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対抗戦やるぞぉっ!!

クリスとオリヴィアの分離がうまくいったあと、僕達は無事、学院生活に復帰できるようになった。

思えば、僕が学院から離れたのは、3か月前。災いの神ドゥルゲットの予言の前だから、随分、目の事のように思う。また、クラスメイト達との最後の別れをする原因になった事件も最悪だった。楽しい修学旅行になるはずが、僕の暗殺計画で恐怖の夜を過ごしたのだから、同級生たちは、「もうあんな思いはしたくない」と、災いの種である僕達の復帰を歓迎しないかもしれない。

とはいえ、学生たちはいずれ僕の家臣として戦場に出たり、まつりごとを行う立場になる人物たちばかりだから、怯えてもらっては困るわけだ。

僕達は、当たり前のように復学し、彼ら彼女らは、当たり前のように僕達を迎え入れなくてはならない。それが貴族の務めだからだ。

前回は、僕とクリスとミレーヌだけだったが、これからはオリヴィアも学院生活を共にすることになる。

ホムンクルスのオリヴィアがだ。

反対するかと思われた父上も「転生者のオリヴィアをないがしろには、出来ない。」と、むしろ学院に圧力をかけて、クリス同様、王家の縁者えんじゃとして丁重ていちょうに扱う様に命令してくれた。

こうして、僕達4人は学院に復学することになったのだ。


季節はもう、秋を迎えようとしていた。

秋と言えば、文化祭や運動会の季節だ。

運動会は残念ながら、大異変のこともあって今年は中止されていたので、文化祭だけが発表会の場となる。

僕は復学当日、教授から下級組のみんなの前で復学の挨拶をするように言われたときに、その意気込みを語った。

「やぁ、諸君。ひさしぶりだねっ!!

 色々心配事もあっただろうけど、危機は僕達転生者が乗り越えて見せたっ!!

 残る課題は、文化祭だけだっ!!このクラス全員の力を合わせて、見事上級組に勝利したいと思うっ!!」

僕のその口上にクラス中が唖然あぜんとしていた。

それは「上級組に勝利したい」と口に出したからだ。

そう、この貴族が通う学院は、貴族しか通えないので、元々、一学年の生徒数は限られているので、発表会を競う相手は必然的に上級組と下級組になる。過去の例を見れば、運動会では、五分の成績を収めているのに対して、文化祭では圧倒的に上級組が有利だった。

その理由としては、やはり授業内容の差にあった。

上級貴族が集まる上級組の方が文化的に格式の高い授業内容となるために、どうしても発表会で差が生じてしまうのだ。

だから、下級組は例年、運動会で頑張って文化祭は消化試合の様相ようそうていすることが多かった。それではいけない。スポーツや芸術の世界の戦いはフェアに行われなければいけない。僕は、この格差をひっくり返せることを証明して、いじめ撲滅の計画の一つにしたいと思っていた。


ただ、その発想、発言自体が突拍子とっぴょうしもない事だったので、クラスの生徒はおろか、顧問こもんの教授すら、唖然として僕を見ていた。

しかし、やがて教室に小さな拍手が二つ起こる。スティールとユリアだ。二人は僕達を理解してくれる。

そして、クラスでも目立つ存在のスティールの拍手に押されたのかのように、次第に生徒たち全員が僕に拍手を送ってくれた。

よし、士気は上げられるっ!これならやれるぞっ!!

僕は小さくガッツポーズをとるのだった。


静粛せいしゅくにっ!! みんな、文化祭の出し物を決める時間はあとで作りますから、今は静粛にっ!!」


顧問の教授は慌てて静粛するようにうながした。理由はいろいろあるのだが、多分、一番の理由は上級組に勝とうとする生徒たちの気持ちに水を差すことだ。

好意的こういてきに解釈すると、勝ち目の少ないこの戦いで敗北したときの生徒たちの精神的ダメージが大きくならないように、盛り上がりを今の段階から押さえておきたい意図があるのかもしれない。

邪推すれば、下級組の生徒が上級組に勝とうとしている話が上級組の教授の耳に入り、軋轢あつれきが生まれることを回避かいひしたいと願ってのことではないか?

基本的に上級組の教授たちと下級組の教授たちには、階級差はない。どちらも研究者としての地位を確立しているに過ぎない。最終的に教授たちの社会的立場を決めるのは、自身の研究発表の成果のみなのだが、それは表向きの話。実際には、上級組の教授たちの方が評価の高い論文を発表している。そもそも下級組と上級組では研究に使える予算が違う。だから、必然的に下級組の教授が上級組の教授に上がるのには、論文を過大評価してもらえるような賄賂わいろが必要になってくる。そんな状況であるから、教授たちが今の状況を迷惑がるのも無理がない話かもしれない。

しかし、僕はそんなことはお構いなしに戦う。大人の事情で子供の青春を壊されてたまるか。

それに、大人の事情が問題なんだったら、そんなもの僕がぶっ壊してやる。必ず、下級組の教授たちもフェアな環境で戦えるように政治体制を改善して見せるさっ!!

