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君の水着姿が見たいよっ!!

作中に出てくる「等爵」「赤爵」とは、この作品独自の創作された爵位です。


学院側から僕が問題行動を起こしたという話を聞いて、父上は多忙のところをわざわざ学院を訪れになられた。

そして、僕が破壊はかいした教室の壁を見つめて「はぁっ」深いため息をついて、それから、つち魔法を使って教室の壁を見る見るうちに再生させる。

その信じられないほど高度な魔法に生徒はおろか教授きょうじゅ達も驚きの声を上げた。

父上はこれほど高位魔法を完成させるために必要な舞も少ない上に、魔神に助力じょりょくを願いたてまつ言上ごんじょうも全く聞こえないのにやり遂げてしまうのだった。他人から見ると神秘以外の何物でもない。

これぞ王家秘伝の土魔法。他者は呪文が聞こえないので、言上を耳で聞き盗むをすることも出来ないし、舞を見よう見まねで盗むことも出来ない。これは王家の者のみが知りえる秘伝中の秘伝の魔法なんだ。

もっとも、やり方を知ったところでよほど高位の魔法を扱えるものでもない限り、この魔法は使えない。

僕も王族だし魔法の才能もある方だけど、りにり上げられた父上のようにはいかない。まだまだ修行中の僕にはとても真似できない領域りょういきの魔法だった。 

壁を修復しゅうふくすると父上は、僕の前に立つと、僕のほほに激しい平手打ちをする。あまりに激しい平手打ちに見ていた女生徒たちは悲鳴をあげる。僕は唇を自分の歯で切ってしまい、激しく出血する。

それでも、僕は身じろぎ一つせず父上に「叱責しっせき、ありがとうございます。」と答えるのだった。

正直、じゅくして割れたザクロの皮のように裂けた唇でこれを言うのはかなりキツイ。それでも僕は王族だから、みんなの前では立派な姿を見せなくてはいけないんだ。そうやって幼いころから家臣かしんとなる貴族の子供たちに尊敬されなくてはいけない。それが第一王子の務めなんだ。


・・・・ところが、僕が父上に激しく平手打ちをされて激しい出血をしたのを見てうろたえたしまったクリスがあろうことか、父上と僕の間をさえぎる様に割って入ってきて、僕の傷口に回復魔法をかけた!!

「いとうるわしき泉の淑女しゅくじょルー・ファー・ラーンよ。傷つき弱りし子羊こひつじに、どうかいやしのお慈悲じひを。ナザレ村のクリスティーナがかしこみ、畏み願いたてまつそうろう。」

クリスの回復魔法の手際てぎわの良さは、相当そうとうなものだったけど、今はそれどころじゃないよ。

僕の裂傷れっしょうを見て取り乱したとはいえ、この国の国王であらせられる父上をさえぎったんだ。このままでは、クリスはどんなばつを受けるかわかったものじゃない。いや、罰しなくてはいけないはずだ。クリスは貴族の娘ではなく、庶民しょみんなのだから・・・・・。庶民にメンツをけがされて黙っていては王族の名折なおれになる。父上はクリスを罰しなくてはいけなくなるはずだっ!!

そう思った瞬間、僕は、大きな声を上げて「父上っ!この度は、私の端女はしためがとんだご無礼をっ! この責任は主人であるわたしがっ・・・・・!!」と、言うところまでさけんで・・・・・僕は我に返った。

傷口が・・・。日本の外科手術なら10数針はわないといけないような裂傷が、すで跡形あとかたもなくえてしまっていた・・・・・。

「な、なんという・・・・なんという神業かみわざ的レベルの回復魔法だっ!!」

見ていた教授の一人が驚嘆きょうたんの声を上げる。無理もないよ。

だって、クリスは特別な魔法をもちいなかった。一介いっかいの庶民が、村娘でも知っているような回復魔法を使ったに過ぎない。・・・にもかかわらず、この驚異的きょういてき治癒ちゆ力。特別な手法を用いていないのだから単純に魔法が卓越たくえつして上手うまいとしか言いようがない。それを若干じゃっかん、14歳の・・・。僕と同い年の村娘がやってのけた。

