伝説の英雄が仲間になってくれたよっ!!
僕が体を起こした時、目の前に鬼族の娘が椅子に座っているのが見えた。
「うわあああああああっ!!」
僕の絶叫が家に響き渡る。
僕の声を聴いた鬼族の娘は、ニッコリ笑うと部屋の外へ出て行った。
に・・・にげなければ。
魔族に属する鬼族は、角の生えた怪力無双の一族だ。
その身体能力の高さとは真逆に生まれつき魔法に対する才覚に優れないものが多く、戦争では、それを理由に敗北を重ね、今では希少種となっている。しかし、それでも他種族を食らうマンイーターとして、今でも恐れられている。
そんな種族に瀕死の所を看病されていたなんて・・・・・
僕の恐怖を誰が想像できるって言うの?
逃げようとして慌てて体を起こそうとしたが、魔神フー・フー・ローの槍に貫かれた胸の傷は未だ癒え切らず僕の体を痛めつけていた。
「ぐっ・・・・・っ!!」
激痛に脂汗がでる・・・・・・。
こりゃ、もうダメかな。逃げようにも這って逃げるのにも、この激痛じゃそう動けないだろう・・。
ああ、なんてことだ。
僕はこんなところで鬼族に食われて死んでしまうのか?
前世でいじめを苦に自殺して、この世界の王子として転生したのは、きっと僕がこの世界でいじめを止める使命を負っているからだと思っていた。
でも・・・・・・災いの神ドゥルゲットの予言からこっち、それも手付かずのまま。僕はこんな中途半端な終わりを迎えるのか・・・・・
嫌だ・・・・
クリス。・・・・・僕のクリスティーナ・・・・・。
最後に君に会うこともなく死ぬなんて嫌だ。
自分の死に際を悟った僕は、悔しさと寂しさと無力感で胸が一杯になり、涙をこらえることが出来なかった。
そんな僕を見てひとりの老人が声をかけてきたのだった。
「なんだい。そんなに傷が痛むのかい?」
僕がその声の方向を見ると、一人の背の高い老いたエルフが部屋の入り口に立っていた。
見るとそのわきにさっきの鬼族の娘がいた。
鬼族とエルフが何故、一緒にいられるんだ?
そして、なぜ、僕を救ったのか・・・・・?
「・・・・・あな・・たは?・・・」
状況が理解できず混乱する頭で尋ねると、エルフの老人は応えた。
「世捨て人のエルフじゃよ。遠い昔には、疾風のローガンと呼ばれておったがね・・・。」
疾風のローガンっ!?
その名を聞いて驚いた。
200年前、魔神ゴランと戦った勇者アルファのパーティの一人だったからだ。
彼は英雄だった。彼は、彼が所属する勇者アルファパーティの中でも特に個性的な人物で、英雄譚も特別に彼の分がスピンオフで作られていた。
それほどの人物だった。
「・・・・・まさか・・・本物ですか?・・・・・生きておられたのですか?」
僕が驚きのあまり、失礼な質問をしてしまったというのに、疾風のローガンは、その皴の多い目元を緩ませて「生きておるとも。このようにな。」と両手を広げて言うのだった。
「もっとも。隠遁生活が長すぎて、今ではすっかり死んだと思われておってな。つい先日など、私がドラゴンと刺し違えて死んだ英雄譚を旅の道具屋に聞いて驚かされたばかりだよ・・・・・。」
そう言って愉快そうに笑うのだった。
それから、自分の胸を指差して「痛むかい?」と、僕をねぎらってくれた。
僕は脂汗をにじませながら「ええ。ほんの少しだけ・・・。」と答えた。
それを聞いて疾風のローガンは嬉しそうに「男の子は瘦せ我慢が出来ないとだめだ。君はいい男だな。」と笑った。
疾風のローガンは「さてと・・・・」と言いながら僕が横たわっているベッドのわきに椅子を置いて、事の顛末を話してくれた。
傷ついた僕は馬に乗ったまま気絶していたところを、鬼族の娘「シズール」が助けてくれたのだという。そして、祖父である疾風のローガンの下へ運んだ。疾風のローガンの応急手当てを受けた僕は、一命をとりとめて今こうしてここにるのだという。
「シズールと、いうのですか? その子は・・・・・・」
僕はシズールを見つめながら「聞いても良いですか? どうして、勇者アルファの仲間であった貴方が鬼族と共に暮らしているのですか?」と疑問を素直に疾風のローガンにぶつける。
疾風のローガンは、僕をジロリと睨むと「まずは助けてくれた礼を言うべきじゃろう? 私とこの子に。」と言って僕を窘めた。
「これは飛んだ失礼を・・・・・。では、改めてお礼を言わせていただきます。
僕の名はジュリアン。ドラゴニオン王国のミカエラ王の第一子のジュリアン・ダー・ファスニオンです。この度は危ないところを助けていただき、誠にありがとうございます。後ほどお礼はさせていただきますが、今はこういった身の上。この場はお礼の言葉だけでお許しください。」
