うそだっ!!
災いの神ドゥルゲットの悪夢から目を覚ますと、僕が騙し打ちで倒したはずの魔神フー・フー・ローがさわやかな笑顔で呪いが解けたことを祝福してくれた。
そして、クリスやオリヴィアどころか父上まで僕に抱きついて号泣しているし・・・・・
なんじゃ、こりゃー---っ!!?
混乱する僕に見慣れぬ貴婦人が事情を話してくれた。その貴婦人・・・・火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌー様のお話によると、僕は災いの神ドゥルゲットの呪いを受けて床に臥せていた。そこへたまたま僕への復讐へ訪れた魔神フー・フー・ローが、何故か、僕の呪いを解いてくれたのだという。
なるほどねっ!!
説明を聞いても意味わかんないぞっ!!
「そもそも魔神フー・フー・ロー様は、なぜ、僕をお救いくださったのですか? 決闘の時に僕のだまし討ちを受けたというのに、腹が立たなかったのですか?・・・・。」
僕の質問に対して、魔神フー・フー・ローは、ニッコリ笑って「おう! 殺してやろうかと思っていたからこそ、王宮へ足を運んだのだっ!!」と、恐ろしいことを口にした。
「俺は昨日、確かにお前を殺すつもりでいた。
だが、お前が災いの神ドゥルゲットの呪いを受けて倒れているので驚いた。
俺は、神ゆえにお前達の使命をある程度は聞いていたし、災いの神ドゥルゲットの予言の後に何が起こるかも知っている。
いや、知っているつもりでいた。
しかし・・・・その未来にお前が災いの神ドゥルゲットの呪いを受けて床に臥すなど知らぬ事であった。俺が俺の未来を知らぬのは当然のことながら、ここまで未来を知らぬのは妙な話。
そこで、災いの神ドゥルゲットが俺の未来感知の奇跡に目くらましをかけて、この案件を横からかっさらおうと企んでいることを悟ったので救ったまでだ。
ジュリアン。お前を殺すのはそのあとでよい。」
お前を殺すのはそのあとでよい。
その言葉にその場にいた全員が凍り付いた。
わが父ミカエラ王は、涙を止めてスックと立ち上がると、魔神フー・フー・ローに向かい合う。
「我が息子の命を狙うのであれば、私が相手になりますぞ。」
脅しではない。
父上は覚悟を決めて魔神フー・フー・ローを威嚇したんだ。
しかし、魔神フー・フー・ローは「それはまた後の話だ・・」と笑うのだった。
だが・・・・
魔神フー・フー・ローは「だが・・・・」と口にしたあと、こういうのだった。
「災いの神ドゥルゲットが何を企んでいるのかは想像もつかぬ。
用意周到のあの神のことだ。私がジュリアンを救うことなど想定しているだろう。
・・・・・・ならば、気を付けよ。次の一手があるやもしれぬ。」
魔神フー・フー・ローがその言葉を口にした瞬間、何の前触れもなくいきなり大雷鳴が鳴ったかと思うと、クリスの体燃え上がるっ!!
「クリスー----っ!!」
僕はベッドから起き上がってクリスを救おうとした。しかし、魔神フー・フー・ローが僕よりも早くクリスの体を蹴飛ばした。
宙を舞うクリスの体・・・・・それを見た僕は激昂する。
「魔神フー・フー・ローっ!! 貴様っ! よくも僕のクリスをっ!!」
魔神フー・フー・ローを僕が殴りに行こうとすると父上が制止するっ!!
「父上っ!! 何の真似ですかっ!? なぜ、僕の邪魔を?」
「落ち着けっ! バカ者っ!! あれを見よっ!!」
そう言って父上が指さす方向には、魔神フー・フー・ローに蹴り飛ばされ、宙を舞っているクリスの肉体が・・・・・・宙を舞ったままなことに気が付いた・・・・。
宙を舞ったまま・・・・。いや、正確に言うとクリスの体は宙を浮いていたのだ。
「人間どもは俺の後ろへっ!!
ヌー・ラー・ヌーっ!!前に出ろっ!」
魔神フー・フー・ローが叫んだ。その緊張感あふれる声から、クリスの体が宙を浮いていることがいかに危険な異変かを物語っていた。
魔神フー・フー・ローは槍を構えると、「さっさと姿を現せっ!!災いよっ!」と挑発気味に言った。
すると、クリスが口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「魔神フー・フー・ロー。貴様ごとき仮初の神が、闇の国の王を父に持つ俺と敵対しようというのか?」
その声は紛れもなく災いの神ドゥルゲットの声だった。
災いの神ドゥルゲットがクリスにとりついたのは、あきらかだった。
しかし、一体何のために・・・・?
