備えるぞっ!!
「ジュリアンよ・・・・・。」
「は、はいっ!」
僕が帰還してから3日後・・・。父上はマリア・ガーンとの初夜も終え、ようやく政務に集中される前に僕を呼びつけて、先日の失態についてお説教くださるのだった。
正直、ちょっと怖かったけど、父上はマリア・ガーンとかなり楽しい2日を過ごされたようだ。今日は若干、父上の態度が柔んでいる気がする。
今日なら・・・・そんなにひどい目に合わないかもしれない。
そんな淡い期待があった。
父上が僕の期待に気づいておられるのかどうかは、わからないけどその日は激昂されることはなかった。
「ジュリアンよ・・・・・。お前は魔剣士グー・グー・ドーの襲来を経験し、その上でお前とクリスを狙う存在を想定して罠に嵌めようとしたわけだが、その時、グー・グー・ドー以上の存在が来ることを想定してはいなかったのかね?」
父上は、そう言うと深いため息をついた。
「ジュリアンよ。災いの神ドゥルゲットの予言を何と心得る?
災いの神ドゥルゲットは、闇の国の王と人間の巫女の間に生まれた人ならざる人だ。すでに何百年生きているのか、それは誰にも分らないほど古き神だ。
異界の国を任されるほどの神が、現世の人間と子を成すことなど本来はあり得ぬ事なのだ。
魔神フー・フー・ローなどは、まだ異界の王になる前の人間であった頃の氷と泥の国の王との子にすぎぬ。
そこに精霊貴族が命を賭してかけた呪いの力で神の位を得たにすぎないのだ。
災いの神ドゥルゲットと、それら二人の間には比べ物にならぬほどの格差があるのだ。災いの神ドゥルゲットの呪いがどれほど深いか、お前も伝承を聞いて知っておろう?」
僕は、深く頷いた。
もっとも最近では、ミレーヌの里を全滅させた呪いだが、それより前だと約100年ほど前に、1都市を蝗害で滅ぼしたと聞く。災いの神ドゥルゲットは、その名の通り厄災をもたらす神なのだ。
しかし、その神が何故、僕達の目の前に現れたのだろうか?
その理由がこの3つの戦争と3つの大異変にあるのだとしたら、それも納得がいくのだが・・・・・。
「父上。災いの神ドゥルゲットは、今回の首謀者ではないように思います。」
僕が正直に災いの神ドゥルゲットに対する感想を述べると父上は頷く。
「もちろんである。今、災いの神ドゥルゲットは、首謀者どころか、この事変に横から一枚噛んでひっかきまわしてやろうと企んでいる気がする。
だがな、それ故に・・・・それ故に、今回の予言。魔神フー・フー・ローどころか、災いの神ドゥルゲットが遊びたくなるほどの大事を引き起こす神が後ろに控えていると思わないか?・・・・・」
・・・確かに。
そういえば、魔神フー・フー・ローは、災いの神ドゥルゲットの予言の後に何か来ると言っていたな。
僕はそれを聞けぬ間に撃退してしまったが。
「私が思うに魔神フー・フー・ローは、この大事変に一枚かもうとした神の一人に過ぎないのではないかと思う。なれば、もっと強敵が後に控えていると考えるべきだ。
だから、ジュリアンよ。驚異の敵から守るために、これから再び、お前を保護区画に閉じ込める。異存はあるまい?」
父上の言葉に、僕は納得せざるを得ない。魔神フー・フー・ローを撃退できたのは、ただの運に過ぎない。偶然が重なって僕は生き残ることが出来たにすぎないのだ。
だから、魔神フー・フー・ロー以上の敵がこの先、あらわれるのなら、僕は身を隠さなくてはいけないのだ。
しかし、そうなると・・・・・あと気を付けるべきことは。
「3度目の大異変・・・・。あとはこれに気を付けるしかない。何が起こるのか見当もつかぬが・・・・。
この前の二つを考えるに、3度目は、これまで以上の大異変が来ると私は思っている。」
恐らくそうなんだろうなぁ。僕もこれを考えると頭が痛い。
見当もつかないからだ。
しかも、災いの神ドゥルゲットの予言の期日。あの予言から3か月という期間は、残るところあと数日というところだ。しかし、何が起こるか見当もつかないので、対策の立てようもない。
とりあえず我が国に出来ることは、食料や医療品の貯蔵をしっかりして、大災害が起きた時に対処するしかないという事だ。
それ以上は考えても仕方がない事だと、二人とも納得するしかなかった。
