僕と一緒に歩こうよっ!!
「き、きれいだよっ!! クリス!! すっごい可愛い、可愛いっ!!」
僕は水着姿を披露してくれたクリスに感謝して両拳を握り締めて絶賛する。
だって、本当に可愛いんだもの!
「ほ・・・・・本当っ!?」
クリスは真っ赤に顔を紅潮させながら、嬉しそうに聞き返してきた。
「ほ、本当本当! 滅茶苦茶可愛いよ!!」
クリスは、そういわれると恥ずかしいのか嬉しいのか微妙な表情を浮かべて体をモジモジさせる。
・・・・でも、僕がクリスの手を取って「じゃぁ!! 泳ぎに行こう」って誘ったら
「・・・・嫌!!」
と言って、僕の手を振りほどき、羽織を着てしまった・・・・。
えー----っ!? なんでっ!? なんでさっ!
君、何で恥ずかしがってるの? マジで滅茶苦茶可愛いよっ!?
すっごいロリータアイドルみたいだっ!
絶対、地球で君がライブを開いたらすっごい数のファンが駆けつけるよ? 東京ドームなんかすぐに埋まっちゃうはずさっ!!
ねぇ、なんでっ!? なんで、水着をもっと見せてくんないのっ!!!?
僕が駄々っ子のようにお願いしてもクリスは嫌がった・・・・・。
「だって・・・・・他の女の子がいるんだもん・・・・。」って。
ああ、そっかぁ・・・・。やっぱり気にしてるんだな。その薄い胸を。
確かに同級生の女の子たちは14歳らしからぬ巨乳ぞろいだ。
でも、それはクリスが貧民育ちで栄養が足りてないだけで、僕の家で食事してたら、いずれは君もボンッ!! キュ!! ボンっ!! の凄いエッチな体になるよっ!!
「・・・だって、お母さんもオッパイ小っちゃいもん・・・・・。」
・・・・OH・・・・
いや、OHじゃないよ。何ちょっとがっかりしてるんだ、僕はっ!
「そ、そんなことを気にしなくてもいいよ!! だって、君は滅茶苦茶可愛いじゃないかっ!
それに男は、そりゃ、大きいオッパイが大好きだけどさっ!! でも・・・・小っちゃいオッパイも大好きなんだよ? 本当さっ!?」
な、なにを力説してるんだ、僕は・・・・・。ちょっと自分が情けなくなった。
クリスは、そんな僕を不貞腐れた顔で睨みながら「ほらっ!! やっぱり、ジュリアン様も私のオッパイ、小っちゃいって思ってるじゃないっ!!」と、反論してきた‥。
・・・うーん。今のは失言。レディに対して言っていいセリフではなかった。
「ごめん、ごめん。今のは僕が悪かった。もういいよ。君が他の女の子といたくないって言うなら、それを尊重する。無理に誘って悪かったよ。」
僕がすぐにそう言ってちゃんと謝ると、クリスは不安げな顔を浮かべて
「・・・・やっぱり、私みたいなやせっぽちの体じゃ、それほど見たくない?」って聞いてくる。
・・・・・・・・・・・・どっちだよ・・・。
いや・・・やっぱり不安にもなるか。僕があっさりと引き下がったから、男の子から見て自分に魅力がないのかと思っちゃうよね。年頃の女の子だったら不安に思っちゃうんだろうなぁ・・・・・・。
うーん。どうしようか。僕はこのままクリスと一緒に遊んでいたいし、なんとかクリスの機嫌を損ねないで、尚且つがっつき過ぎない感じでクリスを誘い出せないものか・・・・。
そんなことを考えていたら、湖の周りに広がる林の中から小鳥の声が聞こえてきた。
ああ、そっか・・・。別に水着に固執することはない。クリスと一緒に遊べたらいいか。
僕は右手を差し出すと「じゃぁ、僕と一緒に歩こうよっ!!」と、誘う。
クリスは、僕の差し出した手をじっと見ていたけど、やがて合点がいったのか「はいっ!」と、可愛い返事をして僕の右手を握る。
・・・・・ああっ!! 何この素直な感じっ!! 可愛いなぁ・・・・。
僕はクリスの水着が見たいけど、それ以上にクリスに嫌われたくないし、クリスと一緒にいたい。
クリスは僕と一緒にいたいけど、他の女の子の水着と見比べられるのは嫌。
だったら、こうしよう!!