その場にいただれしもが驚かずにはいられなかった。

ふと、父上を見るとうれしそうに目を細めてクリスの奇跡きせきをごらんになられていた。

「見事である。クリスティーナ。まさに神童の名にずかしくない回復魔法である。その技量ぎりょうめんじて、このたびは特別に()()()()の罪を許そう。」

父上はそうおっしゃられると、クルリときびすを返して政務せいむに戻られるのだった。

父上は「そなたらの罪」と仰られた。そなたらとは、僕とクリスだけの話ではない。父上はこの場にいる生徒全ての罪をめんじたのだ。それはつまり、この場にいた全ての生徒がクリスにしを作ったことになる。

なんという見事なおさばき・・・。僕は改めて父上に対する尊敬の念を高めるのです。



「もうっ!! あんなに出血するような傷を負わせるなんてひどい父親っ!」

帰り道にクリスがとんでもないことを言い出すから、僕はあわてて右手でクリスの口をふさぐ。

「・・・・しーっ!! 騎士団に聞かれたら、殺されちゃうよ!!」

その言葉に猫のようにまん丸な大きなひとみのクリスはさらに目をむいておどろいた。

「・・・・・だって・・・・。」

クリスは、まだ納得していないようだった。

なんだろうか? この困ったむすめは。

この世界で生まれ育ったのだから、庶民が王家の前に立ちふさがるなんて、その場で死罪ですんだら幸いラッキー。最悪、生きたまま魔神の苗床なえどこにされてもおかしくないくらいの大罪で、おそれ多い事だって認識があってもよさそうなのにな‥‥。

物事ものごと価値観かちかんが若干、あの日本の影響が残っているんだろうか?

うーん?

・・・・・・・でも、僕は知っている。クリスの内面は完全に今生こんじょうの魂のもの。一番最初に会った時に男言葉を話したのだって、僕に脅威きょういを覚えて自己防衛のために前世の記憶をもとに男言葉でおどしてきたことは明らかだ。だって、中身は全くの女子だもの。

僕がちょっとおどせば、おびえて涙目になるし、好戦的な相手に対する心構こころがまえがまるでない。ヤンキーだった前世とは根本的に魂の質がことなっている。

だから、クリスは、前世の「記憶」というよりは「記録」かな? クリスは前世の「記録」を持っているだけの少女でしかないことは間違いないよ。あくまで、この世界の「クリスティーナ」の魂しか持ち合わせていない。

だからこそ、さっき自分がしたふるまいがどれほど危険だったかわかりそうなものなのにね・・・。

なのに・・・なんで?

なんで僕のためにクリスは、あんなおそれ多い真似が出来るんだ?

・・・・・

僕は腕組みしながら首をかしげて、歩く。考えても今すぐに答えは出そうにないけどね。

「・・・・痛くありませんでしたか? ジュリアン様・・・。」

クリスは、なおも心配そうに僕の傷跡きずあとのぞき込む様に顔を近づけてきた。

こんな美少女の可愛い顔が自分の唇の前に来るなんて、男だったら大変なことになるんだってことを前世の記憶があるんだから、わかりそうなものなのに・・・・・。クリスって、本当に天然だなぁ・・・・。

僕は、気恥きはずかしさで真っ赤になりながら、クリスを押し戻しながら「大丈夫だからっ!」って、強く言う。

すると、クリスは僕につれなくされたと勘違かんちがいしたのか、ショックを受けて悲しそうな顔をしている。

・・・・・・ああ、もう! 可愛かわいいなぁっ!!

僕は胸をドキドキと高鳴る鼓動こどうを押さえながら、クリスに事情を説明した。

あの場で父上が僕をなぐった理由と、僕達が許された理由を・・・・。

はじめクリスは、黙って聞いていたけど、「それにしたって、強く叩きすぎですよっ!」と、反論してきた。

あのね、クリス。あのビンタはね。ご褒美ほうびのビンタだったんだよ?

だって、父上が本気で怒ってるときは、あんなものじゃないよ? いつもなら僕はあの一撃で失神してるし、あごの骨だって無事かどうかあやしいものなんだからねっ? 父上は、きっと僕が女の子を守ったことがうれしかったんだ。だから、大分、手加減してくださったんだ。

だからね、僕にはわかるんだよ。あれはご褒美のビンタなんだってね!!

僕が得意になってクリスにそう説明すると、クリスは心底しんそこ寒気さむけが走ったような顔をしながら、僕に向かって


可哀かわいそう・・・。」って、言ってきた。


え・・・・? 可哀そう?

可哀そうって何のこと?