だから、とりあえず父上の話は終わり、僕は再び保護区画へ戻ることになった。
保護区画には、僕とクリス、ミレーヌ、シズール、疾風のローガンの5人が共同生活し、精鋭騎士団が交代で見張りに着くことになった。
騎士団はマリア・ガーンが除隊となったので、一応の弱体化を見せるが、疾風のローガンが加わったとなると、むしろ戦力は以前よりも上がっている。
それでも、僕達は前回とメンバーが変わったことを理由に、再び作戦会議をして敵が襲ってきたときの退路についての確認をした。
退路は一方通行で、一度、逃走し始めたら、もう味方の援護は期待できないという内容を前回いなかった疾風のローガンとシズールには、よくよく理解してもらうことにした。
そして、僕達はお互いの戦力を確認しあうために模擬戦を行うことにした。
「僕達は、今、お互いの戦法を知らない者同士だ。そこで実際に戦ってみて、お互いのことをよく理解しあうことを目的に模擬戦を行いたいと思う。」
僕は、模擬戦の目的を話すと、チーム分けを行う。
クリス&オリヴィアは、回復魔法しか使えない村娘だから、戦力外。
だから、僕とミレーヌと騎士団長ギャレンタインのチームと、疾風のローガンとシズールのチームで模擬戦を行うことにした。
「ギャレンタインっ!!ミレーヌ!!シズールは鬼族と人間のハーフだが、魔法が得意で肉弾戦は弱いそうだ!!攻撃するときは、手加減するようにっ!!いいねっ!!」
僕の命令に二人が頷いたことで模擬戦がスタートする。
今日は、正直僕も楽しみな模擬戦だ。
あの疾風のローガンと戦えるなんて滅多にない機会だからね。
今日は模擬戦だというのに愛用の槍まで用意した。父上に鍛え上げられたドラゴニオン流鎗術は僕が最も得意とする武術だ。どこまで疾風のローガン相手に通用するか試してみたかった。
しかし、それはギャレンタインも同じこと。僕よりも前に出て疾風のローガンに肉弾戦を試みる。
「やあああああああー--っ!!」
魂魄が引き裂かれるかのようなキツイ掛け声とともにギャレンタインは、疾風のローガンに切りかかった。
だが、次の瞬間・・・・ギャレンタインと僕の体は、疾風のローガンの張り手を受けて吹き飛ばされていた。
ばちいー---んっ!!と凄い破裂音がしたかと思うと耳鳴りとめまいで僕達は一撃で動けなくなった。
俗にいうパンチに酔った状況だ。目の前の映像がグルングルン廻っている。とても平衡を保てないし、そもそも体に力が入らなくて立ち上がることも出来やしない。
残ったミレーヌもいつの間にか背後に回られて、参ったをしていた。首に剣をあてがわれていたからだ。
疾風のローガン。風と月の国の淑女ハー・ハー・シーの加護を受け、その身は疾風のように素早いと讃えられた神速の足は、今でも健在だった。
(魔神フー・フー・ロー並の速さだ。まるで動きが見えなかった!!)
疾風のローガンに自分がどこまで通じるか試したいと思った自分の思い上がりが恥ずかしい。
「さて、お話になりませぬな・・・・・。」
そんな僕達の心を抉るように疾風のローガンは、失望してため息をついた。
その後、僕達は頭部に重いダメージを負った事を理由に今日はもう運動するべきではないとローガンに止められたので、そこからはシズールの魔法を見学することにした。
シズールは、火魔法の使い手だった。火の国の騎士イー・ラー・イーを召喚して、炎の壁を産み出したり、火の国の下級貴族ピー・オー・ルーの助力を請い、巨大なファイアーボールを射出することが出来るらしい。その他、細々とした回復魔法だの防御魔法を沢山披露してくれた。
どうやら、シズールは、かなり防御に秀でた魔法使いらしい。
意外だったのは、鬼族の血を引いていて、そこそこ筋肉質なのに、肉弾戦はミレーヌ以下だとローガンが言ったことだ。
「この子は見た目ほど鬼の血は引いておりませぬ。これも妊娠期間に解呪したおかげでしょうな・・・・。」とローガンはしんみりという。きっと失った娘さんのことを思い出しているのだろう。
老戦士の過去には深い傷跡があり、その傷を今、忘れさせてくれる存在がシズールなのだろう。それで余計に僕にシズールを嫁がせたかったのかもしれない・・・・。
ま、それでも僕にクリスとオリヴィアは裏切れないのだけれども・・・・。