二人っきりで林の中を散歩して、色々、おしゃべりししようよ!
(まぁ、二人っきりっていっても、僕達の周囲10メートルには護衛がいるんだけどね)
僕が彼女の手を引いて歩く。小さな体の彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩いて、出来るだけ長くおしゃべりしよう。
僕達は、まるで恋人同士のように並んで手をつないで歩きながら世間話をした。少しでも話してないと僕は、どうにかなっちゃいそうなくらいドキドキしていたからね。
よく考えたら、こんな風に家柄目当てではない女の子と普通にデートするのって前世を合わせても初めてのことだなぁ・・・・・。
クリスは歩きながら、これまでどうやって生きてきたかを話してくれた。
クリスの生まれ育ったナザレ村はとても貧しいところで、クリスは彼女が天の御使いの奇跡により前世の記憶が目覚めるまでは一日の食事は1回だけだったと語った。それでも家族はクリスのことをとても大切にしてくれたから幸せだったらしい。
そして前世の徹君の記憶に目覚めてからは、徹君の母親が家庭菜園をやっていた都合で聞くとなしに聞き知っていた農業の知識を大人たちに話して聞かせた。両親がそれを実行すると翌年から収穫量が上がり、それを村人たちが真似するようになり、ナザレ村では一気に収穫量が増えた。それで村人たちからクリスは「神童」と讃えられるようになったという。驚いたのは魔法については全くの独学でナザレ村の近くの街の神殿で神官がやっていたのを見よう見まねでやっただけだという。クリスの底知れぬ魔法の才能には寒気すら覚える。
僕だって相当、魔法の天才なんだと思うのに、クリスは常識外れの才能の持ち主だ。うらやましい。
「すごいね。君が羨ましいよ。」というと「王子様に生まれ変わったジュリアン様に言われても・・・・。」って笑われちゃった。ま、そりゃそうか。
それにしても、こうやって隣を歩くとクリスの小ささが際立つ。多分、150センチ無いな。145~8センチってところかなぁ。僕の手のひらに包まれている小さな掌の感触からもクリスの小ささを実感する。
あの上級組の連中はこんな小さな体の少女を襲っていたのかと思うと、本当に狂気の沙汰だ。この世界のいじめも根が深い。
クリスは僕がしっかり守ってあげないとね!
僕がそんなことを考えていると、クリスが「あっ・・・・」と、足を止める。
クリスの悲しそうな表情を見て、僕は不審に思ってクリスを同じ方向を見る。それで、僕はクリスが何を見て、何を思ったのかを知った。
「・・・・・パシリだな・・・。」
僕達の視線の先には、大荷物を持たされた少年とその少し前を歩く少年たちの姿が見える。
僕も身に覚えがあるので荷物を背負わされている少年の気持ちを思うと胸が痛んだ。
クリスも僕の言葉に頷くと
「・・・ええ。私の中の徹もそう言っています。」
といった。
・・・・
・・・・
・・・・・・・・あ?
・・・・え?・・・・・・・今、何言ったの?
「あの・・・・クリス。君の中に徹君の自我が・・・・今、あるの?」
「はい・・・。自我と言ってもはっきりとした人格ではありませんけど‥‥。」
クリスは当たり前の顔をして言った。
・・・・え? ど、どういうことだ??
今、クリスの中には二人の人格があるって言うこと?