・・・・・・クリスはやっぱり、世間ずれしてるなぁ・・・・可愛いねっ!


さて、翌日の事。父上は学院に対して二度と同じことが無いようにボク達二人を下級組への編入を命じられた。

ここで簡単に僕達が通う学院の説明をすると、僕達が通う学院「グレースノーツ」は、魔法と兵学と貴族としての教養を幼年部3年。中等部3年。大学部6年の計12年かけて学ぶ学校だ。ちなみに僕たちは今、大学部の1年生ね。14歳から20歳まで在籍ざいせきして、卒業時に貴族として自立できる爵位しゃくい等爵とうしゃく※」の称号しょうごうを授かる。そこで名実ともに貴族の一員として社会に出ていくんだ。その後の爵位は、家柄によって決定されていて、たとえば、伯爵家はくしゃくけに生まれたものは卒業後に3年で誰もが男爵だんしゃくの称号を授かるけど、男爵家に生まれたものは、家督を相続するまで、ほとんどの者が貴族としては最低の「等爵」のままだ。家柄で出世がすべて決まっているのが、貴族社会。

戦場でよほどの功績を上げないと男爵家や当爵家は、上に上がることがないんだ。世知辛せちがらいね。


そして、この学院に通えるのは貴族だけ。ちなみに庶民は、日本でいうところの寺子屋てらこやのような私塾しじゅくに通って常識じょうしきを学ぶ。

そして階級社会の貴族には爵位によって絶対的な社会身分の差がある。そのため、貴族だけが通える学院の中でも、伯爵家以上が在籍ざいせきする「上級組」と赤爵せきしゃく家以下が在籍する「下級組」とがある。

ちなみに爵位は、上から王家の親戚筋しんせきすじである「公爵こうしゃく」、大規模だいきぼ領地りょうちを許された「侯爵」、王家直属の旗本はたもと家の「伯爵」、侯爵の配下の「赤爵」、元々が地方豪族で小規模しょうきぼ領地を許された「男爵」、さらに小さな領地の「等爵」となっていて、「等爵」だけは、一代限りだけど貴族階級以外の者でも王家から爵位を買うことが出来る。豪商ごうしょう大庄屋おおじょうやなどが大金払って買う場合もある。「等爵」は、それくらい微妙な爵位なんだ。

まぁ、もっとも、貴族は、どこが代々正統な「等爵家」の血筋かは把握してるんだけどね。


で、話を戻すと下級組は、そんな一代限りだけどお金で爵位が買えてしまう階級のものまで在籍ざいせきする学級なんだ。だから、父上の判断は家臣団かしんだんや配下の貴族たちは勿論の事、学院側からも「王家の第一王子が下級組に在籍ざいせきするなど王家の沽券こけんにかかわる!」と反対意見を出されてしまったのだけれども、「では、今回の事件の責任を()()()()()とるのかね?」という父上の一言で黙り込まされてしまった。

それで僕達は、来週から急遽きゅうきょ、下級組への編入が決定した。

困ったのは、編入先の下級組の教授たちだ。あわてて僕達が下級組のみんなと打ち解けられるように修学旅行を計画した。つい、先々週に大学部一年生に上がったことを記念してやったばかりなのにね。

まぁ、僕にとっても下級組の皆にとっても嬉しい旅行ではある。


なんてったって、旅行先は泳げる湖の有る観光地。つまり、水着を着る機会があるってことだ。

当日は朝から生徒が乗る馬車20台と護衛の騎士団を引き連れての出発だ。

お昼に一度、宿場町で食事をとってから、再び馬車で湖の有る観光地へ移動する。

観光地は、第一王子が来るというので貸し切り。僕達だけのパラダイスだ!

僕は、旅行前日まで、クリスがどんな水着を着てくるのか楽しみだったから、旅行当日は、二人っきりの移動の馬車の中でずっとクリスと話をしながら、クリスの水着姿を想像していた。

その時の僕はかつてないほど饒舌じょうぜつで、クリスもちょっと引いていた。

「どこに行きたい? 全部、僕に任せてよっ! 貴族のいも、楽しい遊びも全部僕が教えてあげるからねっ!!」

僕は、優しいことを言うようで、水着姿のクリスを独占どくせんするように無意識に画策かくさくしていたのだった。

そんな僕のよこしまな想像はクリスにも伝わるのか、途中からメチャクチャ僕のことを警戒けいかいしだした。クリスは自分の体を出来るだけ見えないようにするためにカーディガンを羽織はおって、馬車のはしって身を隠すようにちぢこまる。

