決闘でズルするのは許さないぞっ!!
翌日の放課後、前日の興奮冷めやらぬ僕達は、今後のことを4人で話し合った。そりゃ、出来たらシズールも仲間に入ってほしいけど、無理強いは出来ないし、そもそも彼女がこの場に入ってきたいと思える環境を僕達が整えなくっちゃいけないんだ。
僕がその決意を新たにしている最中、学院の出入り口付近で、クラスメイトが上級組に絡まれている姿を見かけた。
上級組は、下級貴族の子供が集まる下級組と違って、上級貴族が集まるクラスだ。
生徒同士には、爵位が無いわけだから本来は上も下もないわけだが、そうはいっても卒業後には貴族の階級社会の世知辛さを嫌というほど見せつけられるのがわかっている下級組は、面と向かって上級組に逆らう者はいない。いるとすればスティールのような怖いもの知らずだけだ。大抵のものは、反論さえしない。
そんなわけだから、上級組はますますつけあがって、下級組を見下すのだ。
しかしっ!! 僕がここに来た以上、黙って見過ごすことは出来ないねっ!
僕は何の話で下級組が絡まれているのか大方の察しはついているが、それでも白々しく、「やぁ、君たち。何をやっているんだいっ?」と、爽やかに話しかけるのだった。
ミレーヌとクリスとオリヴィアが僕の三文芝居に思わず吹き出してしまうのは、お約束。聞き流すとしよう。
さて、僕に声をかけられた上級組は顔を引きつらせて、逃げ去ろうとするのだったが、それを許す僕ではない。
「待ちたまえっ!! 僕は、何をしているのか、聞いているんだぞ?」
この国の第一王子の声にいじめっ子たちも従わずにはいられない。
僕がよくよく聞いてみると、案の定、文化祭で僕が勝つ気でいることが、既に上級組に知れ渡っているらしい。これまで伝統的に文化祭は上級組の独壇場であったのだが、それを第一王子が覆そうとしている。自分たちの代で長年の因縁に終止符が打たれ、下級組に敗北することになりかねないことを知った上級組が圧力をかけてきたのだ。
具体的に言うと、文化祭活動への消極的な参加を求められていたのだ。
下級貴族の中には上級貴族からの支援や借金で成り立っている家もあるので、実家のことを心配して、上級組へ逆らえない生徒もいる。そう言った生徒たちに対して、こういった脅しは何よりも効く。自分が虐げられるよりもはるかに強烈に効くのだ。
何という卑劣な振る舞いだろうか? 僕は、はらわたが煮えくり返らんばかりの思いを飲み込んで、理性的に上級組に語り掛ける。
「諸君。我々は、学生だ。卒業してから貴族社会に入ってからは色々なことがあるかもしれないが、それは貴族のルールに従って立ち振る舞うべきだ。
しかし、我々はまだ学生だ。学生には学生のルールがある。
校則にある様に本校の生徒は、全て貴族の子で、出自により上級組と下級組に分かれているものの、学園の中では平等に「一生徒」に過ぎない。そこに出自は問われない。
我々は運動会も文化祭も公平な条件で行われなければいけない。決して家柄を振りかざしたりして、他クラスの学業を妨げるような行いはしてはいけない・・・・・違うか?」
違うか? それは、問いかけではなく、強制であることを上級組の生徒たちは皆が知っている。特に上級組は僕が本気で切れた姿をその眼で見ているので、逆らいたいとは思わない。誰もが「はい。」と答えるはずだった。
・・・・はずだった。
しかし、一名、「それではお尋ねするが、ジュリアン殿下。あなたは公平で平等と言えるのか?」と、堂々と僕に反論するのだった。
僕はこういう気概のある手合いは嫌いじゃない。むしろ名前が知りたい。
「今言ったのは誰だ? 前に出て名を申せっ!」
僕がそう言うと金髪で細身の見知らぬ少年が前に出てきた。
「僕の名は、デイビット。デイビット・ダー・ガルシア。
初めまして、ジュリアン王子。以後、お見知りおきを・・・・・。」
デイビットと名乗った少年はそう言って騎士の作法にのっとって深々と頭を下げる。
・・・・ああ、そうか。確か僕がごたごたに巻き込まれていた間に北部の国の王子が留学に来ているとか父上が言っていたが・・・・・・
こいつが、デイビット・ダー・ガルシアか・・・・・。
「はじめまして。デイビット。僕がジュリアンだ。色々ごたごたに巻き込まれて挨拶が遅れて申し訳ない。
・・・・・・それで? 今の話は何かな?」
