僕の帰還だよっ!!
魔神フー・フー・ローは、疾風のローガンを火精霊ヌー・ラー・ヌーの屋敷に置いたまま、災いの神ドゥルゲットの呪いを受けて床に臥すジュリアンがいる部屋に戻ってきた。
それが出かけてから2日も立たぬうちだったので、ミカエラ王は、大喜びで魔神フー・フー・ローに感謝した。
「おおっ!!神よ。よくお戻りくださいました。
それで、呪いは解けますでしょうか?」
ミカエラ王の問いに魔神フー・フー・ローは、黙ったまま同行する火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーを指差した。
ミカエラ王は、即座にその神々しい魔力にその精霊がただ者でないことを悟り、跪いて礼を言う。
「おお。これは見目麗しい貴婦人。この度は、我が愚息のためにお力をお貸しいただけますか?
誠にありがとうございまする。」
火精霊の貴族であるヌー・ラー・ヌーは、「うむ。礼儀作法をわきまえておるな。結構なことね。」と上機嫌に返事する。
そして、魔神フー・フー・ローは、ベッドに伏せるジュリアンのもとへオリヴィアとヌー・ラー・ヌーを連れていく。王宮の面々は、緊張した面持ちで3人を見つめた。
魔神フー・フー・ローは、ヌー・ラー・ヌーとオリヴィアの一方の手同士でつながせると、もう一つの方の手はジュリアンの手を握らせた。
「これよりジュリアンにかけられた呪いを解く。その方らは、離れておけ」
魔神フー・フー・ローに命じられるまま、ミカエラ王は配下の者と后のパトリシアにジュリアンから離れるように指示して魔神フー・フー・ローがジュリアンの呪いを解くのを待った。
室内中のもの全ての者が固唾をのんで魔神フー・フー・ローの動きに集中したので、室内に静けさが訪れた。
魔神フー・フー・ローは、ヌー・ラー・ヌーの呪いを解いたときと同じようにオリヴィアの手に触れた。
その時、何が起こるのか、オリヴィアは既に体験していた。
そう、ヌー・ラー・ヌーの呪いを解こうとして、魔神フー・フー・ローがオリヴィアの手に触れた
ー---------あの時ー----------
フー・フー・ローは、オリヴィアの手を取ると、その心へ心の声で語り掛けた。俗にいう念話というものだ。
フー・フー・ローの思念がそのまま直接、オリヴィアの心へ語り掛けたのだ。
「恐れることはない。これから私がお前の転生者としての奇跡を解放する。お前は私の言葉に従ってうごけばいい。いいね?」
オリヴィアは、恐る恐る頷くと魔神フー・フー・ローは、オリヴィアを握った手とは反対の手で天を指差した。
「お前は転生者のクリスの奇跡をしっているだろう? あの全てを見通すあの目だ。あの目でお前もこの世界の理の一端を見たはずだ。
世界は、銀河のようにたくさんの異次元が繋がって存在している。異界の王はそれぞれの銀河のように、それぞれの異界を治めている。銀河と異次元の違いは、異次元と現世は遠く離れて存在しあうわけではないところだ。我我の世界と異界は同じ場所に重なり合って存在しているのに、次元の壁に阻まれて行きかうことが出来ない。
しかし、この世界を構成するマナだけは、次元の壁も異界だろうと関係なく循環して世界を構成させている。お前は見ただろう? クリスの目を通してマナが世界を循環する様を・・・・・。
あの時の光景を思い出すのだ。そうすれば、肉体の壁など意味がないことを悟れるはずだ。
さぁ、呼吸を整えて隣の男を一つのマナの塊と想像してみなさい。
彼の肉体を通してマナが世界を循環するように、オリヴィア。お前の肉体に彼の魔力が流れ込んでくるのを感じるはずだ‥‥。」
魔神フー・フー・ローの言葉に従って意識をマナに集中した瞬間、疾風のローガンの魔力は一気にオリヴィアに吸い取られ、その魔力を魔神フー・フー・ローが巧みに回収して、火精霊の貴族ヌー・ラー・ヌーにかけられた呪いを打ち砕いたのだった。
その時間は、実際には一瞬でしかないのに、オリヴィアが感じていた精神時間は10分以上だった。
それが魔神フー・フー・ローが操る精神魔法であったことをオリヴィアが知るのはずっと後のことだが・・・・とにかく、あの時、そういうことがあったのだ・・・・・
ー-------------そして、いまー-----------
再び魔神フー・フー・ローがかけた精神魔法により、オリヴィアの体の体感時間は飛躍的に伸びる。
その魔法の奇跡を力に変えてオリヴィアはヌー・ラー・ヌーの光属性の魔力を吸い出す。
そして、その光属性の魔力がジュリアンの魂を包み込んだ時、ジュリアンの体からまばゆい光が発射されたかと思うと、オリヴィア達は異界に閉じ込められていた。
そこは、まるで拷問室だった。あたり一面に血痕とびちり、壁には何かで殴りつけたかのような傷があちこちについていた。
「・・・・・・・・・・こ、ここは?」
不安におびえるオリヴィアの肩をヌー・ラー・ヌーは、優しく抱きしめてやると「ここはジュリアンの魂の部屋。」と答えるのだった。
「・・・・・魂の・・・・部屋?」
オリヴィアが怪訝な顔をして尋ねると魔神フー・フー・ローがある一点を指差していう。