「・・・え? ジュリアン様の中には、ないんですか? そういうの?」
クリスがあんまりにも不思議そうに尋ねるので、クリスはそのことを不自然に思ってはいないらしい。
いや、そりゃ、そうか。だってクリスは覚醒した日か今日まで自分以外に転生者がいないわけだから比較対象するものがないわけだから、”そういうもの”って納得するもんなぁ・・・・。
でも、前世の記憶が残っているのと違って一人の体の中に違う人格が同時に存在するのって危ないんじゃないの?
これは後々、深刻な問題になるかもしれない。今のうちにしっかりと確認しておかないと・・・・。
「徹君は、君と入れ替わったりすることが出来るのかい?」
僕がクリスの肩を抱いて、あんまり真剣な顔をするからクリスはちょっとびっくりしていた。
「え・・・? いいえ? 本当にないんですか? ジュリアン様の中には?」
「ないよ・・・・。もう一度確認するけど、徹君は君と入れ替わることが出来ないんだね? それは絶対に?」
「・・は、はい。だって、人格というには小さすぎます。前世の人格の断片の内でも飛び切り小さな欠片って言うか・・・・そう! あれですわ! この感じ、あれに似ていますわ!」
いや、いやクリス。落ち着いて。あれってなによ?
「精霊の幼体っ!!この未成熟な魂は、まだ精霊にも成れていない胎児の状態によく似ていますわっ!!」
と、こともなげに言うのだった。
・・・・・・・ああっ!!?
い、いいいいい、今、今、君なんて言ったの?
「もしかして・・・・クリス。・・・・もしかして、君。精霊の幼体が見えるのかい?」
僕が恐る恐る尋ねると、クリスは上目遣いでキョトンとしながら「はい?・・・・え? ジュリアン様には、お見えになりませんの?」と、尋ね返してきた。
いや、君ね。精霊ってシャーマンが交霊術を使用して初めて交流できる高位の存在だからね?
それを肉眼で見てるってなにそれ・・・。
・・・・もうやだ。この天然娘。
もうやだ、チート格差。
僕ね、君と出会うまで相当、転生ブースト貰ったチートキャラだと思ってたのに、ふたを開けてみれば
平均的にパラメーターが底上げされてるだけじゃんかっ!!
「・・・・ジュリアン様の方が相当反則だと思うのですが‥‥。」
「違うよ!! 君、精霊の幼体が見えるってどれだけ凄いことかわからないのかいっ!? もうね、それって魔法の申し子ってことだよ?」
「・・・はぁ、そ、そうなんですか・・・?」
・・・・僕は、少し疲れたよ。
と、とにかく徹君の魂の危険性について尋ねなおさないと・・・。
「クリス。その・・・・小さな欠片になった徹君の魂が成長して、君を乗っ取る可能性はないの?」
「ありません。」
クリスはきっぱりと断言した。
その根拠は?
「だって、魂のオドが交流はしていませんもの。生命ってこの大地と天の間を流れるオドの力によって、回転しながら成長していくものじゃないですか? 正確に言うと右回転ですけど・・・・。
私の前世は確かに徹なのでしょうけど、魂の大半は私になっていますし、どうしてか私の魂と切り離されて残ってしまった徹の魂の欠片は停滞しているようで左回転に縮小していっています。左回転ってことは、天と地に歓迎されていないってことですから・・・・。いずれオドとして分解されて私の魂に吸収されて、ただの記録として安定されるはずですわっ!」
ほうっ!! なるほど、そういう事か。
つまりこういうことだ。
僕にはクリスのいう事がさっぱり理解できないし、何か謎の理論が展開されているけど、何の心配もないってことだね!!
ならばっ!! よしっ!!
僕は考えるのをやめた。
では、今から僕達がやることは一つだけだ。
「ねぇ、クリス。前に君が暴行されかけた時に僕とした約束を覚えているかい?」
「はいっ!!もちろんですわっ!!ジュリアン様っ!!」
僕は元気いっぱいで僕に返事するクリスを見て納得すると、意気揚々とパシリにつかわれている子のところへと向かう。
さあっ!!世直しの始まりだぞっ!!