僕は威圧するように尋ねると、デイビットも負けずと不敵な笑みを浮かべて僕に言い返す。
「殿下はこの国の王子であらせられる。その王子があれはダメだ、これはダメだと言えば・・・・鶴の一声。全ての生徒が黙って従いましょう? それをあなたは公平で平等だというのですか?」
僕はせせら笑う。
「そんなことはないぞ? デイビット。つい3か月前も僕に逆らう下級組物と古式にのっとった決闘を行った。他国はいざ知らず。我が国には王子といえど決闘をして物事を決めるのだよ。」
他国はいざ知らず・・・・。その挑発的なセリフがカチンときたのか、デイビットは決闘を申し込んできた。
「仰いますな。・・・・ならば、僕がこの一件で決闘を申し込んだ場合、まさか、お逃げにはなりますまいな?」
「無論だ。」
僕は右手を上げて、護衛の騎士を呼びつけると決闘の立会人になる様に命じた。
「他国の王子との決闘など許されませんっ!!」
騎士は大反対したが、デイビットの「傭兵王国の王子様は、部下に守られていなければ決闘も出来ぬのか?」と煽られて、仕方なく立会人を引き受けた。
しかし、意外なことに上級組の生徒が僕を止めにかかった。
「殿下、おやめくださいっ!! あのデイビット。見た目とは裏腹に恐ろしいほど強いのです。」
「先日も3対1の決闘に勝利した強者ですっ!! あの男には、得体のしれない強さがあるのです。」
「僕達は、見ました。あいつが同級生をちぎっては投げて倒すのを・・・・・あいつはおかしい。危険です・・・・。」
誰もが反対した。
流石、我が国の貴族の子。反発しつつも僕を守ろうとしてくれている。
しかし、決闘は決まった。僕はこの国の王子として逃げだすわけにはいかないのだ。
僕は上級組の制止を振り切って決闘に合意する。
両者が一度、立会人の指示でそれぞれの陣営に分けられて、向かい合う。
「それでは、ジュリアン殿下とデイビット殿下の決闘をではっ!! 立会人ゴードンの証言によって、決闘を始めっ!」
立会人の合図によって決闘が始まった。
デイビットは軽いステップを踏みながら、ゆっくりと円を描くように僕の周りをまわる。
あの細身だ。まともに組み付けば、僕の餌食になることは、明らかだ。
その作戦は見事だが、そんな基本的な戦い方で僕に勝てると思ってもらっては困るな・・・・
だが、僕がそう油断した瞬間、デイビットは信じられないほどの加速をして、あっさりと僕にタックルを決めたのだ。
「くっ!!」
信じられないほどの速度だった。そして、信じられないほどの体当たりの威力だった。僕は、一瞬で地面にたたきつけられた。
そして、その痛みで一瞬起こった硬直を利用して、デイビットはあっさりと僕に馬乗りに(うまの)りになるのだった。
マウントポジション・・・・。
それは、格闘技において最も有利な体勢の一つであり、最も不安定な体勢でもある。
「ジュリアン様っ!!」
その体勢をとられた瞬間、ミレーヌとオリヴィアが悲鳴を上げた。二人はこの状態が危険なことを重々承知しているのだ。
しかし・・・だ。寝技に明るくないものは、この姿勢になったら、あっという間にタコ殴りにあって、敗北してしまう。
僕は違う。父上に鍛え上げられた僕の寝技技術は、デイビットをあっさりとひっくり返せるはずだ。
僕は馬乗りになったデイビットのパンチから頭部を守るために両拳で顔面をガードする。
デイビットは、そんなボクのガードなどお構いなしに上からパンチを降り注ぐ・・・・・。
「!?」
僕は、デイビットのその幼稚なパンチレベルに驚いた。まるで素人だ。
先ほどのタックルは神業であったというのに・・・・。
しかし、これならば僕に勝機がある。
僕はデイビットが右パンチを振るった瞬間に大きく左に体をひねってパンチを交わしつつ両腕で思いっきりデイビットの太ももを押し飛ばす。
「うおっ!!」
デイビットはもんどりうって倒れるように無様に地面に倒れ込む。
柔道で言うエビを使ったエスケープ法だ。さらに僕は、素早く右足でデイビットの体を蹴って、大きく飛び下がってから、立ち上がる。
そして、地面に倒れ込んだデイビットに柔道の上四方固めのようにうつぶせでのしかかろうとした時、異変が起こった。
デイブットは左手掌一つで上にのしかかろうとしていた僕の体を吹き飛ばしたのだっ!!
