オリヴィアの淑女化計画を実行するよっ!!
デイビットに僕が勝利したことに感動したオリヴィアからの熱烈なキス攻撃に触発されたかのように、クリスとミレーヌまで僕に抱き着いてキスをし始めるものだから、僕は上級組からも下級組からも恋多き王子と認識されてしまったらしく、その日から僕がクリスやオリヴィアを連れて歩いていると、数人の生徒たちが「うわぁ・・・・。」とドン引きの声が聞こえてくる日々が続いた。
・・・・いや、良いんだよ? これは二股じゃないんだよ?
だって、クリスとオリヴィアは今でこそ別々の肉体だけど、本来は同一人物の別人格なんだから。ん? 別人格ならぬ別魂かな?
とにかく、二人は同じ魂から生まれた同一人物だし、今でもオリヴィアとクリスの魂は根本的につながっている。
クリスティーナは、蝶よ華よと大切に育てられた村娘でとても女性らしい魂をしている。
しかし、前世でクリスは少年だった。この異世界に来て女性に転生してしまったために、本来男性部分を構成していた魂の部分が切り離されてオリヴィアの魂が生まれた。オリヴィアの魂は、やがて分解吸収されクリスと一体になるはずだったが、14年間、クリスと同化することなく成長した魂だ。しかも、本来なら男性部分をつかさどる魂の欠片だったはずなのに、転生した先の体が女性だったし、女の子として育てられたために、随分と女性化した魂となっていた。しかも、僕があんまりクリスに愛の告白をしたり、キスしたり抱きついたりするものだから、とうとう芯から魂が女性化し始めて、現在に至る。オリヴィアにはそう言った経緯があるので、時折、男言葉が出たりする。だから、端から見ると二人が同じ魂だとは、誰も気が付かないし、中々、信じてはもらえないのだけれども、二人は、同一人物なのだ。
二人の性格は全く違うように見えるけど・・・・僕は知っている。オリヴィアが実はかなり乙女チックなことを。綺麗なドレスを着ると、鏡に映った自分の姿を見てポーっとなってしまうし、恋愛小説が好きでクリスを始め、クラスメイトの女子たちと恋バナで盛り上がっている姿を僕は見かけたことがある。
まぁ、言ってみれば、オリヴィアはちょっとボーイッシュなところがある美少女なのだ。だから、僕が好きになってもおかしくないし、二股なんかじゃないんだっ!!
僕は本来なら、胸を張って二人を侍らせることが出来るのだけれども、世の人は僕が二股をしていると勘違いしている。あまつさえ、二人の社会的立場が僕の端女であることを理由に僕が夜な夜な二人をベッドに侍らせているなどとありえない妄想を抱いている人間もいるらしい。天地神明に誓って言うが、僕達はキスまでしかしていない。オッパイを揉んだことくらいはあるけど・・・・・・・
だが、僕のそばにはミレーヌまでいる。それが理由に僕が恋多き淫乱王子だと世間的には思われてしまっているらしい。誤解なのに・・・・・
このあいだ、父上に正式に娶られたマリアに会ったときにも言われたよ。
「殿下、それは誤解されても致し方ありませんわ。だってお父上がそうなのですから・・・。」
マリアはそう言いながら、自分に宿った僕の弟をいたわる様にお腹をさすりながら言うのだった。
あれだけ荒々(あらあら)しかったマリアが今ではすっかり奥の院に相応しい淑女になっていた。
どうして、急にそんなに変われたんだいっ? って尋ねたら、「お父上に力づくでものにされてしまいました。冒険者にとって力は正義でした。でも、圧倒的に強いお父上に私はねじ伏せられ、男性としても女性の身では抗えないほどの魅力でわたくしをねじ伏せてしまわれたのです・・・。」と、語るのだった。
そう言えば、最初の頃はあれほど激しく抵抗していたマリアが、いつの間にかすっかり手なづけられてしまっている。かなり歪んだ愛情の形が二人にはあった。
・・・・・・だが、しかしっ!!
父上とマリアの関係を参考にすれば、もしかしたら、オリヴィアを第一王子の僕に相応しい完璧な淑女に躾けられるんじゃないのかっ!!? と、僕は思うのだった。
村娘が本性のクリスティーナと違って、前世の男性部分がまだ残るオリヴィアはともすれば時々、男言葉や男性っぽい仕草が出てしまう。村娘ならそれでいい。ボーイッシュな娘っ子で済むし、子を産めば肝っ玉母さんで済む。だが、やがてこの国の王位を継承する僕の妻がそれではいけない。”はしたない” は子供のうちでとどめてもらわないといけないのだっ!