そう言って、深々と二人に頭を下げると、シズールも疾風のローガンも嬉しそうに笑った。
疾風のローガンは、シズールとの関係を語ってくれた。
「今から16年前。私の一人娘が鬼族に攫われてな。それで娘を単身追って、鬼族の里を見つけてこの娘の母を救い出したのじゃ。
ただ、私の娘は私が救出したときには、既に鬼の子を宿していた。
私は、方々に手を尽くして鬼族の毒を解呪する方法を探して治療師に施術してもらった。
結果として娘も孫も無事出産という危機を乗り越えた。
だがね・・・・。娘はその2年後に自殺してしまった。
それ以来。私はこの娘、シズールと共に暮らしている。」
疾風のローガンは、辛い過去を話してくれた。シズールの母親が命を絶った理由を語らなかったが、それは語るまでもない事だった。他種族の子供を孕まされた女は、大勢がすぐに命を絶ってしまうからだ。
そんな暗い過去を疾風のローガンは、話してくれた。
「シズールはな。治療師の解毒が効いて、外見こそ鬼族だが、内面はエルフとして生きていける。
ただ、見た目がこれでな。
それが原因で今までいじめられてきて、私以外には心を開かぬ。それでも優しい子なんだよ。」
疾風のローガンは、シズールの髪を撫でながら慈しむような目で見ながら話した。
僕はしばらく考えたのちに、疾風のローガンにシズールを僕に預けて見ませんか?と、尋ねた。
僕が転生者でいじめ問題と戦う立場にあるものだと話して聞かすと、疾風のローガンは、是非とも孫を頼むと言ってきた。
そして、老い先短いこの身だが、力を貸せると思うので、側においてくれと頼むのだった。
「疾風のローガンが味方に付いてくれるなんて、これほど頼りになることはない。
まるで英雄譚の仲間入りをした気持ちです。」
僕は、疾風のローガンに感謝の意を伝えると同時に、疾風のローガンを仲間に加えることを了承するのだった。
ここに僕達の関係が築かれた。そうなると疾風のローガンは、次に家臣の口調で尋ねてきた。
「ところでジュリアン殿下。殿下の胸の傷は呪いに満ちております。一体、どこの誰にきずを付けられたのですかな?」
「これは魔神フー・フー・ローによって傷つけられたものだ。」
それを聞いた疾風のローガンは、大笑いする。
「なんというお人だ。まだ、幼さの残るご年齢だというのに、あの魔神フー・フー・ローと戦って生き残られたかっ!!」
いや、笑い事じゃないよ。
僕は命がけの駆け引きを話して聞かすと、疾風のローガンは、「実力差を駆け引きで倒すのは、天才の特徴です。殿下は天に愛されておられますな。」と、感心する。
そして僕の話を聞いて傷の治療法に心当たりがあると言って、別の部屋に出て行って、何やらごそごそしていたかと思うと、超デカい蛙の死骸を僕の傷口の上に置いた。
「ちょっ!! なにするのっ?」
僕が慌てて尋ねると疾風のローガンは、「魔神フー・フー・ローは氷の属性の呪いを使っているのです。これを吸収させるには、この人間の6歳児ほどにも成長するガマが一番なのです。」
そういって僕に魔法をかけながら、塩をかける。
塩は清めのものと知ってはいるが、これほど大量にかけられたことはない。
「うわっ! しょっぱいっ!!
しょっぱい上に傷口の上のカエルがヌメヌメしてて気持ち悪いっ!!
うわわっ!! き、気持ち悪いようっ!!」
シズールは僕が悲鳴を上げて気持ち悪がる姿をケラケラと楽しそうに笑ってみていた。
・・・・
・・・・・・・死ぬほど気持ち悪い儀式だったが、一定以上の成果を上げて、僕の傷口は痛まなくなったし、疾風のローガンの回復魔法も効果を発揮して、見る見るうちに僕の胸の傷はふさがった。
そして、疾風のローガンの家に来てから3日後の事。
僕の胸の傷はすっかりふさがってしまっていた。クリスティーナなら一瞬で直してしまうのだが、それでもこの傷の回復の速さは、目を見張る。さすが疾風のローガン。医療知識も半端ではない。
だが、僕にはそれを喜ぶ暇はなかった。
なぜなら、3日目の朝。
僕のベッドには全裸のシズールが忍び込んできていたからだった。
「な、ななななな、なにしてんのー---っ!?」
僕がシズールを叱りつけるとシズールは「年頃の男女。子供作る当たり前。ジュリアン殿下、何がおかしい?」と、不思議そうに尋ねてきたのだった。
こ、こんなところ、クリスティーナに見つかったら、殺されちゃうよーーーーーっ!!