僕の体重は50キロ以上あるんだと思う。それを倒れ込んだ姿勢から左手一つで吹き飛ばすなど、ありえないことだった。明らかにデイビットは魔法を使っている。
異変に気付いた立会人を務める騎士ゴードンは、試合を中止してデイビットの反則負けを宣言する。
しかし、デイビットは、とぼけた顔で「僕がいつ、魔法を使った? 魔力を込めた手で彼を吹き飛ばしたというなら、その証拠を出せっ!! 誰か一人でも、僕の魔力を感じた者がいるのかいっ!?」と勝ち誇ったように言う。
僕のアバラは折れている。明らかに魔力を込めた攻撃だったが、それを感じることは僕にもできなかった。
しかし・・・・・僕のアバラの治療をするクリスの目はごまかせない。
「デイビット、貴方の体には隠遁の魔法を込めた紋様が刻まれていますねっ!?
服で隠したところで無駄ですっ!! あなたの体には闇の精霊がまとわりついているものっ!!」
クリスの指摘を受けてゴードンがデイビットの腕をまくると、確かに、そこには闇魔法の文様が刻まれていた。デイビットは騎士の決闘御作法を穢したのだ・・・・・。
隠遁の魔法を使って、足に魔力をこめて地面を蹴ることで信じられないほどの加速を得て、僕をタックルしてたり、その手に込めた魔力で僕を吹き飛ばしたのだっ!!
許せないっ!!
・・・・許せないぞっ!!
「デイビット!! 貴様は騎士の決闘を穢したっ!! 騎士の誇りを穢したのだっ!! 僕はお前を絶対に許さないぞっ!!
魔法を使った決闘をお望みなら、受けて立ってやるっ!!」
僕はそう叫ぶと魔力を込めた拳で地面を叩きつけて大きなクレーターを作り出す。
その姿に上級組は、クリスに乱暴を働こうとした日の恐怖を思い出して震えあがった。
「さあっ!!! こいっ!! この卑怯者の腰抜け野郎っ!! お前の根性、僕が叩きなおしてやるっ!!」
僕の気迫に押されてデイビットはよたよたと数歩下がって、地面に倒れ込んだ。
「ゆ・・・許してくれ、ジュリアン王子!! 僕は、・・・僕は隠遁の魔法以外使えないっ!
それがないと一般人にも勝てないほど非力なんだっ!
頼むっ!! 見逃してくれっ!!」
デイビットは地面に土下座すると両拳を合わせて命乞いをした。
心底、見下げ果てた男だ。
しかし・・・・・。ここで彼を殴ることは僕の名誉が傷つく。
それに何よりもこの程度の勝ちしか取れないようでは父上に叱られる。
「いいだろう。デイビット!!では、この決闘はここまでとしてやる。
上級組も今後は下級組に醜い圧力をかけるなっ!!最後の勝負は文化祭で決めるっ!!いいなっ!!」
僕が平和的に解決することを知って上級組もデイビットもホッとしたが、僕はデイビットに耳打ちした。
「これで一つお前に貸しが出来た。必ずこの恩を返してもらうからな・・・・。」と。
上級組の圧力を押さえることができた。これで安心して文化祭が行えるうえに僕は他国の王子に借りを作ることが出来た。これこそ本当の勝利だろう。
おまけに僕の勝利に感動したオリヴィアが珍しく興奮気味に僕に抱き着いて「凄いなっ!! お前っ!」と叫んでキスをしてくれた。
やれやれ、キスは嬉しいけど、その時々出る男言葉。もう少し淑女として躾けないとだめだなぁ・・・・オリヴィアは
まぁ、これはこれで可愛いんだけどねっ!!