その場にいた誰もがそう思った。父上さえも・・・・・
「おお。災いの神ドゥルゲット様。どうして、貴方のような偉大な神が転生者とはいえ、いたいけな村娘をかどわかしになるのですか? すぐにお離しください。どうか、お慈悲を・・・・。」と、災いの神ドゥルゲットの行為を非難した。
しかし、災いの神ドゥルゲットは、クスクス笑うのみった。
何がおかしいのだろうか?僕がそう言った瞬間、魔神フー・フー・ローが言う。
「クリスティーナを解放することは出来ない。そんなことをすれば、クリスティーナの魂は災いの神ドゥルゲットの魂と共に肉体から消滅してしまう。」
・・・・・
・・・・・・・・なんだって・・・・?
おい、ふざけるなよ?
「ふざけるなよっ!! ドゥルゲットっ!!
今すぐ、クリスを無事に返せっ!! このイカれの疫病神めがっ!!」
僕が侮辱の言葉を吐くとドゥルゲットは更に嬉しそうな声を上げた。
「お前のクリスは、もう助からない。神である俺と、この肉体を共にして生きていられるわけが無かろう?」
そういってドゥルゲットは、オリヴィアを指差すと「この娘の魂は、もうすぐ分解されてその娘に吸収される。返せというなら、そうやって返してやるさ!」とのたまった。
「貴様ぁッ!!」
僕がそう言った瞬間、魔神フー・フー・ローは雷よりも早く動いてクリスを襲う。
クリスの体を乗っ取った災いの神ドゥルゲットは、金切声のような笑い声をあげて、襲い掛かる魔神フー・フー・ローの槍を軽くいなす。
そして、槍をいなした手を返す動きで魔神フー・フー・ローに掌底突きを食らわせる。
「ぐっ!」
息をのむような声を上げながらフー・フー・ローの体は吹き飛ばされる。
「愚かだぞ。フー・フー・ロー。
お前と俺とでは神格が違うのだ。勝てるはずが無かろう・・・・・。」
フー・フー・ローは、吹き飛ばされながらも、空中でトンボを切って体勢を入れ替えると、綺麗に着地する。
「いいや。災いの神ドゥルゲットよ。
俺には勝機がある。何故なら、いくらお前の方が神格が上でも、所詮お前は疫病神。闘神の俺とは存在がそもそも違うのだ。」
魔神フー・フー・ローは、不敵に笑うと空中に夥しい数の氷の槍を産み出す。
その姿を見ても災いの神ドゥルゲットは「それで俺に敵うと思うのか?」と軽口をたたく。
二人は不敵な笑みを浮かべて対峙するのだが、そこへ、父上が割って入った。
「神よ。貴方の敵がフー・フー・ロー様だけとお思いか?」
父上はそういうと右袖を巻くって、前腕に刻まれた呪術刻印を見せると「翁、翁。息子の裔の一族の声を聴いておくれ・・・」と唱えるのだった。
その言葉を唱えた瞬間、王宮の床から土精霊の貴族バー・バー・バーンが現れた。
土系最強の大貴族の登場。それは我が王家秘伝の召喚術。秘密主義の我が国の王家の身に伝えられる大禁呪がバー・バー・バーン召喚術だった。・・・てっきり大ぼらだと思っていたのに・・・・。
王家の僕でさえも疑っていた大禁呪の発動に驚いたのは僕だけじゃない。
「き、貴様っ!!! バー・バー・バーンかっ!!!?」
災いの神ドゥルゲットはバー・バー・バーンを見て驚き、その場にいたそれ以外の誰もが、その者の霊位に恐れをなして跪く。
「災いの神ドゥルゲットよ。お前に恨みはないが、粗相をしたものを生かしてはおけぬ。」
とバー・バー・バーンは、答えるのだった。
これでこちらの陣営は土精霊の貴族バー・バー・バーン。魔神フー・フー・ロー。火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーの3体の上位の存在がいることになった。
さしもの災いの神ドゥルゲットも青い顔をして狼狽えていたが、それでも、切り札を用意しているのが災いの神ドゥルゲットの危険なところだった。
災いの神ドゥルゲットは、クリスの体を操って両腕を広げると高らかに宣言した。
「これより、予言を行う!!
予言は転生者のためのものであり、世界を超えてこの世界に来た転生者の業を示すためのものである!
・・・・・これから大神の予言がこの世界を破滅に追い込むであろう!
世界を救うのは転生者の御業であるっ!!
だが、逆に言えば、それは転生者の仕業であるともいえる。ならば、私は世界を救うために転生者を殺そうっ!!」
魔神フー・フー・ローは、その言葉を聞いた瞬間、「しまったっ!!」と声を上げた。
「災いの神ドゥルゲットっ!! それが貴様の狙いかっ! 転生者クリスにまつわる災厄は、クリスの宿命によるものである。その宿命を起こす秘められた大魔力を貴様が横取りしようという腹かっ!!」
魔神フー・フー・ローの言葉に、その場にいた兵士たちが声を上げた。
「なんだって・・・・?
