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楽しまないと損だよっ!!

「文化祭の発表は「農地改革」にするっ!」

僕は文化祭活動時間に教室の黒板の前に立ち、クラスメイト達に宣言する。

その言葉を聞いてクラス中がざわめいた。

「・・・・殿下でんか、農地改革は却下されたはずですよ・・・・。」

誰かが小さくそう呟いたので、クラスは急に静まり返って、その指摘してきを受けた僕がどうするのか注目が集まった。

僕は、静かにクラス中を見回して同級生たちの顔を確認する。

誰もが、僕に注目していた。つまり、僕が次に何を言うか興味があるのだ。

期待してくれていると思うのは、都合がよすぎるだろうか?

しかし、一つだけ言えることがある。

それは、まだ誰もが文化祭に関心を持ってくれているという事。まだ、僕達のクラスは。下級組の生徒は戦えるという事だっ!!

僕は全員の顔を見て安心すると、小さく息を吸ってから答えた。

「現行の農地改革は、やり遂げなければいけない。それは、この国を救うことだからね。文化祭に関係なく、僕達の学年がやり遂げるべき、課題だ。

 しかし、諸君も承知の通り、すでに農地改革の案は上級組の教授たちの卑怯な仕打ちによって発表の機会を失ってしまった。だが、農地改革には、土の改善以外にもう一つ、大切な要素を改革しなくてはいけない。」

僕はスティールを指差して問う。

「それが何かわかるかね? スティール君っ!!」

「はいっ!!・・・・・・わかりません・・・・・」

突然指名されたスティールは、わからないと答えた。愚かな。お家で家業の手伝いをしてこなかったな?

全く仕方のない奴だ。

「諸君。それは水だ。」

「・・・・みず・・・・?」

総員、わかったようなわからないような顔をした。

いや、蛇口じゃぐちをひねれば水が出る現代の日本の子供ならいざ知らず、過酷なこの世界において水がどれほど貴重で重要なものかは、例え貴族の少年である彼らでもわかりきったことだ。

「・・・・殿下でんか。農地に水が必要なことはわかりますが、それが当学院の授業内容と一致いたしますか?

 ご存じでしょうが、上級組の教授たちは、学院の授業にそぐわぬ研究発表は難癖なんくせをつけて中止してきますよ。」

教授が心配そうにたずねてきたが、僕はそれを右手で制止した。

「さて、諸君。当学院はご存じの通り、傭兵ようへい王国の王侯貴族の跡継ぎである子供を教育する機関である。

 だから、必然的に授業は、一般教養だけでなく、外交。商業。そして、軍事が教育される。

 とりわけ教育科目の授業時間は軍事が全体の教育時間の4割を占めていることは、諸君もご存じであろう。」

そこまで説明すると教授は、教卓をドンッと叩いて、合点が言ったように答えた!

「つまり農地改革に必要な水路の整備と軍事における水の利用を合わせるおつもりですなっ!?」

僕はにっこりとほほ笑んだ。


「諸君。あらためて説明をするまでもないかもしれないが、水は高いところから低いところへと流れる。

 農地への用水もそこを計算して、水路を作らねばならないが、それは軍事とて同じこと。例えば先だっての戦争の時に起きたように敵が我が国の都市を制圧したとしよう。これを叩くには力攻めのほかに、兵站へいたんつ方法もある。我々が水路を断てば、城塞じょうさい陥落かんらくするし、逆に水をしっかりとたくわえてから一気に押し流す水責めのやり方や、排路をせき止めて沈没させる方法もある。

 我々は、敵を水攻めにする方法の研究と称しながら、結果として農地改革も行うのだ。

 いや、農地改革を成しえなければ、水攻めのために効率よい水路を築けぬというものだ。

 これならば、敵も僕らの研究を中止させることは出来ないし、つい先だって起きた非常事態に直ぐに対応する機転の良さと国を憂う僕達の姿勢は高評価につながるはずだ。しかも、国力も増強してしまうんだから、僕達の研究は、歴史に残るかもしれないよっ!?」

