農地調査に出かけるぞっ!!
今年の文化祭は僕の発案である農業革命についての研究を発表することが既に決定した。しかも、上級組のはねっ返りと決闘をするほど、僕達は文化祭に賭けていた。
だから、発案者の僕がこれについて、力を抜くことなどありえない。僕は寝る間も惜しんで、研究チームの振り分けを始め、スケジュール調整を行っていた。
そうなると流石に朝は眠たくなるもので、僕が寝ぼけ眼で朝食の間に現れた時、父上は苦笑しながら「まぁ、せいぜい頑張りなさい。」と、声をかけてくださった。
ようし、頑張るぞぉっ!!むにゃむにゃ・・・今日のサラダは嚙み切れないなぁ・・・・・
「ジュリアン様。それはお手拭きです。」
ミレーヌはそう言いながら、僕の口から布を引き抜いた・・・・。
それでも翌日の文化祭活動時間になると元気になるのだから、不思議なものだ。
僕は元気はつらつと、黒板に用意したスケジュール表を貼り付けて、今後の活動計画をクラスメイトに説明する。それを見て喜ぶ者もいれば、少し不満げな印象を持つ者もいた。
不満げなものが出ることは前から分かっていた。文化祭の発表で上級組に勝てるわけがないという悲観的なものの考えに陥っている者たちは、僕がこれを発表した時からいたからだ。僕は、彼らに自分のやり方を強制するつもりはない。だけど、文化祭は全員参加が学校側から指示されていることなので、彼らにも仕事の振り分けを行う必要があったのだ。そこは心苦しいところではあるが、僕は彼らにもこの活動への仕事の振り分けは行わなければいけない。僕は、彼らに対しては、わかりにくいレベルで比較的に負担の少ない役職に振り分けるのだった。それで、いつか彼らがやる気を出してくれた時には、そのやる気に報いるような立派なポジションを与えてあげるつもりだ。だから、今は辛抱しておくれと、心の中で彼らに頭を下げながら、仕事を頼むのだった。
僕達は、まず学院から馬車で移動して1日以内で行ける距離を研究活動の行動範囲と定めた。つまり、この活動は休日を利用したちょっとした旅行気分も味わえる研究となる。
週の終わりの授業を終えたのちの晩に全員で移動をして、深夜に宿泊先に到着して夜を過ごし、翌日の昼に調査をする。そして、翌々日の昼過ぎに現地を出て王都へ帰還するスケジュールだ。現地調査だけでなく遊ぶ時間も十分にあるというわけだ。
「うわぁっ!! おやつをたくさん用意していかないといけませんわねっ!」
「俺、移動中の暇つぶしのためのカードゲームを用意するよっ!」
などなど、学業以外の楽しみも満喫してやろうという生徒たちの明るい会話も飛び交うのはいい事だと思った。だって、勉強だけじゃ楽しくないからね。
僕達はまず、王都を中心に地図に東西南北の四方の線を引き、そこにできる4区分の農地をそれぞれの班で調べることにした。つまり現地調査を4班に分けて、それぞれ同時に農地調査をするわけだ。
各班には、それぞれリーダーを決めてもらい、そのリーダーに僕は前もって用意しておいた注意事項と重点的に調べてほしいことを書いた紙を渡して、それを見てもらいながら、口頭で入念に説明した。
そして、それぞれのリーダーが十分に情報を共有できているか最終確認してから、その日の文化祭活動時間を終了した。
その後、週末までの数日もそうこうしているうちに、あっという間に過ぎ去ってしまい、とうとう、僕達は農地調査のための移動日前日になった。
僕達の所属する班は、もっとも低生産率の農地が集中する北西のブロックと定めておいた。そこの農地改革が一番ネックであることはわかり切っていたからだ。
僕達の班は、当然、僕、クリスティーナ、オリヴィア、ミレーヌの4人とケヴィンという少年だ。3人娘をそれぞれ別班にふり分けようとした時、ミレーヌが「・・・・・殿下とお別れするなら・・・・死にます」と、半ば脅迫的なセリフを吐いたので泣く泣く、僕はこの3人を僕の班に編成せざるを得なかった。その時のクラスメイト達の冷たい視線が忘れられない。
「慰安旅行ですわ・・。」
「婚前旅行だろ。あれ。」
などなど、ひそひそ話が聞こえてきたうえに、僕達の班に加えたケヴィンという少年は、線の細い美少年だったので、僕には「そっちの気もある」などという不名誉な誤解まで受けることになった。
いや、ケヴィンは実際、ちょっとそっちの気があると噂されていた。あくまでも噂だが、上級生のマッスルな先輩と手をつないでデートしていた・・・・なんて話があるくらいだった。そういう生徒だったので、当然、班分けの時にハブられる可能性があったので、引き入れただけなんだが・・・・・。
しかし、これもいじめ対策の一環だと思えば、乗り越えられる障害だっ!!