神よっ!? では、予言は・・・・あの災害は・・・・
クリスの・・・・いや、転生者たちの体に大神が刻み込んだ呪いが原因だっていうのか?」
一人の兵士の疑問にドゥルゲットは、答えた。
「その通りだ。哀れな子羊よ!
世界には神の奇跡を示さねばならぬ。それが預言だ。
預言が大きければ大きいほど、信仰は強くなる。
それ故に、預言は成し遂げられなくてはならないっ!!その宿業は、転生者の肉体に刻み込まれたものだっ!故に神の御業の代行者ともいえる転生者が生きている限り、世界に災いの種がまかれるのだ!
その災いを転生者が奇跡を起こして救うシナリオでなくてはならないのだからなっ!!
大神がそうなるように仕組んだのだから、必ずそうなってしまうものなのだっ!!」
ドゥルゲットは、高らかに僕達転生者に対する呪いの言葉を吐く。
その呪いの言葉を聞いた者たちは僕達を脅威と認識して、僕達を殺そうとしかねない呪いの言葉だ。
・・・・まずいことになった。
しかし、最悪の事態はこれから訪れるのだった・・・・・・・
災いの神ドゥルゲットは、クリスの体を操って自分の両腕でクリスの頭部をしっかりと押さえつける・・・・・
・・・・おい・・・。何をする気だ・・・
やめろ、・・・・・
「やめてくれーっ!!」
僕が叫ぶと同時に災いの神ドゥルゲットは
「これより、私が世界を救う見本を見せてやろう――――っ!!」
と言ったのち、クリスの頭部を180度捻るのだった・・・・。
「うあああああああー--------っ!!」
「きゃあああああー-----っ!」
僕とオリヴィアが叫び声を上げた瞬間、クリスの体から白い光が吹き溢れたかと思うと、その光は束になってオリヴィアの体の中に吸い込まれるようにして消えてしまった・・・・・。
「ク・・・クリス・・・・クリスっ!!」
僕がクリスの方へ駆け寄ろうとした瞬間、魔神フー・フー・ローは、僕とオリヴィアの体を抱えて風のように背後へ飛んだ。
それとほぼ同時に厚み5メートルはあろうかという岩の塊が、僕達のいたはずの場所に降り注いできた・・・・・。
王宮の床は激しく崩れ落ちて、降り注いだ大岩は、その床穴にすっぽりとハマっていたので、アリ地獄にはまった獲物のように地面に吸い込まれていくのが見えた。
父上の指示で土精霊の貴族バー・バー・バーンが作り出した大岩だった・・・・。
「ち・・・ちちうえ・・・・・?」
呆然とする僕の頭を魔神フー・フー・ローが、スパンとはたいた。
「しっかりしろっ!! 民草と国家を守らねばならぬ王として当然の仕事をしたまでだっ!!
それよりも長居は無用だっ! 逃げるぞっ!」
その言葉を合図にヌー・ラー・ヌーが巨大な炎の壁を産み出したかと思うと、幾百もの氷の槍がドゥルゲットとバー・バー・バーンを襲う。
激しい衝突音がしたかと思うと、僕達の体はいつの間に王宮の外へ飛び出ていた。
魔神フー・フー・ローと火妖精の貴族ヌー・ラー・ヌーが僕とオリヴィア。ミレーヌとシズールを抱えて救いだしてくれたのだ・・・・・。
魔神フー・フー・ローは言う。
「逃げるぞっ!! さっきのは、バー・バー・バーンにとっては目くらまし程度しか利かぬっ!!
あの化物は、大岩の壁を作り出して俺の槍を全て防ぎきっているはずだっ!!」
そして、僕達を抱えるとヌー・ラー・ヌーと共にどこぞかへ走り出すっ!その速さはまさに神速だった・・・・・。
この足ならば、僕らは逃げ切れるかもしれない。
だが、それでも僕には気がかりなことが残っていた・・・・
それは勿論、クリスのことだ。
「神よっ!!クリスはどうなったのです?
クリスの体から出たあの光は何ですか?
どうして、オリヴィアの体に吸い込まれていったのですかっ!!!?」
その言葉を煩わしそうに聞いていた魔神フー・フー・ローは忌々しそうに答えた。
「さっきのドゥルゲットの話を聞いていなかったのか?
奴は言ったぞ!?クリスの魂は分解して、オリヴィアに取り込まれるだろうとっ!!
あの光はクリスの魂だったものだっ!!
「今、クリスの魂だったものは、オリヴィアに吸収されて消えたのだっ!!」
うそだ・・・・
うそだ・・・・・
そんなことあってたまるか・・・・・・
「うそだああああああー-----っ!!」
僕の絶叫が空に向かって空しく轟くのだった・・・・・
(第一部完)