僕が演説を終えると、全ての生徒が立ち上がって僕に拍手をくれた。

これで、僕達の意思が一つに纏まった。

僕は、まずクラスの再編成をする。だって、もう、僕達のクラスに上級組に勝つことに対して否定的な子はいないんだから、全員の仕事に期待して仕事を割り振るべきだからだ。

始めに土壌を改善する班として6人を選出してクリスの配下にあてがう。残りのクラスメイトを今度は、土地全体の高低差を測量する3班に割り振った。

1班は僕の班で、国土全体の高低差を調査する班で、他の班は王都の近くを流れる主流河川から東の土地を観測する係に割り振った。その理由としては、王都の近くには、それなりの規模の城塞都市があるからだ。ここを押さえられたときに、即座に主流河川を利用した水責めを出来るように観測するとともに、農地へ効率よく水を供給できる水路を計画する足掛かりにするわけだ。

僕が用いた高低差を測る方法は、城塞都市の城壁の地面からの高さから見た景色と城壁の上からみた景色の高低差から0起点を2つ算出して、そこを基準にして目印になる高さの物との高低差を算出していく方法だ。測量機械があるわけではないので、水を利用した水平レベル出しで精度を上げるしかない。

人班に6人用意して、2起点から1点を算出して誤差を計算しながら修正して進んでいく。これには計算が得意な者が必要になってくるのだ。

ちなみにコンピューターの語源をご存じだろうか? コンピューターは、元は弾道だんどう計算をする仕事をする人の事を言う。大砲を角度何度で打ち出せば、何メートル砲弾が飛ぶか計算したのだが、今、僕達がやっている測量の計算をしている人たちもまさにコンピューターだ。

研究には1月半しか時間が残されていないが、僕ならば3日で発表資料の作成をすることが出来る。時間は十分に残されている。

そう思って作業を始めたのだが、途中でやはり時間が足りないことに気が付く。

仕方なく2週間目から人足を雇って人海戦術じんかいせんじゅつを行わなければいけなかったが、それでも何とか、主流河川から城塞都市への高低差を割り出すことが出来た。

そして、僕達はただ水をせき止める水責め以上に効率の良い方法を見つけ、なおかつ、農地の水路の聖地に役立つ地図を作製した。

こうして、僕達の研究発表は完成を迎える。そして、同時にクリスの土壌改善も完了した。クリスの成果が出るのは、相当後のことだが、それでもクリスは、水路も確保されていれば必ず一定以上の効果が期待できるはずだと太鼓判たいこばんを押すのだった。


そうして、研究発表の日が訪れた。

上級組は格式高い歴史研究から見る作法礼法の変遷へんせんを課題とし、僕達は水路改革による城攻めの効率化を課題として発表した。

明らかに下級組の方が実用的かつ大規模な研究課題であったにもかかわらず、上級組の教授たちは、僕達が実際に土木工事を行って実証検分をしたわけではないことを理由に不当に下級組の評価をとぼしめようとしたのだが、そこは下級組の教授たちが頑張ってくれて、学術的に反論した。

結果として、僕達、下級組の研究が勝利したっ!!

このニュースは他の学年の生徒たちにも衝撃を与えた。

特に下級組の生徒たちは半狂乱になって大騒ぎした。まるで季節祭のように皆が踊り狂って勝利を祝った。

そんなとき、クリスが言った。

「今こそ、メイド喫茶の出番よっ!!」

クリスは下級組の食堂を貸し切って、メイド喫茶を開店する。

女生徒たちは最初の頃、給仕係きゅうじがかりの格好と振る舞いを強制させられることに不満を抱いていたが、普段、高飛車たかびしゃな彼女たちがかしずく姿に男子生徒は皆大興奮して、大喜びで彼女たちを口説くものだから、女生徒たちも男子生徒たちが自分たちにメロメロになる姿が嬉しくなって大喜びで給仕をした。

その様子を見てクリスが僕に勝ち誇ったように言う。


「ほら、ご覧になりましたか? 殿下。

 可愛いは正義。必ず、勝つのですっ!!」


小さな体を精一杯大きく見せて勝ち誇るクリスの様子が可愛すぎて、僕は、いつものようにクリスを抱き上げるとダンスを踊る。僕に持ち上げられたり放り投げられたりして、キャアキャア悲鳴を上げながら喜ぶクリスのその様子を生徒たち一同が驚いた表情をして見ていたが、やがて誰と言わずに女生徒とカップルが出来てダンスを始めるのだった。

いいさ。今日は皆で踊り狂おうっ!!

だって文化祭はお祭りなんだから、楽しまないと損だよっ!!




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