・・・・・そのはずだったのだが・・・・・。
どういうわけか、調査地へ移動中の馬車の中でケヴィンは僕に寄り添うように、僕の隣の席を独占した。
「う~っ!! お前、そっちの気があったのかよっ!」
などと、オリヴィアからの恨み言を耳打ちされながらの旅行は、大変、辛かった。そして、当然、クリスもミレーヌも恨めしそうな目で僕を見るのだった。
ああ・・・・・なんでこんなことに・・・・。
僕が居たたまれない空気の馬車旅行を満喫した後、現地に着いたのは、予定通り深夜だった。精神的に追いやられた僕はフラフラと宿泊先の王家所有の別荘に入っていった。
自室に入ってベッドに突っ伏して、しばらく動けずにいると、誰かが部屋をノックした。
「だれ?」
僕の問いかけに「ケヴィンです」と返事が返ってきた。
ケヴィンが何の用だろう? と、部屋のドアを開けると、女性用の下着を身につけたケヴィンが立っていた。
「・・・・・お前、何考えてんの?」
僕は眩暈を覚えて頭を抱えた。
そんな僕をケヴィンは不思議そうに見つめながら「殿下も僕をそういう風にお使いになるために、僕を班に率いれたのではないですか?」と尋ねるのだった・・・。
・・・・・なんだって?
今。なんて言った? 「僕をそういう風にお使いになるために」・・・・お使いになるためにって言ったのか?
僕の背筋に寒気が走る。聞いたことがある・・・・。あの日本にもそういう形のいじめが存在することを・・・・・。僕は、ケヴィンに一度、ちゃんとした服に着替えてから食堂に来なさいと指示して、ケヴィンを帰すと、食堂に明かりをつけて、しばし待った。
そして、やがて食堂にやってきたケヴィンに事情を尋ねた。
「言いにくいことがあるかもしれない。言いたいことがあるかもしれない。
しかし、この場には、僕とお前しかいない。
安心して、今、苦しんでいることを告白してほしい・・・・。僕が必ずお前を救い出して見せるよ。」
ケヴィンの肩に手を置いて、そういうとケヴィンは、テーブルに突っ伏してすすり泣くのだった。
事情は最悪だった。彼は下級貴族の中でも平民が金で爵位を買える「等爵」の家柄だ。それも立場はとても低い。そこを上級生の先輩に付け込まれた。地元で彼の実家の商売の取引先の貴族の子供に「性的ないじめ」を受けていたのだ。それはやがて、他の先輩にも飛び火して、ケヴィンは周りから「そういう子」とみられるようになってしまったのだ・・・。
彼は、自分が受けていた仕打ちの全てを告白した。それは、ここで語りたくないほど辛いものだった。
僕は現地調査を終えて王都へ戻り次第、彼を守り、救い、彼の尊厳を守らなければいけないと、旅行先の食堂で誓うのだった。




