ちょっと待ってよっ!!僕が主役だからねっ!!
ジュリアンは、何者か神の域に達している者の呪いを受けて夢幻の悪夢に囚われてしまっていた。
かつて勇者アルファと共に戦った老エルフの疾風のローガンは、この呪いを解除できるのは神だけだ。と答えるのだった。
しかし、それは呪いを解除する方法が無いと言ったも同然の答えだった。
何故なら、人が神に会える方法は限られている。
異界の王として君臨した神に会うには、やはり神かそれに近い領域にある存在が現世へ召喚するか、
もしくは現世に現界している神に直接会うのみだ。しかし、神はその名の通り神出鬼没。どこにいつ現れるか人の身では想像もつかない。だから、人間が神を見つけられるとしたら、元々、神が現在居住している場所をあらかじめ把握しておくしかないのだ。
その両方の方法において、今、ドラゴニオン王国の民全てが無力であった。
異界の王を召喚する術などなく、また、神の所在を知る者もいない。
だから、神を人の身が見つけて助力を請うことなど、不可能なのだ・・・・・。
しかし、この時、ジュリアンの寝室に立つ全ての者が、もう一つの可能性を完全に忘れていた。
それは、神の方から出向いてきてくれる可能性だ。
その可能性は0に近いほど低い。神が人間の方へ気まぐれを起こしてやってきて、助力を願えるなどありえないことなのだ。
そのありえないことが起こったっ!!
「この中に、誰か神の所在に心当たりがある者がおるかっ!!」
ミカエラ王が怒りに任せてはなったあまりにも無茶な問いかけに全員が言葉を失ったが、そんな中、一人の男が大声を上げた。
「神ならここにいるぞっ!!俺に何か用か?」
傲岸不遜なその言葉を吐いたその男は、槍を携えた魔神フー・フー・ローだった・・・・・・。
その場にいた誰もがその存在を感知できなかったほど、いつの間にかその場に現れたのだ・・・・。
「ま、魔神・・・・・フー・フー・ロー様っ!!」
その神は、かつてジュリアンの前に現れて、ジュリアンを殺そうとしたが、ジュリアンの奇策にはまり敗走したのだ。あの時、あの場にいた兵士にとって魔神フー・フー・ローのお姿は見忘れようもない事だったので、思わずその名を叫んで跪いて平伏した。
その場にいた誰もが驚愕した。
「ま、まことか? このお方が魔神フー・フー・ロー様かっ!?」
流石のミカエラ王も取り乱すほどの異常事態だった。神が向こうからやって来ることなどありえないことだったからだ。しかし兵士の怯えようから、その真実味が高まる。
「左様にござりまする。王よっ!! このお方こそ、魔神フー・フー・ロー様にございますっ!!」
その言葉を聞いてその場にいた誰もが跪いて魔神の到来に経緯を示した。
そして、神が現れたのならば、ミカエラ王には言わねばいけないことが・・・否・・・・言わずにはおれない願いがあった。
「恐れ多くも畏くもフー・フー・ロー様に願い奉りたくっ・・・・・」
ミカエラ王がそう切り出すと魔神フー・フー・ローは、右手を指し示して制止する。
「よい。
俺はいったはずだ。俺に何か用か? とな。
許す。望みを申してみよ。」
その言葉にその場にいた全員が救われる思いがした。ミカエラ王は大喜びでジュリアンを救ってくださいと頼むのだった。
・・・が、しかし、魔神フー・フー・ローは首を横に振った。
「俺はこいつに嵌められて決闘の誓いを破った罰を受けた。その罰で受けた傷が完全に癒えたので復讐をしてやろうとここに来たら、まさか災いの神ドゥルゲットの呪いを受けていたとはな・・・・。」
魔神フー・フー・ローは、この呪いが災いの神ドゥルゲットのものだと断定した。誰しもがある程度は予測をしていたものの、その事実は王宮にいた者たち全員にとってショックなものだった。