しかも、「・・・・・お前っ!! また、エッチな目で俺のことを見てるなっ! 俺は前世で男だったんだよ!! いくら今が女だからって、そんな目で見るのは、変態へんたいなんだからなっ!!」

などと男言葉で僕を威嚇いかくもしてくる。

・・・・・。ああ、威嚇するときは、絶対に男言葉を話すのは、自分を性的対象せいてきたいしょうに見せないための工夫くふうなんだね・・・・。でも、残念だったね、クリス・・・・・。

男の子はね。そういう事を言われちゃうと・・・・・すっごいたぎるんだよっ!!・・・

・・・・・・・

・・・・・・・あ・・・・

・・・・・ちょっと自分が嫌になった・・・・。



僕がちょっと自己嫌悪を感じていた時、馬車はようやく、観光地のホテルについた。王家の僕とクリスは、王家所有の別荘に泊り、他の生徒はホテルに泊まる。

僕とクリスは同じ別荘に泊るとはいえ、やっぱり年頃の男女だから、部屋は、大きく離される。

だから、外へ出るまで僕はクリスの水着姿はおあずけというわけだ。僕は、はやる気持ちをおさえきれず、教育係の小姓こしょうが落ち着くように言うのも聞かず、大慌おおあわてで着替えると、玄関口まで走っていってクリスの着替えを待つ。

女の子の準備は長い。

僕は永遠の時が流れているのかと思うほど、待たされた気がするけど、時間にして多分、20分後くらいだと思う。水着の上に夏用の羽織はおりをまとったクリスが姿をあらわす。

ああ・・・、ですよねー。

王家の縁故えんこの者がはしたなく肌をさらすわけないものね~。

僕は、完全武装して水着が見えないクリスの姿にがっくりと首を落とす。その姿を見てクリスが嬉しそうにくすくすと笑っていた。

・・・ま、いいか。こんな可愛い笑顔が見れただけでもありがたいし・・・・

・・・・・・・・それに泳ぐときには水着になるんだし‥‥。


僕は、クリスの手を取ると、美しい湖が広がる別荘の外へクリスを連れ出した。

僕達下級組の生徒は、まず、一度、集合場所に集まって点呼を取る。その後は基本的に自由行動の時間になるんだけど、まぁ、出来ることと言えば、泳ぐか、湖の周りに広がる森の散策さんさくくらいなもの。

「じゃぁ、泳ごうかっ!!」

自由時間が始まると、僕は、なか強引ごういんにクリスを泳ぎにさそう。クリスは、小さな抵抗ていこうを見せながらも、やがて僕の手に引かれて湖に向かう。

・・・・が、だ。

僕は王家の第一王子。クラスの女子は、たま輿こしを狙う貴族の娘。

当然、何も起きないわけがなく、僕はあっという間にクラスの女子に取り囲まれる形になった。

・・・・はぁ、こういうの・・・・・もう、いいいんだよなぁ・・・・

僕は幼年ようねん部から見慣みなれた光景こうけいにため息をつきたくなる。

女の子は皆、僕の家に恋してる。だから、なりふりかまわず僕にアタックしてくるんだ。

はしたないほど露出ろしゅつの多い水着に、けしからんほどたわわに実ったオッパイ。くびれた腰やムチムチの太ももを僕にアピールしてくる。

そりゃ、うれしくないと言えばうそになるよ? 女体で喜ばない男の子なんかいるものかっ!

でも、僕はクリスの水着が見たいんだよ。僕になびかない・・・・あのじゃじゃ馬娘のにくたらしさを僕は求めているんだ。

僕は「ジュリアン様」「ジュリアン様」と僕にあの手この手を使ってお色気アタックしてい来る女子の要求ようきゅうこたえつつ、上手にいなしつつ、なんとかクリスと二人っきりになるタイミングを探していたんだけど、いつの間にかクリスが姿を消していることに気が付いた。

僕が周りの女子にたずねると、クリスは一人、山の方へ歩いて行ったという。

・・・・・はぁっ?・・・・王子を置いて何やってるんだ、あの天然娘てんねんむすめは~~~~っ!!

