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浮気はしませんっ!!

「ふうむ。オリヴィアとクリス・・・・・。」

僕達は状況が落ち着いたので、ひとまず疾風のローガンだけ部屋に入れて事情を説明すると、ローガンは何やらしぶい顔をして考え込んでいた。

「どうしたの? ローガン。・・・・何か不味まずい事でもあるの?」

僕は気になってローガンにたずねるのだが、ローガンはしばらく口元で何やらブツブツ言っている。

「ローガン。僕は尋ねているんだ、思うことがあるなら遠慮えんりょなく申せ。」

しびれを切らした僕が詰問調きつもんちょうに言うとローガンは我に返ったように「失礼いたしました。」と頭を下げた。


「いや。正直、わかりませぬ。」

「・・・・わからないとは何が? 具体的に言ってもらわないとわからない。」

「この少女の体に二つの人格があることが良い事か、悪い事かという事がですよ。

 さすがに、聞いたことがない事例ですので、今後、どのようなことが起きうるのか予想もつかないので、これが良い事か悪い事かの判断できませぬ。」

というのだった。

僕は、首をかしげて、ローガンとクリスを交互に見ながら尋ねる。

「でも、オリヴィアの魂はもうすぐクリスと一緒になるんだろう? 二人の意識は合わさって、クリスとして生きていく。そういうものだと言わなかったか?」

クリスは、「はい。その通りです。」と答えたが、ローガンは否定的だった。

「・・・そう、上手くいきますでしょうか? 14年。

 14年の歳月さいげつをずっとクリスに吸収されることなく生き残ってきた魂ですぞ? 本来ならば、考えにくい事です。

 クリス・・・・・よく考えてごらん? オリヴィアの精神は、ずっとその水準だったかね? 君と同じように年を重ねて人格を形成してはいなかったかね?」

!!

その言葉を聞いて僕もクリスもハッとした。

そうだ!!確かにオリヴィアの精神は、成長しているのかもしれない。その根拠としてオリヴィアがどんどん女性化が進んでいるという事にある。僕もクリスもこれがオリヴィアの魂が女性であるクリスの魂に取り込まれる流れの中にあると思い込んでいた。だが、そうじゃない可能性があるとしたら・・・・?

「ローガン。実は僕は、以前にクリスにこう尋ねたことがある。

クリスの魂が徹君オリヴィアの魂に乗っ取られる可能性はないかと。

でも、その時、クリスはこう答えたんだ。」

 

●「だって、魂のオドが交流はしていませんもの。生命ってこの大地と天の間を流れるオドの力によって、回転しながら成長していくものじゃないですか? 正確に言うと右回転ですけど・・・・。

 私の前世は確かにとおるなのでしょうけど、魂の大半は私になっていますし、どうしてか私の魂と切り離されて残ってしまった徹の魂の欠片は停滞しているようで左回転に縮小していっています。左回転ってことは、天と地に歓迎されていないってことですから・・・・。いずれオドとして分解されて私の魂に吸収されて、ただの記録として安定されるはずですわっ!」

 

あの時、クリスが答えた言葉を聞いたローガンは、更に深く考え込んでしまった。

だが、ハッとしたように両眼を見開いた。

「トールクンの魂は、停滞しているようで左回転に縮小していると言ったね?

 それが縮小ではなくて、凝縮ぎょうしゅくだったら、どうか?

 本来、女の子の魂に相応しくない部分として排除されたトールクンの魂は、分解されないようにオドの流れに逆らって回転することで自分の核を守っているのだとしたら?

 そうなると考えられるのは、トールクンの魂は凝縮しながら、成長しているという事だ。

 魂を形成しているエネルギーは、未だ解明されていない。

 どうやって成長しているかと言えば、クリスの言ったように天地のオドの流れを吸収して成長していると推測されているが・・・・何らかの方法でトールクンの魂が左回転でありながらオドを吸収できる方法を利用しているのだとしたら・・・・・」


疾風のローガンは、クリスの体を指差していった。

「いずれこの小さな体に成長し切った魂が二つあることになる。そうなると・・・・・最悪の場合、肉体が魂を受け入れられなくなって、崩壊ほうかいしてしまうかもしれない・・・・・。」


肉体が・・・・崩壊・・・・?

それはクリスが死んでしまうってことか・・・・・?

「ダメだっ!! そんなことはさせないっ!!

 ローガン、救う手立てはないか?

 なくても考えてくれっ!! クリスとオリヴィアの命がかかっているんだろ?」

「いや・・・あくまでも最悪の事態の想定です。正直、前代未聞ぜんだいみもんの現象ですからな。どうなるか私にもわからんのですよ・・・・・。」

狼狽うろたえる僕にまくしたてられたローガンは、若干じゃっかん困ったように言うが・・・・「いや、それでも危険な状況かもしれませぬな。」と、答えた。

僕達が話し合っているうちにオリヴィアとクリスの中でも何かあったらしく、クリスが泣き出した。


「助けてっ!! ジュリアン様っ!・・・・オリヴィアがっ・・・・オリヴィアがっ・・・・私の迷惑になるぐらいなら、自滅するってっ!!・・・・殺してくれって言ってきかないのっ!!」


なんてことだっ!!

いずれクリスと一緒になるクリスの魂の一部だと思っていたオリヴィアが、オリヴィアとして魂を覚醒していると知って・・・・本来ならば、喜ばしい事のはずなのに、それが最悪の事態になろうとしているっ!!