オリヴィアには正妃に相応しい女性に育ってもらわねばっ!!
それには、父上に気の強いじゃじゃ馬娘の躾け方を教えていただかねばならない。
僕は機を見て、父上と二人っきりの時に「マリアのような気の強いじゃじゃ馬を調教した方法を教えてくださいっ!」と頭を下げて頼むのだった。
僕の言葉を聞いて暫く黙っていた父上は、やがて「はっはっはっ!」と笑うと、強かに僕の頭をゲンコツで殴った。
「人聞きの悪い事を抜かすなっ!!ボケっ!!
あれは、普段荒くれものを演じているだけで、本性は自分から男に跪きたいドМだっ!!
私はその願望に付き合ってやっただけだっ!!」
僕は薄れゆく意識の中で、マリア・ガーンと父上の言い分の違いと、その認識の差に「・・・・・いい加減にしろよ。」と思わずにいられなかった・・・・。
「さて、そんなわけで、僕は男女の仲が、一筋縄ではいかないことを覚えた。
そのうえで、君に聞きたい。
オリヴィアっ!君は僕の后に相応しい女性になる気はあるかっ?」
僕は自室にオリヴィアを呼びつけると、椅子に座らせる。そして、彼女の前に教育者のように立って質問するのだ。オリヴィアはそんな僕を煩わしそうにジト目で見つめながら、
「なんだよ・・・・。俺のこと可愛いって言ったくせにっ・・・・!!」
と、口答えするのだった。
ほらっ!!
それですよ?それっ!!男言葉っ!!
ちゃんと淑女らしくしないとだめでしょっ!?
僕は、両拳を腰に当てて仁王立ちでオリヴィアに注文を付けると、オリヴィアは、淑女にあるまじきことに膝を組んで反論するっ!!
「なんだよっ!! 俺は知ってるぞっ!! お前、俺のこういう部分が崩れて乙女な姿を見せる瞬間が、本当は大好きだろっ!!」
・・・・はい。
「元、いじめっ子の俺をメス堕ちさせて、ちょっと征服欲が満たされて今、ちょっとゾクゾクしてるだろっ!!」
・・・・・・・はい。
「ドSっ!! 変態っ!! 大体、今だって、私の太ももばっかり見てるじゃないのっ!!
バカーッ!! スケベっ!!」
・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。
オリヴィアは、僕の目線に気が付くと、とたんに恥ずかしくなったのか、男のような振る舞いをするフリを止めて、乙女に戻り、恥ずかしそうに真っ赤顔で組んだ膝を戻すと露になっていた太ももを隠しながら抗議する。
・・・・・・いや・・・・・・・・まって、そういう話じゃないよね。今。
「オリヴィア、話をすり替えるのはやめなさい。
今は、僕の性癖の話ではなくて、君の振る舞いについて話をしているんだ。
・・・全く、普段は乙女らしく振舞えるのに、興奮するとどうして男言葉が出てしまうんだい?」
オリヴィアは、不貞腐れながら、「だって・・・・・私は私として好きになってほしいもん・・・・・。クリスと一緒のままだったら、クリスと一緒の愛され方しかしないって気が付いたんだもんっ・・・・」と、口答えするのだった。
あ、どうしよう。
今キュンときた。かわいい・・・・オリヴィアはやっぱりクリスと同じ人格だ。不貞腐れ方がクリスそっくりだもん。
僕は納得した。そして、受け入れようと思う。
クリスとは違う魅力を見せるオリヴィアの可愛さを・・・・。そして、クリスとは違う愛し方をするべきだと知った。
「でもね? オリヴィア。人前では、男言葉はやめようね。これから少しずつなくしていこうね?」
僕はオリヴィアの頬に手を当ててから、そういうと、オリヴィアは何かを期待して「・・・・はい。」と答えるので、僕はご褒美として、熱いキスをその唇に与えるのだった・・・。
唇が離れるとすぐにオリヴィアは僕を追いかけるように抱き着いて「やぁん・・・抱っこぉ・・・・。」とおねだりするのだった。
ああ・・・
・・・・ああ、あなんて、君は可愛いんだ。オリヴィア・・・・・・
・・・・・・僕はきっと、一生、オリヴィアとクリスという子猫ちゃんの魔性な魅力に勝てないんだろうな、と思いつつ、僕はオリヴィアの細く小さな体を抱きしめるのだった。