僕はあわてて、女の子たちのお誘いを断ると、クリスが向かったという方向へ走っていった。

5分ほど走った先に、トボトボと歩くクリスを見つけた。

もうね、流石さすがに一度、説教した方がいいよね? 自分の立場ってものをわかってなさすぎるよっ!

僕はクリスの右腕をつかむと、「なにをやっているんだ? 端女はしためが王子を置いて勝手なことをやっていたら、王家の沽券こけんにかかわるんだ。そんな失礼な真似まねをしたら、君だってただではまないって、なんでわからないんだっ!」と、しかりつけた。

・・・・そしたら、

そしたら、クリスは泣いていたんだ・・・・・・


「うるさいっ・・・・・!! 俺だって水着を着てるんだぞっ!!

 他の女の子の水着に鼻の下を伸ばしちゃってっ!! この・・・・スケベっ!!」


うつむきながら、泣きながら小さな声で確かにそう言った‥‥。

あれ・・・・?

クリス、もしかして・・・・嫉妬しっとしてる?

「ヤキモチなんか、やいてないわよっ!! ぶっ殺すわよ・・・・・ぞっ!!」

・・・・・ああ、本心を悟られまいと、大分、無理して威嚇いかくしてるなぁ・・・・女言葉と男言葉が入り乱れちゃってるよ・・・・・。

僕は、クリスの肩に手を置くと、優しく語り掛ける。

「あのさ・・・・・・。クリス」

「・・・・・・なに?」


「僕は、君の水着が一番見たいんだけど・・・・・」


僕がそう言うと、クリスは、顔を真っ赤にしながら、うるんだ瞳で僕の目を真っすぐに見つめる。

「スケベ・・・・っ!」

「うん。だって、男の子だもん。」

「・・・・い、いっとくけど。俺はあの子たちみたいに発育はついく良くないから。見たって面白くないぞ! 背はちんちくりんだし・・・・・お、・・・・オッパイだって・・・・あんなに大きくないんだからっ!!」

あ、涙目になっちゃった。そっかぁ、同級生の女の子たちがあんまりにもプロポーションがいいから、自信を無くしちゃったんだな‥‥。しょうがないよ。だって、貴族と庶民しょみん育ちでは、食生活が違うんだから発育に差が出て当然だよ。

僕は、笑顔でなぐさめる。

「安心してよ。僕は、そんなの百も承知しょうちだよ。」

「・・・・・・なんかそれ、ムカつく・・・・。」

あれ? なぐさめたつもりなんだけどなぁ・・・・・。

「ごめん・・・・・・ははは。」

僕は、愛想あいそ笑いでごまかすしかない。どうすれば、彼女の機嫌きげんをなおせるのかなぁ・・・・などと考えていたら、クリスは、覚悟を決めたように「・・・・あんまり期待するなよっ!」と、小さく呟くと、水着を隠しているその羽織はおりをゆっくりといでいく。

服を脱ぐときにシュルシュルと鳴る衣擦きぬずれの細い音が、とても静かに聞こえてくる。僕は、もう、彼女の姿しか見えなかった。

・・・・そして、ハラリと羽織がはだけた瞬間に、美しいクリスの水着姿があらわになった。

この世界の水着は、ビニール素材そざいのような皮を持つクピールという海獣かいじゅうの皮で作られている。

本当に現代日本の水着と全く遜色そんしょくがない素材でできた、赤いビキニが僕の目に飛び込んできた。

栄養状態が原因の小さく薄い体には、少し不似合いの大人の水着。

でも僕は・・・・・クリスのその薄いけれども確かにふくらんだ乳房のやわらかさを僕は知っている。

僕は・・・・・彼女の体を知っているんだよ・・・・・・。

ああ・・・僕、おかしいな。

同年代の女の子の水着姿なんて・・・見慣れているはずなのに・・・・僕は、君から目をそむけられないよ。

なんて、なんてあいらしい姿なんだ。クリスティーナ・・・・・。

僕に見つめられて、恥ずかしくて紅潮こうちょうした顔でクリスは「は、恥ずかしいから、そんなに見つめないで」と、ふるえる声で言った。

僕は、その姿に胸がざわついた。

胸が高鳴たかなり、彼女を抱きしめたいと思った。こんな気持ちになったのは生まれて初めて。ううん、前世から初めてだよ。クリスティーナ・・・・僕のクリス・・・・。

高鳴る胸の鼓動こどうに僕は・・・・・恋が始まる予感を感じていた・・・・・・。

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