「あれが前世の記憶のジュリアン魂の記憶だ。」
魔神フー・フー・ローが指さす方向を見ると、黒い小さな肉の塊が呪いの言葉を吐きながら、こん棒を手にして部屋の壁を殴っていた。
「ちくしょう! どうして僕がいじめられなくっちゃいけないんだっ!!」
「殺してやるっ!! あいつら、全員、とんでもないくらい残酷な殺し方で殺してやるっ!!」
ゲームに出てくるゴブリンのような姿をしたジュリアンの魂の記憶をオリヴィアは見て、戦慄した・・・・。
優しいジュリアンは、もう何も言わなかったけれども・・・・それでも彼は、彼の心には、こんな鬱屈とした暗い感情、怒りの感情、癒されぬ復讐の記憶が残されていたのだ・・・・・。
それを知ったオリヴィアは、自分が前世で行った罪の深さを再び実感する。
いじめて側はともかく、いじめられた側は決して復讐を誓った気持ちを忘れたりしないのだ。
オリヴィアはその姿を今、見せつけられていた。
そして、涙をこぼして地面にへたり込んだ。「ごめん、ごめんなさいっ!」と何度も何度も謝罪するオリヴィアを見て、魔神フー・フー・ローは舌打ちをする。
「いまは、泣いている暇はねぇ。悪いと思うのなら、泣く時間を惜しんでジュリアンを救うことを考えろ。」
魔神フー・フー・ローはそういうと手にした槍でゴブリンのような姿をした肉塊を突き刺すと、その存在を吸収する。
「ええっ!な、なにを?」
オリヴィアの驚きを聞いた魔神フー・フー・ローは何も言わなかったが、ヌー・ラー・ヌーは、「これでジュリアンの魂からあの忌まわしい感情は消える。」とオリヴィアの耳元で囁くのだった。
魔神フー・フー・ローは慈悲深い神としての一面を見せたに過ぎないのだが、そんなことを理解できないオリヴィアは、どうして魔神フー・フー・ローがそんなことをしてくれるのかわからず、ただ、ただ、突然のことに呆気にとられるだけだった。
「こっちだ・・・・。」
魔神フー・フー・ローは、そう言って先行する。オリヴィア達はその後ろをついて歩くだけだったが、魔神フー・フー・ローは、どこへ行けばいいのか承知しているようで、目的地にアッサリと行きついた。
そこには、胸に大きな黒い楔を打ち込まれたジュリアンが壁につるされていた。
オリヴィアは心配してジュリアンに駆け寄るものの、ジュリアンはピクリとも動かなかった。
そんなオリヴィアを魔神フー・フー・ローは、押しのけると、ヌー・ラー・ヌーに「補助をしろ」と命令をする。ヌー・ラー・ヌーは、「かしこまりました。」と答えるとジュリアンの体に光属性の自分の魔力を注ぎ込む。そうして、ヌー・ラー・ヌーの魔力がジュリアンの体の隅々に生き渡った瞬間、魔神フー・フー・ローは、ジュリアンに突き立てられた黒い楔を一気に引き抜くのだった。
「ぎゃあああああー---っ!」
と、人間のような悲鳴を上げながら、黒い楔はジュリアンの体から引き抜かれていく。そのおぞましい叫び声にオリヴィアは腰を抜かして恐怖した。
魔神フー・フー・ローがくさびを引き抜いてから、手にした槍で黒い楔を突き破った瞬間、オリヴィア達の魂は一瞬のうちに現世の世界に戻っていた・・・・・。
オリヴィアが我に返った時、ジュリアンの部屋は爆風で吹き飛ばされたかのように、崩壊していた。
オリヴィアとヌー・ラー・ヌーの肉体は、魔神フー・フー・ローの魔法によって守られ、その部屋にいた者たちの体はミカエラ王が作った魔法の土の壁で無事だった。
しかし・・・・ジュリアンの部屋は当分の間、使えないのだろう・・・・それほど無惨に崩壊していたのだった。
オリヴィアには何が起こったのか正確にはわからなかったが、想像は出来ていた。きっと「あの時」と同じことがおこったのだ。そして、やはり精神時間と違って現実世界では一瞬のでき事だったのだろう。と・・・。
しかし、それにしても酷い壊れようだ。と、オリヴィアが呆然としているところへ、ジュリアンが欠伸をする声が聞こえてきた。
「あ~あ。酷い夢を見ちゃった!!」
僕は酷い悪夢の中にいた。どんな酷い悪夢か思い出したくもない悪夢だったけれども、とにかく僕は酷い悪夢から目を覚ますことが出来た。あの拷問をこれ以上受けなくて済むのかと思うと、僕はもう眠りたくなかった・・・・
「って、ななんじゃ、こりゃー----っ!!」
僕は自分のベッドの周りが崩壊している様子を見て混乱して声を上げた。
しかも、あろうことか、僕の目の前には僕を殺そうと狙っていた魔神フー・フー・ローが立っているではないか?
しかも、僕を見て「おう。起きたか坊主」と親しげに声をかけてくるしっ!!
さらに、間髪を入れずにクリスとオリヴィアとミレーヌとシズール。父上と母上が号泣しながら、抱きついてくるのだった。
「よかった~っ!!」
「心配したぞ、ジュリアンよっ!よくぞ無事で戻ってきてくれたっ!!」
「うわああああああ~ん。ジュリアン様~」
皆が号泣しながら、僕に抱き着いてくる中、魔神フー・フー・ローがステキな笑顔で「よかったな。」と語り掛けてきた・・・・・
って、なんじゃこりゃー-----っ!!
僕は再び絶叫するのであった。