何故なら、災いの神ドゥルゲットの呪いを解こうにも、災いの神ドゥルゲットと魔神フー・フー・ローとでは・・・・・。
「お前たちも察しておろうが、俺と災いの神ドゥルゲットとでは、神格が奴の方が高い。俺だけの力だけではジュリアンを救うことは出来ぬ。
呪いを解くだけならば俺でも事足りるが、その時にジュリアンの精神が無事でいられる保証がないのだ。」
魔神フー・フー・ローは、自分よりも災いの神ドゥルゲットが優れていることを素直に認めたうえで、呪いを解くことのリスクを話して聞かせた。
その説明を聞いた疾風のローガンは、事情を察して尋ねた。
「では、神よ。つまりは、魔神フー・フー・ロー様が呪いを解く間、ジュリアン殿下の魂を保護するものが必要と? こう仰るわけですか?」
疾風のローガンの質問は的を射ていたので、魔神フー・フー・ローは、思わず「はっ、流石疾風のローガン。老いてもその慧眼は顕在か!」と言って喜んだ。
「まぁ、要するにそういうことだ。」
そういうと魔神フー・フー・ローは、槍の石突を地面にカチンと叩き鳴らしてから、続きを語った。
※石突とは、槍の刃物が付いていない側の端のこと。
「もちろん、手立てがないとは言わん。俺は神だからな。
この呪いを解くためには光属性の神。もしくは上位の光精霊の手助けがいる。
災いの神ドゥルゲットは闇属性の神だからな。光属性ならば奴の呪いを中性化しながらジュリアンの魂を救うことが出来るだろう。俺は残念ながら氷属性だから、力づくで呪いを砕くことになっちまう。
だが、光属性の高位の者がジュリアンの魂を守りながらであれば、俺が奴の呪いごとき打ち砕いてやろう。」
魔神フー・フー・ローは、胸を張ってジュリアンを救う方法を答えた。
ミカエラ王は藁にも縋る思いで魔神フー・フー・ローに懇願した。
「してっ!? その光属性の存在にお心当たりがおありでございますか?それならば、是非とも我がせがれをお救いくださいませっ!!
お礼なら何なりと・・・・・。」
ミカエラ王は額が床につくほど深々と首を垂れた。
その姿を見てニヤリと笑う魔神フー・フー・ロー。続けて疾風のローガンと、遅れて寝室に入ってきたばかりのオリヴィアを槍で差し示して言った。
「ならば、この二人。俺の供をせよっ!!俺の知り合いの光精霊にはこの二人の手助けがいるのでなっ!」
疾風のローガンとオリヴィアは喜んでその指示に従うと言った。
その返事に満足した魔神フー・フー・ローは、ミカエラ王に魔除けの首飾りを渡す。
「俺が戻ってくるまでジュリアンの首にこれをかけておけ。幾分か呪いの効果が消せるだろう。」
ミカエラ王は畏まってこれを受け取った。
「はは~っ!!ありがたき幸せに存じまするっ!!」
魔神フー・フー・ローは、満足そうに笑うと右手でオリヴィアの服の首根っこの部分を掴むとネコの子のように持ち上げて肩に乗せる。
何事が起きたのかわからず「きゃああああああっ!」と、ビックリして声を上げるオリヴィアのことなど気にも留めない様子で疾風のローガンに申し付ける。
「では、供をせいっ!! 疾風のローガン。よもや年だと言って遅れを取ることなどないだろうなっ!」
その言葉と共に一瞬で姿を消す魔神フー・フー・ロー。
魔神フー・フー・ローはオリヴィアを肩に担ぎあげたまま、一瞬で走り去ったのだ。
その出来事を視認できたのは、ミカエラ王と疾風のローガンのみ。
疾風のローガンは、「では」と手短に王に挨拶したのち、魔神フー・フー・ローと同じように一瞬でその場から消え去っていった・・・・・。