どうしようっ!?

どうすればいいっ!!? どうすればっ!!

その狼狽えぶりは周りにも一目瞭然いちもくりょうぜんだったようで、僕はローガンに叱責しっせきされる。


「しっかりなさいませっ! 殿下でんかっ!! 非常事態に狼狽えるなど君主に許されざる態度と心得なされませいっ!!」


その一喝いっかつで僕はハッと我に返った。

確かに僕はいずれドラゴニオン王国の第一王子。いずれ父上の後を継ぐもの。君主となるものとして、今の態度は恥ずべきものだった。

「すまぬ・・・・・・ローガン。貴方の言うとおりだ。僕は自分を見失っていた。・・・・」

「君主たるもの、最後の最後まであきらめてはなりませぬぞ。

 ・・・・まだ、方法があるやもしれません・・・・。」

ローガンは、厳しい瞳で僕を見据えていた。




「手立てに心当たりがあるやもしれません。」

ローガンは、王都へ帰る馬車の中で言うのだった。

「本当かっ!?」

「はい。上手くいくかどうかわかりませんが・・・・・・。魂の専門家。ネクロマンサーならば、魂の分別が可能やもしれません。奴らは、魂を刈り取ることに長けておりますからな・・・・・・。」

「魂の・・・・分離?」

そうか・・・。そういう可能性があるのか。

でも、そもそも一人の肉体の中に2人の魂があること自体、前例がない。それでも可能性があるならば、それに賭けるべきだ。

「優秀なネクロマンサーに心当たりがございます。時間に猶予ゆうよもありそうですから、まず王都へ戻り、支度したくを整えてから、作戦に移りましょう!」

ローガンの強い意志が宿る瞳に僕は歴戦の勇者の頼もしさを感じていた。

「頼りにしてるぞっ!!ローガンっ!」

疾風のローガンは、にっこりと笑って応えるのだった。



さて、王都へ戻ると父上が笑顔で迎えてくれた。

あ~、そっかぁ~・・・・・。色々あったし、これから色々やらなくてはいけないことがあったんだけど・・・・僕は今日、ここで終わるんだなぁ・・・・・

最後の最後まで諦めないって誓いを立てたけど、今が最後の時なのだから、もう諦めてもいいよね。

父上が怒るべき時に笑顔なんて、ありえない。その笑顔の奥に何があるのか想像するだけでも、恐ろしい・・・・。

僕は父上の笑顔に戦々恐々せんせんきょうきょうだったが、父上は、僕など見ていなかった。

「疾風のローガンっ!! まさか生きておいでとはっ!!」

「お久しぶりでございます。ミカエラ王のお父上には、本当によくしていただきました。」

そういって二人は固い抱擁ほうようをする。

え・・・?

二人は知人だったの?

「おお、ジュリアン。よくぞ疾風のローガンを味方に引き入れたな。ローガンは、幼いころ私に剣術を指導してくれたことがあってな・・・・。再会が出来たこと、うれしく思う。

 故にお前の浅はかで無謀むぼうで無計画な陽動作戦ようどうさくせんの罪については、許そう。ただしっ!! あとで話がある。いいな・・・・?」

「は・・・・はい・・・。」

後でどんな話があるんだろうっ!!! 怖すぎるんですけどっ!!

僕が震えていると、クリスが「大丈夫です。どれだけ死にかけていても救い出して見せますっ!!」と励ましてくれた。

いや、それっ!!恐怖をあおってるからねっ?


そんな僕達をよそに父上はローガンとの親交を深めていたが、やがてローガンが悪い笑みを浮かべて言うのだった。

「実は、ジュリアン殿下にうちの孫娘をとつがせたいと思うのですがっ!!」

などとのたまった。

おいっ! なんてこというんだっ!! 父上が本気にしたらどうするっ!!

「構わぬっ!! ジュリアンの第3側室ならば、問題ないだろうっ!」

ち、父上~っ!?

「「そ、そんなのだめですっ~!!」」


僕とクリスの絶叫に、父上は愉快そうに笑っておられた。

「いや、我が息子は、まだ若いな・・・・。

 その純粋な気持ち、うらやましいものだ・・・・・。」

その言葉を聞いて、母上が言う。

「でしたら・・・()()()()はほどほどに願いますよ。陛下・・・・。」

すっごい目してるし・・・・・。

父上は流石に母上には弱く、咳払せきばらい一つすると、僕達の帰還と疾風のローガンを歓迎する宴を開いてくれた・・・・。

そして、その宴にはマリア・ガーンも呼ばれていて・・・・・

花嫁衣装を着ていた・・・・・・。

どうやら、正式にマリア・ガーンは父上の公妾こうしょう、つまり側室として召し抱えられることになったそうだ。

と、いうことは、この先、マリア・ガーンが子供を産めば、僕には弟が出来るわけか・・・・・。

ふと、マリア・ガーンを見ると、父上を見つめて幸せそうに頬を赤らめていた。

・・・・この世界の男女の恋愛観は、僕達の前世の恋愛観と明らかに違う。ミレーヌもシズールもきっと、あのマリア・ガーンのような立場になることを夢に見ているのかもしれない・・・・・。

ふと、クリスに目をやると「・・・・・浮気すんなよっ!!」って、涙目でオリヴィアに言われた。

・・・・・はい。浮気はしませんっ!!

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