肉塊となる。

信じられないものを見た。そこにいた化物たちは、一匹でおおよそ王国騎士4人がかりで倒さなきゃいけないような魔力をまとっていたというのに・・・・・。


フー・フー・ローは、驚愕きょうがくして固まるボクの肩をポンッ!!と叩くと、「こいつらは偵察部隊だ。急がないと本物の化け物が出てくるぞ。」といって、歩き出した。

火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーの話では、ここは現世うつしよと地獄を繋げる界域かいいきで、現世とも地獄とも違う法則ルールが存在する。この化物たちもその法則によって生まれたらしい。その生態は至極しごく簡単、現世から地獄へと向かうものを捕まえて食らう。ただそれだけの存在らしい。

そういえば・・・・・・。僕は、この世界に似た世界の事を知っていた。

「・・・・もしかしてここは冥界めいかい現世うつしよはざまの国の王ルー・ラー・ドーン様の世界ですか?」

魔神フー・フー・ローは、僕の疑問を鼻で笑う。

「名称が似ているだけで全く違う。もし、ここがあの神の世界なら、俺たちなどあっという間に氷漬けにされて死んでいる。ここは、単純に ”世界にも成れない世界のかたち” だ。」と、理解できるようなできないような説明をする。

「現世にはマナの流れが存在するが、ここにはマナが流れてこない。

 だから、本来なら死界しかいになるはずだが、マナの代わりに現世の人間の負の感情や地獄の亡者もうじゃどもの苦しみと言った負のエネルギーが湧水わきみずのようにもたらされる。

 ああいった魔物はそれによって生まれる。だから、この世界を通る生きるものは、奴らにとっては、負のエネルギーをたくわえた食料箱みたいなものでな。条件反射で襲ってくるわけだ。」

なるほど・・・・。それは確かにマナが満たされた世界の僕達が生きている世界とは全く異なる法則だ。

しばらく歩いてから、フー・フー・ローは、僕にささやいた。

「しばらくの間、オリヴィアにこの世界の恐怖を与えろ。そうしている間はクリスティーナのことを考えずに済む。」

言われた瞬間、僕もクリスティーナのことを思い出して声を上げそうになったが、僕の動きを僕よりも早く察知する魔神フー・フー・ローは、僕が声を上げる前に掌で僕の口をふさいでしまう。

「黙ってろ。お前は我慢しろ。

 男だろ? だったら、女を守ってやれ!!」

その短い一言で、僕は全てを受け入れて魔神フー・フー・ローの言うとおりに、冷静さを保ってオリヴィアを守らなくてはいけなくなってしまう。だって、僕は第一王子にして、騎士にして、男なのだから、女の子を守らないといけないんだ・・・・・。

前世の僕にはなかった、勇気と責任感と忍耐強さが今、僕のメンタルを支えてくれていた。

僕は、クリスティーナのことを考えないようにしながら、オリヴィアがクリスティーナのことを考えなくてむ様に、フー・フー・ローが教えてくれたこの世界のことに脚色きゃくしょくを加えて、せいぜいオリヴィアを怖がらせるために話すのだった。

「やだっ!? ジュリアン様っ!! 離れないでっ!!

 側にいてくださいつ!!」

僕の話に恐怖したオリヴィアとシズールとミレーヌが僕に抱きついてきた。

あ・・・。歩きにくいっ!!

僕は身動きも満足に取れなかったが、それでも良かった。

だって、僕達の前に立ちふさがるこの世界の魔物たちは、フー・フー・ローとヌー・ラー・ヌーが一掃いっそうしてくれるのだから。

そうやって、どのくらい歩いただろうか?

太陽も月もないこの世界では時間の経過がよくわからない。ミレーヌたちが疲労困憊ひろうこんぱいで満足に歩けなくなり出したので、2時間近く歩いているのではないだろうか?

「神よ。

 休息はとれませんか? このままでは娘たちが潰れてしまいます。」

思わずフー・フー・ローに休息を求めた僕に対して、フー・フー・ローは、肩をすくめて、あきれた。

「たった、この程度の事でか。

 ・・・・・まぁ、いい。地下に潜って逃げるのはこの辺りまでで十分と言えば十分かもしれん。

 現世へ出るぞ。」

フー・フー・ローは、そう言いながら、指先で宙に何やら神文しんもんえがく。

神文が書きあがると、フー・フー・ローは、自分の吐息を吐きかける。途端に、次元の壁が引き裂かれる大雷鳴だいらいめいが鳴ったと思うと・・・・・・。僕達は扉の外にいた。

扉・・・・。それは先ほどまでの世界と現世を出入りするために出現する扉だった。僕達はフー・フー・ローの奇跡によって、次元の扉を使って、現世と地獄の間の世界から抜け出たのだった・・・。


「こ、これが・・・・・。異界いかいの扉か・・・・・・。」

呆然とする僕達人間の一行とそれを見守る神と火精霊。

神仙しんせんの奇跡を僕達は垣間かいま見たのだった・・・・・。

「フー・フー・ロー。恐らく、バー・バー・バーンは、もうすぐこの辺りにまで探査結界を伸ばしてくるはずです。どう対策するのですか?」

光属性を持つ火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーは、魔神フー・フー・ローに次の一手いってたずねた。

しかし、フー・フー・ローはすぐには答えずに暫くは顎に手を当てて思案していた。

僕達は固唾かたずを飲んでフー・フー・ローの決断を待った。

不意に僕と思案するフー・フー・ローと目が合った。

それから、フー・フー・ローは、何かを思い出したかのように「あっ・・。」と声を上げた。


「そうだっ!! 疾風のローガンだっ!!

 奴らはヌー・ラー・ヌーがこちら側にいることを知っている。

 お前の隠れ家を探し当てて、そこで眠りについているであろう疾風のローガンを狙う可能性があるな・・・。」

と、呟いた・・・・。

その言葉を聞いたシズールの顔がこわばる。

その表情を見てフー・フー・ローが決断を下す。


「では、次の行き場所は決まったな。

 我々は、孤立こりつする疾風のローガンを救出するっ!!」


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