その為にも、僕は下級組でも勝てることを証明しなくてはいけない。結果を出さないものが何かを言ってもそれは、「甘え」「いいがかり」としてしか判断されないのが、世の常だ。だったら、力あるものが結果を残して、その負のスパイラルから救い出してやらないといけないんだ。

僕は、前世の僕が成しえなかったことをなすためにも、今を生きなくちゃいけないんだっ!!


僕の決意表明を終えた後、次の授業が始まるまでの間の休憩時間にクラス中は騒然そうぜんとなった。

「ジュリアン様っ! 本当ですか?・・・・僕達、上級組に勝てますかっ!?」

「殿下っ!! 勝てるなら、僕は殿下でんかについていきますっ!! 必ずやりましょうっ!!」

「ジュリアン様っ! わたし、なんでもやりますわっ!! 必ず勝たせてくださいませっ!」

男女問わず、僕を取り囲んで僕と共に戦う決意を語ってくれた。

勿論、全員が全員。勝てると妄信もうしんすることはできない。中には否定的な者たちもいた。

「・・・勝てるわけないじゃないか。まず教授たちが上級組にしっぽ振ってるのによ・・・。」

「殿下はお坊ちゃんなのですわ。私達下級貴族の苦悩をご存じないのよ・・・・。」

クラスの隅で否定的な考えをしている者は小さな集団を個々に作って、愚痴ぐちをこぼしていた。

僕は、そんな彼らを見ないように努めていたが、事前にミレーヌにこういう人たちが必ず出てくるから、その人物たちの名前を控えておいてくれ。と頼んでいた、

どうして僕が彼らの名前をミレーヌに控えさせたか。それは、彼らを危険因子として排除はいじょしたり、無理やり文化祭に参加するように活を入れたりするつもりもない。

僕は彼らを責めたりはしない。

無理にはげまして、むりやり引っ張り上げようとも思わない。

ただ、自然に振舞ふるまうだけだ。自然に振舞って、彼らと自然に打ち解けたいと思う。

彼らが文化祭に参加したそうにしていたら、自然に受け入れたいと思う。そして、そうなるように僕達は健全で明るい文化祭活動をしなくてはいけないんだ。

強制や排除はいじめと同じだ。

そして、最終的には全員参加を目指す。仕事の熱の入れようや仕事の配分に個人差が生まれようとも、全員でこの戦いに参加する意義を知ってほしいし、後悔のない学生生活を送ってもらうためにも僕は、全力を尽くしたいと思うんだ。


そして、クラスの熱狂冷ねっきょうさめぬまま、1時限目の授業が始まる。顧問の教授は、若干、嫌そうな顔をしたものの、普通に授業を始めて、普通の授業を行ってくれた。決して嫌味を言わず、あてこするような態度も取らなかった。彼らは、本物の大人なんだと感動しながら、僕は授業を受けた・・・・。


そして、遂に。その時が来た。

本日最後の授業の時間をつぶして、文化祭の出し物、委員長を決める話し合いの時間が作られたのだ。

もちろん、委員長は投票するまでもなく僕に決定した。

僕は、黒板の前に立つと「ここにいる全員で勝とうっ!!」と、力強く語ってから、「出し物について腹案ふくあんがある人っ!!」と全員の意見を聞いた、

勿論もちろん、僕にも腹案がある。でも、このクラスは僕の傀儡くぐつではない。優れた意見があれば、喜んで採用させてもらうっ!!

しばし、静寂せいじゃくの間がおとずれる。皆の顔に動揺どうようが走っているかのようにも見えた。

しまったっ!! 皆、僕の妙案みょうあんに期待しているんだっ!! もしかしたら、僕が無策で勝とうなんて発言したのかと誤解されてしまったかな?

・・・・・・・僕の嫌な予感は当たったようで、クラスのみんなが失望の顔をして、うつむき始めた。

その時だったっ!!

僕の天使。可愛い僕のクリスティーナが「はいっ!!」と、元気よく手を上げて発表したいと意思表示してくれたっ!

いいぞっ! 流石、僕の未来のお嫁さん。僕の意図を良くわかってるね。

さぁ、皆がやる気を出せるように、忌憚きたんなく意見を発表してくれたまえっ!!

「ではっ! クリスさんっ!! 意見をどうぞっ!」


クリスは立ち上がると元気一杯に発表するのだった

「はいっ!! メイド喫茶がいいと思いますっ!!」



・・・メイド・・喫茶・・・・だと・・・・・・?

・・・・・・・・そういうことじゃないだろうがあぁぁぁぁぁ~~~っ!!!

クリスぅ~~~~~っ!!

・・・・・クラスの全員がクリスの意見の意味がわからずに呆然としてしまうのだった。

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